「くそっ、また盾ですか!」
「なら剣が良いかい? 〈ソードレサト〉!」
僕の殻の背面から装甲の一部が剥離して、宙に浮かぶ。
そうして現れたのは四機の〈ソードレサト〉だ。
それらに搭載されている能力はシンプルなもの。
以前セルネと話した際の改善点を反映したものでもある。
「行け!」
僕の合図で一機ずつ能力を発動しては爆進していく。
一発ずつ、しかし間断なく次々と放たれる様はまるでリボルバーの連射のようだ。
順番ではあるものの一息のうちに放たれた四機がナハトを穿つ。
搭載した能力は〈突貫〉。
直進し、撃ち貫く。
ただそれだけの能力だ。
「ぐあっ!」
直撃を受けたナハトが転がっていく。
命中したのは二機だけか。
しかもまともに当たったのはそのうちの一機だけ。
命中精度が良くないな。
まっすぐ進むだけだから、当然っちゃ当然だけどさ。
だが成果はあった。
「おっと、自慢の骨が粉々じゃないか」
ナハトの胸甲となっていた骨が砕け散り、大孔を空けていた。
ダメージは生身にも及んでいたようで孔の奥では流血している。
たがそれも僅かの間で、傷はじわじわと塞がっていった。〈聖魔法〉……シャリオの治癒だ。
「こんなもの……何の問題もありませんね……!」
彼が言うと同時、骨の鎧がぐにゃりと形を変えて元に戻る。
これで鎧も身体もダメージがなくなってしまったわけだ。
いやぁ厄介だな。どうしよう、これ?
「そうか、自己修復の真似事もできるんだね。便利じゃないか」
僕は鎧の修復について素直に感心した。
というか今更だけど、彼の能力って特異部位系ギフトなのに体外の部位を対象にしているんだよね。
特異部位は「自分の部位」であればいいから、「現在の身体の部位」でなくとも可能――理屈としては納得できるんだけど……これはわりと珍しいケースだ。
自分の部位が体外にあるという状態はなかなかない。
髪とか爪とか血とか、それ以外の体液とか……そういう「身体の一部だったが体外に出るもの」というのは案外少ないからね。
もちろん欠損を含めればその限りではないが、その場合は負傷を伴う。
ナハトもその欠損に該当するが――彼の場合は相方が〈聖魔法〉使いだ。
治療可能だからこそ可能な運用なのだろう。
「じゃあ仕切り直して……もう一回やろうか」
僕はナハトが立ち直る間、〈ソードレサト〉を〈遠隔接続〉で手元へ戻していた。
それを再び構え直し、四機の〈ソードレサト〉による〈突貫〉を行う。
「何度も同じ手が通用するとは思わないことですね!」
ナハトの骨の鎧――その一部がぐにゃりと分離し、前方へと射出された。
撃ち出された骨の弾丸が〈ソードレサト〉を迎撃する。
結果、四機すべてが撃墜された。
「何……!?」
驚愕だ。
まさかこんな方法で迎撃してくるとは……予想外だね。
彼は特異部位系能力の前衛で、剣士。
だからこそ近接攻撃しか出来ないものと思い込んでいた。
そしてそれが良くなかった。
この驚きが、明確な隙となってしまったのだ。
「まさかそれで終わりだとでも? 攻撃はまだ残っていますよ!」
唐突に、背後から激痛が走る。
「ぐっ……何だと!?」
ごぼっ、と僕の口から血が溢れ出した。
殻の中で自分の身体を見てみれば、僕の腹から捻れた角のような骨が突き出ている。
抜かれたのだ、殻の装甲を。
この角のような骨――彼の骨はただ飛ばすだけではなく、僕の〈レサト〉のように自由に操作できるのか。
操作し、飛ばし、集めて硬化もできるとは。
骨を操る能力……意外と汎用性があるな。
「だが、おかしい。装甲の硬さに違和感が……いや、待て。背後?」
想定よりも装甲の防御力が低い気がする――その疑問は「なぜ背後からの攻撃だったのか」を考えればわかった。
「〈ソードレサト〉の装着箇所か……!」
四機の〈ソードレサト〉は殻の背面から剥離したものだ。
故に背面にはマウントするためのスペースと接続機構が存在する。
そこは他の装甲面に比べれば繊細なうえに脆い。
あくまでも装甲面に比べれば、だけどね。
別に防御力ゼロというわけではないのだ。
しかしそれでも、他より薄いのは事実。
「よく見ているじゃないか……!」
攻撃箇所というなら他にもあったはずだ。
たとえば、この殻は隙間がまったくないわけじゃない。
視界を確保するための溝のような隙間はある。
だがそういう隙間は僕も当然警戒していた。
だから彼は背後を狙ったんだろう。
この攻撃の本質は奇襲だ。やられたね。
「あくまで余裕のつもりですか? もう終わりですよ、貴方は!」
一気に肉薄してきたナハトが骨剣を上段に振りかぶる。
この一撃は先程の角よりも格段に強い。
あれは遠隔操作だったが、今は彼自身が強化された身体能力で剣を振るっているからだ。
この一撃が決まれば、きっと装甲を斬り裂けるだろう。
そうなれば僕の敗けに繋がるかもしれない。
決まれば、だけどね。
「そうだね。もういいよ……終わりにしよう」
見るべきものは見た。もういいだろう。
僕は〈遠隔接続〉で殻に仕込んだギミックを動かした。
これをやると殻を「動かせる」ことになってしまい装備していると見なされてしまうが――シャリオは気づかないだろう。
だって彼女、知らなかったしね。
ギミックの起動により、殻の前面装甲が開いていく。
中から出てきたのは巨大な眼だった。
ナハトはいきなり目の前に現れた眼に驚愕したようで、一瞬動きが固まる。
今度は君が隙を晒したね。
「視神経接続」
僕は〈遠隔接続〉で殻の眼と自身の眼の視神経を繋ぐ。
いつぞや手を飛ばした時のように、神経を無線化して接続したのだ。
仕込んだこの眼の能力は視神経の接続により使用可能となる。
魔眼は視覚に依存する能力であり、発動のためには視力が必須なのだ。
この眼の能力とは――
「〈石化眼〉」
眼で捉えたナハトを対象に能力を発動。
「なっ! これは、石――」
そこまで言うと、ナハトの全身は石となり動かなくなった。
一瞬の出来事である。
「石化!? ナハトッ!」
石化を見たシャリオが能力を発動しようとしていた。
そりゃそうだよね、〈聖魔法〉なら石化だって容易に治せるんだから。
「僕だってわかってるよ。だから当然、潰すよね」
砂の混じった突風が巻き起こり、シャリオの目を直撃する。
「痛っ! な、なんだこれはっ!」
それによって能力の発動が中断される。
彼女の〈聖魔法〉のように何かを対象として発動する能力は、そのほとんどが視覚によって対象を選ぶ。
つまり目を潰せば実質的に能力を発動できなくなるということだ。
「ギフト持ちは人ひとりくらい簡単に殺せるけどさぁ、ギフト持ちを潰すのはもっと簡単なんだよ。やり方さえわかっていればね」
この風は彼女の目を潰すために、僕が〈遠隔接続〉で起こしたものだ。
能力の対象は彼女の周囲の空気。
その効果で対象の空気は、僕の身体であるかのように制御可能となった。
対象が定義できるなら――そこにあるとわかるなら、能力の対象にできる。
腕の良いギフト持ちは自由に定義できるが、それにはもちろん僕も当てはまるからね。このくらいは出来て当然だ。
そしてこの隙こそが、シャリオにとって最大の隙となる。
隙をカバーしてくれる相方は……もういないからね。
「最後だから、もういいか」
僕は転移能力で殻から出ると、〈遠隔接続〉と〈浮遊〉で殻をシャリオへと飛ばした。
そのまま流れるように殻の下部を開き、シャリオをその中へと格納する。
「なんだ!? おい、ちょっと!? 何をした!?」
殻の中からシャリオの焦る声が響く。
やっと目を開けたら暗闇でビビったってところかな?
「眼球を反転」
殻に埋め込まれた眼球が前後反転する。
つまり外部に向いていた眼が、内部へ向いたわけだ。
僕の増設された視野には暗闇の中のシャリオが見えた。
次はもちろん、
「〈石化眼〉」
殻の中からは、もう何の音も聞こえない。
殻をどけると石像になったシャリオが現れた。
「はいお終い。なかなか楽しかったよ、Sランク」
見るべきものは充分に見た。
僕はそう思ったから戦いを終わらせた。
客として認めてもいいだろう。
それだけのものはあったし、体験させてもらったからね。
特に殻の中の僕へ一発入れたのはかなり良かった。
そう思った瞬間、口から血が溢れ出した。
ああそういえば、あの傷まだ治してなかったな。
「これ持って帰ったら、セルネはなんて言うかな? 意外と何とも思わなかったり……するかもなぁ」
傷を治し終わった僕は二つの石像を店の倉庫に送り、その場を去った。
帰ったらセルネを呼んで、二人から話を聞いて……ああそうだ、今回使った装備も修理しとかないとだな。
やることがたくさんあるね。
いきなり忙しくなってしまった。
でもまぁ、悪くない気分だ。結構楽しかったよ。