能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした   作:弐哉

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第37話 【白聖袖】【白鋲】:君に売ってもらいたい能力がある

 ■

 

 イルメナとの商談から一週間ほど経った頃、彼女たちのパーティ【フェティオム】は五十階層を突破した。

 

 僕としても嬉しい限りだ。

 というよりは、ホッとしたと言うべきか。

 

 商談ではこちらの提案を一度却下されているし、そのうえで別案の結果も良くなかったとなると……流石の僕だって自信をなくしてしまう。

 

 そうならなくてよかった。上手くいってよかった。

 心からそう思う。僕にも矜持くらいあるのだ。

 

 現在はあの商談から三ヶ月ほど経過している。

 その後もイルメナたちは順調だったようで、つい先週には六十階層を突破。

 

 すごい話だ。

 三ヶ月前にはCランクで燻っていた探索者たちが、たった一つの疑似魔具を手に入れただけで上に行けてしまうのだから。

 

 もちろん元々実力のあるメンバーだったからという前提はあるけど、それでも疑似魔具――というより魔具の有無は大きいんだな、と僕も再認識した。

 

 さて、あれから三ヶ月経過し……その間にも客は増えた。

 イルメナのあとは三人ほどの客を選んでいる。

 

 一ヶ月で一人くらいのペースだね。

 少ないように感じるが一件あたりの単価が高いし、疑似魔具や疑似ギフトは影響も大きい。

 そこまで含めて考えると、一ヶ月で一人はむしろ多いかもしれない。

 

 まぁ正直、ペース配分なんてあまり考えてないんだけどね。

 僕らはしっかり客を選んで、これだと思う客だけを相手にしている。

 その結果がこのペースだというだけなのだ。

 

 新たな三人の客には疑似魔具の販売のみを行った。

 イルメナから数えれば四人連続で疑似魔具販売だ。

 逆に言えば、疑似ギフトを提供したのは最初のフェリシアだけとなる。

 

 これはたまたまそうなった――とは言えないか。

 正直、疑似ギフトは心理的に渡しにくいんだよね。

 逆に疑似魔具は渡しやすい。

 

 なんというか、理由がないんだよね。

 疑似ギフトを渡す理由がない。

 それ疑似魔具でもいいのでは? と思ってしまう。

 

 フェリシアは本人の価値を上げるために疑似ギフトである必要があった。

 だがその後の四人はそうではない。

 疑似魔具でも解決できる問題だから、疑似魔具になったという感じだ。

 

 別に疑似ギフトをバラ撒くつもりはないし、そうしたいとも思っていないけど……少し心理的なハードルを下げてもいいかもなぁ。

 僕だって様々なものを提供したいという気持ちはあるのだ。

 

 ■

 

 次の客――六人目の客を選びながら、僕は仕事を兼ねた戯れとしてジェスタス魔導具店へと赴いていた。

 フェリシアの仕事ぶりを見るためである。

 とはいえ能力で変装しているので、彼女にも僕だとわかることはないだろう。

 

「鑑定結果はこちらでございます。売却の際にはぜひ当店へお越しくださいませ。本日はありがとうございました」

 

「よく検討してみるよ。ありがとう」

 

 そう言って、初老の紳士の姿となっている僕は店を出た。

 

 フェリシアの鑑定業は順調なようだ。

 ジェスタス魔導具店も店名を魔導具店から魔具店に変えることに決めたらしいし、店としても魔具事業に自信を持てているのだろう。

 

(変更した店名がいつまで持つか……見ものだね)

 

 僕は今でもたまにフェリシアの周囲を調査している。

 彼女だけでなく他の客もそうだ。

 客のその後は支払いにも影響が出るし、場合によっては提供したものを回収する必要もある。

 故に放置はありえない。

 

 調査によれば、フェリシアは独立するつもりのようだった。

 そうなればせっかくの魔具事業もお終いである。

 変えた店名も魔導具店に逆戻り。

 それが半年後になるか一年後になるか、もっと先なのかはフェリシア次第だ。

 

 紳士姿のままで町を歩きながら、背後に感じる気配へと意識を向ける。

 

(あの連中……今日もいるのか)

 

 ここ最近、僕はとある連中から監視されるようになった。

 だが別に正体不明の相手というわけじゃない。

 相手の正体はわかっているのだ。

 僕の持つ能力なら調べることは難しくないからね。

 

(さっさと動いてくれないかな。どうせ僕の能力が目当てなんだろうし)

 

 闇医者時代にもこういうことは多かったし、これ自体は珍しくない。

 そのため僕も相手の目的に予想はついている。

 

 だから動くならさっさと動いて欲しいのだ。

 タイミングを計っているのか何なのか知らないけど、こっちとしてはさっさと片付けたい。

 

(相手は大物だけど……その実力も噂に違わずかなりのものだ。隠れて行動している僕に気づいて、こうやって監視できているんだから)

 

 僕も馬鹿ではない。

 出歩く時は能力を用いて可能な範囲で素性を隠している。

 

 姿を変えるのはもちろん〈認知低下〉という疑似ギフトも使っている。

 これは「自身に対する五感での認知を低下させる」能力であり、使えば僕の姿は見えにくくなるし音や声は聞こえにくくなるものだ。

 

 僕を監視できるということは、それらを突破して正確に認識できているということに他ならない。

 

(こっちから動くか。うん、それがいいな)

 

 僕は相手を誘い出すようにしばらく動き回った。

 しかし相手の反応はいまいちで、最終的には仕方なく町の外の平原まで移動することとなった。

 いやぁ……思ったより慎重だな。

 

 平原に立つ僕は、周囲へ向けて呼びかけるように問う。

 

「そろそろ出てきてくれてもいい頃じゃない?」

 

 言いながら、同時に変装を解いて〈認知低下〉も解除した。

 初老の紳士から〈千変万化〉の店主バンカへと移り変わる。

 もちろん仮面も忘れてはいない。

 

 僕の周囲には何もなく、誰もいない。

 だがその何もない空間が揺らいだかと思えば、そこから二人の人物が現れた。

 

 何もない見通しのいい平原で隠れられるというのも実力の証明といえるだろう。

 あれは僕の〈認知低下〉と同種の能力だね。

 視覚を阻害していたのだ。

 

「やはり、気づかれていましたね」

 

「そりゃそうだよねぇ。能力を売れるんだから……探す能力くらいは当然、持ってるだろうし」

 

 現れたのは一組の男女。

 男の方は黒髪で、無数の白い鋲を打ったジャケットを着ている。

 Sランク探索者であり【白鋲】とも呼ばれる男、ナハトだ。

 

 もう一人は少々不健康そうな目元の女性。

 その長い黒髪は後ろで結ばれていて、白いロングコートを着ている。

 こちらもSランク探索者で【白聖袖】とも呼ばれる女性、シャリオ。

 

「おっと、これはとんでもない有名人が出てきたなぁ」

 

 などと僕は嘯いてみる。

 相手が彼らであることは当然、知っていた。

 

 彼らはこの町に住んでいれば誰でも知っているような超有名人である。

 監視者の姿を確認できた時点で、素性を調べるまでもなく判明していたのだ。

 

「Sランク探索者のお二人が僕なんかに何の御用かな?」

 

「どうやら自己紹介は必要なさそうですね」

 

「面倒な有名税だと思っていたけど……こういう時は役に立つねぇ。では単刀直入に言おうか。君に売ってもらいたい能力がある」

 

 女の方――シャリオがそんなことを言ってきた。

 単刀直入とは言ったけど……いくらなんでもすっ飛ばしすぎだろ。

 

 僕は変装していて姿も隠していた怪しい人物だ。

 今だって仮面にスーツ姿で充分怪しい。

 そんな人物に頼み事をするか?

 

 それに提案内容もだいぶスキップしている。

 こちらが――〈千変万化〉が疑似ギフトや疑似魔具の販売をしていたという確信を持っているらしいことは、まぁいいだろう。

 

 隠してはいるけど、それでも調べれば判ることだからね。

 調べることが可能ならば、とも言えるけど。

 

 確信があるとしても何の確認もなく「売れ」と言うのは流石に……もっと言うべきことがあるのでは?

 まずこちらに事実確認すべきだよね?

 会話のクッション的にもそうするべきだ。

 そういうのないわけ?

 

「何のことかわからないな……と言ってみたいんだけど、無理かな?」

 

「無理だねぇ。こちらもちゃんと調べているんだ。三ヶ月もね。何なら君の客と、売ったものを全部挙げてみせようか?」

 

「言っておきますが、貴方の客が裏切ったわけではありませんよ。俺たちの調査能力の結果です。そこは勘違いしないでもらいたい」

 

「なるほど、配慮に感謝するよ」

 

 客の口から漏れたわけではないというのは、僕も納得できる。

 僕らの選んだ客だからね。

 簡単には口を割らないだろう、という信用と信頼は最初からあるのだ。

 

 それにしてもすごい自信だな。

 こちらの情報をしっかり把握できていると信じて疑っていない。

 

 Sランク探索者なら多種多様な魔具を持っているはずだし、それで調査したんだろうけど、それにしたってすべてを詳細に調べるのは不可能なはずだ。

 なのになんで、あれほどの自信がある?

 

 ……いや違うな、ブラフなのか。

 こちらに圧をかけているんだ。

 確定情報だけではないはずなのに、すべてを知っているように話しているのはそういう交渉術というわけか……なるほど、抜け目ないね。

 

「それで、どうだい? 対価は充分に払うよ。これまでの客に提示してきた額の二倍――いや、三倍でも五倍でもいい。条件があるなら可能な限り受け入れよう」

 

「もちろん貴方のことは誰にも話しませんよ」

 

 商売としてみたらとんでもない好条件だ。

 元の単価だって高いのに……その五倍とは。

 彼らなら充分に支払えるんだろうけどさ。

 

 好条件ではあるけど……無理なんだよね。そういうのはさ。

 

「いいお話だけど、お断りするよ」

 

「……なぜだい? 断る理由はないように思うけどねぇ」

 

「あるさ。僕の店は『店側が客を選ぶ』んだ。君らは僕の選んだ客ではない。だから売らない。それだけのことだよ」

 

 僕の答えに、二人は絶句していた。

 

「信じ難いですね……破格の条件ですよ? そんな理由で断るのですか? いくらでも曲げる余地はあるはずだ」

 

「ないよ。曲げる余地なんてまったくないね。誰にだって矜持はあるだろう? うちの場合はこれがそうだってだけさ」

 

「……では論点を変えようか。どうすれば君の客になれるのかな?」

 

「さぁ? 生憎、こちらから選ぶばかりで向こうから来たことはないからね。何とも言えない……でもまぁ、認めさせてみればいいんじゃない? そういうの得意だろう? Sランク探索者ならさ」

 

 煽るような言葉だが――実際煽りだ。

 僕だってここ最近ずっと監視されて煩わされて、良い気分じゃなかったからね。

 彼らの頼み以前に、思うところはあるんだよ。

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