魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第10話 〈転移札〉:ギフト持ちの技量不足

 ■

 

 ジェスタス魔導具店の娘、フェリシア。

 婚約者であった貴族家の子息がギフトで暴れた際に重度の火傷を負い、両目を失明。

 なかなかに悲惨な身の上なので、僕としても彼女を助けることに否やはない。

 

 彼女の状況なら〈生体改造〉で生じる変化も大きく、そしてわかりやすいものになるだろう。「能力で世の中に関わり、変化をもたらし、その先を見たい」という僕の目的にも適した客だといえる。

 

 それに加害者のギフト持ちには同じギフト持ちとして、「ギフト持ちの評判を落としやがって」という意味での怒りもあるしね。

 もっとも、ほんの少しだけど。

 

 僕は「ギフトの使い方は人それぞれ」でいいと思っている。

 だからギフトを悪用する者がいても、それはそれで別にいい。

 こっちに迷惑をかけるようなことさえしなければ、自由にすればいいと思う。

 

 僕の故郷のような田舎なら、信心深い者たちが「神から贈り物を授かったのだから世のため人のために使え」とか言うかもしれないけど、そんなのはギフト持ちを都合よく使うための口実でしかない戯言だ。

 

 現実としてギフトを悪用するものはそれなりにいる。

 闇ギルドにいるやつもいるし、犯罪者だっているのだ。

 ギフト持ちとて精神は常人であり、千差万別なのである。

 

 もっとも、全体で見れば「世のため人のために使う善人」のほうが多い気はするけどね。

 だからこそちらほら悪評が立ってもギフト持ちの印象はプラスのままで、縁起の良い者とされ続けているのだと思うし。

 

 使い方は人それぞれ勝手でいい。

 自分の能力なのだから、好きに使えばいい――ただし僕に迷惑をかけるなよ、と僕はそう思う。

 

 ■

 

「落ち着かれましたか?」

 

「え、ええ……すみません。恥ずかしいところをお見せしました」

 

「そんな事はありませんよ。当然の反応ですから」

 

 フェリシアの寝室に侵入した僕は、当たり前のように大騒ぎされた。

 悲鳴を上げられ、大声で人を呼ばれ……散々だ。

 いきなり現れた不審者への対応としては、ごく自然なことだけどね。

 

 それからやや時間はかかったが――僕の懇切丁寧な説得の甲斐あって、不審者ではなく彼女の問題を解決しに来た商売人だということは理解してもらえた。

 

 僕にとってこういう対応をされることは、初めてではない。

 だから慌てず接する事ができた。

 最近やっていた「押し売りの練習」では、毎度の如くこうなっていたしね。

 やはり事前の練習はやっておいてよかった、としみじみ思う。

 

「あの、家人は来ていませんか? 大声を出したので、誰か来るはずなのですけど」

 

「いえ、誰も。それは僕が対処しましたので。これからの商談に他者は不要ですからね。介入されないような措置をとっています」

 

「えっ、対処……? そ、そうなのですか……」

 

 返答しながら、僕は先程自分で壁につけた物品に目を向ける。

 それは〈無響室〉という疑似魔具で、「壁や床につければその部屋の外に音を通さないようにする」効果を持つ。

 これのせいで彼女がどんなに叫んでも無意味だったわけだ。

 

 随分と限定的な効果に思えるが、それは僕が調整してそのように作ったからである。〈生体改造〉で付与できる能力は、僕が見たことのあるものだけではない。

 僕の望む形で、少し調整して作り出すこともできる。

 それもまた〈生体改造〉の強みなのだ。

 

 ちなみに元となった疑似ギフトは〈消音〉というもので、「自身や触れたものに音を通さなくする」効果だった。

 

 いわゆる音声耐性といえる能力であり、試したセルネ曰く『大声・不快音・騒音などによる攻撃の対策としてそこそこ便利』らしい。

 そこだけ聞くと魔物より人類に効きそうな能力だ。

 主に集合住宅における隣人問題で活躍しそう。

 

「では、そろそろ商談に移らせて頂きたいのですが――」

 

「商談――あの! 先程のお話は本当なのでしょうか? 私の、私の傷を治せるというのは!」

 

「ええ、もちろん。嘘ではありません」

 

 本当でもないけどね。

 傷を治すだけなら【闇医者のリューエン】時代と同じになってしまう。

 それでは「魔導よろず屋〈千変万化〉」の門出として相応しくない。

 

 だから彼女には、それ以上の商品――サービスを用意しているのだ。

 

 僕の答えを聞いた彼女は、それでも表情が変わらなかった。

 疑いの感情が滲み出ている。

 

「信用できませんか?」

 

「それは……はい。正直に言えば、疑わしいです。私の火傷と両目は、どんなギフト持ちでも治せなかったので。それが貴方には治せると?」

 

「治せます。断言しましょう。僕に言わせれば、そのギフト持ちの腕が悪かっただけです。施術者の腕さえ良ければ、とうに完治できていたはずですよ」

 

「か、完治……!? それは火傷痕を残さず、失明も治すという意味ですか!?」

 

「もちろんです。技量次第ですが、完全に元通りという結果もあり得たでしょうね」

 

「まさか、そんな……腕の違いとはそれほどなのですか?」

 

「ええ、それほどなのです。ギフト持ちに仕事を依頼する際には、その点が最重要と言っても過言ではありません」

 

 ギフトを持たない人々は、技量の違いを意識する機会が少ない。

 そのため「同じ能力なら誰が使っても、いつでも同じ結果を得られるものだ」と勘違いされがちだ。

 だが実際には、持ち主の技量次第で効果が変わる。

 

 なぜこんな勘違いが生じるのかといえば、それは魔具のせいだろう。

 魔具の場合はこの勘違いの通りで「誰が使っても、いつ使っても同じ」なのだ。

 つまり単純な話で……混同されているんだよね。

 

 僕は改めてフェリシアの傷を見る。

 

「治療は〈聖魔法〉だけではありませんよね? 〈再生〉なども試されたのでは?」

 

「ええ、その通りです。他にもいくつか……しかしどれもダメでした」

 

「なるほど。それならばやはり、典型的な『ギフト持ちの技量不足』ですね」

 

 腕のいいギフト持ちなら、〈聖魔法〉でも〈再生〉でも完治できたはずだ。

 

「ギフトは超常の力――まさに奇跡の能力ですが、その性能は持ち主に左右されます。そして残念なことに、この世の中では持ち主のせいで効果が下がるケースのほうが圧倒的に多いのです」

 

「そんなことが……」

 

 フェリシアの口から掠れたような声が出た。

 知らなかったばかりに今までの治療を無駄にしていた、と感じたのだろう。

 

 ギフト持ちの技量不足とは、能力への理解不足を意味する。

 世の中の大半のギフト持ちは自分の能力についてよく知らないし、誤認している場合もある。

 結果として、自覚なく自分の能力を過小評価している者が多い。

 

 これを単なるアホと片付けるのは早計だ。

 なぜなら、そうなりやすい流れが存在するからである。

 

 すべてのギフト持ちは生まれつき、自分のギフトで何ができるか漠然と分かるようになっている。

 たとえば僕の〈生体改造〉なら「肉体を変える」、〈聖魔法〉なら「癒やす」といった程度の認識だ。

 能力の取扱説明書というにはあまりに短く漠然としていて、何より曖昧。

 

 だからこそ僕は〈生体改造〉の、そして出会ったあらゆるギフトの調査や検証、考察をして、認識の補強をしてきたわけだ。

 その結果能力を強く、便利に運用できている。

 

 だがもしその曖昧で漠然とした認識を絶対的な指針と思ってしまえば、能力弱体化へ一直線だ。

 能力誤認と過小評価、その末に本来できるはずのことができなくなってしまう。

 そういう流れになってしまうだろう。

 

 たとえば僕の調査によれば、〈聖魔法〉の正確な効果は「対象を正常な状態にする」だが、これは「癒やす」とはだいぶ意味が異なる。

 そういう解釈もできる程度の、曖昧な説明でしかない。

 

 だから技量不足の〈聖魔法〉では、火傷と失明を治せないのだ。

 重度の火傷は自然な治癒や通常の再生では元に戻らない。

 失明も同様で、喪失した機能を取り戻す必要がある。

 いずれも漠然と「癒やす」だけでは絶対に解決しない。

 

 治すためには、正確な効果である「正常な状態にする」に近い効果を発揮しなければならない。

 癒やすのではなく「戻す」必要があるのだ。

 

 これは〈聖魔法〉だけでなく、〈再生〉などの他の治療系ギフトにもほぼ同じことが言える。

 

 能力とは何ができるか正しく認識し、やることを正確に定義しなければ性能を引き出せないものなのだ。

 

 真に腕の良いギフト持ちは、当然この点をクリアしている。

 自分の能力を正しく認識し、正しく理解し、都合よく定義できる――それこそが腕の良いギフト持ちなのである。

 

 とはいえもちろん、能力にも限界はある。

 たとえば不老不死とか死者蘇生とか、そういうあまりに限度を超えた効果はどう工夫しても実現できない。

 

 僕は能力に関するそれらの話をかいつまんで、フェリシアに説明した。

 細々とした事情を説明しても意味がないから、それっぽくまとめた話だ。

 

 簡略化した話だが、それで充分だろうと思う。

 彼女は僕のように能力の調査や考察をしているわけではなく、研究者でもないのだからね。

 

「さて、それでは……この場でお話するというのも風情がないでしょうから、僕の店までご案内いたします」

 

「移動ですか? その……私はご覧の通り目が見えず、ほとんど動けないので……ご迷惑をおかけしてしまいますが?」

 

「ご心配なく。歩く必要はほとんどありませんから。その代わり、失礼ながら少し肩に触れます。ご容赦ください」

 

「肩? え、ええ……そのくらいなら、どうぞ」

 

 許可を得られた僕は、懐から〈転移札〉という小さな木の板のような魔具を取り出した。疑似魔具ではなく正真正銘、本物の魔具である。

 

 能力の効果対象を僕自身とフェリシアに指定。

 それから魔具を起動する。

 すると周囲の空間が入れ代わるように揺れ動き、彼女の寝室から――商品の並んだ商店の店内へと変化した。

 

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