寒い。
あれだけ暑かった夏の暑さは何処へやら。
冬の寒さは前世の比ではなく、体の芯にまで伝わるような寒さだ。
外を見れば、真っ白な雪景色が広がる。
お昼前になったのに、まだ少し雪が降っている様子だった。
その光景は、この世界の冬の恒例行事になりつつあった。
ピンポーン、とチャイムが鳴る。
玄関を開けてみると、もこもこの防寒具に身を包んだみくちゃんが立っていた。
「ゆうとく~ん!!!!」
「おっとぉ!? さ、寒いよ……みくちゃん」
私は部屋着で、みくちゃんの頭の帽子の上と体には雪が少し乗っていて、抱き着いてきた時にその寒さが直に伝わった。
「あ、ごめんね~? だいじょうぶ~?」
「大丈夫だよ……みくちゃん、元気だね」
「うん~! だってゆきだよ~? ゆうとくんもおそとであそぼ~!」
「あ~……おじさんは大丈夫、かな」
「おじさん? だれのこと? それより、おにわであそんでるから、ゆうとくんもきてね!」
ととっとうちの庭へと駆けていき、一人で黙々と雪だるまを作り始めるみくちゃん。
そんな彼女の姿を見ていたら、私もジッとしてはいられなかった。
直ぐに厚着と防寒具を着て、ベランダの扉を開けて外に出る。
みくちゃんの顔は寒さで赤くなっていて、まつ毛に少し雪が掛かっていた。
「みくちゃん、寒さ大丈夫?」
「う~……ちょっとさむいかも~」
「だよねー……防寒具来てるとはいえ、顔とか耳とか出しっぱなしだし……」
寒さで赤くなっている耳を見て、温めてあげたくなった。
耳の寒さは意外とキツイ。
手や体はどうにかなるとしても、耳はそれ用の物を付けないと守れないからだ。
手袋を取って、部屋の中で温めた自家製のカイロでみくちゃんの耳を触る。
手の全体に冷たさが伝わってきて、みくちゃんの耳が温まっているのを直に感じた。
「あたっか~い!」
「みくちゃんの耳、寒そうだったから。痛くなっちゃうから、気を付けないと」
「じゃあみくも~、えい!」
「ひぁああっ」
手袋を取って同じことをしてきたみくちゃんだが、もちろん手は寒い。
雪を今まで触ってきたため、暖かさなど欠片もなかった。
そんな手で耳を触られたため、変な声が出てしまった。
「あったか~い!」
「僕は寒いよみくちゃん!」
そんなこんなで二人で遊んでいると、家の近くに一台の車が止まった。
気になって車を見てみると、見覚えのある女の子が座っていた。
「あ、みおんちゃんだ」
「ほんとだ~。みおんちゃんだ」
みおんちゃんは退屈そうな顔をしていたけど、私達と目が合うと、嬉しそうに目が大きく輝いた。
そしてそれを隠そうと、またさっき見たいに退屈そうな顔に切り替える。
どこかニヤニヤが隠しきれていないのが彼女の可愛い所だ。
みおんちゃんが来たことを察したのか、家の駐車場が空く。
お母さんが操作したみたいだ。
車が止まると、直ぐにみおんちゃんが降りてきた。
「ゆうと! ……と、みく」
「こんにちは! みくちゃん!」
ぎゅっ。
腕を組まれる。
みおんちゃんと会うと、いつもみくちゃんが手を組んでくる。
まるで私の物だと言わんばかりに、どやっとした顔をしてマウントを取っている気がする。
「……ッ! ゆうと、わたし、どう!?」
「え?」
「だから! わ・た・し!」
みおんちゃんは妖精みたいな彼女に似合う、真っ白なコートを着ていた。
頭には私達と同じようなふわふわの帽子を被っていて、とても暖かそうだ。
……これを、伝えればいいのかな?
「みおんちゃんに似合ってるよ。妖精さんみたいだね。ポカポカの」
「よ、ようせいさん……って、ぽかぽかってなに?」
「暖かそうだってこと。ほら、みおんちゃんも一緒に遊ぼうよ」
「うん! のあ、いいよね?」
「もちろんでございます」
いつの間にか彼女の近くに、傘を持って立っていた泉希さん。
片手にはカメラ、そしてパシャパシャ。
「はぁ、冬の妖精さんみたいに可愛い美音様……最高です」
「あ、泉希さん。こんにちは~。お寒い中よくいらっしゃいました~」
「佐奈様。こんにちは」
二人は頭を下げて挨拶をしている。
そんな二人には構わずに、みくちゃんとみおんちゃんは私の両腕を取った。
片方はみくちゃん、片方はみおんちゃん。
前世でこんなエイリアンの写真があった気がするぞ。
「ゆうとからはなれてよ! ずっといっしょにいるじゃん!」
「え~? だめなの~?」
「だめ!」
「でも、ようちえんでずっといっしょじゃ~ん」
「きゅうじつは、ずっとくっついてるんでしょ!」
「あぁ……二人とも、私のために争わないで!」
これ言ってみたかったんだよね。
縁がない言葉だったけど、今この場で使えるなんて。
夢が一つ叶った。
「……ゆうとくーん!」
……ん? 遠くから声が聞こえる。
また玄関の方からだ。
声の方を見ると、しおりちゃんが手を振っていた。
「あれ、しおりちゃん?」
「しおり? きてたの?」
「も~、おんなのこいっぱいくる~」
玄関を開けて、しおりちゃんを迎える。
隣にはお母さんも一緒だった。
「こんにちは、優斗くん、美玖ちゃん、美音ちゃん」
「「「こんにちは」」」
どうしてしおりちゃんがここに……と思い後ろを見ると、保護者二人がしおりちゃんのお母さんに手を振っていた。
どうやらお母さんが事前に二人を誘っていたみたいだ。
通りで同じタイミングで来ると思った。
でもこうして四人で集まるのは久しぶりだ。
今年の夏以来だから、数か月振りになる。
みくちゃんとみおんちゃん、しおりちゃんは同じ幼稚園ですらないから、会うのさえ久しぶりだ。
「……ゆうとくん、うちゅうじん」
「あ、あれこの世界にもあるんだ……」
「うちゅうじん?」
「ゆうとくんはうちゅうじんじゃないよ~」
本に詳しいしおりちゃんだからこそ、分かったネタだろう。
というか、どんなジャンルの本を読んでいるんだ? しおりちゃん。
「なにやるの? うちゅうじんごっこ?」
「これはごっこじゃなくて、ただ二人が僕を引っ張ってるだけ……」
「や~! そっちばっかひっぱっちゃやだ~!」
「そっちこそ、ゆうとひっぱりすぎ!」
体が引き裂かれる……とまでは言い過ぎだけど、両方からこっちこっちと引っ張られる。
その様子を見ていたしおりちゃんは、二人に混ざりたいのか腕を広げて正面から抱き着いてきた。
「じゃあわたし、まんなかね~」
「しおりちゃん、冷たい……」
「ちょっと! ずるい!」
「じゃあわたし~、せなか!」
今度は後ろにみくちゃん、前にしおりちゃん。
冷たい二人に抱き着かれ、体がじんわりと暖かくなる。
まるで美少女サンドイッチだ。
……どんな状況だこれ。
「わ、わたし……わたしのばしょ、ない……」
「あー……じゃあ、手でも握る?」
「にぎる!」
みおんちゃんは着けていた手袋をわざわざ外して、私の手袋も外して。
両手をしっかりと合わせて握った。
無意識なんだろうけど、この繋ぎ方は恋人繋ぎだ。
ちょっと繋ぎ方を変えようと手をわきわきと動かすと、動かせないよう力強く握りしめられる。
「……そ、それで……何して遊ぶの? これ、雪関係ないんじゃ……」
くっ付いてくる三人が飽きるまで、私は女の子の抱き着きダルマになるしかなかった。
数十分はそうしていただろうか。
次第にしおりちゃんが飽きてきて、すっと私から離れていった。
体も温まったようで、雪を触ると楽しそうに転がし始めた。
それを見た私の提案で、くっ付いていた二人も渋々離れた。
でもやっぱり雪で遊ぶのは楽しい。
二人もあっという間にいつも通り仲良くなって、四人で雪で遊んだ。
その後は家の中に入って、皆で鍋を食べた。
寒い体に沁みる、ホカホカの鍋。
また冬が過ぎて春が来る。
そうしたら私達は五歳になる。
年長組になって、そして小学生だ。
時間が過ぎていくのは早かった。
そして、私が懸念していた事が起こるのは必然で、時間の問題でもあった。