醜い私が逆転世界で暮らす   作:バルバリッチ

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幼い少女

 三歳になった。小林 優斗として転生した私は、すくすくと大きくなった。

 数年しか経っていないけど、この世界の事を理解するのに時間は掛からなかった。

 

 まず、この世界は想像通り「逆転世界」。

 それも男女比が偏っており、男性は珍しく、大切にされる存在だと言うこと。

 昔は前世と変わらない比率だったらしいが、数百年前から段々と出生率が偏っていったらしい。

 染色体の変異だとか、詳しい事は分からないけど、当時は大きな問題になったとか。

 今もその問題は抱えたまま。しかしこの世界の人類はこの現状に適応している。

 

 家は比較的裕福なのは、男性を妊娠した時点で国から補償金がでるからということらしい。

 父がいないのも人工授精で授かった子であるというのが理由だった。

 それだからだろうか。

 

 私の顔は、前世と変わらないくらいのブサイクだった。

 

「きゃ~!! 優斗くん可愛い! ほら、こっち見て!」

 

 母がカメラを構えて僕を撮影している。

 カメラのレンズ越しに映る私は、どう見たってかわいくない。

 例えるならそう、小さなゴブリン。

 まだ小さいから誤魔化されているが、それでも大きくなれば確実にブサイクと言われるであろう容姿。

 

 母は美人……だと思う。この世界の価値観が分からないから何とも言えないが、ならばこの顔は知らない父の遺伝。

 私の父親はどんな顔をしてるんだ? そう思わずにはいられなかった。

 

 壁を見ると、私の幼い頃からの絵が飾ってある。

 どれもプロが描いたようにとても上手で、細かくリアルに描かれてる。

 これを書いたのは、実はうちの母親だ。

 こうして撮った写真を、ああやって絵にして額縁に飾っている。

 もちろん写真も大事に保管してる。

 

 生まれた時の自分の顔が、優しいタッチで描かれている。

 まぁ、写真で見るより絵の方が、私のブサイク度も下がっているように感じるから……写真よりはいいか。

 

「きゃっ、口の端が少し上がった! 可愛い~!!!」

 

 うちの母は親馬鹿が過ぎると思う。

 前世と似て不細工な私を可愛いというのは母だけだ。絶対。

 顔をぺたぺた触ってみてもパーツはバラバラだし、整ってないし。

 まぁ、顔が悪いのは慣れている。

 悲しいかな、そう思えるのも前世での経験があるからか。はたまた前世よりは扱いが良い世界だからだろうか。

 

 母の体を見ると、お腹が大きくなっているのが分かる。

 そう、母は妊娠をしているのだ。

 この世界の性に関する技術は進歩しており、人工授精で妊娠する確率は前世の世界よりも大幅に上がっている。

 それでも男の子を産む確率は前世のそれよりも圧倒的に低く、この世界の男性は精子の定期的な提供が義務になっている。

 人類という種を存続させるのには仕方がない事だ。

 

 私という存在が生まれた事で、私に兄弟を作ってあげたいと前に話をしているのを聞いた。

 家族は多い方がいい。

 大きくなった時、私の存在が新しく生まれてくる弟か妹に迷惑をかけなければいいけど。

 

 そんな母のカメラに苦笑いで映っている事数分。

 家のチャイムがなり、母が玄関へと向かった。

 

 ガチャリとドアが開いたと思うと、女の人が扉越しに立っているのが中から見えた。

 そんな女の人と母の間を縫うように、一人の少女が私へと向かってきた。

 

「ゆうとく~ん!!!!」

「うおっ」

 

 ひしっと抱きしめられ、そのままマットに倒れる自分と少女。

 私に会えて嬉しいといった表情を隠さずに顔をこすりつけてくるのは、宮寺美玖(みやじみく)ちゃん。

 お隣に住む母と仲の良い女の人の子供で、自分と同世代の女の子。

 

 始めて会ったのは数か月前。

 最初はおとなしくて周りの様子をよく見てる子だな~、くらいに思ってた。

 二人で仲良く遊んでね、と放置された私は、どこかぽけーっとしている彼女をあれこれと遊びに誘った。

 子供の頃、前世でやりたかった物はたくさんあった。

 同年代の子と遊んだ事はほとんどない。けど、遊ぶ物の知識はある。

 

 色々と試行錯誤をして、何回か会う内に、私たちは仲良くなることができた。

 まだ幼いから、という事もあるだろうけど、前世みたいに私の顔で泣かせなくて良かった。

 

 しかし、仲良くなったはいいけど……こうして私にべったりと甘えるようになったのは何故なんだ。

 

「ゆうとくん、あのね~、みく、ゆうとくんとあそびたいことがたくさんあってね~」

「うん、分かったから少し落ち着こう?」

 

 そういうとみくちゃんはゆっくりと僕から離れていく。

 しかし位置は相変わらず近い。僕の隣に隙間がないくらい近く座り、僕に体を密着させながら色々と話してくる。

 体温が高いのは子供だからだろうか、ぽかぽかして眠くなってくる。

 

「あ、そうだ~。みくね、ままのおてつだいしたの~」

「へぇ~、そうなんだ。それは偉いね」

「でしょ~? だからね、ね」

 

 そういいつつ頭をこてっと肩に倒してくるみくちゃん。

 可愛いなーと思いつつ、私は彼女の頭をゆっくり撫でた。

 

 彼女と仲良くなる上で、私は様々な事をしてみた。

 前世では友達がいなかった私が彼女のような幼い子と仲良くなるのは至難の業だったけど、色々試してみた。

 その中にあったのは、何かいいことが出来たら褒めること。

 実際私も幼い頃人に優しくして褒められた時は嬉しかったっけ。

 

 そう思った僕は彼女が何かできた時やいい事をした時に褒めて褒めて褒めまくり、頭をナデナデし続けた。

 その結果が今のこの光景である。

 

「へへへへ~」

 

 もっと撫でてと聞こえるくらいの笑顔で、みくちゃんは僕にもたれかかってくる。

 最近会った時は、僕に何ができたかを報告して撫でるのが日常になりつつあった。

 

「美玖と優斗くん、相変わらず仲が良いわね~」

「私の優斗くんだもの。みくちゃんがメロメロになるのも分かる!」

「実際この年代で男の子の幼馴染ってとても珍しいからね~。私の頃なんか周りに男の子の気配なんて一ミリもなかったわ」

「私も。でも今は優斗くんがいてくれるから毎日が幸せだわ!」

 

 母とみくちゃんのお母さんは、母がこの家に住んだ時からの仲らしい。

 子供が生まれるタイミングを合わせて、仲良くさせようという話で同時期に産んだみたい。

 男の子が生まれるのは予想外だったっぽいけど。

 

「体調は大丈夫? お腹の子、もうすぐ産まれるんでしょ?」

「ありがとう。今は安定してる」

「困った事があったら言ってね。みくも優斗くんに懐いてるし、私のところで面倒を見る分には全然いいから。優斗くんがどう言うかだけど……」

「大丈夫よ!うちの優斗くんはとても優しくてプリティーだから! 世間の男とは違うのよ」

 

 まだ幼い男の子という事で、色々と警戒してかあまり外へは連れて行っては貰えないが、私はもうすぐ幼稚園に通う事が決まっている。

 そこでは男の子の同級生もいるみたいで、その子達と仲良くなれないかと密かにワクワクしている。

 男の子が通うという事で、少しお高く警備の厳しい幼稚園に通う必要がある。

 そのためみくちゃんと同じ幼稚園ではない事だけが残念な所だ。

 

「ゆうとくん、もうすぐゆうとくんもようちえんにいくの~?」

「うん。僕も幼稚園に行く事が決まってるよ」

「やったぁ! ゆうとくんとようちえんにいけるの、みくたのしみ~!」

 

 みくちゃんはその事を理解していないのか、まだあちらのお母さんが伝えていないのか、みくちゃんはその事を知らないみたいだ。

 私から伝えてもいいけど、どうするべきか。

 

「? どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。今日は何してあそぼっか」

「? あっ、きょうはね~、おにんぎょうさんもってきたんだ~。これであそぼ~?」

「いいね、じゃあ僕がこの男の子の人形を使うね」

 

 何かのアニメのキャラクターだろうか。

 きっちりとしたスーツのような服を着た、男の子の人形だった。

 

「みくはこのこ! ゆうとくんをすくいにきた、ひーろーね!」

 

 対するみくちゃんの人形は、剣を持った可愛らしい女の子の人形。

 救われる男の子と、救いに来た女の子。

 やはり前世とは役割も違えば、立場も違う。

 

「『私が来たからには、もう大丈夫だ。さぁ、この手を取って!』」

 

 もうすぐ三歳児とは思えない程流暢な言葉が彼女の口から出た。

 みくちゃんは色々と多芸タイプみたいで、いろんな遊びを彼女とやっても、最初は難しいような顔をしているけど段々と人並み以上に上手くなっていく。

 お人形遊びも最初はよくある普通の遊びだったけど、最近はみくちゃんがセリフを覚えてきて、役になりきりながら遊ぶのが多い。

 

「『あぁ、姫様。来てくださったのですね。それでも……私は、姫様と戦わねばなりません』」

 

 普通だったら、その手を取って姫様と一緒に行く所だ。

 しかし、たまにこういった変化球を入れる。そうするとみくちゃんの目が輝いて、アドリブでセリフを繋いでくれるのだ。

 

「!『ど、どうしてなんだ……? 私とは、結婚を誓ったじゃないか! 私とあなたは、愛し合っていた筈……』

「『それでも、やらなければいけないがあるのです、姫よ……。私は、大切な物を守るために……』

「『あなたより大切な物など、私にはない! ……それは、あなたも同じではないのですか……?』」

 

 流石みくちゃん。

 これだけで何かのアニメのワンシーンみたいだ。

 ただのお人形遊びではなく、物語のワンシーンになっている。

 母もこちらの様子を最初は微笑ましく見ていたが、段々と熱中しているのが分かる。

 

「『ッ、もちろんそれは一緒だ! ……でも、私は、私は……』

「『……いいでしょう。もう何も聞きません。ですが、その代わり――私が勝ったら。あなたを貰います』」

「『貰う……?』」

「『はい。あなたは私と永遠に愛し合い、そして何も考えず幸せに暮らすのです。そのための障害は、すべて私が切り伏せます』」

「『……ッ!! 姫様……』」

「『覚悟はいいですか、ゆうとくん。あなたのためなら、私は――』」

 

 ぐううううぅぅ……

 

 物語も佳境に入ってきた所で、みくちゃんのお腹が大きくなった。

 それまで人形を必死に動かして演技をしていたみくちゃんも、私も。その音に気付くといつものぽけーっとした顔に戻る。

 それまでの話を見ていたお母さんも、みくちゃんのお母さんも皆、同時に笑いだした。

 

「しゅうちゅうしたらおなかすいちゃったぁー。ゆうとくん、ごはんいっしょにたべよー? いいよね、ママ―!」

「ええ、もちろんよ。ご飯の準備は出来てるから、手を洗ってらっしゃい」

「はーい! いこー、ゆうとくん!」

 

 みくちゃんは僕の手を取り、ニコニコと楽しそうな笑顔で僕を引っ張った。

 今が楽しいと言わんばかりの、溢れんくらいの笑み。

 彼女の幸せそうな笑顔を見ると、私も幸せになるなぁ。

 

 

 

 ――将来、私達が大きくなって。

 彼女が私の顔を見ても、彼女は笑ってくれるのだろうか。

 こんな不細工な自分でも、一緒にいてくれるんだろうか。

 心のどこかで、私はいつもそんな事を考えている。

 

 仲良くなればなるほど、離れるのが悲しくなる。

 そんな思いをするくらいなら、いっそのこと――

 

 そういった思いが、いつも脳内を駆け巡る。

 せめて今だけ、この幸せな日々を送らせてください。

 

 そう願い続けるしか、今の私にできる事はなかった。

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