「力尽くでやってみろと? 後悔しても知りませんよ?」
「ははは! 強気だな、後悔させられるといいね」
「悪いがこちらも本気でねぇ。そういうことなら遠慮なくやるよ。君は死にかけるかもしれないが……安心してくれ」
真っ先に剣呑な雰囲気を出し始めたのはシャリオのほうだった。
白いコートを翻す彼女は言葉通り、本気なようだ。
「知っての通り、私は〈聖魔法〉を持っているからねぇ。いくらでも治してあげよう。怪我の心配は要らないよ。良かったねぇ?」
「その言葉そっくり返すよ。僕が治療できるのはフェリシアの件で知ってるよね?」
僕らはそれぞれ距離を取った。
戦いやすい距離を確保する。
彼ら二人は剣を抜いたナハトが前で、無手のシャリオが後ろの陣形だ。
伝え聞くシャリオのギフトなら後衛配置が当然だろう。
ナハトの能力は知られていないけど――前衛ということは特異部位系能力か。
敵側を観察しながら、こちらも準備する。
武器は構えないが疑似魔具の発動を準備しておく。
先に動いたのは、やはりシャリオだった。
「さぁて、これで終わるかもねぇ」
シャリオがこちらに手を向けてくる。
能力の発動だ。
その瞬間、両目に焼けるような鋭い痛みが走り始める。
「ぐっ! 〈聖魔法〉か……!」
「おや、これを食らってその感想とは。もしや知ってるタイプかい?」
腕の良いギフト持ちは能力の定義を操作することで、自分に都合の良い使い方ができる。
そして〈聖魔法〉の正確な効果は「対象を正常な状態にする」だ。
つまりシャリオのような腕の良い〈聖魔法〉持ちは、「正常」の定義を変えて相手にダメージを与えることも可能なのである。
傷が無い状態を「正常」とすれば治り、傷が有る状態を「正常」とすれば負傷する。
傷を治せるのなら、逆に傷を負わせることも可能。
あれはそういう能力だ。
「君の両目に火傷を加えた。痛いだろう? ああ、降参なら受け付けているからいつでもどうぞ。どこまで耐えられるか……見ものだねぇ」
だが僕もこの攻撃は予想できている。
噂によれば彼女は、探索者ギルドの前副支部長の脳を「焼いて」殺したらしいからね。
定義のできるギフト持ちだということは判っていた。
「まさか、終わるにはまだ早いよ」
僕はそう言って、発動直前の状態で待機させていた転移の疑似魔具を発動する。
同時、僕の身体は喚び出した物に――金属製の巨大な殻に包まれた。
見た目は輝く硬質の蛹である。
「何ですか、あれは? 鎧? シャリオ、警戒を」
「関係ないさ。そんなものギフトの前には―――何?」
殻の隙間から見えるシャリオの表情は驚愕に彩られていた。
気づいたようだね、これの意味に。
「能力の発動が途切れた……!? 馬鹿な、どうなってる!?」
「能力の無効化!? まさか、そんな魔具があるとは!」
相手の二人は驚いてくれたようだ。
能力の無効化? そんな大層なものじゃないさ。
これはただの仕様の穴。
魔具は装備状態でなければ発動できないものだが、この装備状態という概念は魔具だけでなく一部のギフトにも関係している。
その一部とは僕の〈生体改造〉のような「生物を対象とする能力」だ。
生物を対象にする場合、その相手の身に着けている物はすべて当人の一部として扱われる。
それこそ装備状態の魔具と同じように、だ。
故にたとえ相手が全身鎧で身を守っていても、能力を防ぐことは出来ない。
しかしここで疑問が生じる。「身に着けている」の定義とは何か、だ。
その答えは「身体に触れているか」に加えて「自分の意志で動かせるか」である。
今の僕を包んでいるこの殻は、そのいずれにも該当しない。
内部では僕の身体に触れておらず、この殻は僕が独力で動かせるものではない。
つまり僕の装備ではないのだ。
壁と同じなのである。
だから殻に視線を塞がれて、シャリオの能力は僕に届かなくなったわけだ。
僕は〈生体改造〉で両目の火傷を治しながら言う。
「良かったよ、君らが知らないタイプでさ」
おかげでこうして傷を治す時間が稼げた。
それに殻を出せたのも大きい。
身を守り能力を防げるこの殻があれば、能力発動のために集中する時間を確保できるようになる。
次に取れる手段が大幅に増えたわけだ。
「能力の無効化だって? そんな魔具があるわけない。何か理由があるはずだ。どうして効かない? 何故なんだ……?」
「シャリオ! 効かないなら切り替えましょう。俺がやります」
ナハトが剣を手にこちらへ突っ込んでくる。
凄まじい速度だ。
普人種なのに獣人以上の身体能力がある――やはり特異部位系能力だな。
それにしても、なんだか禍々しい剣だね。
刃のほとんどに白い装飾が施されていて不気味だ。
有名なシャリオの能力と違い、彼の能力は不明だが――絶対に何かあるな。
ナハトが殻へ斬りかかるその瞬間、転移で二つの〈シールドレサト〉を出して斬撃を防ぐ。
「くそ、盾だと!? それも転移ですか……!」
「今更攻めてきても遅いよ。こっちだって準備できたんだからさ。せっかく有利だったのに、もたついたせいで損しちゃったね」
能力持ちが前衛や後衛に分かれて戦うのは隙が大きいからだ。
特に魔法系能力は長めの集中が必要だから、カバーする相方が必須となる。
だから本来、独りの僕は不利なはずだった。
でももたついてくれたおかげで、それが覆っている。
「シャッター閉鎖」
僕の意思によりナハトの眼前に浮かぶ二つの〈シールドレサト〉が閉じるように結合した。
そこから、
「〈光芒閉掌〉」
二つ並んだ盾から光線が放たれ、ナハトを射る。
「ぐうっ!」
至近距離での光線の直撃は凄まじい威力だろう。
ナハトは焼かれながら大きく吹き飛ばされていった。
これは先日セルネが入手した魔具の能力。
元は「掌を並べた状態から光線を放てる」というものだったが、調整して二つで一組の〈シールドレサト〉に組み込んだ。
今では「二機の盾が結合した状態から光線を放てる」能力となっている。
「ナハト!」
吹き飛ばされたナハトのもとへシャリオが駆け寄り、治療を施す。
殻がある限り彼女の攻撃はもう通じないが回復役はできる。
前衛の戦士と後衛のヒーラー。
古典的なセットだね。
「Sランクのくせに、ちょっと甘いんじゃない? 一般人にいいようにやられてどうするの? そんなんでいいわけ?」
相手はSランクだからもう少し本気でやる必要があると思っていたけど――セットアップが上手くいっちゃったせいで、そうでもなくなってきたな。
今の僕は殻で攻撃を防げるから、あらゆる能力を発動する余裕がある。
長めの集中を要する魔法系能力も――もちろん〈生体改造〉もだ。
故に勝つだけなら、彼らに対して〈生体改造〉を使えばそれで終わる。
遠隔で身体改造して無力化完了。
それでゲームセットになる。
でもこちらには余裕があることだし、そういうのは無しにしよう。
それにこれは一応、彼らの試練だからね。
客足り得るかどうかの試練だ。
「シャリオ、認識を改めましょう。彼は強い。俺も全力でやります」
「わかった。私は回復でしか援護できないけど……」
「それで充分です。むしろ下手なことをして隙を作るほうがまずい」
シャリオにはたとえば、魔具で援護するという手もある。
彼らなら攻撃用の魔具くらい持っているだろう。
しかし、そういうことはやらないようだ。
たしかに隙を見せてくれるほうが、僕にとってはやりやすいからね。
「さぁSランク。次はどうする?」
「無論、こうしますよ」
途端、ナハトの身体に変化が生じる。
彼のジャケットに着いていた無数の白い鋲がアメーバのように全身へと広がると、彼の上半身および下半身の一部を覆っていく。
そうしてナハトは、白い鎧を纏ったかのような状態になった。
「へぇ、能力か。ギフトだよね? どんな能力?」
「言う必要がありますか?」
ナハトが剣を構えると、こちらも同じように剣に着いていた白い装飾が刃を覆い、白い剣身を持つ剣へと変貌する。
ナハトが特異部位系能力であることは、今までの立ち回りや身体能力の高さから考えて間違いない。
となるとあの白い装飾は身体の一部か?
白い装飾……もしや骨?
「なるほど、自身の骨を操る能力か」
呟くように言ってやると、ナハトは目を見開いた。
無意識の反射かな?
目は口ほどに物を言う、ってやつだね。
「それがわかったところで!」
先程と同じように突っ込んで来るナハトだが――動きが違う。
さっきもかなり速かったが、今はさらに速い。
どうして……そうか、外骨格か。
あの骨は見た目通りの骨じゃなく、能力で操作された骨だ。
全身に張り巡らされたあの骨で運動をサポートできるんだろう。
たとえば装備した骨に筋繊維のような性質を持たせているとかね。
そういう使い方をしているんだと思う。
「いいね、工夫がある! やるじゃないか!」
「ハアッ!」
殻の装甲へ向けて、ナハトの突きが放たれる。
これはまずそうだな。
たぶん抜かれる。
「〈シールドレサト〉!」
即座に〈シールドレサト〉を割り込ませて防御する。
ギィン! と硬質な音が響いた。
二機の〈シールドレサト〉がまとめて貫かれ――見事にオシャカとなる。