【完結】能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第35話 〈魔化変換器〉:いたら怖すぎる。そいつの勝ちでいいよ。

「いえ、装備状態――魔具を使用可能な状態の中には、体内にある場合も含まれます。手に持っているのも、飲み込んでいるのも、埋め込んでいるのも、すべて同じ。どれであっても能力を使用可能だということです」

 

「そうなのか……ってちょっと待て。ということは魔具の剣で刺された場合は――」

 

「刺された側が、刺されたままの状態で能力を使用可能ですね。といっても、刺した側が魔具から手を離していることが条件ですけど」

 

 装備状態は上書きされない。

 既に装備している者がいる場合、後から装備することはできない。

 必ず前の装備状態が解除され、装備者がいなくなってからでないと装備できないのだ。

 

 余談だが装備状態は手を離してもすぐに解除されるわけではない。

 少しの猶予があり、手を離してもその間にまた手に取れば装備状態は継続される。

 

「話を戻しますが、疑似魔具は椎骨の表面へと貼り付けるように装着するのがいいと思います」

 

「それなんだが、なぜ椎骨なんだ? 別のところでもいいのでは?」

 

「そうですね、候補はいくつかあるでしょう。しかし総合的に考えると椎骨あたりが無難だと思います。少なくとも骨に貼り付けるのは必須ですね」

 

 体内に魔具を入れる場合その候補は無数にある。

 だがほとんどのケースで、とある問題があるのだ。

 その問題とは「治療系能力を受けると不都合が生じる」こと。

 

 治療系能力の代表格である〈聖魔法〉、あるいは〈再生〉のような能力は対象の肉体を戻す効果を発揮するものだ。

 

 もし仮に、心臓を魔具に置き換えたとする。

 その状態で〈聖魔法〉や〈再生〉を受けたとしよう。

 そうすると置き換えた魔具の心臓を押しのけて、元の心臓が再生することになるわけだ。

 

 つまりまぁ、そうなったらたぶん死ぬと思う。

 本来まったく問題ないはずの治療を受けたのに、死ぬのだ。

 こういうのがヤバいのである。

 

 施術の際に心臓を避けてもらえばいいようにも思えるが、それは難しい。

 そもそも世の治療師の大半はそんな細かいコントロールをしていないし……できないからだ。

 

 練度が低く腕の悪い治療師は大雑把なコントロールしかできない。

 治療に関係ない部分を巻き込むなんてのはよくある話である。

 腕の傷を治すために全身を対象として能力を使う輩が山ほどいる界隈なのだ。

 

 だからといって治療を受けない前提で考えるのはリスクが高すぎる。

 そこで治療を食らっても大丈夫な方法として考えたのが、骨に貼り付けることだ。

 

 臓器に仕込むのは避けたかった。

 刺傷や圧迫、打撲などにより仕込んだ疑似魔具が破損したり、体内で予想外の移動をする懸念があるからだ。

 

 そして骨でも腕や脚はやはり避けたい。

 こちらは斬り落とされたりすると疑似魔具を失う。

 それ以外でも破損するケースが複数考えられる。

 特異部位系能力と同じような「部位喪失による能力喪失」の問題が生じてしまうわけだ。

 

 そこで失う可能性が低い場所として背骨を選んだ。

 背骨が斬り落とされることはまずないし、そうなったら治療の前に死ぬ可能性が高い。つまり問題ないということである。

 

 これは骨折に巻き込まれて魔具が破損するリスクについても同じことが言える。

 腕や足なら酷い折れ方をすることもあるだろうけど、背骨は流石にないはずだ。

 背骨がバキバキに折れたら、やはり高確率で生きてはいないと考えられるから問題ない。

 

 背骨の中でも椎骨という一部にしたのは、死後に奪われないための対策である。

 体内に仕込めばそこにあるとわからないため、たとえ死んでも奪われる心配は低いかもしれない。

 だがそれでも……たまたま奪われる可能性は考えられる。

 

 そこで背骨の――さらにその一部の椎骨というわけだ。

 ここなら死後に奪われる心配はほとんどないはずである。

 

 心臓に仕込んだ場合、知らずにたまたま引っこ抜いて奪っていくやつもいるかもしれない。

 頭蓋骨でも同様だ。

 髑髏の盃だの何だのと頭蓋骨を使いたがるヤツは多い。

 しかし流石にたまたま死体の椎骨を抜いていくやつはいないはずだ。

 

 いたら怖すぎる。それはもうしょうがない。

 そいつの勝ちでいいよ。僕が認める。

 

 そういった説明をすると、イルメナも納得できたようだった。

 熱心に語ったせいかちょっと引いてるようだけどね。

 

「考えたうえでの結論なのか……わかった、それでいい」

 

「ありがとうございます。では施術に移りましょうか」

 

 僕は席を立ち、椅子に座るイルメナの横に立った。

 

「最後の確認です。ご希望の疑似魔具は〈魔化変換器〉。装着箇所は背骨……椎骨です。金額は三千万ディナ。よろしいですか?」

 

「ああ、それでいい」

 

「畏まりました。ではこちらをご覧ください」

 

 僕は懐から取り出した〈魔化変換器〉をイルメナへと見せる。

 形状は片手で摘めるサイズの薄い板だ。

 

「これが〈魔化変換器〉です。こちらをイルメナ様の椎骨に取り付けます」

 

「こんなに小さいのか……」

 

「ええ。ですから体内に入れても、動きを阻害するようなことにはなりません。こう見えてかなり頑丈なので壊れる心配もありません」

 

 イルメナは小さいと言ったが、前世で小さい電子部品に慣れている僕としてはそこまで小さく感じていない。

 そもそも小さくすることを目的にしていないしね。

 小さすぎると紛失のリスクがあるから、ある程度の大きさは必要だ。

 

「それでは施術を始めます」

 

「時間がかかるものか?」

 

「いいえ、数分ですよ。そのまま少しお待ちください。ああ、そうだ。別に痛くはないはずですのでご安心を」

 

 そう言って彼女の背後へと移動する。

 

 さて、今回の施術はいつもと少々違う。

 今回は〈生体改造〉がメインではないからだ。

 

 埋め込む〈魔化変換器〉は既に存在するもので、体内に入れるとなれば外科的な処置が必要になる。

 それを〈生体改造〉で行うことはもちろん可能だ。

 痛みなく皮と肉を裂き、骨を露出させて、装着後にすべて治すくらいは余裕である。

 

 だがその施術内容なら別の能力を使えばもっと早いし楽だ。

 だからメインは疑似ギフトで、〈生体改造〉は補助と万が一の保険としている。

 

 手段を選ばなくていいなら〈生体改造〉でもっと楽にやれるんだけどね。

 

 たとえば椎骨の一部に能力を付与し、それを疑似魔具化するやり方もある。

 だがそれをやるとイルメナに疑似ギフトを付与することになってしまう。

 それは余計な工程だ。

 

 一時的とはいえ彼女が疑似ギフトを得てしまうし、彼女自身がそれを自覚できてしまう。それは余計な情報の開示であり露呈だ。

 必要がないなら避けるべきである。

 

 彼女はあくまでも客であり、僕やセルネとは違うのだ。

 故に手段は選ばなければならない。

 

 僕は自分に疑似ギフトの〈透過〉と〈透視〉、さらに〈遠隔接続〉と〈浮遊〉を付与する。

 

 そして手に持った〈魔化変換器〉に対し〈透過〉と〈遠隔接続〉を発動。

 その瞬間、あらゆる物体をすり抜けるようになった〈魔化変換器〉は僕の指を抜け出して落下していく。

 それを〈浮遊〉で浮かせ、〈遠隔接続〉で制御して静止させた。

 

 あとはこのまますり抜ける状態で飛ばして椎骨に付ければいい。

 イルメナの肉体に沈み込む〈魔化変換器〉を〈透視〉で目視し続けながら、位置を調整。

 

 そして予定していた胸椎の椎骨、そのうちの一つに装着。

 しかし当たり前だが、ただの板状では骨と形が合わない。

 

 そのため〈生体改造〉で疑似魔具の形状を変形させて合うように調整。

 さらに骨と一体化するように融着させた。

 僕の〈生体改造〉ならまるでそこから生えてきたかの如く、ほぼ完璧な取り付けを行うことが出来る。

 しっかり骨に付いたと言っていいだろう。

 

 あとは――ついでにイルメナの身体能力を少々いじっておく。

 これで施術は完了だ。

 

「終わりました」

 

「もう? 早いな」

 

「単純な内容でしたので」

 

 施術内容は体内に入れて付けるだけだ。

 外科手術で行うなら大事でも能力でやるならそうでもない。

 もちろん多様な能力を使える僕だからこそ、という前提があるけどね。

 

「疑似魔具の埋め込みは想定通りに完了しています。それに加えてイルメナ様の身体能力を少々向上させ、調整しておきました」

 

「何? どういうことだ?」

 

「簡潔に言えば、イルメナ様は獣人並みの身体能力になったということです」

 

「じゅ、獣人並み? それは本当……いや貴方のことだから本当なんだろうな。しかし嬉しいが、頼んではいないぞ?」

 

「もちろん代金は不要です。当店からの無料のサービスですよ」

 

 フェリシアの時もそうだったが、僕は別に無料サービスをしないわけではない。

 それに客商売なんだ。

 お客様にはなるべく得をしたと考えてもらいたいしね。

 

 そのあとは実際に〈魔化変換器〉の能力を使用可能か確認し、その能力で作製される消費型魔具のセット内容や代金の支払い方法などについて説明した。

 それで商談は終了だ。

 

「最後になりますが、お支払いにはご注意ください。当店は踏み倒しを決して許しませんので」

 

「もしやったら……どうなる?」

 

「ご提供したものを回収に伺います。ただそれだけですよ」

 

「なるほど……よく覚えておこう」

 

 イルメナの顔は引きつっていたが、別に怖い話ではないはずだよね。

 手に入れたものを失う――ただそれだけなんだから。

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