破典聖杯戦争 ~黒髭エドワード・ティーチがオタ落ちした日~   作:若槻 風亜

18 / 18
【Fate】最終章 友よ、さらば【破典聖杯戦争】④

 

 絶望に次ぐ絶望とは、こういうことを言うのだろう。

 

 無意識に目を見開き、ティーチは視線をそちらに向けた。すっかり血塗れのシャーロットと、その横ですでに死んだように大人しくしている健人、その彼らを悲しげな目で見つめアルモニカを奏で続けるメスメル。

 

 終わりの空気を、ティーチはその様子から感じ取る。

 

「ダメよ。そんなのに構っている暇はないわ。シャーロット、あなたもそんなものもう放っておいて帰りなさいな。さっきよりずっと汚いわ。そんな姿わたくしの視界に入れないで頂戴」

 

 健人たちに歩みを進めようとしていたティーチの足が、アウロラの否定で止められた。令呪が使われたわけではない。そこまでの強制力は感じていない。

 

 だが、この強制接続という魔術には最低限の命令権が織り込まれているようで、逆らうことが出来ない。

 

「アウロラ・ハイブリッジ! ……お願いよ、もう、本当に最期なの。せめて一言くらい交わさせてあげて……」

 

 怒りに任せそうだったシャーロットはすぐに思い直し、アウロラに向き直って両膝をついて頭を垂れる。心の底から願われ、アウロラは歪んだ笑顔を浮かべ楽しげに声を立てた。

 

「ふふ、あははは、いい姿ねシャーロット。あなたってそういう姿が似合っていると思っていたわ。才能はあるかもしれないけど、みっともないそばかす顔をいつも前に向けて見苦しいわって思っていたの。いつもそっちを向いていた方がいいんじゃなくて?」

 

 楽しげに、悪意に塗れて笑う姿の、なんと醜悪なことか。その場の誰もが思っていることを、ただアウロラ本人だけが気づかない。

 

「はー、ふふ。ええ、楽しかったからいいわ。ライダー、あれのところ行ってもいいわよ。わたくしは心が広いから許してあげるわ。令呪がしっかり馴染むまでもう少し時間もいるしね。ああ、その隙に殺そうなんて思わないことね? もし誓約の術式を抜けられたとしても、こんなのでも万全のサーヴァントがいるんだから無駄よ」

 

 どこが心が広いのか。なんと腹立たしい。そんな悪態をつきたくなる気持ちをぐっと堪え、ティーチは健人を挟んでシャーロットの正面に座る。

 

「――健人」

 

 声をかければ、真っ青な顔で目をつぶっていた健人がゆっくりと瞼を上げた。

 

「……ライダー、さん。あのさ、ぼく、いま、ぜんぜん いたくないんだ。ぜったい、いたい、はずなのに」

 

 ぽつりぽつりと喋る健人。顔から血の気は引き、発声も上手く出来ていないが、確かに痛みに震えてはいない。流石はアトラス院の技術と医師のサーヴァントと、言ったところだろう。

 

「そうか、痛みなく死ねるのは良かったな」

 

「……よくは、ないけど、くるしくないのは、よかったかな」

 

 胡坐をかいた膝に肘を乗せ、手の甲に顎を乗せながら健人を見下ろした。

 

 最初怯えて一切合わなかった視線。段々慣れてきて時々合うようになった視線。ゲームをやっている時やアニメを解説している時に輝きながら向けられた視線。

 

 もう今は、ティーチが写っているかも分からない。

 

「あのね、ライダーさん。ぼくね、ずっとあなたがこわかったんだ。でもね、いっしょにまんがよんで、ゲームやって、アニメみて、たのしいとか、おもしろいとか、くやしいとか、いっぱい いろんなことがあって、すごく、すっごく、しあわせだったんだよ」

 

 左手が、震えながらほんの少しだけ浮かされる。咄嗟にティーチはその手を取り、命を削り終わる直前まで冷たくなった手を握り締めた。

 

「それでね、こんなこというと、ティーチさんおこるかも しれないけど、ぼく……ううん」

 

 ゆっくり、ゆっくりと、健人の表情が動く。それは、力の抜けた、けれどはっきりとした笑みの形。

 

「せっしゃ、ティーチどのと ともだちに、なれて、ひじょうに、うれしかったですぞ」

 

 掠れるような声で紡がれたその言葉に、ティーチはいつかのことを思い出す。

 

 それは、ティーチが初めて健人の友人のたぬ太郎と画面越し・アバター越しに出会った日、彼の喋り方を「変な喋り方だ」とティーチが感想を述べた時の健人の言葉。

 

『僕がたぬ太郎さんの喋り方を真似てるのはリスペクトでも友情の証でもあるんだ!』

 

 この喋り方は、健人にとってのリスペクトと友情。わざわざこの言葉に言い直した意味を、ティーチは過不足なく理解した。

 

 一度深く目をつぶり、ひと呼吸の後、目を開けてにっと笑い空いている方の手で健人の髪をかき混ぜる。

 

「光栄ですな健人殿。拙者も健人殿と友達になれて非常に嬉しかったですぞ。漫画、アニメ、ゲーム。ううむ、いい文化ですなぁ。あまりにも広大! あまりにも壮大! もうひとつの大海原と言っても過言はありますまい。許されるならサーヴァント生全部かけて堪能したかった!」

 

 気恥ずかしさなど最早知ったことかとばかりにティーチは本音を曝け出す。

 

 ああ、そうだ。楽しかった。漫画も、アニメも、ゲームも、健人と過ごす日々も、最高に楽しかった。

 

 大海原の大航海。そのスリルも功績も、未だ変わらずティーチの胸に輝いてる。けれど、ティーチは知ってしまった。狭苦しい部屋の中で、映し出される映像に、紙に描かれた絵に、作られた人形に、心を奪われる楽しさというものを。

 

「……健人とも、もっと沢山話したかったでござるなぁ」

 

 ありったけの思いを込めてそう言えば、力なく目を見開いた健人は、すぐにふにゃりと笑った。

 

「へ、へへ、へ、ぼく、すごい。あのくろひげを、オタおち させちゃ、った――」

 

 すぅ、と健人の目の光が消える。再度言葉を交わす機会を永遠に失ったことに、正面のシャーロットが泣き崩れそうになった。しかし

 

「まだ泣くな。キャスター、テメーもまだそれ鳴らしてろ」

 

 ぼそりとティーチが小さな、しかし厳しい声で告げる。シャーロットはぐっと涙を堪え、メスメルもそれまでと変わらない調子でアルモニカを引き続けた。

 

「……何をする気かね? ライダー君。セイバーかそのマスターを殺そうというなら、大変申し訳ないが賛同しかねるが。気持ちは分かるがあれでも最優のサーヴァント。戦闘力は折り紙付きだ。落ちられたら大変に困るのだよ」

 

 一応、と申し訳なさそうな声音でメスメルが釘を差す。ティーチは舌打ちしたい気持ちをぐっと堪え、まだ健人と話しているように体を動かした。

 

「わーってるよ。つーか、もう俺にセイバー共を殺せるだけの魔力は残ってねぇ。だがこのままいいように使われるだけなのはごめんだ。最後っ屁のひとつかましてやらなきゃ気が済まねぇ。それ以降は我慢するさ」

 

「ふぅむ……まあ、気持ちは理解しよう。それで? 何がしたいのかね?」

 

 いまいち納得はいかないが、自由な男の最後の矜持と判断したのか、メスメルは彼のやりたいことを問いかける。それに対して返された答えに、メスメルもシャーロットも疑問を覚えた。

 

「ちょっと、まだ死なないの? 一般人って本当にゴキブリみたいね」

 

 腹立たしげにアウロラが声をかけてくる。シャーロットは一度大きく呼吸してから、ふらつく足で立ちあがった。

 

「……つい今さっき亡くなったわ。悼む時間くらいあげたらどう?」

 

「もう十分あげたわ。ライダー、立ちなさい」

 

 ふん、とシャーロットから顔を背け、アウロラはティーチに向かって命じる。一拍空けてゆらりと立ち上がり、ティーチは振り向いた。そして

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

父と子と聖霊のなんちゃら(作者:NJ)(原作:Fate/)

聖書の神になってしまった男が居た。▼訳も分からず与えられた全能の力。▼世界の色んなところで自分と同じような奴らがなんか色々やってたのを見つけた。▼折角だし、自分も同じようにやってみることにした。▼そんなこんなで始まった聖四文字による創世期。▼果たして、この世界線の聖書はどのような内容になってしまうのか?▼なお、当人の聖書関連知識はクソ雑魚とする。▼※挿絵あり…


総合評価:13939/評価:8.57/連載:33話/更新日時:2026年03月17日(火) 06:38 小説情報

テスカになって冥界で魂を導く話(作者:ナイ神父)(原作:Fate/)

▼此処はミクトランパ、なんの因果か死後に冥府の神に成った男は今日も冥府にて死者と語らい魂を導く▼だがここに来る戦士は皆違う世界の存在で…?▼・作者が思いついた死んでほしくかったり諸々様々な作品の人を冥界でテスカトリポカ成り代わり主が導く話です▼・その都合上多重クロスオーバータグを付けていますが各々のシリーズではテスカトリポカ以外は他作品と繋がることはありませ…


総合評価:5508/評価:8.63/連載:7話/更新日時:2026年05月23日(土) 23:10 小説情報

パ リ ピ 時 臣(作者:融合好き)(原作:Fate/)

信じて送り出した夫がキラキラなギャルにどハマりして夜な夜な怪しげな場所で遊び呆けているなんて…


総合評価:5486/評価:8.52/完結:8話/更新日時:2026年06月03日(水) 06:28 小説情報

アーサー王(史実)がしたこと(作者:妄想壁の崩壊)(原作:Fate/)

▼アイデアが浮かんだので供給します。▼型月アーサー王伝説とブリタニア列王史、史実歴史なんかを足して割ったような世界線です。プーサーではありません。▼さて質問。我々の生きる世界に神秘は全く存在しない。それはなぜか?▼※本編は完結しました。▼


総合評価:13523/評価:8.87/連載:63話/更新日時:2026年06月11日(木) 21:16 小説情報

糸使いは大抵強キャラ(作者:色埴うえお)(原作:呪術廻戦)

原作を知らない男が呪術廻戦の世界に転生。▼左半身の不随という天与呪縛を授かった代わりに得た力を、自分や家族、一族の為に使って過ごしていたらある日突然村が焼かれる羽目に。▼その時出会った五条悟に誘われるまま男は呪術高専へ。▼よくあるオリ主加入もの。転生は有ってないようなもの。▼乙骨と同期で呪術廻戦0の時期にスタート。▼主人公は糸使いなので強キャラです。


総合評価:10726/評価:8.39/連載:15話/更新日時:2026年02月16日(月) 17:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>