「皆、揃った? じゃあ手を合わせて! いただきまーす!」
『いただきまーす!』
うちの家族はご飯を食べる時、必ず家族全員で食べるというルールがある。
お母さんが決めた事なのだが、うちの家族は今のところ二人だし、私は幼いため、自然と家族全員になる。
今日は朝からみくちゃんが来ているため、みくちゃんとみくちゃんのお母さんも含めた四人でいただきますの挨拶をする。
みくちゃんだけど、最近はほぼ毎日家にやってくる。
母さんの様子を見に来るのが主な理由だけど、その分みくちゃんと私が遊ぶ時間も増えるのは当たり前だ。
私から見ても、みくちゃんはとてもかわいい。
前世の年齢から計算しても私の方が遥かに年上であり、この年代の子は私の顔を見てもあまり泣いたり嫌悪感を抱いたりする子はいないため、前世から子供は大好きだった。
好き好きオーラを隠そうともしない純粋な存在。
そんな子を嫌いになる訳がないだろう!
……そういうと何だか犯罪臭がするが、私は断じてロリコンではない。
「ゆうとくん、いっしょにテレビみよ~?」
「うん、いいよ」
今日は適当にテレビをつけた時に放送していたドラマを一緒に見た。
この世界では人気のジャンルである、主人公の女の子が男の集団に言い寄られる……つまり、逆ハーレムというジャンルの作品だ。
男達はだれもかれもがイケメン……というか、男の人はメインの一人だけだ。
他の人は女の人が男の人の代わりにウィッグやメイクをして男役をしている。
この逆転世界という都合上、男優も貴重な存在であるのは間違いない。
私的には前世のような男性達が活躍する暴力的な作品や刑事物の作品が好きだったので、この世界ではそういった作品がまったくないというのは流石に悲しい所だった。
普段私に対してくっつき虫になっているみくちゃんが、今日は大人しいなぁと思いつつ隣を見てみると、みくちゃんはドラマをじーっと集中して見ていた。
幼いながらも、やはり大人な男性に対して興味があるのだろうか。
ドラマを見てみると、主人公と男の人がお互いに向き合い、涙を流しながらキスをしているシーンだった。
よく見ると唇の位置がおかしい。
前世のテレビドラマではあるあるな事だが、この世界ではそれくらいしないと男性がキスシーンを引き受けないのかもしれない。
よくよく見ると、男性の方も顔が強張っているように見える。
緊張をしているのか、はたまた……
「ね、ゆうとくん~」
「どうしたの? みくちゃん」
そんな一番いいシーンの最中ではあるが、みくちゃんがこちらに顔を向け、いつもとは違う真剣な表情で話しかけてきた。
いつもの癖でみくちゃんの髪をゆっくり撫でてながら返事をする。
気持ちいいのか目をつむりながら撫でられるままのみくちゃん。
癒されるな~。
「ゆうとくんはみくのこと、すき~?」
「もちろん。大好きだよ」
「ほんと~!? わたしもだいすき~!」
そういうとぎゅっと抱き着いてくるみくちゃん。
倒れないようにしっかりと受け止めようとするけど、私の体も小さいのを忘れていた。
そのまま地面のマットに二人とも倒れる。
それでもみくちゃんは気にしていない様子で、私の頬に顔を寄せた。
「ん、むぅ」
ちゅ、という可愛らしい音と共に、顔が離れる。
どうやらほっぺたにキスされたようだ。
キスをされるのは始めてだけど、ドラマに影響されたのかな。
「ふふ、お返し」
「!!」
大きいとかなり危ない絵面だけど、今の私達なら問題ないか。
そう思い私もみくちゃんに寄せ、触れるくらいのキスをした。
「んー! ゆうとくん~!」
「ははは、落ち着いて」
ぎゅーっと力を込めて抱き着いてくる。
私も抱きしめ返すけど、流石に疲れてきた。
降参、という意味も込めて肩を叩くけど、みくちゃんは変わらずそのまま僕の首元に顔を擦り付けて匂いを嗅いでいる様子だった。
こういう時は何もせず、ゆっくりと抱きしめ返す。
そうするとみくちゃんは満足して……
「……すぅ」
すぐに寝付いたみくちゃんをゆっくりと放すと、リビングに敷いてあった布団の上までみくちゃんを運び、下す。
といっても流石に重いから、お母さんに頼んでだけど。
私達の様子を見ていたみくちゃんのお母さんに運んでもらい、私はみくちゃんに布団をかけた。
「ふぅ……これでよし」
「優斗くん、いつもありがとうね。美玖と遊んでくれて」
「いえ。僕もみくちゃんと遊ぶの好きですから」
「そういってくれて嬉しいわ。男の子の幼馴染に優しく寝かしつけられるなんて……美玖も幸せ者ね」
私が離れようとすると、みくちゃんの手が私の服を掴んだ。
起きているのかと思い顔を見てみる。
どうやら無意識でやっているみたいだ。
「ふふ……離れたくないみたい。布団敷いてあげるけど、優斗くんもお休みする?」
「それは……はい。そうします」
みくちゃんの手が離れないの見て、私も一緒に寝る事にした。
……違うか。私がそうしたかった。
この子が私に与えてくれる純粋な思いが心地よくて。
離れるが少し嫌だったんだと思った。
お母さんに布団を敷いてもらい、みくちゃんの横に寝る。
「おやすみ、みくちゃん」
みくちゃんを起こさないようにそっと顔を撫でて、私はゆっくりと目を瞑った。
今みくちゃんは何の夢を見ているのだろう。
私も疲れていたのか、そのまますぐに眠ってしまった。
「……うとくん、ゆうとくん、起きて~」
「……んん?」
声が聞こえる。
目を開けると、視界いっぱいにみくちゃんの顔が広がっていた。
「うわぁ!?」
「ふふ、おはよ~」
にこっと楽しそうな笑みを浮かべ、私から離れていく。
窓の外を見ると、あれだけ青かった外の色はオレンジ色になっていた。
数時間は眠ってたみたいだ。
「おはよ……みくちゃん。よく寝れた?」
「うん! ゆうとくんも~?」
「はは、そうだね」
「ならよかった~!」
体を起こすと、いつものように体を引っ付けてくる。
そして私の肩に顔を倒すと、目を瞑った。
「みくちゃん?」
「……ゆうとくん、だいじょうぶだよ~」
「……え?」
何が大丈夫なんだろうか。
そう思っていると、みくちゃんは私を抱きしめてくれた。
いつもみたいな、私の事が大好き~、みたいな抱きしめ方ではなく。
いつも私が彼女にし返すような、ゆっくりと包み込むような抱擁。
ゆっくりと、ぎこちない動きで、私の髪を撫でた。
「みくは、ゆうとくんとずっといっしょ~」
「…………」
「だから、だいじょうぶ~」
何が何だか分からなかった。
どうしてみくちゃんがこんな事をするのか。
どうしてみくちゃんが、私の思いを知っているのか。
普通はそんな事を真っ先に思いつくと思う。
「……っ、みくちゃん……っ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ~」
みくちゃんのお母さんがみくちゃんにそうしてくれた事があったのだろうか。
彼女なりのあやし方で私を優しく包み込んでくれる。
だいじょうぶ、としかみくちゃんは言わない。
本人は何がだいじょうぶか分かっているのかも怪しいし、分からないけど。
いい歳こいたおじさんが、小さな小さな女の子の腕の中で思い切り泣いた。
泣き止んだ時は恥ずかしかったけど、みくちゃんはいつもの笑顔で私に微笑みかけてくれた。
「ありがとう、みくちゃん」
いつもみくちゃんがするみたいに、私はみくちゃんを強く抱きしめた。
みくちゃんはそれに驚いたような反応をしたけど、すぐに嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
彼女が成長したら、今日あった事なんて忘れるだろう。
それでも、私は今日の事は忘れない。
彼女に嫌われたとしても、私から離れていったとしても、みくちゃんが幸せていてくれたらいいな。
そう、思った。