魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~ 作:弐哉
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僕のギフトは〈生体改造〉。
生物の身体を自由に作り変えることができる能力だ。
身体能力を上げるとか負傷を治すとかもできるが、それだけじゃない。
別人の顔に変えるとか、人を無機物……例えば石像に変えるなんてこともできる。
僕の能力は「生物を変える能力」だから対象が生物でさえあれば良くて、変化先が「生物」であるかは問わないのだ。
身体に関することならほとんど何でもできるが、出来ないこともある。
だが制限は少しだ。
どんな身体にも作り変えることができる、と言っても過言ではない。
僕が能力を使用してから数分後――眼前では、ローブの男が地面に尻をついていた。
「な、なんだこれは……どうなっている!? おぞましい! 貴様、それは一体どんなギフトだ!?」
周囲にいたはずの犬の群れは、既に一匹残らず死んでいる。
男自身も傷だらけで、慌てふためいていた。
「どんなギフトか? ははは、答えるわけがないだろう? 少なくとも〈聖魔法〉ではないがね」
そう返した僕の周囲では、空中をたくさんのナイフが高速で飛び回っていた。
まるでイワシの群れのようだ、と思うのは風情がないだろうか?
でもそっくりだよ。
僕の〈生体改造〉は「身体の一部を切り離す」ことも「切り離した部位を自由に操れるようにする」こともできる。
さらに「空中を飛行できるようにする」ことも可能だし、「切り離した部位をナイフに変える」ことだって当然できる。
つまり僕は右腕を切り離したうえで細分化し、さらに断片のそれぞれを空飛ぶナイフに変えたのだ。
その結果がこれ――宙を飛び交う大量のナイフというわけだ。
切り離した腕が自由に動くとか、空中を飛ぶだとか、どれも非現実的だが僕の〈生体改造〉は魔法に該当するギフトである。
やっていることは火を自在に操ったり、不思議な力で怪我を治すことと同列であると考えれば、特におかしくもない。
「フン、いい気になるなよ! 俺が死んでも貴様が助かることはない! 我がギルドが必ず報復するからなぁ! せいぜい足掻くんだな! ははは!」
「それは君の死体が出ればの話だろう?」
「はは――は……?」
僕は口調を普段の――アドルムに戻した。
もはや偽る意味はない。
「な……に? どういう……意味だ?」
「察しが悪いな。死体がなければ死んだかどうかわからないってことだよ。君が僕を独り占めしようとして裏切ったとか、そういう可能性のほうが先にくるだろ?」
言いながら、僕は周囲に転がる犬の死体へ視線を移す。
そしてその一つへ向けて、能力を使った。
僕の〈生体改造〉は生物の身体を対象とする能力だが、これは厳密に言えば元が生物――つまり「かつて生物であったもの」も含む。
今この瞬間に生物でなくとも構わないのだ。
故に死体はもちろん、試したことはないが完全に白骨化していても能力の対象となるだろう。
とはいえ、無法ではない。
ある程度の同一性あるいは連続性を有している必要はある。
さて、僕の命じた変化は「煙に変える」だ。
能力を受けると――そこにあったはずの犬の死体は、夜闇に溶けた。
ローブの男が目を見開く。
その瞳には、恐怖が浮かんでいた。
「し、死体が……何故そうなる!? 何なんだお前の能力は!」
「その質問の答えはさっきと同じだよ。そんなことより自分のことを考えたら?」
男の顔に手を伸ばす。
能力発動のために触れる必要があるわけではない。
これはただの演出だ。恐怖を煽る演出に過ぎない。
「な、なんのつもりだ……!?」
「消すのさ。君を。この世から綺麗さっぱり……ね」
僕は聖人ではない。
襲われたという事実には思うところがあるんだ。
少しやり返すくらいは当然の権利と考えている。
「や、やめろ……俺に近づくな! 触れるな! やめろ!」
僕の思惑通り恐怖に駆られた男は、必死の様子で這うように逃げていった。
彼の脚は既に斬ってある。
走って逃げるのはもちろん、歩くことさえ難しいだろう。
そして逃げても、意味がない。
僕は身体の部位を切り離せるし、切り離したうえで自由に動かせる。
男が手の届かないところまで逃げても、僕の腕は身体を離れて追っていった。
飛んでいった腕は男との距離を少しずつ縮めて、ついにその顔面を掴んだ。
「や、やめっ――」
「ギフト持ちを殺すのはもったいないけど……さようなら」
別れを告げると同時、能力を発動。
その瞬間、男の身体は煙に変わり――空中へと消えた。
「はぁ。とりあえず、闇医者はもう辞めるとして……引っ越しもしようか」
僕は帰ったらセルネにそう伝えようと決めて、再び帰途についた。
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僕の〈生体改造〉は強力なギフトだ。
だが、最初からここまで強力だったわけではない。
数々の検証と考察の末に、ここまで上手く使えるようになったのだ。
そもそもなぜ検証や考察を始めたのかといえば、最初は理解を深めるためだった。
ギフト持ちは、自分のギフトで何ができるかなんとなく分かるようになっている。
しかしそれは最低限の内容でしかない。
例えば僕の場合なら「肉体を変える」くらいの、ごく浅い理解しかなかった。
だからこそ少しでも理解を深めようと、幼少の僕はギフトの検証と考察を始めたわけだ。その結果と工夫をもって、僕のギフトは高い汎用性を得るに至った。
僕が考えるに世のギフト持ちのほとんどは、自分の能力についてよくわかっていない。検証したり考察したりなんて、ろくにしていないと思う。
最低限の……初期状態の理解のままで、なんとなくギフトを使っているんじゃないかな。
ギフト持ちは人類全体のごく一部であるため、比較される場合その相手は非能力者――能力を持たない「普通の人類」になりがちだ。
能力を持っているというだけで「普通の人類」よりも評価されやすく、それ故に能力を工夫する必要が生じない。
初期状態のままでも充分加点されるなら、努力しようとは思わないわけだ。
もちろんそれが全員ではないが、そういうタイプは少なくない。
今夜出会った「犬使い」。
僕からすれば、まさにああいうのがそのタイプだ。
分かっておらず、工夫する気もない輩である。
犬を操るというなら、やれることはもっとあったはずだ。
例えば、この世界には魔物がいる。
魔物はゲームに出てくるようなモンスターあるいはクリーチャーに該当する、凶暴で屈強な生物だ。
魔物の中には犬系の魔物もいるため、それならば彼の能力で操れる公算は大きい。
あるいは、この世界には獣人という種族がいる。
獣人の中には犬系の獣人もいるため、もしかしたらこれも操れたかもしれない。
これらは僕の妄想ではなく、今までの経験や様々なギフトに対する考察を元にしたそれなりに根拠のある推測だ。
彼が本当に文字通り「犬しか操れない能力」だった可能性は、まったくと言っていいほどない。
ギフトは「神からの贈り物」と言われるが、僕としては少し違うと思う。
贈り物であると同時に、試練でもあるのだ。
与えられた能力を……チャンスを、上手く使えるかどうかの試練。
能力には様々な種類があるから、工夫しにくい能力もたしかにある。
拡張性のない能力や使いにくい能力、用途が限られる能力だって存在している。
しかしそれだって、どうにもならないわけじゃない。
工夫の仕方次第だ。
性能がどうにもならなければ、運用でアプローチすればいい。
能力そのものが変えられなくとも、それを扱う環境を考えることはできる。
上手く使うというのは、そういう総合的な部分も含むものだ。
あらゆる能力には使い方を考える余地があり、やるかやらないか、そして結論としてどうするかは当人次第。
だからこそ僕は、それを試練だと感じるのだ。
もしも神が実在していて、ギフトにまつわる何かを見ているとすれば――それはきっと、試練の行方を見ているのだろう。
僕はそう思えてならない。