醜い私が逆転世界で暮らす   作:バルバリッチ

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誕生日計画

 それは雪が降った日に四人で遊んだあの日の事だった。

 鍋を皆で囲い、暖かい野菜とお肉を味わいながら至福の時を過ごしていると、泉希さんが周りの皆に気づかれないよう私に話しかけてきた。

 

 

「優斗様、少しよろしいでしょうか」

「……? はい、何でしょう」

「今度のクリスマスイブですが……用事はありますでしょうか」

「いえ、特には……いつも通りお母さんとみくちゃんとみくちゃんのお母さんで過ごすと思います」

「そうですか……。その、実はですね……その日は美音様の誕生日なのです」

「えっ、そうなんですか」

 

 

 私の誕生日には、お母さん達が毎年盛大に祝ってくれる。

 まだ産まれて数年だけど、まだ自分が喋られない時も部屋を飾り付けて祝ってくれていたのを私は知っている。

 

 こうして歩けるようになって、話せるようになってからはケーキを用意してくれたり、プレゼントをくれたりと色々な事をしてくれた。

 

 みくちゃんとは誕生日が近いのもあって、最近は誕生日の日に私達二人の家族が集まって、一緒に誕生日を祝うようになった。

 みくちゃんは自分の誕生日よりも私の誕生日をとても嬉しそうに祝ってくれるから、ただ年齢を重ねるだけなのに幸せな気分になるんだ。

 

 思えば幼稚園に入って知り合いの子も増えたけど、誕生日を知っているのはずっと一緒にいるみくちゃんだけ。

 

 仲良くなって一年が経過しているのに、ずっと私はしおりちゃんやみおんちゃんの誕生日を知らなかった。

 

 

「今まで僕、しおりちゃんやみおんちゃんの誕生日ずっと知らなかった……友達なのに」

「そう気を落とさないでください。また次に祝ってあげれば、栞様も喜ばれますよ。それに美音様は……ご自身の誕生日にはあまり興味がないと言いますか。誕生日の事すら忘れられてしまっていると思います」

「それは……みおんちゃんの、ご家族に関係する事ですか?」

 

 

 泉希さんは一瞬悲しそうな顔を浮かべたけど、その表情はすぐにいつもの顔に戻った。

 

 

「複雑ですので詳しくは話せませんが……。私は美音様に喜んでいただいて欲しいのです。優斗様が祝ってくだされば、美音様もとても喜ぶと思いましたので」

「僕にも祝わせてください! 僕も……みくちゃんもしおりちゃんも、皆みおんちゃんの事が大好きですから」

 

 

 その日からみおんちゃんの誕生日まで数日しかない。

 しおりちゃんやみくちゃんには私からその事を伝え、三人の家族でお祝いする事が決まった。

 

 そうとなれば用意しなければならない物がある。

 誕生日プレゼントだ。

 

 みおんちゃんの好きな物ってなんだろうか。

 幼稚園では同じクラスになったからだろうか、初めて会ったあのベンチにはしばらく行かず、私達三人はずっと一緒にいる。

 

 普通なら他の女の子が男の子を独占しているという事で騒ぎ出すので、そういうのはあまり良くないらしいけど……私には無関係だった。

 

 私に興味のある同じクラスの女の子は、友達である二人以外存在しなかったからだ。

 いや、興味はあるみたいだけど、私に行かなくても他のクラスのカッコいいし、その興味の方向性も違う。

 

 だから最近は前よりもずっとみおんちゃんを見てるけど、何が好きとかあまり分からないんだよな。

 

 幼稚園内も置いてある物が限られてくるし、遊べる物も制限がある。

 基本みおんちゃんはしおりちゃんと本を読んでいるか絵を描いているか、簡単なパズルをやっているか……うーん、プレゼントにはならないなぁ。

 

 まだ四歳だからプレゼントしても喜んでくれる物の範囲も少ない。

 それにみおんちゃんが喜んでくれる物をあげるのが一番いいから……その興味を持てる物を探すのが大変だ。

 

 

「お母さん、女の子って何をプレゼントされたら嬉しいんだろ?」

「美音ちゃんの誕生日の話だよね? 普通女の子は男の子からプレゼントを貰ったら何でも嬉しいんだけど、そういう事じゃないよね~。うーん……」

 

 

 お母さんと二人、うんうん言いながら何が良いかを考える。

 今の私にプレゼントできる、最高の物……

 

 

「お母さんは何を貰ったら一番うれしいの?」

「私はもちろん、毎年優斗くんがくれる物が一番嬉しいよ!」

「……そ、それは……ありがとう」

 

 

 まだまだ小さいこの体では、毎年のお母さんの誕生日プレゼントを買う事はできない。

 あげるものといっても、私の身の回りにあるのはお母さんのお金で買った物であり、私からのプレゼントとは言い難い。

 三歳児が母親の誕生日プレゼントで悩むと言う話は聞いた事はないが、お母さんは私のその気持ちだけでとても喜んでいる。

 

 でも、毎回迷惑をかけているお母さんに、感謝の思いを伝えたい。

 という思いから、なるべくサプライズで自分の作った物をあげたい、という事で、プレゼントする物は子供らしく手作りの「お手伝い券」や「お願い事を聞く券」だったり、お母さんの描いた絵よりも全然下手くそな絵をプレゼントした。

 

 その絵は今お母さんの描いた絵と共に壁に飾ってあって、あの時のお母さんの喜びようはこっちが見ても嬉しくなるような反応だった。

 

 じゃあ、やっぱりみおんちゃんの似顔絵が現実的なのかな。

 

 

「……でも、みおんちゃんは私の描いた絵を貰っても嬉しいのかなぁ……」

「そりゃあ嬉しいよ! 色々と考えて、私の事を思って描いてくれたって、私は優斗くんの描いた絵を見て分かったよ。誰かに絵を描いてもらったのって、今思えば初めてだったから。お父さんもあの時こんな風に嬉しかったんだなって分かったし」

 

 

 どうやら口に出していたらしい独り言を聞いて、お母さんがそう言った。

 

 それでも自信がない私の顔を見て、お母さんは私を安心させるように手を握ってくれた。

 

 

「絶対喜んでくれるよ。私が保証する。誰かが自分のために何かをくれる。それだけで嬉しい物なんだから」

「お母さん……」

 

 

 机に飾ってある写真を見る。

 去年の夏、あの時にプールで撮った、皆の写真。

 その写真に写るみおんちゃんは、とっても楽しそうな顔をしていた。

 

 

「お母さん。僕だけじゃまだ、納得できる絵を描けないから……手伝ってくれない?」

「もちろん! 優斗くんも毎回一人で何とかしようとしちゃうんだから。もっと私を頼っていんだよ? 時々忘れちゃうけど、優斗くんってまだ四歳なんだから」

 

 

 肉体年齢は、という文字が付くが。

 その言葉には苦笑いをするしかない。

 

 生まれ変わって思い出した。

 幼い頃は、早く大人になりたいって思っていた事を。

 色々と不自由なこの感覚や環境が嫌で、勉強も嫌で嫌でしかなくて。

 当時いた同い年の子達と遊ぶのが楽しかった。

 

 大人になったらどうなるのかなんて、当時は分かろうともしてなかったな。

 

 

「……優斗くん?」

「あ、ううん。ありがとうお母さん。お母さんのお陰でプレゼントが決まったよ」

「ううん、決めたのは優斗くんだから、もっと自信を持ってプレゼントしてあげて。美音ちゃんもその方が嬉しいよ」

「うん。そうだよね。よし、どうせならみおんちゃんが驚くような、凄い絵を描くぞ!」

 

 

 私達はまだまだ子供だ。

 大人になりたくても、なりたくなくても、その時は絶対にやってくる。

 なら、その時が来るまで私はこの時間を楽しもうと思う。

 

 

 

 そして、みおんちゃんの誕生日が近づいてくる。

 みくちゃんも何かみおんちゃんにあげるみたいで、何をあげるか聞いたら「ないしょ!」と笑顔で言われてしまった。

 いつもはどこか争っているような感じがする二人だけど、きちんと仲が良いみたいで安心した。

 

 しおりちゃんはみおんちゃんと幼稚園に一緒にいる時、どこか緊張しているみたいだった。

 まだこのサプライズパーティーがある事はみおんちゃんには内緒。

 だから秘密にしていてね、という事をお母さんに言われたみたいで、ずっとどこかうずうずとしていた。

 

「あ、みおんちゃん……た、誕生日……」と言いかけた時は、流石に私が止めたけど。

 みおんちゃんは泉希さんが言う通り、誕生日の存在をすっかり忘れているみたいだった。

 

 誕生日、とまで聞いて特に反応がなかったため、今までの誕生日は嬉しくなかったのかもしれない。

 もしそうだったとしても、これからは誕生日が嬉しくなるような……そんなパーティーをみおんちゃんにプレゼントしよう。

 

 一生の記憶に残るくらいの、それこそ来世の記憶に残るくらい、嬉しくて楽しい誕生日を過ごしてほしいな。

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