【完結】能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第34話 〈彩鏃工廠〉:つまりどう所持するかということ

 ■

 

 僕は思いついたものを口にする。

 

「イルメナ様は『魔具を作る魔具』というものをご存知でしょうか?」

 

「それは……ああ、知っている。これでも元国軍所属だからな」

 

「なるほど、王家の〈彩鏃工廠〉をご存知でしたか。それならば話が早い」

 

 この国――〈シルシウム王国〉の王家が所有する魔具であり、戦時には国軍が借り受けて使用する魔具〈彩鏃工廠〉。

 その効果は「様々な効果を持つ鏃を作り出す」というもの。

 つまり「魔具を作る魔具」だ。

 

 作成できる鏃は特殊な能力を持っており、「炎を纏う」とか「毒を纏う」「雷を発する」「刃を放つ」などがある。

 面白い能力だと「消える」ってのもあったな……鏃だけ消えても意味ないだろうに。

 

 これらは「魔具っぽいもの」ではなく、分類的に正真正銘の魔具である。

 ただし魔具といっても、ポーションなどと同類で消費型の魔具――一度しか使えず、使えば失われる魔具だ。

 再利用は絶対にできないという秩序を伴う。

 

 なぜ僕が詳しいのかというと、王都在住時に忍び込んで見たことがあるからだ。

 僕の能力は僕の知っている能力しか付与できない――となれば、知見を得るために行動するのは当然である。

 

「複数人に影響を与え、全員の戦力強化を図る能力ならば、『魔具を作る魔具』が良いでしょう」

 

「そうだろうが……しかしこの店にあるのか? いくらなんでも……国軍の使うようなものなんだぞ?」

 

「ええ、もちろんあります」

 

 僕はイルメナに――というかすべての客に対して〈生体改造〉の説明などしていないし、するつもりもない。

 

 疑似ギフトや疑似魔具がどうやって生み出されるのかを彼女は知らない。

 ただそういうものを売っている、という話しかしていない。

 だからこそ、あるかどうかの話になる。

 

 無論のことだが有無は関係ないのだ。

 僕があると知っていれば作れるものなのだから。

 

「そもそもの話ですが――この手の魔具は希少ではあるものの、有るところには有る魔具ですよ。国境の要所や、大貴族の領地ならばどこにだって一つくらいあるものです。軍隊に使わせると強い魔具というのは明らかですからね」

 

「そうか、ある意味で軍に必須の装備というわけか」

 

「そうなのです」

 

 さらにいえば鉄器や火器、航空機などに近いものだ。

 相手が持っているなら、こちらも持っていなければ一方的に不利になる。

 そういう類のものである。

 故に大規模な戦闘の起きやすい国境などでは標準装備だ。

 

「僕がお薦めする疑似魔具は〈魔化変換器〉。『触れた物品を魔具化する能力』があります。作り出されるのはすべて使い捨ての魔具ですが、それでも破格の能力です。これがあれば、貴女のパーティは多種多様な魔具で武装することができるようになります。パーティの強化としてこれ以上はないでしょう」

 

 魔具を作る能力は魔具作製系能力というカテゴリーで存在している。

 この分類に共通する特徴は二つ。

 

 一つは「作製される魔具は必ず消費型であること」。

 一度使えば失われ、同じ魔具を使うことはできない。

 故に〈魔化変換器〉のように既存の物品を魔具化する場合は、魔具を作るたびに物を消費することとなる。

 

 そう考えると〈彩鏃工廠〉のように無から鏃を生み出せる――正確に言えば神力からだが――ほうが良いように思える。

 だが元が存在しない場合はその分、神力の消費が増すため一長一短だ。

 

 能力の使用者候補が少なく神力を捻出しにくいイルメナのようなケースでは前者がいいだろうが、軍のように神力要員をいくらでも用意できるのであれば後者がいいだろう。

 

 もう一つの特徴は「作製されるものの能力は既定のセットからランダムで選ばれること」だ。

 魔具作製系能力は狙った能力を付与することはできないし、付与される内容を増やすことも減らすこともできない。

 必ず既定のセット内容から選ばれるし、選ばれてしまう。

 

 これは能力に共通する仕様であるため〈生体改造〉でも干渉できない。

 つまりセット内容は僕が選んだものではなく、元々存在するものをそのまま使うということだ。

 

 セットの種類はいくつかあるもののその中にはイルメナたちに適していないものもある。

 探索者向きではないもの、戦闘向きではないものとかもあるからね。

 僕は当然そのあたりのことをわかっているため最適なセットを選ぶつもりだ。

 

「そうだな、たしかにそれ以上のものはないだろう。うん、良いと思う。それにしたい」

 

「ありがとうございます。ではご提供するうえで、非常に重要な話へと移りましょう」

 

「重要? なんだ?」

 

 僕の提案に、イルメナは今度こそ満足したように頷いた。

 しかし、重要で……面倒な話はまだ残っている。

 

「先程も申し上げましたが、複数人に影響を与える能力は希少なものです。故にそういった能力を持つ魔具……正確には疑似魔具ですが、そういうものを持っていると知られるのはよろしくない。そのうえで、知られても奪われないようにすべきだ。つまり対策が必要なのです。それはおわかりですね?」

 

「ああ、もちろんだ。私もリスクを承知したうえで要望を出した……とはいえ、国軍で使っているような能力なのだと思うと、流石に少々怖いがな」

 

 イルメナはやや引きつった笑みで答えた。

 ちょっとビビっているのは情けないが、リスクを受け入れているならまぁいい。

 

「重要な話というのはそれなのです。つまりどう所持するかということ。どうすれば知られないか、バレないか、狙われないか、奪われないかです」

 

 魔具を奪われないように対策する――というのは実のところ、わりとよくある話である。

 今回は重要性が問題になっているが、そもそも魔具とは高価なもの。

 それをどうやって盗まれないようにするかは持ち主なら考えて当然のことだ。

 

 故にその手段も、有効なものはよく知られている。

 たとえば「肌身離さず持ち歩く」とか小さい魔具なら「どれが魔具か一見して判らないようにする」とかね。

 

 聞けば当たり前と思う対策ばかりだが、そういうシンプルなやり方ほど効果が高いものなのである。

 

「所持の仕方か。能力の使用を見せなければ、どれが魔具かは判らないはずだが……それだけではダメだな?」

 

「当然ダメです。まずそれを徹底できると思えませんし、予期せぬ事態は起きるものですから。見せないことを前提にするのではなく、使っているところを見せても安全であることを目指すべきです」

 

「それは矛盾していないか? 見せれば奪われやすくなるだろう。そこにあると、それが魔具なのだと判ってしまうのだから」

 

「いいえ、矛盾していませんよ」

 

 僕はその意見に頭を振った。

 

「要はどれが魔具なのか、どこにあるかが判らなければいいのです。というわけで僕は〈魔化変換器〉をイルメナ様の椎骨につけることを提案します」

 

 僕の提案を聞いて――イルメナは頭を抱えて俯いた。

 

「待ってくれ……訊きたいことはいくつかあるが、とりあえずこれだけは確認したい。もしかして疑似魔具というのは、まさか作れるのか? それもある程度、自由な形で……たとえば形状や大きさを思い通りにしたりとか」

 

 まぁそういう疑問が浮かぶよね。

 骨につけると言った時点で、それ相応に小さいことが想像できる。

 だがそんな小さい魔具は普通に考えれば存在しないものだ。

 

 それも要望通りの能力を持った魔具がたまたま小さいなんてのは確率的にあり得ない。

 つまり作れるのだろう、と結論づけるのは自然な話である。

 

「申し訳ありませんが、それはお答えできません。お客様のご想像にお任せします」

 

 答えるわけがない。

 僕にとってはメリットゼロだからね。

 

「秘密か」

 

「はい。商売ですよ。当然では?」

 

「なるほど、それもそうか……では別の質問をしよう。椎骨とはなんだ? おそらく骨だよな? どこの骨だ?」

 

「脊椎――背骨です。椎骨は背骨を構成する骨の一部ですね」

 

 背骨は一つの骨ではなく、複数の椎骨からできている。

 人体は全部で三十数個の椎骨を有していて、その連なりが頚椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎であり、その総称が背骨こと脊椎だ。

 

 このうち僕が対象としているのは胸椎の椎骨である。

 ここが無難だろうと思う。

 もちろんそのすべてにつけるつもりも、隙間なくびっしりつけるつもりもない。

 椎骨の一つにくっつけるだけだ。

 

「背骨だと……? えっと、体内ということだな? それは大丈夫なのか?」

 

「施術的な意味で仰っているのなら、問題ありませんよ。僕は治療師のようなこともしていますので。疑似魔具の使用――つまり能力の運用的な意味で仰っているのであれば、こちらも問題ありません。十全に使用できます」

 

「だが魔具というのはたしか、手元を離れると使えなくなるものじゃなかったか? 装備する、手に持つなど触れている必要があると……仲間がそう言っていた。体内に入れたら発動できなくなってしまうのでは?」

 

 おっ、そういう知識があるのか。

 いいね。説明しやすい。

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