【完結】能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第33話 【フェティオム】イルメナ:欲深いことを言いますね

 ■

 

「こちらではご満足頂けない、と?」

 

 バンカの問いに、イルメナは首肯する。

 誤魔化す気も妥協する気もないため、はっきり分かるように意思表示した。

 

「誤解しないでもらいたいが、貴方の提案そのものには納得している。私たちの問題を解決するし要望通りでもある。しかし、それでは足りないと思ったんだ」

 

「足りない?」

 

「そうだ。その剣のもたらすものでは足りていない。それはたしかに私を強くし、引いては私たちのパーティを強くするだろう。今の壁を超えて、ボスを倒し、Bランクに上がれる。次のステージに進める……だが、もう一声欲しい」

 

「もう一声」

 

 バンカの鸚鵡返しに、イルメナは頷く。

 

「できれば、もっと直接的にパーティを強化するような能力がいい。私を介した間接的な強化ではなく、それだけでパーティ全体が強化されるような性能だ。パーティなのだからメンバー全員が強化されるほうが、パーティの強化になるだろう?」

 

 バンカは呆れたような声色で返した。

 

「欲深いことを言いますね。まるでそれが道理であるかのように言われましたが、複数人を強化するような魔具は相当なレア物ですよ? 単なる強い魔具や高性能な魔具以上に入手しにくいものなのです。つまり普通は選択肢に入れません」

 

 魔具とは「所有者を疑似的なギフト持ちにするもの」だ。

 したがって魔具の対象やその恩恵を受けるものは大抵の場合、所有者一人である。

 複数人へ効果を及ぼすものは魔具の主流から外れるものであり、希少なのだ。

 

「もちろん、希少であることは理解したうえで言っている。それで……その返答は『この店にないから用意できない』という意味で受け取っていいのだろうか? たしか先程、そういう場合は無理だと言っていたな」

 

「いえ、違います。そうではありませんが……」

 

 バンカは言い淀む。

 内心、「とんでもないことを言い出したな、この人」と思っていた。

 

 バンカは一応、節度を持っている。

 どんなものでも提供するわけではないし提供したらマズいものは提供しない。

 選択にはちゃんとフィルターをかけている。

 

 複数人を対象とする疑似魔具の提供自体は可能だが、そんな希少なものを渡せば客は面倒な事態に巻き込まれることとなるだろう。

 

 単に強い魔具を売るという話では済まなくなる。

 所有していることがバレないように振る舞わなければならないし、バレれば狙われ続けてしまう。

 

 フェリシアの時も「後天的なギフト獲得」という面倒になりそうな要素はあったが、あちらは嘘くさいうえに証明できなかった。

 

 本人がそう言っているだけ。

 周りが言っているだけ。

 そういう噂であるというだけ。

 とても嘘くさいため、大抵は話半分に聞いている。

 真面目に考えてなどいない。

 

 そのうえ、それを証明する手段もないのだ。

 本人や周囲、その他の誰であっても「いつ得たものか」は証明できず「今持っている」ことしか証明できない。

 だからセーフだった。

 

 だがこちらは違う。

 複数人を対象とする魔具は普通に存在するし、その所持が事実かどうかを調べることは難しくない。

 面倒事になるのは間違いないといえるだろう。

 

 客に不利益をもたらすことはバンカの本意ではなかった。

 故に節度を持ち、選択の際にはちゃんとフィルターをかけていたのである。

 

 だが相手のイルメナにそういうものはなかったようだ。

 希少なものでも候補に挙げて、要求してきている。

 

 彼女はバカでも世間知らずでもないはずで、希少であることを承知してしているとも言っていた。

 つまり所有に関するリスクは許容済みであるということ。

 

「一旦、ご要望は横に置いておきましょう。僕からすればイルメナ様の意向は急ぎ過ぎに感じます」

 

「そうだろうか?」

 

「ええ。僕の提案した内容で充分ではありませんか? ボスという一つの壁を突破して、次のステージへ進める……まずはそれだけ良いではありませんか。成長したいなら堅実であるべきだ。この〈烈風剣〉はあくまでも足がかりとして、そこからさらに別の強化を模索すればいいのです。急ぎ過ぎは良くありません。地に足がついていなければ、掬われてしまうものですから」

 

 バンカは訴えかけるように告げる。

 急いていると言ったのは本心だ。

 バンカから見て、イルメナは焦っているように思える。

 

「わかっている。貴方が言うことも解る。私は求め過ぎなのだろう。都合の良いことを言っている自覚もある。だが私は……これをチャンスだと思っているんだ」

 

 イルメナはこの店にまた来られるとは思っていない。

 根拠はないが、この商談が最初で最後だと思っている。

 願いを叶えてもらえるのはこの一度だけ。

 

 そう思っているからこそイルメナは真剣だった。

 真剣に、ともすれば必死で考えている。

 

 この不可思議な店との唐突な出逢いを如何にして活かすべきか。

 

 どうすればこのチャンスの価値を引き出せるか。

 どうすれば【フェティオム】のためになるか。

 今、真に選ぶべきものは何か。

 

 強欲なのは承知している。

 出された物を拒否し、価値の上乗せを要求した。

 それが厚顔であることは充分に分かっている。

 実際に恥だと思ってもいた。

 

 だが必要だからそうしているのだ。

 重要なのはこの降って湧いたチャンスを最大限に活かすことだけ。

 今この時のイルメナにとって大切なのは自尊心ではなく、クロムとスピネル、そして【フェティオム】のみなのである。

 

「私たちはこのところずっと足踏みしてきた。何の進展もなく、いつかは強くなると思いながら活動してきた。だが時間は有限だ。いつかの前に終わりが来るかもしれない。実際、私は最近死にかけたばかりだしな」

 

 バンカは彼女が死にかけた際の話を、セルネから聞いていた。

 随分ズタボロにやられたらしい。

 

「いつか来るかもしれないものを待っているだけでは駄目なんだ。掴みにいかなければ。だからこのチャンスは最大限活かしたい。妥協はしない。するべきではないんだ。時間はもちろん、チャンスだって有限だからな」

 

 聞き終わったバンカは浅いため息をついた。

 

 面の皮が厚いと感じる話だったが、その真剣さに免じて気にしないこととした。

 この店の客としてはやる気があって欲しいものだし、むしろプラスと考えることもできる。

 態度と気持ちは重要なのだ。

 

「なるほど、わかりました。貴女の意向は良くわかりました。本当に欲深いと思いますが……理解できない話でもない。良いでしょう。こちらの疑似魔具は取り下げて、再考いたします」

 

「すまない、感謝する」

 

 イルメナは真摯に頭を下げた。

 厚かましく面倒なことを言っている自覚があるため、自然とそうなった。

 

「いいえ、ご期待に添えなかったこちらの落ち度とも言えますので。さて、それでは再考のために改めてお訊きします。お客様のご希望はどういったものでしょうか?」

 

「直接的にパーティが強化される能力だ。私たち【フェティオム】の戦力を根本的に強化できるようなものがいい。私個人の強化については気にしなくて構わない。可能だろうか?」

 

「もちろん可能です」

 

 自信のある承諾をして、バンカは別の疑似魔具を考える。

 さてどうするか――思い当たるものが一つあった。

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