破典聖杯戦争 ~黒髭エドワード・ティーチがオタ落ちした日~   作:若槻 風亜

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【Fate】最終章 友よ、さらば【破典聖杯戦争】③

 

「その量産品マスターの腕を斬り落として、テメェは何しようってんだお嬢ちゃん。まさか令呪の付いた腕取りゃあサーヴァントを従わせられるなんざ思ってねぇだろうな? パスはまだ健人につながってるし、健人との契約が切れてもテメェと契約しようなんざ思わねぇぜ。そんなことするぐらいならこのまま消えてやらぁ」

 

 サーヴァントがマスターを変えることは不可能ではない。だが、それには必ずサーヴァント側の意志が必要になる。見下され続けている現状にあって、ティーチが彼女に従うことは万に一つもない。結果世界が破滅しようとも、ティーチはこのまま消える道を選ぶ。

 

 常人であれば震えあがり声をなくしてもおかしくないほどに厳しいティーチの眼差しと声。海風はまるで彼の怒りに呼応するように轟々と吹き始める。

 

 しかしアウロラはくすくすと嘲笑をやめない。

 

「そんなことはあなたみたいな下等な英霊に言われなくても分かっているわ。だからさっき言ったでしょう? 術式がある、と。わたくしが使わなくていいと言ったのは我がハイブリッジ家が研究した魔術。あなたに使うのは――それを元にわたくしが独自に研究した魔術の方よ」

 

 言下、アウロラは球体に手を向けた。魔術回路が励起し、アウロラと球体を囲えるほどの魔術陣が足元に展開する。

 

「『絶たれし誓約よ、我が魂脈をもってここに呼び戻されよ。

 

宿れ。汝が刻印は我が刻印。汝が契約は我が契約。汝が光は我が光。

 

断絶を結び、離別を縛れ。

 

(しるし)よ甦れ、刻印よ吼えよ、血路(ブラッドライン)よ開け』」

 

 詠唱が進む度、アウロラと球体の間をつなぐ光の線が徐々に増えていった。

 

 これは放置するとまずい、と、ティーチは大量の銃を召喚して次々にそれを発射してく。だが、そのことごとくをセイバーは斬り落とした。銃を巧みに扱うティーチの行動も最早常人に追えるものではないが、その速度を更に上回るセイバーの技巧はそれ以上のものだ。

 

 ティーチにとってのジリ貧が続く。と思われていたが、ある瞬間にセイバーがこれまで通りに弾を切って落とした瞬間、周囲に煙が立ち込めた。

 

「ちっ、煙玉か」

 

「はっは、正面から張り切り過ぎだぜセイバー! 出てきな、野郎ども!!」

 

 言下、ティーチの配下が大量に顕現する。波のように押し寄せるそれらを次々に斬り伏せつつ、セイバーはアウロラの前に立ちその守りを固めた。

 

 その時、背後から音もなく近付いた人影がアウロラに剣の切っ先を向けて突撃してくる。

 

「甘いぞ、ライダー」

 

 前面から側面にいた魂なき影たちを一振りに屠り、セイバーは背後から迫っていたティーチに肉薄した。

 

「――何」

 

 ――と、思われた。

 

 しかし、そこにいたのは他の者より少しばかり頑強に作られた影に過ぎず、ティーチ本人ではない。

 

 戸惑った直後、セイバーは即座に振り向き盾をつけた手を伸ばしアウロラの前に出す。ガキンッ、と鈍い金属音が響いた。そこにいたのはティーチ本人。セイバーの盾が防いだのは、彼がアウロラに向けて振り下ろしたカトラスだ。

 

「は、流石にやるなセイバー。だがよぉ」

 

 凶悪な笑みを浮かべたティーチの背後から、銃口がいくつも現れる。それらの全てが自身とマスターに向いていると気付き、セイバーは一瞬判断が遅れた。距離がある内は弾道も読めたが、この距離は近過ぎる。何より現在の体勢が悪すぎて、下手に剣を振ればアウロラの邪魔をしかねない。

 

 盾の能力を解放するか、とセイバーが考えた直後、その時はやってきた。

 

「『強制の契約(コントラクト)、ここに締結す。

 

我が名に従え、我が命に服せ。

 

――強制接続、励起』!」

 

 詠唱が、完了する。

 

 瞬きほどの間も開けず、ティーチは心臓を鷲掴みにされたような不快感に襲われる。そして、確かに感じていた健人とのつながりが、その瞬間に断ち切られたことを感じ取った。

 

 変わって訪れたのは、頭から自分を押さえつけるような気色の悪い、不愉快な感覚。魂を囚われたような不快感に耐え切れず、ティーチは背後に出していた銃を消してしまう。

 

「ふ、ふふふふ。成功よ、はっ、このアウロラ・ハイブリッジにかかれば、この程度の術、児戯に等しいわ」

 

 じっとりとした汗をかきながら、途中息を切らせながら、しかしアウロラは成功した術を誇った。

 

 降霊科に名高き一族、ハイブリッジ家は、聖杯戦争の際に行われる究極の使い魔召喚に対して強い関心を持っている。数代前から研究を重ね、つい近年、その令呪を疑似腕と呼ばれる魔術道具に移す術を確立した。

 

 しかしその手順は、アウロラが先に述べた通り手間も時間もかかる儀式を経由する必要があり、何より相手の同意が必要になる。

 

 そう語られれば人道的な話のように思えるが、これはそういう話ではなかった。強制的な奪取により起こりえるフィードバックを抑えるための、ただの工程に過ぎないのだ。

 

 アウロラはその手間を嫌った。自身の優秀さを心から誇る彼女は、一族が作りあげた術式を更に研究。

 

 そして、相手マスターの安全とサーヴァントへの配慮を完全に排除した、強制接続の術式を完成させたのだ。この術式により、アウロラは切り取った相手マスターの令呪に強制的に自身の魔術回路を接続し、その命令権を奪うことが出来る。

 

「さあ、これであなたの支配権も、令呪も、わたくしのものよ。汚らわしき海賊風情がわたくしの役に立てるのだから、ありがたく思いなさい」

 

 不愉快で、不快で、腹立たしくて、ティーチは怒りの余りに自分も相手も殺してしまいたい衝動に駆られる。

 

 だが、出来ない。

 

 事前に聞いていた通りの性悪さだが、才能もまた前評判の通りのようだ。逆らおう、という意思が、ある一定の位置までいくと何か不可視の物に絡めとられて霧散させられていく、そんな不可解な感覚があった。

 

「ところでセイバー。あなた、こんな雑魚相手に盾の宝具を使おうとしていたわね?」

 

 氷のように冷たい、見下す視線。セイバーは僅かに眉を寄せたが、反駁(はんばく)することなく肯定を返す。

 

「情けない。ああなんて情けない。これが最優のサーヴァント? 三下英霊に宝具を使う直前まで追いつめられるだなんて。……まったく、どうしてお爺様はこんなサーヴァントの聖遺物を手配してしまったのかしら。どうせアルスターから連れてくるなら、甥の方がまだずっと有名でしょうに」

 

 ぶつぶつと文句を言うアウロラ。その彼女を見下ろすセイバーの目は死んでおり、この二人の間には何の信頼関係も築けていないことを物語っていた。

 

 横から見てそれに気付いたティーチは、憎々しげに舌打ちする。万全であれば負けなかったかもしれないのに、この術と、何より魔力が尽きかけているのが良くなかった。

 

 健人の家の龍脈から引き出してきた魔力は先の部下たちの召喚で使い切り、健人からギリギリ引き出せた魔力は先程の一撃でほとんど使ってしまった。これ以上出来ることはティーチにはない。

 

 だが、このままでは終われない。セイバーにも負けないくらい冷たい目で、ティーチは状況を変える手段を模索する。ティーチは海賊だ。大海賊、黒髭エドワード・ティーチだ。小娘一人にいいようにされる生き様など真っ平ごめんだ。

 

 何か、何かない。そう考えていると、シャーロットが悲痛な声を上げる。

 

「ライダー! こちらへ! もう……ミスター中原はもたないわ……っ」

 

 

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