魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第1話 【闇医者】リューエン:プロローグ

  ■

 

 豪奢な装飾の調度品に溢れた華々しい一室で、一人の少女が寝かされている。

 少女に意識はなく呼吸は荒い。

 顔色は青褪めており、非常に具合が悪そうだ。

 その少女の眠る寝台の横には、二人の姿。

 

 一人はこの僕――アドルムだ。

 黒髪で、昔からあまりぱっとしない顔だと言われてきた。

 まぁブサイクだと言われたことはないから、悪くない容姿だと信じたい。

 

 歳は今年で二十だが――実は容姿も年齢も、今は意味がない。

 なぜなら今の僕は、そういうのがわからない格好をしているからだ。

 

「それで、娘はどうかな? リューエン殿。治せそうか?」

 

 声をかけてきたのは隣にいる男性、スタウラー子爵だ。

 この部屋の内装に比べれば幾分落ち着いた服装だが、それでも充分に貴族らしい身なりの男である。

 彼は少女の父で、僕の仕事の――今回の依頼主でもあった。

 

 そしてリューエンと呼ばれた通り、今の僕は【闇医者のリューエン】として活動している。

 顔には仮面を着け、黒のロングコートを纏っていて、僕本来の姿はほとんどわからないような……正直、不審者っぽい服装だった。

 

 これは好きでやっているわけじゃない。

 僕の素性を隠すために、必要だからやっているのだ。

 

「そうですね、子爵のお話を聞く限りでは何とも言えませんでしたが……これならば、私でも治せそうです」

 

「ほ、本当かね!? 嘘ではないんだな!?」

 

「ええ、もちろん。私には嘘をつく理由などないのでね」

 

「それは、いや……そうか。今までの三流どもと違い、貴殿は【最後の癒し手】だからな。嘘をつく必要など本当にないのか」

 

 辛辣なその言葉に、僕の眉根が寄ってしまう。

 もちろん、仮面があるため子爵からは見えないけど。

 

「これまでの治療師たちとて、嘘をついていたわけではないと思いますが? 力不足だったか、適性が違っていただけでしょう」

 

「……娘を治せなかったのだ。私にとっては嘘つきの詐欺師どもに相違ない」

 

 そう言って拳を握りしめる子爵を見て、僕は少々同情した。

 今までの治療師たちに、そして子爵にも。

 

 この世界には、〈ギフト〉と呼ばれる超常の能力が存在する。

 ギフトはごく少数の人が生まれつき持っているもので、能力の種類も一つではなく様々だ。

 

 たとえば、自由自在に火を操る能力。

 あるいは、人を癒やす能力。

 明日の天気が確実にわかる能力――なんてものまで存在する……らしい。

 

 効力に差はあるがいずれも奇跡のようなものなので、ギフトは神からの贈り物であるとされている。

 

 そして一部のギフトは魔法と呼ばれていて、魔法の代表格は人を癒やす〈聖魔法〉だ。

 この〈聖魔法〉にかかれば、怪我でも病気でもたちどころに癒やしてしまうというのが世間の評価である。

 

 このスタウラー子爵は難病に倒れた娘を救うため、様々な医者や〈ギフト持ち〉を頼ったそうだ。

 その中には〈聖魔法使い〉も何人かいたらしい。

 だが結局、ただの一人も娘を救うことはできなかった。

 

 そうして最後に縋ったのが、この僕ことリューエン――【最後の癒し手】とも呼ばれる闇医者というわけだ。

 

「貴方の心境はともかく、私の仕事を始めても?」

 

「あ、ああ……そうだな。すぐやってくれ。その……なるべく優しくな」

 

「痛くはないはずですよ。少なくとも、今まではそうでしたので」

 

 そう言って僕は、少女の手を取った。

 それからほんの少し集中することで、能力を発動する。

 

 僕もギフト持ちの一人だ。

 だが僕の能力は〈聖魔法〉ではない。

 それどころか、人を癒やすタイプの能力ですらなかった。

 

 僕にできるのは――彼女の身体を変えることだけだ。

 

 ところで、僕は真っ当な医者ではない。医学知識もない。

 故に闇医者だ。

 結果を出しているからヤブではないが、下地だけなら間違いなくヤブである。

 

 医者でないが故に、この少女の病についてはまるで知らない。

 だが推測できることならば、ある。

 この少女の病が、どういう種類のものなのか。

 

 僕の調査と考察によれば、この世界の〈聖魔法〉の正確な効果は「対象の身体を正常な状態にする」というものだ。

 だから〈聖魔法〉が効く病と、効かない病がある。

 

 たとえば体内の臓器に穴が空いたり、腫瘍ができたり、血管が塞がったりといったものなら、〈聖魔法〉で治すことが可能だ。

 

 だが風邪などの感染症のように、体内に入った細菌やウイルスが原因である場合は治せない。

 一時的に症状を消すことはできるが、原因がそのままなので体調はまたすぐに悪化していく。

 

 何故かといえば、〈聖魔法〉で可能なのは「身体の状態を正常にする」ことだけで、身体の定義に含まれない「体内の細菌やウイルス」を消すことではないからだ。

 病といってもいろいろある、ということだね。

 

 というわけで、少女の病は感染症のような「身体の状態のみを元に戻しても効果が低い病」であるのは、ほぼ間違いない。

 

 そしてここからが本題だが――では僕の能力なら、ギフトならどうなのか。

 あの高名な〈聖魔法〉でも治せない疾病を治せるのか?

 

 答えは「治せる」だ。

 といっても僕にとっては、治療と言い難いものだけど。

 

「処置が終わりました」

 

 能力を行使した後、少女の様子が落ち着いていく。

 あれほど苦しそうに……呻くように呼吸していたというのに、今では安らかに寝息をたてていた。

 

「こ、これは……治った、のかね?」

 

「ええ。もう大丈夫なはずですよ」

 

 僕の治療は、普通の治療ではない。

 むしろ改造というほうが適している。

 

 何をしたのかといえば、治すのではなく病気への抵抗力を向上させたのだ。

 つまり彼女は「並外れて病気に強い身体」となったのである。

 具体的な処置としては、自己治癒能力の強化とか病原体の排除機構を……まぁ要するに、細菌やウイルスへの対抗能力を上げたということだ。

 

 そのうえで体内の不調箇所も治しておいた。

 見た目の体調がそのままでは、治ったように見えないからね。

 彼女を無駄に苦しめておくつもりもないし、ついでみたいだがこれも重要な処置だ。

 

 ちなみにあっさりした施術に思えるが、これは今だからこそといえる。

 ここまで出来るようになるには苦労したし、時間もかかった。

 あっさりしているのは、僕の成長があればこそなのだ。

 

「い、いや待て! ここまでなら……これだけなら今までのヤブ連中でも出来ていた! 今は良さそうに見える! だがここからまた悪くなるのだ! いつもそうだった! まだ完治しているとは限らん以上、安心できん!」

 

 子爵は疑うようなことを言い始める。

 おそらく今までの治療では、すぐに再発してきたんだろう。

 体内の細菌やウイルスがそっくり残っていたのだろうから、そりゃそうなるよねって感じだ。道理である。

 

 しかし……彼にとっては言って当然の妥当な主張なのかもしれないが、僕としては困るな。

 

 ここから具合が悪くなるとすれば――実際には僕の能力で解決しているから、もちろん悪化などしないが――最低でも数時間、場合によっては明日や明後日の話になるだろう。

 そんなに待ってはいられない。

 

「ではどうするのです? 再度悪化するとしても時間が掛かるでしょう。まさか私に数日滞在しろなどとは――」

 

「そんな事は言わん! そうだな……今までの事例から考えれば、ダメなら数時間後には戻っているはずだ。それくらいならば待てるだろう?」

 

 数時間で再発するのか。

 僕は病気には詳しくないけど、そんなものなのかな?

 とはいえ、もう悪化なんてしないから……もはやどうでもいいことだけどね。

 

 まぁいい、数時間ならば待ってもいいだろう。

 

「承知しました。少しばかり待つことといたしましょう」

 

「うむ、結構」

 

「ではお茶でも頂けますか? まさかこのまま突っ立って待つなどとは――」

 

「そんなことは言わんし、欲しいものは極力用意してやる。自由にしていろ。ただしこの部屋からは出るなよ」

 

「無論、そのくらい心得ておりますよ」

 

 そんなわけで、僕はおっさんと二人で数時間ほどお茶することになった。

 

 僕にとっては無駄な時間だが、依頼者が治ったと認識するまでが僕の治療だ。

 このくらいの無駄は、必要経費としておくよ。




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