破典聖杯戦争 ~黒髭エドワード・ティーチがオタ落ちした日~   作:若槻 風亜

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【Fate】第2章 混沌の足音【破典聖杯戦争】⑤

 

 

 夕方。間島 美津子は夕飯の買い物からの帰り道をいつもの調子で歩いていた。少しばかり機嫌がいいのは、今朝久々に隣の家の住人である少年に会えたから。

 

 最後に会ったのはもう何年前だろう。お母さんが亡くなってからめっきり外に出る姿を見なくなって、とても心配していたのだ。

 

 それが、今日久々に姿を見て、挨拶もしてくれた。数年前まであの家にいた家政婦さんからは、上手く感情を表に出せないようだ、と聞いていたので、親戚だという彼とのやり取りを見てほっとしてしまった。

 

 夕飯をおすそ分けしたら食べてくれるだろうか。ああでも、お母さんが生きていた頃や家政婦さんがいた頃にも数度渡したことがあるが、食べてくれなかったのだったか。それなら下手なことをしない方が今後また挨拶をしてくれるかもしれない。

 

「失礼、フラウ――いえ、マダム」

 

 ほぼ一方的とはいえ幼い頃から見知っている子供の成長にうきうきしながら歩いていると、不意に背後から声を掛けられる。女性の声だ。

 

「はい?」

 

 振り向けば、美津子よりも背の高い赤毛の少女が立っている。外国人なのが一目で分かる顔立ちは可愛らしく、うっすらとそばかすが見受けられることから、「赤毛のアンみたいな子だわ」という感想を抱いた。

 

「どうしました?」

 

 それにしても今日はよく外国人と会う日だ。そんなことを考えながら愛想よく聞き返す。

 

 すると、どこからか、とても綺麗な音が聞こえてきた。澄んだ音が、いくつもいくつも重なっていく。ああ、美しい。そんなことを考えている内に、美津子の目はぼんやりとし始めた。

 

「――やはり魔力の残り香がする。教えて。あなたは今日、誰と会った?」

 

 少女が問いかける。いつの間にか彼女が身に着けた手袋がうっすらと光っていたが、今の美津子はそれを異変と思える状態にない。ぼんやりとしたまま、健人とティーチの存在を口にした。

 

「どこに住んでいるの? 行動パターンは?」

 

 少女の質問が続く。美津子は知っていることを同じように答えた。そんなやり取りが数度続いた最後に、少女はこう言う。

 

「ありがとう。このことは全て忘れて」

 

 同時に、聞こえていた不思議な旋律が消えた。

 

 はっとした美津子はきょろきょろと辺りを見回すが、何故自分が振り返っているのか、何故自分が辺りを見回したのか、何も分からない。

 

 疲れているのだろうか、そんなことを呟き、美津子は再び家路につく。

 

 そんな彼女を物陰から見送ったのは二人の人物。ひとりは赤毛の少女。もうひとりは暗めのコートをまとった壮年の男性。

 

「――ようやく見つかったわね。ライダー組だわ」

 

「ほうら、見ただろう? 磁気が乱れているという私の見立ては大正解だ。私の説の正しさが証明されただろうマスター?」

 

「そうね、あなたのそれは魔力に当てられた状態を探知しているだけだと思うけど、微細な差も見抜けるのは素直に称賛に価するわキャスター」

 

 認めているのかいないのか何とも言えないマスターの反応にキャスターは片目をすがめるが、すぐに美津子の背中に視線を戻す。

 

「何はともあれ、これでようやく全マスターを把握出来たな。ランサー組のように意外な拾い物になってくれるといいのだがね」

 

 なあ? と同意を求められ、少女は小さく頷いた。

 

「そうね。セイバー組と連携がちゃんと取れないのは不安だけど、ランサー組が協力体制に参加してくれたのは本当に良かったわ。……今回の聖杯戦争は、()()()()()()()()()()()()()()()()もの」

 

 少女は真剣な眼差しで、手袋を付けた両手をぐっと握り締める。

 

 此度の聖杯戦争は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。事態を重く見た時計塔及びアトラス院は、それぞれが解決のためマスターとなる人材を派遣した。

 

 キャスターのマスターとして選ばれた少女はアトラス院から、セイバー・アーチャーのマスターとなる者たちは時計塔から派遣されている。

 

 本来はこの三名が協力して事態に当たるはずだった。

 

 しかし、各自召喚後の初顔合わせの際から、計画は崩れてしまっている。本来の予定としてはセイバーのマスターが主導し、アーチャーのマスターとキャスターのマスターがそれをサポートする予定だった。

 

 だが、セイバーのマスターとアーチャーのマスターが致命的に相性が悪く、その場で決裂。セイバー組は独自に動くことを宣言し、以降連携を拒否している。

 

 一方、アーチャー組は連絡は取れているものの協調に専念しすぎ、本来は令呪をもらい受ける予定であったランサー組とも協力を取り付ける結果となった。

 

 幸い、一般人と思われていたランサーのマスターは野良魔術師だったため、戦闘や魔術行使に関して遅れを取ることはなさそうだ。

 

 そして問題は、残りの三騎である。

 

 今回の聖杯戦争を()()()()()、こともあろうに神秘の一端を世間にばらまいたバーサーカーのマスター。事の始まりからずっと魔術協会が探しているにも関わらず、その行方は未だ知れない。

 

 そのバーサーカーのマスターがばらまいた召喚陣で、運の悪いことに召喚に成功してしまったのがアサシンのマスター。すでにバーサーカー組に襲われアサシンが撤退しているが、偶然にも自宅近くの教会が聖堂教会に所属する教会であったため、マスターは現在そこで保護されている。

 

 そして、ここに来てようやく、これまで誰も見つけられていなかったライダー組が尻尾を見せた。 

 

「ここも、話を聞く限り一般人マスターのようだな。よく隠れ通せたものだ。君のように何か仕掛けでも使っているのかね?」

 

 素直に感心しつつ、少女と男性は美津子の後についていく。少女の手袋に組み込まれた気配遮断と隠蔽の術式が作動しており、美津子にも途中すれ違う他の人々にも気付かれることはない。

 

 少女は男性が指差した側の手を軽く上げて視線を落とした。

 

 複数の術式を両手の手袋に編み込んだ、少女の精密な魔術礼装。発動中のため僅かに光を帯びているが、別の術式が発動する際にも隠蔽が先行して作動する設計になっている。例え少女たち自身に気付いたとしても、即座にこの手袋にまで意識が及ぶことはない。

 

「どうかしらね。余程サーヴァントが魔術に長けているか、引きこもりというのは建前で、本人が実はきちんとした教育を受けた魔術師か、それか亡くなっているという母親が優秀な魔術師だったか。――いずれにしろ、警戒心だけは大したものだわ」

 

 手を下ろし、少女は再び視線を前に向けた。どのような事態になろうと冷静に対処する、という覚悟が、その横顔には浮かんでいる。それを見てキャスターはふっと笑みをこぼした。

 

「何、ほんの少しでも何か綻びがあればどうとでも出来るさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 任せたまえよ。そう言って男性は何かを擦るように指を動かす。少女は一度彼に視線を向けてから、暮れていく夕日に再び顔を向けた。

 

「そうね。争わないで終わるならそれが一番よ。今回の聖杯戦争、一番の目的は聖杯を得ることではなくバーサーカー組を止めることなんだから。余計な戦闘は避けるべきだわ。――戦闘を避けてくれる臆病者であるなら、どれだけ助かるかしら」

 

 そうなって欲しい、という願いを込めて告げられた言葉に、男性も「そうだねぇ」と言葉を返す。

 

 背を向ける先では、世界が夜に包まれつつあった。

 

 

 




明日から18時固定で更新します。
pixivのページ的にあと14枚なので、2週間ほどの予定です。
土日は1日2回更新しても良いかもとも思ってるので、土日だけ未定で……
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