魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第12話 〈麻痺眼〉〈石化眼〉:皮肉な巡り合わせ

 彼女の返答は、否だった。

 

「いいえ! そんなわけがありません! 私だって悔しいのです! 私は……私の価値は顔だけだなんて! それで良いわけがない!」

 

「であれば、僕がお手伝いしましょう。当店の疑似ギフトは、貴女に確かな価値をもたらしますよ」

 

 僕は微笑んで答えた。

 やってることが悪魔のそれだが、まぁいい。

 そういうのも趣深いと思っておこう。

 

 それはともかく、フェリシアや彼女の周囲は、彼女の価値を容姿だけだと思っているようだが――僕としては違う意見である。

 

 彼女は聡明だからだ。

 年齢の割に、あるいは甘やかされて育った令嬢の割には、とても聡明だといえる。

 これまでの会話の印象からもそう思うし、調査した結果からもそう思う。

 

 そして聡明だと思うからこそ、僕は商談相手として彼女を選んだのだ。

 疑似ギフトや疑似魔具は、馬鹿に渡せるような軽いものじゃない。

 故に商談相手には少なくとも迂闊なことをしない程度の賢さは欲しいし、彼女はその条件を充分に満たしていた。

 

「疑似ギフト……それがあれば、私にも……?」

 

「ええ。なにしろ疑似ギフトは、疑似的にギフト持ちとなれる手段ですからね。ギフト持ちがどれほど評価されるかは、貴女もご存知のはず」

 

「そうですね……よくわかります」

 

 フェリシアの負傷は、その評価が遠因だからね。

 あの愚かなギフト持ちがギフト持ちでさえなければ、彼女の悲劇はなかったはずだ。

 

 フェリシアはギフト持ちによって人生を破壊されたとも言えるわけで、よく理解しているだろう。

 

「先程の発言は撤回します。私に、疑似ギフトをください」

 

「承知いたしました、ご契約ありがとうございます。ご安心ください。きっとご満足頂けますよ。ではさっそく施術に移りましょうか」

 

 僕は席から立ち上がり、フェリシアの傍に立つ。

 

「この場でできるものなのですか?」

 

「ええ、特に準備は必要ありません。〈聖魔法〉などによる治療と似たようなものですよ。楽にしていてください。お渡しする疑似ギフトの内容はこちらで選定いたしますが、それでよろしいでしょうか?」

 

「そういえば、相応しい能力を選定すると仰っていましたね。そうしてください。知識に乏しい私には、選ぶことなど出来ませんから」

 

「畏まりました」

 

 一応の礼儀として訊いたまでだが、予想通りの返答をしてくれてよかった。

 自分で選んでもらっても構わないけど……おそらく上手くいかないだろうからね。

 

 僕の能力で付与できる疑似ギフトは、「僕が実在すると知っている能力」か「実在する能力を少し改変した能力」のみだ。

 実在しない能力はもちろん、僕の知らない能力を指定されても実在を確信できないから付与できない。

 

 それに魔法系能力は付与できないっていう制限もある。

 これも同様に、指定されても付与できない。

 

 僕の〈生体改造〉は汎用性が高くて万能に近いほどの能力だけど、それはあくまでも詳しく知っている僕が使うからだ。

 何も知らない人に任せても良い結果にならないのは、当然なのである。

 

 さて、そんなことより施術だね。

 まずは施術前に〈偽心眼の柱〉を返してもらっておく。

 失明が治るのだから、彼女にはもう必要のないものだ。

 

「最後の確認ですが、施術内容は火傷の治療、失明の回復、そして疑似ギフトの付与となります。よろしいですね?」

 

「はい」

 

「では始めます。すぐに終わりますよ」

 

 言うと、僕はフェリシアを対象として〈生体改造〉を発動する。

 

 ほんの数秒後、施術は完了。

 彼女の顔からはすべての傷が消え去り、在りし日の姿を取り戻していた。

 

「終了です。確認してみてください」

 

「あ……ああ、目が! ちゃんと見える! 昔のように!」

 

 フェリシアが周囲を見回すと、その両目から涙が溢れ出た。

 その様子を見ながら、僕はテーブルの上に鏡を置いた。

 

「うぅ……ありがとう。ありがとうございます……!」

 

「それはよかった。鏡をご用意致しました。傷の確認はこちらでどうぞ」

 

「あっ、そ、そうですね! はいっ! 見てみます!」

 

 フェリシアは鏡に映った火傷のない顔を確認した。

 すると彼女はより一層激しく泣き始める。

 僕も野暮ではない。

 落ち着くまで待つ程度の思いやりはある。

 

「す、すみません……取り乱してしまい……」

 

「構いませんよ。やっとお顔を取り戻したのですから、喜びもひとしおでしょう。僕のことはお気になさらず」

 

「ありがとうございます。本当に嬉しくて……でも、もう大丈夫です」

 

「そうですか? そういうことなら、疑似ギフトの確認をしていきましょうか」

 

「疑似ギフト……ああ、そうでした。それが残っていましたね」

 

 彼女の第一目標は負傷の治療だから傷が治って満足したのだろうけど、僕の第一目標は疑似ギフト。

 僕にとってはこの確認こそが、真の確認だ。

 

「そういえば、あの……なんというか……ぼんやりと、頭に?」

 

「能力の知識が浮かぶ、でしょうか?」

 

「え、ええ。そうです。能力名と『それで何ができるのか』が浮かびます」

 

 すべてのギフト持ちは、自分の能力名と「能力で何ができるか」が――曖昧かつ漠然とした最低限のものではあるが――わかるようになっている。

 

 これは先天的なギフトだけでなく、後天的に得た疑似ギフトにも適用される仕様だ。

 

 後付けの能力にも適用されるというのだから不思議なものだ。

 しかも疑似ギフトはギフトを真似たとはいえ、僕が創り出したもの。

 この世界に存在しなかったはずのものであり、普通に考えたら仕様の範囲外にしか思えないが……それでも適用されている。

 

 不思議というより……正直、バグってんじゃないか? と思う。

 いくら似たものでも別物なんだから、適用されるのはおかしい。

 実際、ギフトと似たような能力を持つ魔具や疑似魔具に、この仕様はないわけだし。

 

 いや、そんなことどうでもいいな。

 今はフェリシアに付与した能力のほうが重要だ。

 

 彼女は自分の能力が何なのかわかるが――はっきりわかるのは能力名だけであり、「何ができるか」については曖昧で漠然としている。

 そのため作って付与した当人たる僕から、きちんと説明する必要があるだろう。

 

「フェリシア様には、二つの疑似ギフトを付与致しました。それは把握できていらっしゃいますね?」

 

「はい。わかります。たしかに二つ持っています」

 

「結構です。では、その能力についてご説明いたします」

 

 僕は彼女に二つの疑似ギフトを付与した。

 当初は一つの予定だったが、話しているうちにもう一つ加えることにしたのだ。

 

 僕が疑似魔具に付与できる能力数は、疑似魔具一つにつき能力三つまで。

 同様に人へ付与できる疑似ギフトの数も無限ではなく、付与できる能力は一人につきだいたい六つ程度だ。

 

 彼女に付与した数は二つ。

 上限までまだまだ余裕がある。

 一つ増やすくらいはまったく問題ない。

 

「能力の一つは〈鑑定眼〉。見たものの用途と価値を知ることができる魔眼です」

 

 魔眼は「特定の部位を起点とする能力」である特異部位の代表格だ。

 ほとんどの魔眼はその目で見たものを対象とし、その対象に何らかの干渉をする能力となっている。

 

 世間的に有名なのは、魔眼の中でも比較的数の多い〈麻痺眼〉だ。

 伝説に登場する英雄の持っていた〈石化眼〉も、かなり知名度が高いと思う。

 それぞれ「対象を麻痺」、「対象を石化」する能力であり、有用な魔眼である。

 

「貴女に魔眼を選ぶのは失礼かとも考えましたが、利便性を考慮するとこれが良いのです。ご容赦頂きたい」

 

「いいえ、むしろ最適だと思います。視力を失った私が魔眼を得るなんて、良い意味で皮肉な巡り合わせではないですか」

 

 特異部位は「特定の部位に依存する能力」である。

 魔眼ならば目に依存していて、目や視力を封じられると使い物にならなくなる。

 失明の経験がある彼女に与える能力としては失礼な皮肉にも思えてしまうが、これは仕方がなかった。

 

 彼女のような戦闘を考慮する必要のない人物が使う場合、最も使い勝手のいい特異部位は魔眼なのだ。

 見るだけでよく、日常生活で阻害される機会も少ないというのは便利なのである。

 使いやすさを考えると、仕方なかったのだ。

 

 しかし幸いにもフェリシアは「良い意味で皮肉な巡り合わせだ」と喜んでいた。

 まぁたしかに、気持ちは分かる気がする。

 奪われた目が魔眼という上位の存在となって戻ってくるなんて、良い方向に予想外だ。

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