能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第30話 〈麻痺眼〉:購入前に試してみるというサービスはあるでしょう?

 ■

 

 深夜、僕は屋根の上からとある建物を眺めていた。

 視線の先にあるのは大きな賃貸物件である。

 

 建物の中に複数の部屋――生活スペースがいくつも存在し、それぞれの部屋を貸し出すという形式――いわゆるマンションやアパートのような物件だ。

 

 この世界、特にこの〈モードルード〉のように人が集中しやすい都市ではこのような賃貸物件に人を押し込めるのが主流である。

 いやそれは前世も同じだったか。

 

 マンションのようなとはいうものの実際のところは少し違う。

 部屋の中にシャワーやキッチン、トイレなどはなく、そういうものは建物内で各部屋の住人が共有する設備となっているそうだ。

 そのためどちらかといえばビジネスホテルに近いんじゃないかと思う。

 

 さて、なぜ僕がそんな賃貸物件を眺めているのかといえば、次の客であるイルメナの住居があそこだからである。

 多くの探索者は賃貸の部屋を借りて生活しているため、非常に一般的な住所といえるだろう。

 

 僕やセルネがそうしているような、一軒家を買うというやり方ができるのは探索者の中でも稼いでいる上位層くらいなものだ。

 あとは宿を長期で借りる人もいるんだったっけ。

 

 正直、僕は探索者についてあまり詳しくないんだよね。

 そういうのはセルネが……いや、彼女も流石に「普通の探索者の生活」については疎いだろう。

 普通だったことなどない僕らにとって、そういった実情を知ることは難しいのだ。

 

「よし、そろそろ良さそうかな」

 

 自身に付与した疑似ギフトの〈遠視〉と〈透視〉を用いてイルメナの部屋を見る。

 対象が寝付いて暫く経つ。

 もうそろそろ行動しても良いだろう。

 

「身だしなみは……問題なし」

 

 バンカとして活動する際の服装――ビジネススーツをベースとした制服に、仮面も忘れずつけている。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 新たな客を迎えるために、僕は動き出した。

 

 ■

 

 眠りについていたイルメナはふと目を覚ました。

 瞬間、強い違和感を覚える。

 

 目の前にあるのは見慣れた自室の天井ではなかった。

 聴覚、嗅覚、そして視覚――そのすべてが知らない部屋だと示している。

 

 違うと気づいてからの彼女は早かった。

 周囲を――室内を確認するよりも先にまずは行動した。

 

 ベッドの上で身を翻して枕元へと移動、すぐさまその場にしゃがみ込む。

 続けて枕の下に仕込んでいる短剣へと手を伸ばしたが――

 

(無い……!?)

 

 あるはずの備えがない。

 焦る彼女に、すぐそばから声がかかった。

 

「何かお探しですか? なんであれ、そこにはございませんよ。そのベッドは貴女のものではなく、当店の用意したものですので」

 

 声のほうに目を向けると――そこには仮面とスーツを纏う男がいた。

 それと同時にざっと周囲、この室内を確認する。

 

 小綺麗だが殺風景な部屋だった。

 室内には何もない。装飾品はもちろん、棚や机、椅子でさえなかった。

 おそらく唯一あるものがイルメナの寝ていたこのベッドなのだろう。

 壁と床の主張が強く、人の住む部屋とは思えなかった。

 

(監禁部屋? あるいは独房の類か?)

 

 推察しつつ目の前の不審者を倒すため飛びかかろうとし――そこで気がついた。

 

「動けない……!?」

 

 それだけではなく声も出しにくかった。

 喋れないというほどではないが、叫んだり大声を出すのはまず無理という状態になっている。

 

「〈麻痺眼〉です。僕の魔眼の能力ですよ。動けず、声を出しにくいかと思いますがご容赦ください。落ち着いてお話をするとなると、こうするのが確実で早いのです。能力を解除すれば動けるようになりますので、申し訳ありませんがしばらくそのまま僕の話にお付き合いください」

 

 イルメナの置かれた状況は、アドルムの――バンカの整えたものだ。

 前回のフェリシアとの商談を踏まえ、客との初対面のやり取りを改善したのである。

 

 この部屋は寝ている状態の客を転移で連れてきて、落ち着いて自己と店の紹介をするための部屋なのだ。

 

 初対面が客の自室だと説明の前に騒がれたり叫ばれたりして面倒だ。

 遮音で対策しおけば家人などに乱入され邪魔されることはないものの、そもそも対策しなくて良いやり方をすべきである。

 

 というわけで寝ている客をまず先に店内へと転移させてしまうことにした。

 これなら早くて邪魔がない。

 乱入を気にしたり、遮音する必要だってなくなる。

 

 怪しまれている状況で落ち着いて話をするには、客の言動を制限したほうが良いというわけだ。

 イルメナが自身の意思とは無関係にこの場へ連れてこられたのは、そういう理由からである。

 

 なおこれは実質的な誘拐だがバンカは気にしていない。

 そんな事を気にしていては、闇医者も押し売りメインの商売もできないからだ。

 

「まずはご挨拶からいたしましょう。僕は『魔導よろず屋〈千変万化〉』の店主、バンカと申します。よろしくお願いいたします」

 

 ■

 

「疑似ギフトに疑似魔具か……信じ難い話だな」

 

「嘘でも詐欺でもありませんよ」

 

「そうは言われてもな。あまりに嘘くさい。それに非現実的だ」

 

 僕はイルメナに僕自身や店、そして疑似ギフトと疑似魔具に関する説明をして、あとはそれらに関連するちょっとしたことを話した。

 しかし彼女は当店のことを――そして僕のことを信じていない様子である。

 

 ちなみに巷ではそこそこ噂になっているらしいフェリシアの件について、イルメナは知らないようだった。

 

 擬きとはいえギフトを後天的に得るという点について、驚きはするものの特に思い当たるものはないみたいだからね。

 知っていたら信用される要素が少しくらいは増えただろうに、たぶん。

 

 それはともかく……信じられないというのも納得できることではある。

 それが普通の反応だよねって感じだ。

 疑似ギフトや疑似魔具なんてものがあると言われても、普通に考えたら詐欺か妄想としか思えないというのが一般的な感性だからね。

 

 ギフトや魔具は特殊な能力を持ち、そして希少だから高い価値があるのだ。

 本物のギフトや魔具に劣らない性能の模倣品――そんなものを軽々に販売できるなどと言われても、簡単に信じたりはしないだろう。

 

 とはいえ、僕もこの程度で困ったりはしない。

 信用されないという想定くらいは当然している。

 故に提案した。

 

「では試してみますか?」

 

「試す? 何を?」

 

「もちろん疑似魔具を、ですよ。武器屋に防具屋、それと魔導具屋でも、購入前に試してみるというサービスはあるでしょう? 疑似ギフトをお試し頂くことは難しいですが、疑似魔具のほうであれば可能です」

 

 疑似ギフトを試すとなると付与することになるからね。

 渡して使ってもらうだけの疑似魔具とは手間が違う。

 といっても少しの手間でしかないけど……僕の労力となることに違いはない。

 

 僕の提案に対し、イルメナは驚きをみせた。

 

「魔具を試すだと? 正気か? たしかに武器屋などでは試せるが、魔具屋でそんなことをしているという話は聞いたことがないぞ」

 

「普通の魔具屋ではそうでしょうね。魔具は強力なものもあるため危険ですし、何より高価ですから持ち逃げや破損が大きなリスクになるためやりません。ですが当店は違います。そのような問題が起きないよう、きちんと対策していますからね」

 

 対策とは言ったものの、実際には大した話ではない。

 

 危険性については即死や脳へのダメージ以外なら僕が治せる。

 持ち逃げはこの店の厳重なセキュリティが防ぐ。

 

 そもそもこの店は地下にあるしね。

 窓や裏口から逃げるような手段は取れない。

 疑似魔具の破損も、僕が作ったんだから僕が直せる。

 

 ただそれだけのことだ。

 

「お客様が即死でもしない限り問題はありませんよ」

 

「随分な自信だな。それなら、遠慮なく試させてもらおうか」

 

「決まりですね。ではいくつか疑似魔具を持って試用部屋へ参りましょうか。もちろん、お好きなものを選んで頂いて構いませんよ」

 

 そうして僕たちは店内の商品陳列スペースへと移動し、あれこれといくつかの疑似魔具を選んだ後、試用部屋へと移動した。

 

 試用部屋といっても何か特別なものがあるわけではない。

 ただ広めの空間に、様々な種類の的が置いてあるだけだ。

 

 うちの店は経営方針的に考えてもたくさんの客が来るわけじゃないし、たくさんの疑似魔具を売るわけでもないからね。

 使用頻度の低い部屋だから力を入れて作る必要などないのだ。

 

 

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