魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~ 作:弐哉
「それにしても〈鑑定眼〉ですか。これは〈鑑定〉のような力を持つということですよね?」
「その通りです。魔眼としての特性――目で見た対象にしか効果がないという点を除けば、〈鑑定〉とまったく同じと思って頂いて構いません」
「それは……すごい話ですね」
〈鑑定〉は、割とよく知られている能力だ。
魔法に属するギフトとして存在するだけでなく、魔具の能力としても存在する。
効果としては「用途と価値を知る」ことができるというもの。
何をどの程度知ることが可能かというのは、ギフトならば例によって技量の差で変わるし、魔具ならその性能によって変わるので一概にはいえない。
注目すべきは効果よりも、その使い道だ。
この〈鑑定〉は、とある場面で重宝されている。
それが何かといえば――魔具の売買。
フェリシアが僕に問う。
「我が家のような魔導具店は魔具を扱う魔具店と似たようなものですが、しかし魔導具店が魔具を扱うことはできません。バンカ様はこの理由をご存知でしょうか?」
「もちろんです。魔具の〈鑑定〉ができないから……ですね?」
「ええ、その通りです。このようなお店をお持ちのバンカ様には愚問でしたね」
フェリシアは疑似魔具の並んだ店内を見回すと、満足そうに頷いた。
魔具とはダンジョンで手に入る超常のアイテムだが、手に入れただけではそれがどんな能力を持つのかわからないものだ。
ギフトのように「能力名や何ができるのかが頭に浮かぶ現象」はないのである。
故に魔具を取り扱い、売り買いする魔具店では「用途と価値を知る」ことができる〈鑑定〉の能力が必須となる。
これがなければ能力がわからないから買い取れないし、適正な値をつけることもできないからだ。
もちろん、売る際に客を納得させることもできない。
逆にいえば、世の魔具店はこの条件を満たしている店ばかりだということだ。
だからこそ商売の形態が似通っていても、魔導具店は魔具店になれないのである。
「〈鑑定〉は魔具を売買するための最低条件。〈鑑定眼〉によってその能力を得たということは……」
「フェリシア様は商業的に魔具を取り扱う資格を得た、ということになりますね」
「随分と軽く仰いますね。凄まじい話をしているというのに」
〈鑑定〉を得ることは容易ではない。
都合よくそういうギフト持ちがいるわけもなければ、都合よくそういう魔具が手に入るわけでもないのだから。
つまり世の中には、魔具店をやりたくてもできない店が山ほどあるのだ。
彼女の家――ジェスタス魔導具店も、その一つ。
「施術前に申し上げたはずです。『確かな価値をもたらす』と。それが偽りではなかったというだけのことですよ」
〈鑑定眼〉は負傷によって態度を変えた者たちを見返すという意味では、充分過ぎるほどの効果があるだろう。
なにしろ彼女がいることで、ジェスタス魔導具店は魔具店もやれる資格を得たのだから。
これは言うまでもなく、周囲の誰にも真似できない価値である。
そして、それだけではない。
彼女が望めば将来的には――独立して、彼女自身が魔具店を開くことも可能だ。
無論、そうなれば実家は魔導具店に逆戻り……いや、戻るだけならまだマシか。
増えた顧客が減るだけでは済まないだろう。
客だって馬鹿ではない、確実に信用問題へと繋がる。
そうなれば当然、経営は上手くいかなくなるはずだ。
戻るだけでなく最悪潰れるかも。
つまり彼女の一存により、ジェスタス魔導具店の将来が決まるといってもいい。
「そうですね……偽りではありませんでした。ありがとうございます」
「これだけでも周囲を見返すには充分でしょう。ですがこれは、あくまでも能力の価値に過ぎません。貴女自身の価値は、貴女の努力次第でまだまだ高まる。それをお忘れなきよう」
「承知しました。肝に銘じておきましょう」
フェリシアは感じ入るように頷いてみせた。
疑似ギフトはただの能力、成功を約束するものではない。
彼女の将来は、彼女次第なのだ。
「では次に、もう一つの能力についてお話ししましょう」
彼女に付与した能力はまだある。
そちらの話がまだ残っていた。
「こちらも魔眼です。といっても、見たものを対象とする典型的な魔眼には該当しませんね。能力は……いえ、そもそもこれの説明は必要でしょうか?」
魔眼のほとんどは見たものを対象とする能力を有するが、そうでない魔眼も存在している。
あくまでもその性質上、視覚に依存することが多いというだけで、すべてがそうではないのだ。
「説明の必要がない……ということは、これは本当に名前通りということですか? まったく同じ能力?」
フェリシアの頭には、自身の有する疑似ギフトの能力名が浮かんでいるはずだ。
そのため名前から予想することができている。
そのうえで、とても不思議がっていた。
「そうです。もう一つの能力は〈偽心眼〉。先程お貸しした〈偽心眼の柱〉に付与されていたのと同じく、『空中に不可視の眼球を作る』という能力です」
同じ能力と言ったが、実際には少し違う。
〈偽心眼の柱〉の能力をベースに少々調整し、疑似ギフト化した能力だからだ。
名前がほぼ同じなのは僕が真似て作った際に、同じ名前をつけただけのこと。
元と違う点は、作成される「眼球」の仕様である。
〈偽心眼の柱〉の場合、眼球は所有者と繋がってこそいるものの、性質的には完全なる新品として作られる。
故に所有者の視力や魔眼は新たな眼球には関係なく、引き継がれない。
ちなみに、分類としては魔法に属する能力だ。
効果の主体は空中に作り出される「新たな眼球」だからね。
一方〈偽心眼〉の仕様は、それと異なる。
こちらは自身の眼を複製して「眼球」を作るようになっているのだ。
故にコピー元となった眼球の特徴を、視力や魔眼まで含めてすべて引き継ぐ。
こちらの分類は特異部位となる。
自身の眼球をコピーするため、効果の主体は「自身の眼球」となるからだ。
結果から見れば同じような能力であっても、効果の主体が異なれば分類も異なる。
いやぁ、ギフトや魔具はややこしいね。
もっとも僕のように能力分類が関わるギフトを持っているとかでもなければ、そもそもどっちだろうと関係ないんだけど。
それはさておき、なぜこのような調整をしたのかというと――フェリシアの状況が変わったからだ。
前者はフェリシアの視力と無関係な眼球であるが故に、失明状態で視力を得る手段となった。
だが視力を取り戻した今の彼女にとって、そのような仕様は不要だ。
そのままでは、わざわざ使う意味があまりない。
そのため旨味が大きくなるように調整したのが後者、というわけである。
「あれをお貸しした際、非常に喜んでいらっしゃいましたので、疑似ギフトとしてお渡しすることにしてみました。魔具そのものをお譲りすることはできかねますが、能力だけなら問題ありませんからね。当店からの記念の品――記念の能力とでもお考えください。もちろん、これに関しては無料のサービスです」
僕の自己満足で付けたような能力であるため、この分の対価は無しで結構。
僕は代金をきっちり頂くタイプの人間だが、だからといって気まぐれなサービスをしないわけではないのだ。
「ご配慮頂きありがとうございます。大変嬉しく思います。思いますけれど……それはつまり、魔具の能力をギフトとして与えることができる……ということですよね?」
フェリシアはやや困惑した様子でそう言った。
彼女にした疑似ギフトや疑似魔具の説明では、ギフトや魔具のようなものとしか言っていない。
能力を作り出せるというような話はしていないのだ。
そんな理解のまま先程手にした魔具と同じ能力がでてくれば、困惑もするだろう。
きっと彼女の頭の中では今、さまざまな憶測が渦巻いているに違いない。
もっとも、彼女がどう考えようと僕には関係ないけどね。
返す言葉は一つだ。
「それはお客様のご想像にお任せ致しますよ」
僕はにこりと笑って言う。
答える気のない僕の反応に、フェリシアは嘆息していた。
その後、施術代金の支払いの話をして、彼女との商談は終わりとなった。
施術代金は五千万ディナだ。
これがどれほどの額かというと、王都商業区に大きくて立派な店舗を建てることができるくらいの金額である。
ちなみに地価抜きの上物だけの価格だ。
言うまでもなく、とんでもない大金である。
少なくとも〈聖魔法〉による治療費などに比べれば、遥かに高いだろう。
もちろん一括で払えなどとは言っていない。
フェリシアもあまりに高額な請求に対し、「一生かかっても到底払えない」と慌てていた。
だが僕は別に、ぼったくっているわけではない。
自分の施術の対価として正当な額を提示しているだけだ。
僕には儲けようという思惑はないからね。
逆に、値引きしてあげようという気もないけど。
闇医者時代と同じように、対価はきっちり頂く。
多くも少なくもなく、きっちり。
それが僕の流儀だ。
そして絶対に払えない金額を提示するつもりもない。
ではどうやって払うのかといえば、もちろん付与した疑似ギフトを使ってだ。
彼女に販売した〈鑑定眼〉は上手く使えば大金を稼げる。
やり方次第では一生かかっても払えないどころか、その倍以上を稼げる可能性だってある。
そのような説明を一通りすると、フェリシアは納得して落ち着いた。
明るい未来を知って希望が生まれた、というところだろうか。
余談だが、彼女は最後まで親に払ってもらおうとはしていなかった。
あくまでも自分で支払うように考えていたのだ。
彼女の年齢なら、親に払ってもらうのが当然と思っても良いだろうに――そうしなかったのは好感が持てるし、将来に期待が持てる。
自立しようという意志が感じられるのは良いことだ。
一人ではろくに歩けないような傷を負った少女は、もういないということなのだから。