醜い私が逆転世界で暮らす   作:バルバリッチ

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本のしおり

 今日も今日とて、私は一人幼稚園を満喫する。

 どうせ一人なら、いつもとは違う事をしよう。

 そう思った私は「明日はここ、来れないと思う」とベンチの少女に話しかけた。

 

 あの一件があった後、私はまたベンチに通うようになった。

 あれから何かが変わった訳じゃない。

 少女はあまり話さないし、私も話さない。

 

 心地の良い風に吹かれ、空に浮かぶ月を眺める。

 それだけで、この子とは何か通じ合えている気がした。

 

 それでも、また一人だと心配させるかもしれない、そう思ってのことだった。

 

「え、そ、それって……もう、こないってこと?」

「違うよ。明日は幼稚園を探索してみようかなって」

「たんさく……?」

 

 よく分かっていなかったみたいだけど、もう来ない訳じゃないと知ったら「ふーん」といつも通りの彼女に戻った。

 

 だからこうして、今日は一人幼稚園内を散歩だ。

 え?男の子が一人で幼稚園内を歩き回るのが許されるのかって?

 それはそうだ。

 ただでさえ男の子は貴重で、将来のために大事な存在だ。

 

 でもこの幼稚園内にはいたる所に監視カメラが仕掛けてあるし、先生だって大勢いる。

 歩いていればすぐ先生とすれ違うし、挨拶をするとあっちも嬉しそうに返してくれる。

 何も問題はない。

 

 相変わらず大きな幼稚園だな、そう思いつつ建物内を巡り歩く。

 上級生のクラス、レクリエーション部屋、図書館。

 給食室、それにトイレ……

 

「……ぉい、おま……」

 

 あれ、今何かの声が聞こえた気がする。

 女の子とは違う、低いけど高めの声。一瞬で矛盾してるけど。

 

 この声の感じは……男の子だ。

 

 トイレから聞こえたその声に耳を澄ますと、男子用トイレの近くでなにやら騒いでいるらしい。

 様子だけ確認しよう、とこっそり近づく。

 

「おい、いまぶつかったよな!」

「ご、ごめんなさい……」

「いたかった! いたかった!」

「だいじょうぶ? しょうたくん」

「だめなんだー」

 

 ボブカットの女の子が男の子とぶつかってしまったみたいだ。

 ごめんなさいごめんなさいと本を大事そうに抱え、泣きそうになりながら謝っている。

 男の子の方は納得いかないのか、ずっと眼鏡の子に対して文句を言い立て、彼の周りにいる女の子も男の子に注目されたいのか一緒になってボブカットの子に詰め寄っている。

 

「ご、ごめん。ごめんなさい……」

「……っ!」

 

 イライラしたのか、男の子が手を振り上げる。

 それは流石にダメだ。

 男の子の手も痛むし、女の子はもっと痛い。

 いい事なんて何もないんだから。

 

 横から入り、男の子の腕を掴む。

 自分の腕が止められた事と、私が割り込んだ事に気づいた男の子は、目を見開いて私を見た。

 

「落ち着いて。大丈夫だから」

「!? なんで! な……」

 

 私の顔を見ると、男のは腕を下ろし、後ろへと倒れた。

 女の子達が彼を後ろから支える。

 男の子は急いで立ち上がると、泣きわめきながら廊下を走っていった。

 それを見た女の子達も、彼を追いかけるように走っていく。

 

 ……今回は私の顔が役に立ったかな。

 落ち着けるのも大変だし、この顔が役に立つ日が来るなんて。

 感謝はしない。

 前世を通して、ブサイク顔には百害あって一利なしだから。

 

「大丈夫?」

「……ぁ、だいじょ、う……」

 

 まだ混乱してるみたいだ。

 とりあえず彼女を座らせると、落ち着くまで背中をさすってあげる。

 早かった呼吸は段々と落ち着いてきて、周りを見る様子が出来てきたみたいだ。

 

「大丈夫、大丈夫」

「……ふぅ、ふぅ。あ、ありがと……」

 

 少女が落ち着いて私の顔を見ると、何か驚いたような、怖い物を見たような顔になった。

 しまった。今の状態で私の顔はまずかったか。

 最近まともに会話した女の子達は皆私の顔で驚かなかったから油断してた。

 

「あ、ごめんね。顔、怖かったよね」

「え。あ、うぅ、その……だいじょうぶ。こわい、けど……やさしいから」

 

 そういうと、ボブカットの女の子は涙を拭いて落ちていた本を拾いあげた。

 そのまま私に近づいてきたと思うと、持っていた本を私に差し出した。

 

「このほんのね。このこ。こわいかおしてるけど、とてもやさしいんだよ」

 

 表紙の子を指差すと、少女は楽しそうな顔をして話をしてくれた。

 どうやら動物系のお話みたい。

 表紙には狼の顔をした怖い動物と、可愛いキツネちゃんが楽しそうに遊んでいる様子が映っている。

 

 

「こまってるとき、このこはだれもみすてないの。みんなにきらわれても、なにしても。それでね、みんなのにんきものになるの!」

 

 

 その話を聞いた瞬間、あの言葉を思い出した。

 

 

 

 『人は、外見ではなく中身だ』

 

 

 

 私の心を縛り付けている、あの言葉。

 この子は、この物語と私が同じだと言っている。

 顔が怖くて、でも優しいから。

 安心できるし、人気者になるよ。

 

 そう言っているのだ。

 

 

 

 でも違う。

 

 

 

 狼は怖いだけだ。

 怖がられているけど、いいことをして、その誤解が溶けた。

 だから人気者になったんだ。

 

 でも私は違う。

 ブサイク、それだけ。

 今は「怖い」だけで済むかもしれない。

 

 でも大人になればそれは変わる。

 「恐怖」は「人気者」になれたとしても、「ブサイク」は「ブサイク」のままだ。

 

 それは変わらないし、どうやっても変わる事はない。

 どれだけ優しくしても、「ブサイク」の一言で全て終わりだ。

 

 

『あの人、私の物を勝手に盗んだんです!』

 

 違う。落ちていたから拾って、届けようとしただけだ。

 

『この人、私のお尻を触りました!』

 

 誤解だ。そんな事は絶対にしない。

 

『告白されると思った? 罰ゲームでーす! あんたみたいなのが本当に告白されるわけないじゃん! キモすぎ」

 

 そうだって思ってた。思ってたさ。本当に信じるわけないじゃないか。

 

 

 

 

 だって、私が誰かから愛されるなんてこと、ないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたの?」

「……! あ、いや……なんでもないよ」

 

 心配そうに覗いてきたこの子に、さらに心配させる訳にはいかない。

 しっかりしろ、私。

 

「あ、なまえ。なまえおしえて!」

「名前?」

「うん。ともだち、はじめての。なかよくしたいって、おもったから……」

 

 言葉が段々と尻すぼみになっていく。

 私が友達になりたいって思ってないんじゃないかって心配してるのかな。

 そんな事ないのに。

 

「優斗だよ。小林優斗」

「ゆうと、くん……。ゆうとくん! わたし、しおり。えっと……しおり、しかわかんないや」

「しおりちゃんだね。よろしく」

「うん、よろしく!」

 

 嬉しそうに笑うしおりちゃんと握手をする。

 もしかして、この世界で初めて出来た友達なんじゃないか?

 

 美玖ちゃんは友達というか、もはや家族みたいな感じだし。でも妹も産まれるから……二人目の妹?なんて。

 ベンチのあの子は……どうなんだろう。友達とは言いにくい関係だけど、顔見知り以上だし……

 顔見知り以上、友達未満?なんだかそう聞くとすごい謎な関係だ。

 

「しおりちゃんは、僕とは違うクラスだね?」

「うん。わたし、みなとくんクラスなの」

 

 この幼稚園は、男の子がいないクラスは存在しないようになっている。

 男の子と女の子が一緒に存在する以上、将来男の子も女の子もお互いに慣れるように、という配慮だ。

 その証明として、クラス名は男の子の名前で呼ぶようになっている。もし複数の男の子がいれば、〇〇くんクラス&〇〇くんクラスになる。

 私のクラスはゆうとくんクラス……とは名ばかりで、休みの時間は物静かな子や、別の事に興味がある女の子しか残らないし、他の子は他のクラスの男の子の周りに集まるから、私は実質いない物扱いだ。

 

「みなとくん……あ、隣のクラスだ」

「ほんと!? じゃあおやすみのとき、あそびにいきたい! いい?」

「もちろんいいよ。僕も暇してるし、いつでも来てよ」

「やったぁ! じゃああしたいくね!」

 

 しおりちゃんと約束をした所で、私は思い出した。

 ベンチの子に明日も行けないって伝えないといけないなーって。

 でもどうしよう。彼女のクラス知らないんだよな。

 探したら見つかるかもだけど、嫌がるかもしれないし。

 実際、あの子から名前を聞いた訳でもないから、もしかしたら意図的に隠してるのかも。

 

 じゃああんまり暴くような事をしちゃ悪いか。

 

 まぁ、明日は明日の風が吹く、という事で。明日の事は明日の自分に任せよう。

 そう考える事にした。

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