魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第4話 【Sランク探索者】セルネ:〈生体改造〉を商売にするんだ

 ■

 

「ってわけで、そろそろ引っ越ししようと決めたんだ」

 

「ふぅん、なるほどね。わかったわ」

 

 帰宅後、少々遅くなってしまった夕食の席で、僕はセルネに話をした。

 今日起きたことを一通り……それから闇医者を辞めることと、引っ越しの件についてもだ。

 

 話を聞いたセルネは、特に反対することもなく承諾する。

 

 セルネは僕が村から連れ出した幼馴染で、同じ家に住んでいる女性だ。

 

 長い金髪に、整った顔立ち。年齢は僕と同じで二十だ。

 女性としては背が高くて、仕事の影響か筋肉質でスタイルが良い。

 はっきりいえば、スラリとした美人という感じの女性である。

 

 僕が彼女を村から連れ出した理由は、大きく分けて二つあった。

 一つは、不憫に思ったからだ。

 

 この世界は魔法的技術により文明が発展した、ファンタジー世界だ。

 魔具や魔導具と呼ばれるいわゆる魔法版の機械みたいなものもあって、生活はさほど不便を感じない――が、それでも文明レベルは近世程度に過ぎなかった。

 

 そんな世の中なので、僕らの故郷のような田舎の村の生活は結構キツい。

 それはもう、色々と……特にセルネのような美人で若い女性なら、それ相応の辛さもある。

 

 幼少期から一緒に過ごしてきた仲の良い彼女をそんな村に残すのは、僕個人の感性から判断して絶対に嫌だった。

 

「引っ越し先はどこなの? 考えてあるんでしょう?」

 

「もちろん。行くなら大都市が良かったから、候補は二つだね。東の交易都市〈リーンバルド〉か、北のダンジョン都市〈モードルード〉か。僕はどっちでもいい。セルネが決めてよ」

 

 この世界にはダンジョンというものがある。

 ダンジョンは魔物の棲む迷宮であり、危険な場所だ。

 しかしその一方で危険に見合った恩恵も手に入るため、ギフトと同じように神からの贈り物とされている。

 

「私もどちらでもいいけれど……その二つなら強いていえば〈モードルード〉ね。探索者を続けられるし」

 

「まぁ、そうなるよね」

 

「稼ぐ手段は多いほうがいいものね。それに、楽だし」

 

「昔の――低ランクだった頃ならともかく、今は流石に楽ってことはないだろ?」

 

「いえ、相変わらず遊んでいるようなものよ」

 

「そっか、今でもそうなんだ……」

 

 ダンジョンに入って攻略を進めたり恩恵を得ようとする者たちを、〈探索者〉と呼ぶ。

 

 探索者は魔物との戦いが日常の危険な仕事だ。

 そんな仕事を「遊び」といえる彼女は、探索者の中でも最高位の実力者――〈Sランク探索者〉である。

 

 だが、これにはタネがあった。

 僕の幼馴染で、田舎から出てきた若い娘がたまたまSランクになれました――なんて、そんな出来過ぎな話はないのである。

 

 それこそが彼女を村から連れ出した理由の二つ目。

 彼女は、僕の〈生体改造〉の被検体二号なのだ。

 ちなみに一号は僕自身。

 

 僕の能力について詳しいうえに、〈生体改造〉の効果を受けている彼女を村に残すことは損失でしかない。だから連れて来たのだ。

 

 彼女には幼少期の頃から、〈生体改造〉の検証と考察に付き合って貰っていた。

 

 当初は僕一人でやっていたが、一人では検証しきれないこともある。

 例えば、能力を「自分にかけた場合」と「他人にかけた場合」では同じなのか違うのかを調べたりするのは、一人ではできない。

 協力者は欠かせなかった。

 

 そうやって手伝って貰ってきた結果、今の彼女の能力は普通の人間とは比べ物にならないほど高い。

 能力的には〈Sランク探索者〉になれるのも道理なのだ。

 もちろん彼女の努力の成果でもあるけどね。

 

 会話が途切れたところで、セルネはお茶のカップに口をつけた。

 いや……お茶じゃないな。

 よく見たら、ただのお湯だ。

 

「それ……お湯だよね。僕みたいにお茶飲んだら?」

 

「いえ、別にいいわ。お茶でもお湯でも大差ないでしょう?」

 

 大差あるよ。だいぶ違う。

 セルネには昔からこういうところがある。

 世の中のほとんどのものに興味がなくて、頓着しない。

 何かを選ぶ時は、どっちでもいいと答える場合がほとんどだ。

 

 何も無い田舎の出身なんだから、都会に出てくればむしろ物欲が増すほうが自然に思えるけど……昔からずっとこの調子である。

 なんでこうなったのか、幼馴染の僕にもわからない。

 

 僕にわかるのは、彼女に勧める際のコツくらいだ。

 

「良かったら僕と同じやつ飲んでみない? 最近買った茶葉なんだけど、結構美味しいんだ。これおすすめ」

 

「そう? 貴方が言うなら飲んでみるわ。淹れてくれる?」

 

「もちろん」

 

 快く承諾した僕は二人分のお茶を淹れる。

 彼女の分と、僕のおかわり分だ。

 

 セルネは自分では頓着しないが、勧めれば受けてくれる。

 ただ、それだけだと絶対ではない。

 より確率を高めたければ「一緒にやらない?」というような誘い方がいいのだ。

 

 しばらく二人でお茶を楽しんだ後、本題に戻る。

 

「それで、これからどうするの? 闇医者はもう辞めるんでしょう? 探索者に戻る?」

 

「いや、他にやりたいことがあるんだ」

 

 僕も以前は探索者として活動していた。

 だがその目的は利益ではなく、探索者というファンタジーな職業がどんなものか体験してみたかったからだ。

 

 故に探索者ランクはセルネのように高くないし、経験も大した事ない。

 戦闘に限れば、Sランク探索者並みにやれる自負はあるけどね。

 

「店をやろうと思ってる。〈生体改造〉を商売にするんだ」

 

 僕の〈生体改造〉は売り物――サービスにできる。

 身体能力を高めたり、美容整形のように容姿を変化させたり、そういった身体の変化を提供することが可能だ。

 もちろん今までの闇医者のように、治療するのもいい。

 

 店をやるとは言ったが、実のところ仕事という認識はあまりない。

 そもそも店を開く目的は、闇医者時代と同じなのだ。

 

 これは僕の能力――〈生体改造〉を用いて世の中に関わっていくための手段なのである。

 つまり趣味というわけだね。

 

 結果的に金は稼ぐけど、金のためにやるわけではないということだ。

 仕事を兼ねた趣味、と表現すべきかな。

 

 僕はこのギフトで変わっていく人を見たい。世の中を見たい。

 あるいは、それ以上を――その先を見てみたい。

 闇医者にしろ、店にしろ、そのための手段なのである。

 

 セルネは少し考えるように視線を逸らすと、口を開いた。

 

「一つ確認させて。それは〈疑似ギフト〉も売るという意味でいいのよね?」

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