能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第21話 〈剣鬼オーガ〉〈転送タグセット〉:他の探索者は大変よね

 ■

 

〈モードルードダンジョン〉の五十階層。

 その階層ボス部屋で、剣士と剣士が激闘を繰り広げていた。

 

「ガアアアアアッ!」

 

 咆哮とともに放たれる幾重もの剣閃。

 剣撃を繰り出したのは、異形の魔物――その名を〈剣鬼オーガ〉という大鬼の剣士であった。

 

 身長三メートルの筋骨隆々な体躯に、額から生える二本角。

 身体には無数の傷が刻まれた鎧。

 そして両手で握るのは、禍々しき黒赤の刃を持つ大剣の魔具〈大鬼剣ノットウェン〉。

 剣鬼オーガの風貌は、どこから見ても屈強な武人のそれである。

 

 剣鬼により繰り出された殺意を纏う剣の雨が、対峙する剣士を襲う。

 剣士はまるで怯まない。

 そればかりか襲い来る刃のすべてを、その手の剣で軽々と打ち払ってしまった。

 

 剣士の名はセルネ。

 そして手にする剣は〈竜爪剣〉である。

 

「まだまだ……温いわね」

 

 セルネがさらりと腕を振るう。

 一束の剣閃が剣鬼オーガを斬り裂いた。

 

「ガッ――グゥッ!」

 

 剣鬼は大剣で防いだものの、威力を殺しきれずに吹き飛ばされる。

 

 セルネの放った刃は一束。一つではなく一束である。

 これは〈竜爪剣〉の能力によるものだ。

 

 セルネの〈竜爪剣〉は「一振りで三つの斬撃を生じる能力」を持つ。

 その元となった能力は「腕を振るうと三つの斬撃を生じる」という疑似ギフト〈竜爪腕〉である。

 

 これによって生じる斬撃は、発生地点をある程度操作することが可能だ。

 故に三つの斬撃を一つに束ね、威力を上げて放つこともできる――が、

 

「グハァ……!」

 

 飛ばされたものの、剣鬼は即座に立ち直った。

 

「あまり効いてないわね。神力耐性があるから当たり前だけれど」

 

 神力耐性というものがある。

 魔物が共通して持つ「神力に対する耐性」だ。

 強い魔物ほど耐性も強力になり、それはボスも例外ではない。

 

 能力とは神力により生じる現象。

 あらゆる能力は神力によって生み出され、能力で作られるもの――たとえば炎や水、そしてセルネの斬撃などは、神力により構成されている。

 

 だが魔物の神力耐性は、この神力による影響を低減させてしまう。

 神力で作られた炎は、通常の炎よりも効きにくい。

 神力で干渉する麻痺や洗脳の効果も、当然効きにくい。

 魔物とは能力によって一方的に狩られる存在ではないのだ。

 

「ゴアアアアアアアッ!」

 

 剣鬼は臆することもなく再び向かってくる。

 驚異的な瞬発力が一瞬にして距離を縮め――セルネへと肉薄。

 剛腕を振るい、先程以上の連撃を生み出した。

 

 セルネはこれにも難なく対処する。

 襲来する膨大な刃を、まるで雨粒を払うかの如く防いでいく。

 

 剣鬼の身体能力は見た目以上である。

 魔物であり階層ボスでもあるため、一般的な人類などとはまさしく比較にならないほどの高みにあるのだ。

 

 だがセルネの身体能力も人外の域にあった。

 彼女は、人類の中では最高峰といえる肉体を持っている。

 

 その評価の核は、彼女の持つ特異部位系疑似ギフトだ。

 特異部位系ギフトには持っているだけで身体能力が強化されるという副次効果があり、これは疑似ギフトにも適用される法則である。

 

 セルネの有する疑似ギフトは、一人に付与できる限界数の六つ。

 つまり六つ分の身体能力強化が常時発生している。

 たったそれだけのことだが、効果は絶大。

 その常時強化だけで、セルネの身体能力は剣鬼オーガにも優る。

 

 なおこの副次効果に神力の消費はない。

 ないからこそ複数付与を躊躇せず行えている。

 

 さらに常時強化だけでなく、セルネの筋肉や骨格は〈生体改造〉で調整された特別製。いわば超人として組み換えられた身体なのだ。

 故にそもそも強化効果を含めなくとも、身体能力が非常に高いのである。

 

 調整された高レベルな身体能力に、副次効果である身体能力強化を六つも重ねていること。

 それらを併せたセルネの身体能力は、身体強化系の疑似ギフトや疑似魔具を発動せずとも――人外たる剣鬼を大幅に上回っていた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 

 先に息が切れたのは、剣鬼。

 切っ先が震え、腕が下がり、足が止まった。

 一方、セルネには消耗が見えない。

 彼我の差は明瞭である。

 

「ふふ、たまには縛り有りの戦闘も悪くないわね。良い運動になったわ」

 

 セルネは今回、意図的に能力を極力使わないつもりで戦闘していた。

 使用していいと定めた能力は――副次効果を含めずに――ただ一種類のみ。

 それはもちろん「三つの斬撃」の能力である。

 これにしたのは、やりたいことがあったからだ。

 

「がぁ……ガアアッ!」

 

 残る力を振り絞ったのか、気合いとともに剣鬼が跳躍する。

 宙に舞う巨体が大剣を大上段に構えていた。

 

「最後の一撃というわけね。もちろんそうするからには――」

 

 剣鬼の愛剣、〈大鬼剣ノットウェン〉の雰囲気が変化したように感じられた。

 あれは魔具であり、能力を有する。

 今、それを発動したのだ。

 

「やっぱり。それを待っていたのよ」

 

 セルネは迎え撃つように構えた。

 

 階層ボスは固定であり、同じダンジョンの同じ階層の階層ボスであれば必ず同じ魔物が出る。

 魔物が装備を有するならば、その装備も同じものを纏って現れる。

 

 そのため剣鬼の大剣は先人によって鑑定され、とうに周知となっていた。

 

 五十階層ボス〈剣鬼オーガ〉の持つ魔具〈大鬼剣ノットウェン〉の能力――それは「自身と所有者の重さを十倍にする」というもの。

 

 この能力を持つが故に剣鬼の放てる最大威力の攻撃技は、大上段からの振り下ろしなのだ。

 さらに今は落下によるエネルギーも加えており、まさに必殺技となっている。

 

 セルネは〈竜爪剣〉を構え、能力を発動。

 そして振り抜いた。

 

 神力によって構成される刃は炎や雷と同じで、エネルギーの塊である。

 やろうと思えば斬撃を飛ばすことも可能。

 セルネの〈竜爪剣〉から一束となった「飛ぶ刃」が生じ、剣鬼を迎撃する。

 

 途端、剣鬼が嗤った。

 まるで「その程度の攻撃では止まらない」と言わんばかりの嗤笑である。

 だが同時に、セルネもまた笑っていた。

 

「それ、さっきとは違うのよね。三ではなく、九の一束」

 

 セルネの両腕の籠手にはそれぞれ〈竜爪腕〉が付与されている。

 したがって〈竜爪剣〉と合わせて、「三つの斬撃を生じる能力」が三つ。

 

 飛来する斬撃を受け止めた大剣に亀裂が生じる。

 剣鬼の顔に怯えが浮かび始め――それが完全に形となる前に、剣鬼の大剣はその奥の胴体ごと両断された。

 

「今回はこれがやりたかったのよね。一振一閃九撃――浪漫があって、なかなか良かったわ」

 

 両断された骸、それと剣の残骸が落下してきて、ドシャリと音を立てる。

 それから骸と剣は共に消失し、残ったのは落下により生じた床の傷だけとなってしまった。

 

 ダンジョンの魔物は死ぬと消える。

 これには魔物が元々持っていた装備も含まれるため、剣も一緒に消えたのだ。

 魔物の装備を奪ってお手軽に強化――などという所業は許されていないのである。

 

「さて、ドロップはどうかしら?」

 

 ダンジョンの魔物は死して消えるとともに、ドロップ品を残すこともある。

 通常はランダムだがボスの場合は確定ドロップだ。

 

 今回のドロップは大鬼の素材である二本の角と、おそらくは大剣との関連であろう金属素材。

 そして魔具が一つあった。

 

 ボスドロップで確定しているのは、ドロップが発生することそれ自体だ。

 その内容は含まれない。

 魔具が落ちるかどうかなどのドロップ内容は、ボスであろうと通常通りに確率で決まる。

 

 そのためセルネは魔具が落ちて幸運なはずだが――渋い表情をしていた。

 

「微妙な気持ちね。世間的には大当たりなのだけれど……」

 

 セルネは小さな袋のような魔具を、指で摘んで持ち上げた。

 この魔具は〈大鬼の小袋〉という名称である。

 

 大剣が鑑定され有名であるようにドロップ品もまた有名である。

 鑑定するまでもなく、この小袋の能力はセルネも知っていた。

 収納系の能力で〈空間拡張〉といい、「内部空間を拡張する」というものだ。

 

 これは世間的には当たりの魔具である。

 ダンジョン内という補給の限られた空間で活動する探索者はもちろん、物資に関わる商人や運び屋などにとっても重宝するものだ。

 

 だがセルネにとっては大ハズレだった。

 能力に「内部」とつくことからもおおよそわかるように、これは特異部位系の能力なのだ。〈生体改造〉で模倣し、量産できてしまう魔具なのである。

 

 それでもアドルムの知らない能力であれば、〈生体改造〉の能力レパートリーが増えるため意味があったのだが――残念ながらこの小袋の〈空間拡張〉は有名な能力であり、糧にはならない。

 

 つまり、セルネにとってこの小袋の価値は無いに等しいのである。

 

「真似できる能力は要らないのよね。まぁそれでも、捨てはしないけれど」

 

 セルネは小袋にクリップのようなものを取り付けると、その能力を発動する。

 効果が及んだ瞬間、魔具の小袋は転移効果によって消え去ってしまった。

 行き先は〈千変万化〉内の魔具倉庫だ。

 

 取り付けたものの正体は、〈転送タグセット〉という転移系疑似魔具。

 この疑似魔具は二個一対のものであり、魔具倉庫にある布型の送り先タグと、セルネの持っていたクリップ型の送り元タグがセットなのである。

 

 能力は「送り元タグをつけた物ごと、送り先タグへ転移させる」というもの。

 つまり送る物とその行き先を、それぞれのタグで指定しているのだ。

 

 このような複数個で一セット扱いの魔具というのはそれなりに存在しており、そのどれもが「複数なければ意味がない」能力を有している。

 

 このセット扱いを支えているのは〈限定接続〉という名の、「自身と対象を同一のものとして扱えるようになる能力」だ。

 何の意味があるのかわかりにくいが、要するにペアリングをする能力である。

 

 まったく異なるものの間には、当然繋がりなどない。

 そして繋がりのないものを一つとみなすことはできない。

 故に繋げるものとして、〈限定接続〉があるのだ。

 

 この能力でペアリングをするからこそ、「複数個で一セット扱い」の魔具がこの世に存在できているのである。

 

「私はこうやって簡単に送れるから良いけれど、他の探索者は大変よね。どんなに価値のあるドロップ品でも、持ち帰れなければ諦めなくてはならないもの」

 

 探索者の収入源は、主にドロップ品である。

 ドロップ品の種類は多種多様であり、魔具を始め魔物素材や鉱物、食材や魔具ではない通常の装備品などがあった。

 

 そういったものを集めて帰還後に売るのが、探索者の仕事である。

 だがもちろん、手に入れたドロップ品をすべて持ち帰れるわけではない。

 運搬量には限りがある以上、価値を見比べてより高値のものを選ぶという取捨選択が付きものだ。

 

 しかしそれは普通の探索者ならばの話。

 セルネは違う。

 

 セルネは収納系や転移系の魔具・疑似魔具を大量に所持しているため、そういった取捨選択をする必要が基本的にないのだ。

 

 手に入れたものは片っ端から倉庫に送ることができる。

 切り捨てるのは価値が低いものや、不要なものだけだ。

 

 普通の探索者がやっているような、「どれも捨てたくないが容量の問題で泣く泣く諦める」というようなこととは無縁なのである。

 

「やっぱりアドルムの〈生体改造〉は破格よね」

 

 セルネは自慢げに頷いた。

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