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セルネの使用した装備は〈レサト〉。
アドルムの作った、遠隔操作可能な浮遊・飛行する疑似魔具である。
SFロボアニメなどに登場する、いわゆる無線誘導兵器を元にしたものだ。
とはいえアイデアの元がそうだというだけで、〈レサト〉自体は無線でも兵器でもないため遠隔誘導器という分類で扱われている。
その見た目は用途によってやや異なる場合もあるが、概ね共通して全長一メートルほどの板状の物体だ。
板といってもその厚さは五十センチ以上ある場合がほとんどなので、板というよりむしろ箱に近いが、アドルムは板ということにしていた。
装備としてのコンセプトは、「空中での自由自在な動きを可能とする装備」である。
つまり単に飛ばすだけではなく、遠隔操作性や高機動性も重視されていた。
逆にいえば空中移動以外に目立った特徴はないため、汎用的な装備である。
攻撃あるいは防御能力が欲しければ、そちらに寄せた調整をして、目的に合った能力を付与することになる。
攻撃用なら剣の形に、防御用なら盾の形に、といった形状の調整をして適した能力を持たせるのだ。
現状、用意されているバリエーションは二種類。
攻撃用の〈ソードレサト〉と防御用の〈シールドレサト〉だ。
その中でさらに、付与した能力の違いによる差異もあった。
今回セルネが使用したのは、二つ。
一つは「重さを十倍にする能力」である〈十荷重〉を付与した〈ソードレサト〉。
そして「光を反射する能力」である〈光反射〉を付与した〈シールドレサト〉。
十倍の重さで攻撃し、光による攻撃は反射したというわけだ。
まだ作られたばかりの装備ではあるが、セルネの評価としては上々。
有用であると判断されていた。
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セルネは使用した装備を回収すると、倒れているイルメナのもとへ近づいていく。
そしてまずはこれからとばかりに、倒れたイルメナを見下ろしながら問いかけた。
「無事?」
「あ、ああ……たぶんな。とはいえ、かなり痛むが」
「そう。運が良かったわね、私が来て」
「まったくだ……まさかSランクが救援に来てくれるとは」
イルメナは地面に転がった姿で返答する。
死ぬほどの怪我ではないが痛みが酷く、ほとんど動けないのだ。
「たまたまよ。連絡を受けたわけじゃないもの」
「なるほど、運が良いとはそういう意味か」
「ええ、そういうこと」
「すまないが、私より仲間のほうを見に行ってくれないか? 私はいい。あちらのほうが心配なんだ」
イルメナはクロムたちのほうを確認しようとする。
だが先程より痛む身体のせいで、二人を視界に捉えることは叶わなかった。
「あっちは大丈夫みたいよ。二人とも貴女よりは軽傷みたいだし、それにエルフの魔導師がいるじゃない。〈治癒〉の魔導具くらいあるでしょう?」
「ああ、それくら――ぐっ! ……それくらいはある」
イルメナは身体を起こそうとして呻く。
そこへセルネから液体の入った瓶が手渡された。
無色の液体だが、水でないことは何となく判る。
「あげるわ。遠慮なく飲んで」
「これは、まさかポーションか?」
「そうよ。といっても、魔導具のほうじゃないわ。魔具よ」
ポーションとは摂取することで効果を発揮するタイプの、消費型の魔具あるいは魔導具のことである。
一回限りの使い切りというだけで、その価値や能力は通常の魔具や魔導具の関係と同じだ。
「ま、魔具のポーションだと!? い、いや! 受け取れないぞ! そんなもの!」
効果が低く比較的入手しやすい魔導具のほうならともかく、高価で希少な魔具のポーションを素直に受け取れるほどイルメナは図太くない。
一方、セルネはやや睨むように眉を寄せていた。
「そういうのいいから、早く飲んでくれない? 私は救助義務があるから助けているだけで、善意でやっているわけではないのだけれど?」
「わ、わかった。すまない、そういうことなら……ありがたく頂こう」
探索者には「ダンジョン内では危機的状況にある者を極力助けなければならない」という救助義務が定められている。
しかし実際のところ、これを真面目に守っている者は少ない。
当たり前だが自分の命より他人の命が優先されるルールではないし、状況次第で助けなくてもいいという類の条件が山ほどあるからだ。
魔具を譲渡してまで律儀に救助義務を遵守するセルネに対し、イルメナは「流石Sランク探索者だな」と感心していた。
ありがたくポーションを飲み下す。
するとその途端、徐々に身体の痛みが引いていき、先程までの様子が嘘のように立ち上がって動けるようになった。
「おお、すごいな……こうも早く回復するのか」
「本当に回復できたの? よく確認してみなさい。問題はない?」
子供の世話を焼くかのような問いかけに、イルメナは少し違和感を持った。
だが悪意のある言葉ではないため、「意外と親切なんだな」と思うだけで片付けてしまう。
なお実際には、もちろんそんなことはない。
セルネは飲ませた物の性質上、念入りに確認しておきたかっただけである。
「大丈夫そうだ。どこも痛くない。ところで、ポーションの代金なのだが……」
「別にいいわ。私が無理に飲ませただけだもの。貴女だって拒否していたしね」
「そ、そうか……すまない、恩に着る」
「別にいいと言っているでしょうに」
セルネは代金を請求しなかったが、別に大きく損をしたわけではなかった。
実は渡したのはただの魔具ではなく疑似魔具なのだ。
アドルムがいくらでも補充できるため、対価を得られなくとも損にはならない。
当然だがダンジョン産の魔具であるポーションと違い、疑似魔具のポーションは人造だ。
奇跡そのものである魔具には不具合などほぼ起こり得ないが、人造の疑似魔具ポーションならば使用に際して何らかの不具合が発生することもあり得る。
製造過程にアドルムの意思が介在する以上、その意思に起因する問題が生じてもおかしくはない。
セルネが世話を焼いたのは、そういった事情から問題がないかを念入りに確認するためだった。
単なる親切心ではないのである。残念ながら。
セルネとしては負傷者の処遇でぐだぐだ無駄なやり取りをするくらいなら、タダ同然のポーションで解決するほうが手間がなく、楽で早いと考えていた。
「それにしても、随分酷くやられたようね。私は貴女たちのことよく知らないのだけれど、そんなに実力差があったの?」
「え、ああ……そうだな、まるで歯が立たなかった」
イルメナはセルネの様子に、またしても少し違和感を覚える。
噂に聞く【竜爪姫】は無愛想で誰とも親しくしないという話だったが、まるで普通に話題を振ってきたからだ。
だが今回もそんな違和感はすぐに霧散した。
些細なことだし、それ以上にセルネは恩人なのだ。
強敵を倒し、ポーションを提供してくれた彼女を悪く思うことはできない。
「死にかけて考えの甘さを思い知ったよ。これは本気で方針を変えないとな……いや、もっと早く変えておくべきだったんだが」
遠くでスピネルから治療を受けるクロムの姿を見つつ、イルメナは言う。
パーティ全員が生きている。しかし生きていたのは、たまたまだ。
本当に死ぬ寸前であったのだから。
「ふぅん、方針? それは探索者を辞めるとか、そういう意味?」
「いや、違う。方針というのはパーティ強化のことなんだ。今まで私たちは、戦力強化について漠然とした思いしかなかった。『強力な魔具を入手したい』という程度のぼんやりした考えだけで……いや、考えというより願望でしかなかったな。もっと具体的に、しっかりと考えるべきだったんだ」
思い出すのは魔猿に光を向けられたあの瞬間のことだ。
あの時、イルメナは本当に死んだと思った。
終わりだと感じた。
そして後悔があった――自分たちの準備不足に、考えの甘さに。
セルネが魔猿のドロップしたものを見に向かったので、イルメナも付いて歩く。
「ちゃんと道筋を考えないといつまでも先へは進めないし、足踏みできる時間も無限ではない。今回のようなことがあって後悔してからでは遅い。それを思い知った」
「なるほど、心が折れたのではなかったのね」
「心が折れる? ああ、そうか。それで辞めると思ったんだな?」
魔猿のドロップは魔物素材と毛皮の防具、装飾品、そして魔具だった。
稀にしか出ない徘徊ボスのドロップであるため、どれも希少品と考えられる。
「ええ、その通りよ。ボスに手酷く敗けて心が折れる探索者……そんなのは珍しくないわ。いくらでも見てきたしね。貴女もその口だと思ったのだけれど――」
セルネはドロップの魔具を手に取って見る。
魔具は両手用のグローブだった。
鑑定能力付きの疑似魔具で鑑定してみると、名は〈光芒閉掌〉というそうだ。
能力は「掌を並べた状態から光線を放てる」というものらしい。
あの魔猿の攻撃、光のビームそのままの能力のようである。