醜い私が逆転世界で暮らす   作:バルバリッチ

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思いはそれぞれ

 赤ちゃんの声が、家中に響き渡る。

 お昼寝していた私はすぐに目を覚ますと、その声の元へと走り出した。

 

 イスを上ってベビーベットを覗く。

 そこには今世の私より幼い、可愛い赤ちゃんがいた。

 

 お母さんが私の妹である「優乃」を産んでから、数週間が経った。

 兄弟は前世の弟もいたけど、家族の記憶はもう曖昧で、思い出す事すら難しい。

 

 そんな今の私にとって、この世界で初めての……前世を含めても初めての「妹」はとても可愛いかった。

 

「ゆうの、どうした? 何かあった?」

 

 そう声をかけると、ゆうのは私の顔を見て笑顔になった。

 寂しかったのだろうか。

 

 まだ私も身長が大きくないから、ベビーベットの中にいるゆうのに触るのは難しいし、それはゆうのが危ないから触る事はしない。

 けれど、私が腕を伸ばすと、ゆうのも小さな指をこちらに向けてくれて、まるで手を握りたいって言っているようだった。

 

 本当に可愛い。

 この子が私の妹?

 天使の間違いじゃないだろうか。

 

 

「優斗くん~……あ。ここにいた。ふふ、今日も優乃ちゃんの所に一番に来たのは優斗くんだね」

 

 

 お母さんが起きてきて、私を持ち上げてくれる。

 優乃の泣き声を聞いて急いで来たみたいで、ゆうのに触りやすいように近づけてくれた。

 指と指を合わせて、小さな顔を撫でる。

 

 幸せそうに笑ってくれるその姿を見て、とても暖かい気持ちになった。

 

 

「優斗くん、まだ眠いでしょ? 今日は幼稚園もないし、美玖ちゃんが来る時間もまだ先だから、寝てていいよ」

「……うん。でも、ゆうののこと、もうちょっとだけ見てたい。だめ?」

「ダメなわけないよ。大切な家族なんだから。でも眠くなったら言ってね。……優乃ちゃん、お母さんですよ~」

 

  

 ゆうのを見ていると、前世の弟を思い出す。

 

 彼とは仲が良かったのだろうか。

 記憶の中の私達兄弟は、どこかギクシャクしている様子だった。

 

 弟が私の事を嫌いで、あまり話さなかったのかもしれない。

 私も私で精神的に苦しかったから、弟の事を考えなかったのもあると思う。

 

 それでも、大事な家族だったのは……今の私のこの気持ちが証明している。

 今のような気持ちを、幼い頃の私は持っていたのだろう。

 

 大きくなって、その気持ちを忘れていたんだ。

 自分の事ばかり気にして、家族の事を考える暇なんてなかった。

 

 自分の顔のせいにして、不幸のせいにして、全員が敵だと思っていた。

 あの時、私は私以外の人間全てが私の事が嫌いだって思っていた。

 

 それは言い訳にしかならない。

 

 もうどうしようもない「たられば」だけど。家族のことを何も考えていなかった私も悪かったんだ。

 そのことを、この世界の人達が、この子が教えてくれた。

 

 

 今更だけど、遅すぎるけど、そのことに改めて気づいた。

 だから、今世は、ゆうののために色々してあげたい。

 ゆうのが喜ぶこと、沢山してあげたい。

 

 私の顔がいくらブサイクでも、ゆうのの事が大事だっていう気持ちが伝わるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かわいい~!」

 

 みくちゃんが家にやってきて、ゆうのをじーっと見つめている。

 ここ数週間まだ慣れていないゆうのに配慮して、私がみくちゃんの家に遊びに行っていた。

 

 だからみくちゃんがゆうのに会うのは今日が初めてで、珍しい事に私に抱き着くことも忘れてゆうのを見て可愛い可愛いと言っていた。

 

 ふふ、そうだろう。

 私の妹は可愛いんだ。

 

 

「あ、わらってくれた! みくをみてわらってくれたよ、おかあさん!」

「そうね。美玖の事が好きになったみたいね」

「やった~! へへ、みくとゆうとくんと、ゆうとくんのおかあさんと、ままと……ぜんいんでいっしょになかよくなろうね~!」

 

 

 みくちゃんがいるだけで和やかな雰囲気になる。

 そこがみくちゃんの良い所の一つだ。

 まだまだ良い所はあるし、どれだけ言葉にしても足りないよね。

 

 

「……ゆうとく~ん」

 

 みくちゃんがいつも通りくっ付いてくる。

 もうこれが日常の一部になっていた。

 

 みくちゃんも段々と成長して、大きくなっているのが抱きしめた時に分かった。

 毎日毎日抱きしめているから、些細な変化でもこうして抱きしめたら分かるようになった。

 それはみくちゃんも同じだと思う。

 

 

「んー? どうしたのみくちゃん」

「う~」

 

 

 私の胸に顔を押し付け、うーうーと言葉にならない言葉を話している。

 耳にかかっている髪を耳の上にかけ、優しく耳を揉んだ。

 

 

「幼稚園で何かあった?」

「……うん~」

 

 話を聞くと、幼稚園ではうまくやっているようだ。

 友達という友達はいないみたいだけど、同世代の女の子とは話をするし、好きな事で遊んで楽しんでいるとか。

 

 でもある日、遊んでいるみくちゃんの前に一人の男の子がやってきた。

 

 遊んでいたおもちゃを取り上げられ、へんな人形と言われたらしい。

 みくちゃんは変と言われた事に怒っているのではなく、取られた人形が、いつも私と遊ぶ時に使っていた男の子の人形だったというのと、自分は悪い事をしていないのに、なぜか男の子は怒られなかったという理不尽に対してだ。

 

 嫌な気持ちは家に帰ってもなくならなくて、もやもやとした気持ちがずっと残っている……要約するとこういう事だ。

 

 多分その子はみくちゃんの事が気になるんじゃないかな。

 それくらいの歳の子は、好きな子にどうやって話をしたらいいか分からないから、こうやって絡みにいく……というのを聞いた事がある。

 小さい頃になればなるほどそれは顕著だろう。

 

 三歳児といえど、誰かを好きになるのに年齢は関係ない。

 その思いは今はちょっと話をしたいくらいの物だろうけど、大人になるにつれて大きくなっていくものだ。

 

 ……と、語ってはいるけど、私はもちろん付き合ったことない、と思う。

 恋をした事があるかはもう覚えていないが、しない人は多分いない。

 

 もししたことがあったとしても、それが成就するかと言えば……

 言わなくても分かるだろう。

 

 

 理不尽に関しては、この世界の状況を見れば、男の子が協力してくれないと大変だからひいき目に見てしまうのは仕方のない事かもしれない。

 

 でもその事に対して不満を持つ事も、また仕方のない事だと思う。 

 

 

「……みくちゃんが嫌だったら、嫌だって言った方が良いよ。みくちゃん、優しいから、色々と我慢しちゃんだよね。それで色々と気持ちを溜め込んじゃう」

「…………」

「でも、言い返しても、また同じ事が起きるかもしれない。だから、楽しい事を考えよう」

「たのしいこと~?」

「うん。みくちゃん、楽しい事なって思う事って何?」

「ゆうとくんといっしょにいること~!」

 

 一秒も悩まずにそういったみくちゃんをみて、つい笑ってしまった。

 そんな私の様子を見て不思議そうな顔をしている。

 

 

「うん。そうだね。僕もそう。嫌な事があったら僕と遊ぶことを考えよう。そうしたら嫌な気持ち、なくなるでしょ?」

 

 私の体に顔を押し付け、うんと呟く。

 いつもしているみたいに、綺麗な髪をゆっくり撫でた。

 

「それでもどうにもならなかった時は、僕に言ってよ。一緒にその気持ちで悩もう。僕もみくちゃんが大事なんだ。だからみくちゃんの悩みは一緒に考えたい」

「ゆうと、くん……」

 

 少し難しい話をしてしまったかもしれない。

 でもみくちゃんは賢いから、ゆっくりと私の腕の中で話を整理して、考えて、答えを出す。

 

 

「……めいわく、じゃない~?」

「全然だよ。話してくれないと寂しいよ」

 

 

 顔を上げたみくちゃんの目から涙が流れていた。

 ずーっと、この事で悩んでいたんだろうな。

 みくちゃんは他の子よりも早熟だから、色々と考えちゃって、キャパオーバーになっちゃったんだ。

 

 涙を指で丁寧に拭くと、みくちゃんは目を細めた。

 潤んだ目と私の目が合い、どちらからともなく笑い合う。

 

 

「うん。みくちゃんは悲しそうな顔より笑顔が似合うよ」

「……だいすき、ゆうとくん」

 

 

 いつもよりも、さらに強く。

 みくちゃんが何か、思いを必死に伝えたいかのように、強く強く抱きしめてくる。

 

 

 

 

 今この時。()の事は全部忘れていた。

 顔がブサイクとか、前世の記憶だとか。

 

 

 そんな事は今、この瞬間はどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 ただ、彼女が幸せになればいいなって、そう思った。

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