能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第31話 『能力の限界』:選んでもらうメリットはなんだ?

 ■

 

「どれもすごいな……」

 

「そうでしょう。当店自慢の商品ですからね」

 

 イルメナが感嘆を漏らすと、バンカは誇らしげにそう口にした。

 

 イルメナが試した疑似魔具はもう十を超えている。

 炎の剣、氷の刃、雷の砲、増える矢、毒の礫など。

 いずれもイルメナが欲しかった「強力な攻撃用魔具」に該当する性能である。

 

(まさか本当に、真実を言っていたとはな)

 

 イルメナはこの試用にそれほど期待していたわけではない。

 そもそも信じておらず嘘や誇張があるものと予想していたため、虚偽を看破する目的で試用に乗ったのだ。

 

(これまで試した疑似魔具とやらは、そのすべてが凄まじい性能だった。どうせ魔導具レベルの性能か、いわゆるハズレ魔具のような低性能の魔具程度と思っていたのだがな)

 

 しかし結果は予想外。

 すべてが偽りなく本物の性能――いや、本物並みの性能だった。

 

 彼女が選んだ疑似魔具はなるべく偏らないように取ったものだ。

 共通するのは「攻撃用魔具」であることだけ。

 陳列されていた場所、形状、能力の種類など様々な点を考慮して幅広く選んだ。

 

 そのうえで試したすべての疑似魔具が高性能であるのなら、店のすべての提供物が高性能と信じてもいいだろうと考える。

 

(こんな手の混んだ詐欺はないだろう。それにあの男は私の周囲について調べていて、詳しかった。金持ちならともかく、しがないCランク探索者の私をそこまでして嵌めるのは労力の無駄遣いだ)

 

 先程、最初の部屋で話をした際にイルメナについて調査済みであることは聞いている。

 調べたうえで嵌める相手に金持ちでもなんでもないイルメナを選んだのであれば、節穴を通り越してただのアホである。

 

(だが詐欺ではなく本物だとしても、それはそれで信じ難いのだがな。特に金額)

 

 この店のサービスの金額についても先程伝えられている。

 疑似魔具なら三千万ディナ。

 疑似ギフトなら五千万ディナ。

 

(三千万は間違いなく大金だ。田舎ならかなり立派な家を買える金額だからな。だがこの性能の魔具が三千万ディナというなら、むしろ安いくらいだろう)

 

 良い魔具は家より高い。これは常識に近い知識だ。

 家を建てるか同じ金額で魔具を買うかは、高ランク探索者なら一度は悩むことだと聞いたこともある。

 

(少なくとも、他所で三千万出したところで絶対に買えない。無理だ。五千万でも難しいだろうな。強力な魔具にはそれだけの需要がある)

 

 イルメナが詐欺と思っていたのには金額という理由もあった。

 彼女の求めているような高性能の魔具を買うとすれば三千万では安い。

 だがいわゆるハズレ魔具で三千万なら、それは高い。

 つまりハズレ魔具を強力な魔具と偽って売っているのだとすれば、納得できたのだ。

 

(疑似ギフトとやらは試していないから何とも言えないが、そちらも嘘ではなく説明通りのものだとすると……もはや金額で話すのは馬鹿らしいな)

 

 ギフトは後付けできないから価値がある。

 それを得られるのだとしたら「いくら払ってでも」という者は掃いて捨てるほどいることだろう。

 

(魔具同様に安いと言えるだろう。五千万でギフトが買えるなら、喜んで買うやつは腐るほどいるんじゃないか? もちろん、まともな能力だとしての話だが)

 

 流石に「ゴミのような何の役にも立たない能力」では別だろうが、まともな能力なら間違いなく買いたい者は大勢いる。

 イルメナはそのように考えていた。

 

(いずれにせよ、嘘でないなら――本物であるならば、これはチャンスだ)

 

 先程の説明によるとこの店は店側が客を選ぶらしい。

 なぜ自分が選ばれたのか――そこまでは明かされなかったし、イルメナ自身も見当がつかない。

 

 だが理由などどうでもいい。

 得られる利益が本物であるのなら、これはチャンスだとイルメナは思う。

 

 求めていた強力な攻撃用魔具を入手する、絶好の機会。

 強力な魔具を買うことは難しいからこそドロップを狙っていたのだ。

 しかしここで買えるとなれば話は違ってくる。

 

(代金については……三千万か。その価値があるとはいえ、なんなら安いとはいえ……厳しい金額だが、しっかり話せば二人とも支払いに協力してくれるだろう)

 

 パーティメンバーの二人の姿を思い浮かべながら、内心で頷いた。

 

 ■

 

「いや良かった。信じて頂けたようで、何よりです」

 

「実際に使ってみたんだ。信じるしかないだろう」

 

 現在、僕たちは店の隅に配置された応接テーブルへと場所を移している。

 前回のフェリシアとの商談でも使用した、あのテーブルだ。

 

「確認したい。疑似魔具の金額は三千万ディナ。それで間違いないのか?」

 

「ええ、その通りです。合っていますよ」

 

「本当に? 疑似魔具はたくさんあるようだが、そのどれでもその値段なのか?」

 

「どれでも同じです。そしてもちろん、どれをお選び頂いても構いません。ですが……その点について一つ、お伝えし忘れていたことがあります」

 

「なんだ?」

 

 イルメナが身構えたように見えた。

 おそらく前提を覆すような話が……条件が出てくるのではないか、と危惧したんだろう。

 

 だがそれは杞憂というものだ。

 この話はむしろ得になる話。

 それもお互いにとって。

 

「当店の提供内容を選択する方法は、二つあります。一つは、お客様ご自身にお選び頂く方法。もう一つは、僕がお客様に適したものをお選びする方法です」

 

「貴方が……適したものを? すまないがイメージしにくいな。選んでもらうメリットはなんだ?」

 

「単純な話ですよ。僕は当然ながら、当店の商品についてお客様よりも詳しく把握しています。知識量と情報量の観点から、お客様ご自身よりもお客様に適したものを選択できる……こともあるでしょう」

 

「こともある、か」

 

 イルメナの言葉に、僕は頷きを返す。

 

「確実に、とは言えませんので。それにお客様のご要望に関しては、僕よりもお客様ご自身のほうが詳しいでしょう? 自分自身の思いなのですから。一長一短、というわけです」

 

「なるほど、道理だな」

 

 僕にできるのは選択のサポート――候補の選出だ。

 もちろん、なるべくお客様の要望に沿ったものを心がけるつもりではある。

 だが真に要望通りかはわからない。

 所詮は他者だ、他者の心は容易に理解できるものではないからね。

 

 フェリシアの時のように誰の目から見ても一目瞭然の要望であれば話は早いが、ああいうのは稀なケースである。

 

 ごく一般的なお客様の場合、その要望を真に理解しているといえるのはお客様ご自身だけなのだ。

 あるいはもしかしたら、ご自身でさえわからないかもしれないね。

 

「それと……お客様は疑似ギフトのご購入は考えていらっしゃらないようですが、疑似ギフトの場合は可不可という点で、僕がお選びするほうが早い場合もありますね」

 

 僕は続けて別の話をする。

 

「可不可? どういう意味だ?」

 

「イルメナ様は『能力の限界』についてご存知でしょうか?」

 

「限界? いや、知らないな。私はギフトや魔具の知識はあまりないんだ」

 

「そうでしたか。『能力の限界』というのは、能力的には可能に思えるものの、実際には不可能なことを指します」

 

 この世のギフト、魔具などの能力には限界がある。

 個別の限界――僕の〈生体改造〉でいうところの付与数の限界などもそうだし、能力全体に共通する限界というものもあった。

 

 今話しているのはそのうちの後者。

 つまりどんな能力にも共通する限界の話である。

 

「たとえば、不死ですね。治療系ギフトの中には不死を実現できそうな能力もあるのですが、実際にはできません。効果も出力も問題なく、実現できそうなのに『何故かできない』のです。限界としか言いようがない。そういうものがあるのです」

 

 治療系ギフトと言ったが、具体的に挙げれば〈聖魔法〉だ。

 あれの正確な効果は「対象の身体を正常な状態にする」というもので、これを使えば老衰を迎えることのない実質的な不老不死にもなれるはずである。

 

 腕の良い施術者であることが必須条件だけど、能力的には充分に可能。

 そう思えるが……実際には何故か不可能なんだよね。

 

 理由は不明。できそうだができない。限界としか言いようがない。

 それが「能力の限界」なのだ。

 

「不死以外ですと、いわゆる『あまりにも荒唐無稽なもの』が対象になりますね。死者の蘇生、不滅の肉体、最強の矛、最強の盾、消えない炎、溶けない氷、止まない雨。そういうものはすべて、能力の限界により実現不可能なものです」

 

 超常の能力でも万能ではないということなのだろう。

 自然の摂理を超えているように思えて、しかし実際にはそれ自体も摂理の内なのだ。

 だからできない。摂理の枠を超えることはできないから不可能。

 僕はそう結論づけている。

 

「なるほど、勉強になった……が、それが先程の話とどう関係する?」

 

 能力を使う者にとっては割と重要な話なんだけど、イルメナはピンときていないようだった。

 まぁ仕方ないか、彼女は別にギフト持ちでも魔具持ちでもないからね。

 

 

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