今日はクリスマスイブ。
この世界でもそういった行事は前世と変わらず存在していて、私は別世界でも元の世界に似通った世界に転生している。
元の世界がある場面を起点にして分岐した世界、という事なのだろうか。
色々と疑問は尽きないが、そういった事は既に赤ちゃんの頃に色々と考えたので省略する。
赤ん坊の事はやる事がないから、そういった事を考えるしか暇つぶしがなかったのだ。
この世界のクリスマスイブは、特にカップルで出かけるといった事は特にしない。
家族や親戚、友達と共に過ごす日となっていて、ケーキを買う人や町を歩く人はいつもと変わりないっぽい。
私はまだ子供で、男だ。
一人で外に遊びに行くことは禁止されているし、そういった世間の情報はテレビのニュースやパソコンの記事でしか収集できない。
大きくなったら、また前世みたいに引きこもって生活する日々を送りそうだから、今の内に外で色々と遊びたいのだけれど……難しいか。
「優斗くん、そこのお皿取って~」
「はーい」
暗い話はやめておこう。
なんてったって今日はみおんちゃんの誕生日なんだから。
私の家の中は色々な色の装飾がされており、今日はクリスマス会という事でみおんちゃんを呼び出した。
まだ来る時間には時間がある。
精一杯準備して、みおんちゃんを驚かせないとな。
「ゆうとくん、こっちのじゅんびおわったよ~」
「うわっと、みくちゃん。ありがとうね。次もお願いしていい?」
「うん!」
壁の飾りを付けていると、後ろからみくちゃんが飛びついて来た。
もちろんみくちゃんも一緒に準備している。
私からお願いしなくても、みくちゃんの家族は自分からやりたいと言ってくれたのだ。
私達では間に合わない訳ではないけど、とても大変だから正直助かる。
「ゆうとくん、こっちもおわったよ!」
「しおりちゃんもありがとう!」
皆それぞれ、みおんちゃんの事が大好きで、そんな友達の誕生日を祝いたいって思ってる。
クリスマス会ももちろん楽しみだろうけど、今回のクリスマス会は今までよりももっと楽しくて、とても賑やかな物になる。
そう思うと、年甲斐もなく私もワクワクしてくる。
「今日は奮発してターキーを買ったよ! もちろんデザートにケーキもあるから、楽しみにしててね!」
「やった~! ケーキすき~!」
こんな大きなターキー、前世でも食べた事がない。
どうやって食べるんだろう。普通にナイフで切って食べるのかな。
「こ、これってとりさん……だよね」
「そ、そうだね。でもとりさん、美味しいよ?」
しおりちゃんがターキーを無言で見つめた。
手にはいつものように本を抱えたまま。
本の表紙をチラッと見ると、『鳥と子供』という絵本だった。
……タイミング的に一番苦しい時期だったかぁ……。
なんて言葉を言えばいいんだろう。
「あ、とりさ~ん! わたしとりさんもすき~! おいしいよね!」
「うん! わたしもすき!」
違った。
全然苦しそうじゃなかった。
食べるのと見るのはきちんと分ける子だった。
「このとりさんは『シチメンチョウ』っていうしゅるいのとりさんなんだよ」
「凄いね、しおりちゃん詳しいんだ」
「へへ、いろいろなえほんよんでるから」
クリスマス会の準備は着々と進む。
時刻は四時を周り、太陽の光は段々と暗くなってきた。
そろそろみおんちゃんがやってくる頃だ。
「二人とも、プレゼントは持ってきた?」
「うん! あ、でもないしょ~」
「じゃあ、わたしもないしょ!」
「うん。じゃあ僕も内緒にしとこう。みおんちゃん、喜んでくれるといいね!」
みおんちゃんの事を思って用意したプレゼント。
二人のと全然違って、みおんちゃんが喜ばなかったらどうしよう。
私だけこんなプレゼント……重いかな。
「あ、皆! みおんちゃん来たよ!」
お母さんの声で顔を上げる。
窓から見える駐車場に、一台の車が止まった。
楽しい筈のパーティーなのに、どこか少し緊張してしている自分がいた。
「あ、えと……き、きょうは、おひがらも、よく……」
「こんにちは、美音ちゃん、泉希さん」
「本日はお招きいただきありがとうございます、佐奈さん」
温かそうなジャンパーに身を包んだみおんちゃんと泉希さん。
外の気温と車の中の気温差で、頬が赤くなっていた。
「みおんちゃんいらっしゃい! 寒いよね、中に入って」
「あ……うん。ありがとう」
手を取り、部屋の中へと案内する。
柔らかくて、少し冷たい手のひら。
主役をエスコートするのは当然の事だ。
「みおんちゃん、いらっしゃ~……い」
「あ、みおんちゃん! こっちこっち!」
みくちゃんとしおりちゃん達がニコニコ笑顔でみおんちゃんに挨拶した。
ん? 手の辺りに何か視線を感じるような……
違和感を感じてみくちゃんを見る。
いつもと同じみくちゃんだ。
うーん、勘違いかな。
「……ふふん」
「! ……ふふふ~」
手が強く握られる。
あれ、もう握っている必要はないんだけど……
「みおんちゃん、その、手を……」
「なに? すわろ、ゆうと」
「あ、うん……」
私の手を今度はみおんちゃんが引く。
しおりちゃんの隣に座ると、私もその隣に座った。
いつもみくちゃん私の隣だったから、なんだか新鮮な気分だ。
「……むぅぅぅぅ!!!」
「ま、まぁみくちゃん。今日は……ね」
「ふーんだ」
頬をぷくっと膨らませて、そっぽを向くみくちゃん。
いつものポジションにいないから不機嫌になっちゃったのかな。
少し心配だ。
「へへへ~」
楽しそうに私の手をにぎにぎする。
私の手を開くと、その細くなってきた指でなぞるように、ゆっくりと優しく撫でた。
すーっと指が手を滑っていく。
思わずくすぐったくて笑ってしまった。
「みおんちゃん、きょうはなんのえほんよむ? いろいろもってきたよ」
「……ゆうとのてって、しっかりしてる」
「そうかなぁ。皆と変わらないと思うけど」
「だめだよ、みおんちゃん」
私の手を指で撫でる事の何が楽しいのかは分からないけど、楽しそうにしているみおんちゃんを見て、少しこのままにさせてあげる事にした。
「あ、ぴくってした。ここ、くすぐったい?」
「くっ、くふふ……あ、やめて、みおんちゃん……ッ」
「ここは? こことか?」
「ふぐっ、うっ、ううぅん……み、みおんちゃん、そこは……」
「だめだよ! みおんちゃん!」
「どうぶつのえほんとかよむ? それともずかん?」
ぴくぴくと体を動かし、くすぐったさに耐える私。
その様子を見てさらに指をなぞるみおんちゃん。
そんな私達を止めようと「ダメだよ!」と連呼するみくちゃん。
そして相変わらず本の虫状態のしおりちゃん。
そんな様子を見たお母さん方は、ニヤニヤとした表情で私達を見ていた。
ゆうのの目はお母さんが隠していた。
皆で食べるご飯はやっぱり格別だった。
今日はターキーやケーキなどが用意された特別な日。
そして、特別な誕生日の日だ。
「ご飯を食べて一息ついた所で……皆から美音ちゃんに言いたい事があるんだよね!」
「えっ、な、なに……」
急に名刺しされびくっと体を震わせるみおんちゃん。
周りをキョロキョロと見渡し、私達の顔を何事かと見つめた。
「よし、それじゃあ皆、せーのっ!」
『『『お誕生日おめでとう、みおんちゃん!!!』』』
「……へ?」
考えが追いついていないのかぽかんとした表情を浮かべるみおんちゃん。
お母さんと私達は用意していたクラッカーを鳴らし、盛大な拍手をした。
「みおんちゃん、今日がお誕生日って聞いてさ。皆でお祝いしようと思って今日集まったんだ!」
「おたんじょうび、おめでと~!」
「えっと……『ひとつとしをとるというということは、おとなになるということ』……だってほんにかいてあったよ!」
私達が三人でみおんちゃんを囲む。
未だにみおんちゃんの意識は戻ってきていなかった。
おーい、と手を目の前で振ると、はっとした表情で私の目を見た。
「……たん、じょうび? わたしの?」
「そう! みおんちゃん忘れてたの? みおんちゃんが産まれてきてくれた日だよ!」
喜んでくれるかと思いきや、その言葉を聞いて少し顔が暗い表情になる。
どうしたんだろう。何か変な事を言っただろうか。
みおんちゃん以外の三人で顔を見合わせる。
「……わたしがうまれたひが、おめでとうなの?」
「みおんちゃん?」
「わたしなんて、べつにいてもいなくてもかわらないのに……」
そう、小さく呟いた。
よく聞いていないと聞こえない位の声。
目を伏せて地面を見る彼女は、本当にそう思っているようだった。
みおんちゃんの事は、深くは知らない。
無理に聞いたり立ち入ったりしたら、彼女を傷つけるかもしれないし、彼女もそれを隠したがっているかも。
そういった理由で私は今まであえて何も聞かないようにしていた。
……違う。
本当は、聞かれて嫌われたくなかったからだ。
この世界で出来た初めての友達。
みおんちゃんに嫌われたら、立ち直れないかもしれない。
私の中で、彼女はそんな存在になっていたのだ。
「……そんな事ない」
「……ぇ」
「そんな事ないよ、みおんちゃん」
下を向いた顔を無理やり上に向かせる。
少し涙で潤んだ視線が、私と交差した。
「みおんちゃんが産まれて来てくれて嬉しいって、僕はそう思ってるよ。ここにいる二人も。だから皆、みおんちゃんのために誕生日を祝いたいって思ったんだ。だからお母さん達も一緒に祝ってくれてる」
「……でも、おかあさんは……」
その言葉に返す正しい言葉を、私が言う事はできない。
家庭環境は人ぞれぞれで、私が何を言っても、それはただの他人の言葉だからだ。
経験した本人しか分からない事があって、落ち込んでいる。
そんな彼女に「お母さんは愛してくれてるよ」と今言っても響かないだろう。
だから、私は私の気持ちを、みおんちゃんにぶつける。
「俺は、みおんちゃんが好きだよ」
「…………」
「初めてあった時かな。なんだか神秘的な感じがしてさ。妖精さんかと思った。その時は何でもない風を装っていたけど、本当は他の男の子みたいに、みおんちゃんと仲良くなりたかったんだ」
あの時の光景は今も思い出せる。
暖かい日差しが木々の間から彼女に差し込み、美しく輝いていた。
当時の私は今より心に余裕はなかった。
そんな私でも、何十歳よりも歳が上の私が、あの頃の君を見て……とても綺麗だなって、思ったんだ。
「それからみおんちゃんが初めて話しかけてきた時は嬉しかったよ。思わず声が上擦っちゃって。変な声出してたでしょ?」
「……うん」
あれは恥ずかしかったな。
私に話しかけてきているとは思っていなかったし。
今覚えば、あの時にみおんちゃんから話しかけてくれたから今があるんだ。
「お互いに名前を教え合って、プールで遊んで……楽しかったよね。みおんちゃんはどうだった?」
「……たのしかった」
「僕達もだよ。ね、みくちゃん、しおりちゃん」
笑顔で頷く。
そんな二人を見て、みおんちゃんの顔に少し笑みが戻った。
「ここにいる皆、みおんちゃんの事が大好きなんだ。だからみおんちゃんのために何かしてあげたくなった。それが今日のクリスマス誕生日パーティだよ。みおんちゃんは僕達の事好き?」
「それはっ、……す、すき……だよ」
照れたように、顔を赤くしながらそう言った。
彼女の頭を、私は優しく撫でた。
みくちゃんにはよくやるけど、他の子にはあまりやらない。
みおんちゃんは「んっ」と声を出すと、されるがままに撫でられ続けた。
流石にみくちゃんも今は怒ることもなく「しかたないな~」という顔でみおんちゃんを見守っていた。
「お母さんの事は……ごめん、僕は良く分からないから言えないけど……僕は、みおんちゃんが大好きで、今こうして触れ合ってる事に感謝してる。だから……産まれて来てくれてありがとう、みおんちゃん。こんな冴えない僕と、どうしようもない僕と……出会ってくれて、ありがとうね」
「……うぅ」
少しずつ涙が流れ落ちる。
優しくその涙を救い、目元を撫でた。
「……ゆうと、はっ、どうしようもなくなんて、ない……」
「…………」
「ゆうとのいうこと、むずかしくて、いつもわかんないことっ、おおい。でも……っ、わたしは、わたしだって……ゆうとと、みんなのこと……だいすきなのっ……っ!」
その様子を静かに見ていたお母さん達も、みおんちゃんと私達を包んで抱きしめた。
暖かくて、落ち着く皆の温度。
真っ暗な外には、白い雪がふわりと舞っていた。
みおんちゃんの誕生日にピッタリな、綺麗で小さな雪達だった。