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「私は妹を助けたかったんだ。〈聖魔法〉で何度も治療したけど……全然ダメでねぇ。助けられる能力を探したよ。必死でね」
「それで目をつけたのがアドルム……というより〈千変万化〉というわけね」
セルネがそう返すと、シャリオは頷いた。
現在、僕たちは〈千変万化〉内の空き部屋にてSランクの二人から話を聞いている最中だ。
部屋の中にはテーブルと椅子のみがあり、そこに僕とセルネ、シャリオとナハトの四人が座っている。
室内に余計なものは一切置いていない。
この期に及んで暴れるとは思っていないけど、念のために物は減らした。
「俺たちからすれば、貴方たちは条件にピッタリでした。魔導具屋の少女の治療から腕の良い治療師であることは予想できましたし、そのうえ後天的なギフトの獲得にまで関与していましたからね。解決の糸口になり得るものが二つもあったんです。接触しないわけにはいかなかった」
「とはいえ調査を重ねて、慎重に判断したけどねぇ。なにしろこっちは弱みだらけだからさ。交渉を前提に接触するとなると、君たちの人となりが死活問題になってしまうからねぇ」
「理屈と事情はわかるけどさぁ、あんなふうにずっと監視されて煩わされるのは気分が良くなかったよ。やめて欲しかったね」
ずっと見られていることも、見られていると意識しなくちゃいけないことも、どっちもそこそこのストレスなんだよね。
「すみませんでした……まさかそんなに前から気づかれていたとは」
「侮り過ぎよ。Sランクの座に胡座をかいていたわね?」
「仰る通りだねぇ……本当に」
がっくりうなだれるシャリオを見て少しは溜飲を下げたのか、セルネがこちらを向いて訊いてきた。
「で、アドルム。どうするの? 手を貸すつもり?」
「それはもちろん。経緯はどうあれ、一応客だと認めたしね」
認めたからこの場にいるとも言える。
客でない者を店に入れても意味がないからね。
「私は正直、まだ反対よ。こんな……噛みついてきた連中の相手なんてしなくていいでしょう?」
「噛みついたわけではないんですが」
「事実でしょう。黙りなさい」
セルネはそんなキツめの発言をしたが、これでもマシなほうだ。
ここに連れてきた時点での彼女はもっとバチバチにブチ切れていたからね。
それを宥めて説得し、僕が客と認めたことを納得してもらって――それでやっとこの程度まで落ち着いたのだ。
セルネからすれば彼ら二人は襲撃者である。
いくら僕が煽った結果とはいえ「付け狙った末に戦闘し、僕に傷を負わせた」というのは紛れもない事実だ。
彼らの印象が悪いのも理解できる。
「セルネの言うこともわかるけど、僕は全部承知のうえで彼らを客と認めたんだ。充分に納得してるんだよ。後悔してないし、撤回するつもりもない」
「……わかったわ。貴方がそう言うなら、私はもう反対しない」
「悪いね。何の相談もせずに決めちゃって」
「それは本当にそうよ。次からは気をつけて」
「はは……ごめん。気をつけます」
シャリオたちの問題を解決すると決めたあとは、詳しい話を聞いてみた。
件の治せない妹というのは――どうやらたまたま手に入れた魔具の能力を不用意に使ってしまった結果、災難に見舞われたらしい。
魔具のなんらかの能力により体調が急激に悪化した。
症状としては発熱や頭痛、身体の痛みなどで、かなり衰弱しており数年もの間ほとんど動けない生活が続いているそうだ。
魔具のせいなら鑑定能力で魔具の能力を調べれば、もっと情報を得られると思ったけど――残念ながらその魔具は消費型で、使ったら壊れてしまったという。
「消費型で、しかもデメリット能力? どちらもわりと珍しいのに二つの組み合わせなんて、ものすごい低確率ね」
「まったくだよ。これがくじ引きなら良かったんだけどねぇ」
魔具の能力は多種多様だ。
そのため自分に害をもたらすデメリット効果というものもある。
意図せずそういうデメリット効果の被害に遭ってしまった場合、普通は当該魔具の鑑定によって解決策を見つけるものだ。
だが今回はそれができない。
消費型であるため既に魔具が失われてしまっていて、鑑定できないのだ。
消費型という特徴が、いわゆる証拠隠滅のように作用してしまっている。
最悪の組み合わせだ。流石に同情するね。
「それで、どうかな? 妹は治せそうかい?」
「うん、まぁたぶん治せるよ。話を聞いた限りではね」
「……本当ですか? シャリオでも治せなかったというのに?」
僕にとってはその「シャリオでも治せない」という情報が一番重要だった。
この事例――原因はおそらく、ウイルスだ。
闇医者時代に何度か診てきた「〈聖魔法〉で治らない病」のうちの一つである。
たぶん、発動してしまった魔具の能力は「体内に特定のウイルスを発生させる」というようなものだったんだろうね。
細菌やウイルスによる感染症の根治に〈聖魔法〉は使えない。
〈聖魔法〉は「対象の身体」のみに影響するものであるため、対象でない細菌やウイルスには効果を及ぼさず何のダメージも与えられないからだ。
能力を使用したその時だけは、体調が健康時のそれに戻るため良くなったように見えるかもしれない。
しかし体内のウイルスはまるで減っていないせいで、時間が経てばまた悪化する。
根本的な治療にはならないのだ。
だがまったくの無駄だったとも言えない。
シャリオの治療がなければ、とっくに死んでいた可能性だってあるからだ。
延命という側面から見れば充分に仕事をしていると考えることもできる。
僕がそのような説明をすると、シャリオたちは微妙な反応を示した。
「ウイルス……? そんなものがあるんですか」
「一部の病に〈聖魔法〉が効かないことは知っていたけど、理屈までは知らなかったねぇ。そうか、対象に含まれないのか……」
この世界の医療や生物の知識は前世の地球ほどじゃない。
研究者ならともかく、ギフト持ちというだけの一般人ではそのあたりの知識だってなくて当然だ。
「不幸中の幸いだけど、人から人へ感染するタイプじゃなくてよかったね。もし感染するなら、妹がどうとかいう話じゃ済まなくなってたよ。確実にね」
シャリオへの影響がないということは、人から人への感染はないタイプだ。
他者に感染するならデメリット能力の枠を越えているし、一つの魔具としても強すぎるから納得だけど……もし感染していたらと考えると恐ろしすぎる。
「それで、どうやって治療するんだい?」
「それは――いや、とりあえず行ってみようか。思いつく手段はあるけど、見てみないことには確信が持てないからね」
そうして全員で妹さんを治療しに向かい、結果として妹さんは完治した。
しかし……治療の際にちょっと揉めたりもした。
揉めた内容は、もちろん治療の方法についてである。
彼らは僕の提案した手段がお気に召さなかったのだ。
僕が提案したのは「頭部より下を〈生体改造〉でコピーした後、頭部のみを元の身体から移植する」という方法だった。
感染した身体が問題なら捨ててしまえば良いという理屈だね。
これが一番簡単で早い解決法だと思う。
普通はそんなことしたくてもできないが、僕の能力なら可能だ。
ちょっと絵面は悪いかもしれないが、どう考えてもこれ以上ないくらい有効な方法のはずなのに――揉めた。
理由は『いくら能力とはいえ、実行して大丈夫な方法には思えない』からだそうだ。
不安なのはわかるけど……それをこの段階で言うか?
そういうのは協力を求める前に済ませておいてくれ。
能力を使う以上、どんな手段が出てきても許容するべきだよ。
そう言ってやったら『限度がある』と返された。
まぁ確かに、限度は超えてると思う。
僕だって普段ならこんなリスキーな方法は採らない。
頭部の移植なんて、脳への影響が予想できないからね。
そして僕の〈生体改造〉は脳の治療には使えないから、何かあったらそれで終わりだ……でもそれは「普段ならば」という話でしかない。
今回は違う。
今回は凄腕の〈聖魔法〉使いたるシャリオがいる。
彼女の〈聖魔法〉は僕の〈生体改造〉と違い脳にも使えるため、何かあっても治せるのだ。
保険があるからこそ可能な方法なのである。
そういうわけで『僕は君を信用してるから、君も僕を信用しろ』という感じの良さげな説得をして、なんとか理解を得られて実施できた。
その結果、妹さんはちゃんと治ったというわけだ。
何の問題もなく完了したため、シャリオの出番はまったくなかった。
そのわりにシャリオたちはちょっと青い顔をしていたように思えたけど……まぁいいか。治ったんだし、済んだことだよ。
今回はいろいろあったわけだけど――代金はいつも通りしっかり請求しておいた。
治療に際してシャリオの能力をあてにしたが、それは当初の監視による迷惑と相殺してチャラにしたため値引き等は一切していない。
いつもと違うことがあるとすれば、支払いが一括だったことだ。
治療のみの施術とはいえ結構な金額になったというのに、流石はSランク探索者……金持ちだね。
全額の支払いが終わった客は何気に初めてだったので、売掛金だらけの当店もようやくまともな利益が出たことになる。
別に稼ごうとは思っていないけど、分類上は店だしそういうところも一応気にしてはいるんだよね。
本当に一応だけどさ。