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ダンジョン都市〈モードルード〉。
僕とセルネの購入した自宅兼店舗は、この町の西部外縁地区にある。
この世界の野外には獣だけでなく魔物も生息している。
故に防衛のため町には防壁があるわけだが、それでも絶対に安全とはいえない。
安全性の観点から防壁に近い土地ほど地価が低い傾向にあった。
防壁を信用していないわけではないけど、万が一の際に被害を受けやすい地域は避けたい――という心理だね。
僕たちの住む外縁地区はまさしくそういった防壁近くの安い土地である。
だがそのデメリットは僕たちには関係ない。自衛できるからね。
つまり僕たちにとっては、とても都合の良い土地だということだ。
僕らの自宅兼店舗は、外から見れば普通の――平屋の一軒家である。
しかしその内部は魔具や疑似魔具を組み込まれた砦となっていた。
一軒家の屋内を〈空間拡張〉で広げたうえで様々な疑似魔具で水回り、キッチン、防犯システム、壁や天井、屋根などの補強を行っている。
たとえこの町が魔物の群れに飲み込まれてもこの家だけはおそらく無事だろう。
さらにこの家には地下階層もある――というか、この地下こそが核だ。
地下は『魔導よろず屋〈千変万化〉』の店舗なのである。
地下の店舗空間も〈空間拡張〉を使っているし、防犯システムを組み込んでいる。
こちらはこちらで客に見せるための疑似魔具を陳列してあるからね。
防犯に力を入れるべき場所という意味ではこの店舗こそが第一候補なのだ。
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夜、夕食の席で僕とセルネはそれぞれ今日の出来事について話をしていた。
僕らは日中別々に行動しているため、こういう情報交換、意見交換、コミュニケーションの場は非常に重要だ。
「【フェティオム】のイルメナか……わかった。その人でいいんだね?」
「ええ。随分時間がかかってしまったけれど、私は彼女を選ぶわ」
五十階層で出現した徘徊ボスの件にさらっと触れつつ、セルネは選定した客についての話をしてくれた。
たまたま助ける機会があったこと、そしてかなりやる気のある探索者だったことが選ぶ決め手になったそうだ。
僕としてはセルネが選んだのなら特に却下するつもりはない。
彼女がしっかり選んでいることは分かるからね。
話題のイルメナだけど、やる気があるのは良いことだ。
僕にとっても高評価ポイントである。
やる気……つまり意欲は客として重要な要素だ。
こちらがどんな力を提供したところで、当人にその気がなければ意味がないからね。
僕は〈生体改造〉を用いて世の中に関わり、変化を生み出し、変化の先を見ることを目的として〈千変万化〉を始めた。
だからどうせ関わるなら変化の期待できる客が良い。
良い変化、大きな変化であるほうがいい。
面白い変化であれば尚良しだ。
「そういえば、徘徊ボスとの戦闘で〈レサト〉を使ってみたわ」
「お、アレの実戦テストか。どうだった?」
「問題ないわね。かなり便利よ。奇襲性が高いのも利点ね」
「奇襲……どういう使い方をしたのか、なんとなくわかるよ」
たぶん上空から落としたんだろうなと思った。
用意した〈ソードレサト〉の能力に、上空から落下させると強そうなものがあったからね。
神力の通りにくい対魔物戦闘において運動エネルギー攻撃はかなり有効なのだ。
僕の作った〈レサト〉は「空中での自由自在な動きを可能とする装備」だ。
自由自在に操る――なんて言うのは簡単だが、これは結構難しかった。
まず前提となる話として、僕が浮遊・飛行の疑似魔具を使う際はその制御に〈遠隔接続〉という制御系疑似ギフトを使っている。
この能力は「自身の制御能力を対象にも適用する」というものだ。
身体から離れた物体を自分の身体の一部かのように操作できる能力であり、これを使えば神経の繋がっていないものでも動かせるようになる。
届かないはずの場所にあるものを自由に動かせるのだから、手足の延長ともいえるかな。
運動神経の無線化、または神経接続の自由化と言ってもいい能力だ。
とはいえ動かせるのはあくまでも「対象が変動し得る範囲」だけ。
柔らかいものの形なら変えられるし、這うような方法で移動することもできる。
しかし硬いものの形は変えられず移動させるなら転がる以外の方法はないという感じだ。
同じ理由で元々飛べないものが空中にあるなら、動くためには飛ぶための能力が必要となる。
この〈遠隔接続〉自体に「浮遊させる効果」はないからね。
多少の癖はあるものの概ね便利な〈遠隔接続〉だが、この能力には大きな欠点もあった。
僕はセルネに尋ねる。
「操作性はどうだった? かなり改善されたはずなんだけど」
操作性が非常に悪いんだよね。
制御可能とはなるものの動きがとても悪く、滑らかではないのだ。
だから今までの僕はこの能力で飛行・浮遊を操作する際、直線的な動きしかさせなかった。というか、できなかった。
もちろん〈レサト〉の開発時にもこれが問題になった。
結局は工夫して解決できたが、まぁ結構な苦労だったね。
「良かったわね。〈遠隔接続〉を一つだけ使った時より動かしやすかったわ。あんなのよく考えたわね? なかなかやろうと思わないことでしょうに」
「普通ならとんでもなく無駄だからね。付与能力を自由に付け換え出来る僕ぐらいしか実用性のないやり方だし」
僕の採用した解決方法は「同じ能力を二つ重複して使う」こと。
同じ能力を二つ持てば出力は二倍だ。
非常にシンプルな方法である。
だがそれは無駄でもあった。
付与できる能力の数は限られているため、同じ能力を持つのは枠の無駄でしかない。
まさに彼女が言う通り「やろうと思わない」わけだ。
だから工夫し、考えた。その末になるべく無駄にならない手段として、魔具の仕様を利用することにしたのだ。
「でも無駄が多いのは、一人で全部の負担を受け持った場合の話だ。負担がキツいなら分散させればいい」
「それで疑似魔具に……というのは答えを聞けば納得できるけれど、よく思いついたわね? 私なら『二重発動は無駄だからやめよう』で諦めるわ。魔具を使うどころか、考えようとすらしないかも」
魔具や魔導具は基本的に、装備していたり、手に持っていたり、触れていたりすれば、所有者がその能力を発動できるようになるものだ。
僕はこの「魔具を持っていると認識される状態」をまとめて「装備状態」と呼んでいる。
これを言い換えれば、魔具や魔導具とは「装備状態なら疑似的なギフト持ちになれるもの」だといえるわけだ。
その仕様を使い、所有者側と装備側で同じ能力をそれぞれ持つようにしたのである。
そうすれば実質的に「所有者が二つ持っている」のと同じ状態だ。
枠の無駄を分割することで軽減したわけだね。
「でもあくまで無駄の軽減で、なくすことは出来なかったんだよね。〈遠隔接続〉を疑似ギフトとして一つは持たなくちゃならない」
ただし逆に言えば、一つは必ず所有者自身が持たなければならないということでもある。
これは避けられなかった……いや避けられるけど、別の無駄が発生してしまうのだ。
「疑似魔具側に二つ持たせると、それはそれで疑似魔具側の枠の無駄になってしまうものね。〈浮遊〉と〈遠隔接続〉二つ、これだけで三つある枠の限界まで埋まってしまうから」
「そう。それは絶対に嫌だった。まったく余裕のない構造は良くないし、そもそも攻撃用の能力を持たせることが出来ないのは大きな損失だからね。最終的に、一つだけなら許容することにした。〈遠隔接続〉は単体じゃまるで使えない能力、ってわけでもないからね」
「使えないどころか、かなり便利よね」
〈遠隔接続〉は遠方にある物体を制御する能力である。
非生物に使えば対象を自由に動かせるコントロール能力となり、生物に使えば対象の神経伝達を混線させて阻害できるジャミング能力と化す。
汎用性の高い便利な能力なのだ。
一つだけなら持っていて損はなく、デメリットにもリスクにもならない。