魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第16話 【Sランク探索者】シャリオ:魔具の当たりハズレ

「フェリシア、この方の事はお前も知っているだろう。決して失礼のないようにな。それではお客様、以降のお相手はこのフェリシアが致します。どうぞごゆっくり」

 

 父はそう言い残して部屋を辞した。

 入れ代わるように女性探索者がフェリシアの前までやって来て、口を開く。

 

「やぁ、こんにちは。君が噂の新人鑑定士だね?」

 

「いらっしゃいませ。フェリシアと申します。お会いできて光栄ですわ」

 

 フェリシアは頭を下げながら挨拶をすると、その女性の顔をよく見てみる。

 後ろを結んだ長い黒髪に、少々不健康そうな目元。

 その容貌は街中で何度か見たことがあるものの、これほど至近距離かつ正面から見たのは今日が初めてだ。

 

「こちらこそ光栄だよ、噂の新星と話せるなんてねぇ。それにしても若いと聞いていたが、想像以上だ。うちの妹より若いとは思わなかったよ。無礼かもしれないが、お幾つか訊いてもいいかい?」

 

 女性探索者は彼女の特徴とも言うべき白いロングコートを翻して、微笑んだ。

 だが変化に乏しい表情の中で、変化したのは口元だけである。

 結果的に口だけがニタリと妖しく歪んだ形になった。

 

「十四です。若輩ではありますが、能力は本物でございます。ご安心ください」

 

「しっかりしているねぇ……おっと、すまない。まだ名乗っていなかったね。といっても君はたぶん、知っているんだろうけど」

 

 その通りだ。知っている。

 フェリシアだけではない。この〈モードルード〉で長く暮らしていれば、知っていて当然の人物だ。

 

「Sランク探索者のシャリオだ。よろしく」

 

 この町で活動する探索者たちの頂点。

 その一角であるシャリオは、朗らかにそう名乗った。

 

 ■

 

「――鑑定結果は以上です。この結果は鑑定証として文書化することも出来ますが、いかがいたしますか?」

 

「いや、結構だよ。どうせすべて売却するつもりだったからねぇ。手放した物の証明書なんて意味がない。だから不要さ」

 

「えっ……」

 

 フェリシアの鑑定室へとやって来た客、Sランク探索者のシャリオが持ち込んだ未鑑定魔具は三つあった。

 

 鑑定の結果、三つの魔具すべてがかなり価値の高いものであることがわかっている。

 フェリシアが鑑定業を始めてから見た魔具の中でも、最上級の性能を持つと言い切れるほどだ。それほどの価値があった。

 

 そのためフェリシアは、売却など絶対にされないだろうと予測していた。

 これほどの魔具なら手元に残したいはずである。

 そのうえで鑑定証について説明したのだが、予測は大外れ。

 思わず驚いて声を洩らす有様だ。

 

「あ、その……失礼しました。すべて売却されるとは思わなかったもので」

 

「驚くようなことかい? ふふっ、まぁ多少は良い物だったけどねぇ?」

 

「た、多少……? これで多少なのですか?」

 

「うん、このくらいならよくあるものだよ」

 

 魔具には当たり外れがある。

 魔具の能力はギフトのそれより多岐に渡り、非常に数が多いせいだ。

 

 たとえば、ギフトには火を操る〈火魔法〉や水を操る〈水魔法〉などがある。

 そのうち〈火魔法〉の場合は、火を出し、操作し、消すことまで自由自在に行えるが、魔具の能力にそこまで自由にできるものはない。

 

 魔具の場合は「火球を飛ばす」「火柱を作る」「蛇口程度の水を出す」「水たまり程度の水を消す」など限定的な能力ばかりなのだ。

 

 さらに魔具はギフトと違い、効果の調整が出来ない。

 蛇口程度なら絶対に蛇口程度、水たまり程度なら絶対に水たまり程度なのである。

 誰が使っても同じ性能を発揮するものであり、だからこそ魔具には「同じ能力だが強弱が違う」というバリエーションまで存在していた。

 

 そのため高性能な当たりと低性能な外れの差が大きく、シャリオが持ち込んだような当たりの魔具は引く手数多の良品だ。

 だというのに、シャリオはそれを「よくあるもの」と気にしていない。

 その大きな価値観の違いに、フェリシアは気圧された。

 

(流石はSランク探索者……ということなのでしょうか。この性能の魔具が珍しくないとは)

 

 魔具はダンジョンから産出されるものだ。

 そしてダンジョンの奥に行くほど、入手する魔具の性能も上がる。

 それはつまり高位の探索者であるほど、より高性能な魔具を入手できる可能性があるということだ。

 

(それにしても、なぜSランク探索者がわざわざうちに?)

 

 フェリシアは先程から、疑問を覚えていた。

 この町には数軒の魔具屋がある。〈モードルード〉はダンジョンを有するダンジョン都市であるため、魔具屋の数は他の町より多いのだ。

 

 つまり魔具の売り先は他にもあるということ。

 そしてSランク探索者ともなれば、いつも通っている贔屓の店くらいはあるはず。

 わざわざ新たに魔具を扱い始めたばかりの魔導具屋へ持ち込む理由は、まったくといっていいほどにない。

 

(うちの店を見に来ただけでしょうか? それもあり得る話ではあるのですが)

 

 魔具事業に参入したと噂の魔導具店に足を運んでみただけ――というのであれば、俗っぽいが平和的である。

 フェリシアが黙考する中、シャリオが言った。

 

「ところで君の鑑定は噂だと魔眼だって話だけど、あれ本当かい? こうして目の前で見ても、違いが分からなくてねぇ」

 

 これをもって、フェリシアは気づいた。

 

(ああ、なるほど。それが本題なのですね。つまり目的は私、あるいは私のギフトというわけですか)

 

 鑑定しに来たのではなく、店を見に来たのでもない。

 彼女はフェリシアを――噂になっているフェリシアのギフトを見に来たのだ。

 鑑定はそのための口実。

 目の前で鑑定能力を見るための、きっかけに過ぎなかったのだろう。

 

 ジェスタス魔導具店が鑑定業を始めたことで、その根幹となる鑑定能力についてはある程度、巷間に広まっている。

 魔導具店の娘が鑑定能力を持っていること。

 そして治療によって後天的に鑑定能力の魔眼〈鑑定眼〉を得たこともだ。

 

 これらの情報は店側が自発的に広めたというよりは、勝手に広まったといえる。

 人の口に戸は立てられず、噂話はどこからでも漏れるもの。

 たとえばそう、店の従業員などから。

 

(あの噂は世間的には疑いのほうが強かったはずですが……シャリオ様を動かす程の話題性があったということですか)

 

 噂として広まっているとはいえ、それが信じられているかは別問題である。

 後天的にギフトに目覚めたという話は、フェリシア以前には存在していない。

 そのため普通に考えれば――噂はまったくの嘘となる。

 実際に世間では、話題作りのための虚言という見解が大半を占めていた。

 

(しかし面倒なことになりましたね。噂だけならどう広まろうと事実なので困ることはありませんし、むしろ鑑定業を始めるにあたり興味を引きやすくて得だったほどですが……Sランク探索者の方が直接来るとなると、話が変わってきます)

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