魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第11話 〈偽心眼の柱〉:傷さえ治せれば良い?

 僕の持っている〈転移札〉は転移能力を持つ魔具である。

 その効果は「『所有者』および『所有者が対象と認識したうえで触れているもの』を、所有者の思い描いた座標へと転移させる」というもの。

 

 要するに自分と他の人や物を、思い通りの場所に転移させるという転移能力だ。

 

 それにより僕たちはフェリシアの寝室から、「魔導よろず屋〈千変万化〉」の店内へと移動してきたのである。

 

 このような転移系能力は便利だが、使いやすい能力となると僕の〈生体改造〉で作った「能力の起点という制限付きの特異部位系能力」よりも、魔具による「無制限の魔法系能力」のほうが良い。

 

 こういう〈生体改造〉では都合の悪い能力を使うためにも、魔具はなるべくたくさん欲しいんだよね。

 集めてくれているセルネには感謝だ。

 

「あの。これに何の意味が?」

 

「おっと失礼。配慮が足りませんでしたね。では、こちらをお貸ししましょう。どうぞ」

 

 まるで別の場所に移動したわけだが、目の見えないフェリシアには居場所の変化など当然わからない。

 すぐに気づけなかったのは僕の落ち度だ。

 

 彼女の目が見えないままというのは、僕にとっても都合が悪い。

 せっかく店まで移動してきたのに、店の雰囲気がわからないのであれば僕の商売内容も想像しにくいだろう。

 

 というわけで、とある魔具を貸し出すことにする。

 

 僕は〈転移札〉をしまい、代わりに〈偽心眼の柱〉という魔具を取り出した。

 見た目は二十センチほどの金属棒だが、これも魔具なので能力を持つ。

 

 フェリシアの手に〈偽心眼の柱〉を持たせてあげた……のだが、何がなんだかわからない様子である。

 

「これは……なんですか? 棒?」

 

「魔具です。使い方はご存知でしょう?」

 

「ええ、これでも魔導具屋の娘ですから。それにしても魔具ですか……こんなにポンと……」

 

 といっても魔具に使い方なんてないに等しいんだけどね。

 触れて、起動を念じるだけだ。

 念じるだけで発動するというのはギフトと共通するルールである。

 

 ちなみに彼女が困惑しているのは、魔具の価値を理解しているからだろう。

 どんな魔具でもそれなりに高価であり、普通はこのように気軽に渡したり貸したりするものではないからね。

 

「こ、これは!? 目が……! 私の目……あぁ……み、見えるっ……!」

 

 魔具を起動したフェリシアが叫ぶように言った。

 

 僕が渡した〈偽心眼の柱〉は「空中に不可視の眼球を作る」という能力を持つ。

 作り出した眼球は第三の目として機能し、自由に動かせるものだ。

 

 つまり現在失明状態にある彼女にとっては、新しい目が作られたということを意味する。久しぶりに視力を得たなら喜びもするだろう。

 

「あの! この魔具を譲っていただくことは――」

 

「お気持ちはわかります。ですがそちらは当店でも貴重な魔具ですので、お貸しすることしか出来ません。それから、そういったことは商談内容をお聞きになってからのほうがよろしいかと」

 

「そ、そうですね……気が逸ってしまいました」

 

「落ち着かれたようで何より。それでは周囲をご覧いただけますか?」

 

「周囲? あっ、これは……私の寝室ではない、ようですね?」

 

「その通りです。ここは僕の店でして、転移の魔具で移動してきました」

 

「別の魔具ですか。随分いろいろとお持ちなのですね」

 

「ええ、商売柄……そういえば、まだきちんと名乗っていませんでしたね」

 

 僕は襟を正し、ついでに顔の仮面をちょっと整えて、告げる。

 

「この店は『魔導よろず屋〈千変万化〉』。そして僕は店主のバンカと申します」

 

 僕は店主としての名をバンカと決めた。

 店名の〈千変万化〉の万化からとった名である。

 

 店の隅に配置された応接テーブルへとフェリシアを案内し、二人で席に着く。

 

「では改めまして、商談を始めましょうか。先程も申し上げましたが、僕は貴女の負傷を完治させることができます。火傷はもちろん、失明もです。ご提供可能なものとしては、これがまず一つ」

 

「完治……本当に……! 治して頂けるならありがたい……のですが、まずとは?」

 

「むしろそれこそが本題と言えますね。当店は『魔導よろず屋』なのです。ギフトや魔具に近しい商品の販売もしております」

 

「そういえば、この店内にある商品……これは魔導具でしょうか?」

 

 フェリシアが店内を観察するように、首を動かして周囲を見回した。

 現在の彼女の視界は〈偽心眼の柱〉に依存していて、〈偽心眼の柱〉で作った「不可視の第三の目」は自由に動かせる。

 

 つまり首を動かさずとも周囲を見回す事ができるのだが、不慣れな彼女は首も一緒に動いてしまっていた。

 

「そのようなものですが、正確にいえば少々違います。それらは当店オリジナルの商品、疑似魔具と言います。魔導具よりも高性能な人造の魔具と思って頂きたい」

 

 それから疑似ギフトや疑似魔具の簡単な説明をしていく。

 ギフトのようなものとして疑似ギフト、魔具のようなものとして疑似魔具があり、それらを販売できるとだけ言っておいた。

 

 言及したのは、あくまでも疑似ギフトと疑似魔具がどういうものなのかという点にに関してのみ。

 

 それらの作り方や自由に作り出せることなど、そういう余計な情報は口にしない。

 僕の〈生体改造〉についても、同様に触れない。

 いずれも説明する必要がまったくないからだ。

 

 とはいえ「傷を治し、ギフトを付与する」と聞けば「人の身体に作用する能力」を持つギフト持ちなのかもしれないという程度の予想はできるだろう。

 

 それはそれで構わないし、問題もない。

 頭の中でどう考えていようと、僕から直接言及したり明言したりはしないというだけのことだ。

 

「疑似ギフトに疑似魔具……そんなものが?」

 

「はい、当店独自の技術です。他にはないものだと自負しております」

 

 話を聞いたフェリシアは驚いた表情を見せている。

 まぁ驚くだろうね。

 僕の疑似ギフトや疑似魔具は、既存の価値観を破壊するものだから。

 

 そもそも人類が魔具を高値で取引したり魔導具を作ったりするのは、それらが「後天的にギフト持ちとなれる手段」だからだ。

 

 便利な能力が欲しい。強い能力が欲しい。

 凡人にはないような特殊な力が欲しい。

 しかし生得の能力であるギフトは、持って生まれなければ手に入らない。

 

 そこで魔具や魔導具だ。

 魔具を使えば似たようなことができる。

 魔導具の場合は魔具より低性能であるため見劣りするが、やはり同様にギフト持ちの真似事ができるようになる。

 

 便利な力が手に入る。強い能力を持てる。

 凡人ではなくなる。

 故に人は魔具を求め、魔導具を作る。

 そして有益であるとして、その価値を認めるのだ。

 

 それが世間一般に存在する価値観。

 だが僕の疑似ギフトや疑似魔具は、その価値観を崩壊させ得るものだ。

 

 疑似ギフトにしろ疑似魔具にしろ、常人がギフト持ちに迫る手段としては魔具や魔導具以上に適している。

 

 特に疑似ギフトは魔具よりも直接的に能力を得られることから、人為的にギフト持ちを作れる技術と言っていい。

 後天的に超人へと至れるのだから、現行の人類文明にとっては夢のような話なのだ。

 

「話を戻しますが……治療以外で当店からご提供可能なものは、その疑似ギフトや疑似魔具となります。お客様に相応しい能力を選定し、ご提供いたしますよ」

 

「それは、とても良い話に思えますが……その、申し上げにくいのですけれど、私はそういったものは特に必要としておりません」

 

 話を持ちかけたが、フェリシアは不要だと言う。

 まぁ正直、予想できていた返答ではある。

 

「傷さえ治せれば良いと?」

 

「ええ。私はこの目と顔の傷さえ完全に治せれば、他に望むものはありません」

 

 だろうね。そう言うと思ったよ。

 フェリシアにとって最重要なのは負傷の治療であり、他はすべて二の次。

 彼女を調査し、彼女の様子を見ていれば、そのように予想するのは難しくなかった。

 

 故に僕の話も、ここで終わるものではない。

 

「本当にそうでしょうか?」

 

「え?」

 

「フェリシア様は見返したいとは思われないのですか?」

 

「……見返す?」

 

「ええ」

 

 僕は話を続けずに一拍置いて、フェリシアの様子をちらりと窺う。

 彼女は興味深げに続きを待っている。

 

「失礼ながら、僕は把握しております。顔の負傷後、貴女の周囲はすっかり変わってしまいましたね?」

 

「そ、それは……」

 

 フェリシアの表情がこわばる。

 

「まるで貴女には容姿しか取り柄がなかったかの如く……貴女に接することを厭うようになった」

 

「え、ええ……はい、その通りです……」

 

 彼女の表情は硬い。ここ半年ほどの生活を思い返しているのだろう。

 僕もよく知っている。調べたからね。

 実に酷い状況だった。

 

 事件後の彼女の周囲は――兄たちや使用人だけでなく、店の従業員たちの態度までもが豹変していた。

 まるで「壊れた人形に興味はない」とでも言うかのように、徹底してフェリシアを避け、無視し、その存在を消していたのだ。

 

 冷酷なまでに薄情だった。

 あまりに卑しい品性で、僕も驚いてしまったよ。

 

 両親はまだマシだったけど、あれも怪しい。

 親だからまだまともな態度というだけだろう。

 そもそも縁談は両親のせいだし、既に他責で夫婦喧嘩していて精神的に逃げ始めているしね。

 

 潰れるのは時間の問題だと思う。

 もし傷が治らなければ、いずれ両親も他の人たちと同様にフェリシアを疎んじるようになるのだろう。

 充分に予想できる未来だ。

 なんなら表面化していないだけで、もう既にそうなっているのかもしれない。

 

「このままで良いのですか? 悔しくはないのですか? 傷を治すだけでは元に戻るだけです。傷が治り、容姿が戻り、そして周囲の評価も昔に戻る……戻るだけです」

 

「戻るだけでは……いけないのですか?」

 

「おすすめはしません。変わらないからです。貴女の価値は可愛らしい容姿こそがすべてだという状態に戻るだけ。何一つ変わらない。得られるものを選べるのに、増やせるというのに『容姿以外を選ばない』のであれば……それでは『容姿以外の価値がなかったのだ』と認めることになるだけではないですか。貴女はそれで良いのですか?」

 

 僕は問う。

 ゴミになった人形が修理されても、見る者が満足するだけだ。

 

『ああ、良かった。昔のように美しい姿で戻ってきてくれたんだね。綺麗な君ならまた可愛がってあげるよ』

 

 そんなことを言われるだけ。それで終わりだ。

 人形の価値は昔と変わらない。ゴミになる前へと戻るだけ。

 それで良いのか、と問いかける。

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