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「まさかこうして、君と探索することになるとはねぇ」
「私は別に求めていないわ。アドルムもね」
セルネの隣を歩くシャリオがしみじみとそう言うと、セルネは露骨に顔をしかめた。
彼女たちが今いるのはダンジョンの七十階層。
Sランクでもなければ立ち入ることのない淘汰領域だった。
本来別のパーティである二人が共に行動しているのは、シャリオとナハトが〈千変万化〉に協力することとなったためだ。
その理由はもちろん、シャリオの妹へ施した治療に関係している。
「そう言わないでくれよ。君たちには本当に感謝しているんだ。あのままでは妹は遠からず死んでいただろうからね。知っているかい? 治療系ギフトで治らない病の大半はそのまま亡くなるそうだよ。ギフトでダメなら打つ手がないからねぇ」
「……道理で闇医者が儲かったはずね」
当時のアドルムは【最後の癒し手】などと大層な異名で呼ばれていたが、それは大げさではなかったわけだ。
「でもたしか貴女、感謝じゃなくて謝罪と言っていなかった?」
「おっと、そうだった。アドルムには内緒だよ。また拒否されてしまうからねぇ」
協力について、アドルムはすんなり受け入れたわけではない。
むしろ最初は明確に拒否していた。
アドルムは対価に過不足が生じることを良しとしない。
治療の対価は金銭としてしっかり受け取っているため、それ以上の過払いは拒否したのだ。
これに対し、シャリオは協力の申し出を「治療の対価」ではなく「迷惑をかけた謝罪」だという方便を使った。
対価でなければ拒否する理由は無くなる。
そうしてアドルムは押し切られる形で――やり込められた結果なのでやや不承不承ではあったが――協力を受け入れることとなった。
「どうかしら。最初は拒否していたけど、今はわりと楽しそうだし」
「今日だってナハトと何やら遊んでいるみたいだしねぇ?」
元々、今日の探索はナハトを含めた三人で行う予定となっていた。
しかし急遽、ナハトの装備を作るという話になりその調整でナハトが外され、この二人での探索となっていたのである。
「ナハトが戻れば予定通り――百階層に挑むことになるねぇ。君は行けると思うかい?」
経緯はどうあれ、Sランクが三人も集まったのだからそれなりの目標を立てている。
それが百階層への到達と攻略であった。
ダンジョンの百階層とは、「探索者の頂点」にして「人類の上澄み」でもあるSランク探索者の肩書きでさえ最低限の挑戦資格にしかならない、本物の魔境だ。
攻略ではなくそこへの到達のみでさえ、人類史上において片手で数えられる程度しか成されたことのない偉業なのである。
故に自信のある者などいない――まともならば。
「たぶん普通に行けるわね」
「すごい自信だねぇ。ソロで九十二階層は伊達じゃない、というところかな」
セルネの最高到達階層は九十二階層。
これは当然、単独での到達だ。
「私は別に、行き詰まっていたわけではないのよね。アドルムに止められていただけだから」
「止める? なんで――ああ、ソロだからかな? 〈石化〉とか食らったら独りじゃ復帰できない」
「そうよ」
シャリオの頭を過ったのは、先日の戦いの内容である。
あの時、ナハトが石化しただけではまだ敗けていなかった。
治療系能力を持つシャリオがいたため、治療が成功していれば立て直せた。
立て直せなかったから敗けたとも言える。
「行動不能に陥る能力を食らったら終わるから、止めておけと言われたのよね」
「ということは、いたのかい? 〈石化〉や〈麻痺〉の魔技を持つ魔物が」
「いえ、まだ見ていないわ。でも、いてもおかしくないのはわかるでしょう? 〈石化〉は伝説級のギフトだけれど、ダンジョンの奥では何が出るかわからないもの」
ダンジョンは奥に行くほど魔物が強くなり、魔具も強力なものが入手できるようになっていく。
そしてもちろん、魔物の使う能力――魔技も強力で希少なものが出てくるようになる。だからこそダンジョンの奥地は魔境なのだ。
「やれやれ、そんなものを相手にしなきゃいけないとはねぇ。恐ろしい話だよ」
「貴女は前に出ないでしょう。そもそも回復役だし……怖いとしたらナハトのほうだと思うけれど、それは今作っている新装備次第ね」
「強いのを作ってくれているといいねぇ。私を安心させてくれるようなやつをさ」
シャリオは未だ見ぬ新装備と、アドルムの手腕に期待しておくことにした。
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「次はこんな感じで……どう?」
「いいですね。さっきよりこっちのほうが合っています」
店内にある試験室にて、僕はナハトと共に彼の専用装備を製作していた。
現在のナハトは骨製の全身鎧で覆われている。
今の鎧は先日の戦闘で使用していた骨の鎧と比べると、明らかに使用されている骨の量が違っていた。
それもそのはずで、これは僕の〈生体改造〉で増量済みだからだ。
話を聞いてみたところナハトの装備となっていたあの骨は、シャリオの〈聖魔法〉を利用して量を確保していたらしい。
それについては僕の事前の予想とほぼ同じだ。
だが言うまでもなく、骨を用意するなら僕の〈生体改造〉のほうが適している。
たとえば妹さんの身体を作ったように、全身の骨を丸々コピーすることだって可能だ。〈聖魔法〉での回復前提の確保と違い、痛みもないしね。
というわけで彼の体中の骨をコピーし、それで新装備を作製中なのだ。
「すごいですね。これほど骨があると性能がまるで違う。硬度もかなり高まりましたし、筋力の補助に回せる分も増えた。これだけでもかなりの強化ですよ」
ナハトは骨を使用して防御するだけでなく、筋力補助も行っていた。
そのためこの鎧は彼にとって、さながらパワードスーツのようなものだ。
「それはよかった。もしかして隠し武器みたいなこともできたりする? たとえばこう、籠手の形状を剣に変えたりして」
「できますよ。こういうことですよね?」
ナハトは籠手に手を当てると、そこから引き抜くように骨の短剣を三本作り出してみせる。
「前の籠手は薄く伸ばしていただけなので武器としての強度まで持たせることはできませんでしたが、今ならちゃんと使えるものを作れますね」
「その籠手だけで腕一本分くらいの骨が圧縮されてるからね。そのうえ能力で強度を上げれば、武器にするのも余裕でしょ」
とはいえ……うーん、僕の思ってたのと絶妙に違う。
僕が考えていたのは、籠手そのものを刃に変えることだったんだけど……まぁいいか、できるとわかるだけで充分だ。
「じゃあ次はこれ試そうか。〈ボーンレサト〉だよ」
僕が取り出したのは、ナハトの骨でできた槍状の〈レサト〉だ。
とはいえ僕らが使っていた〈レサト〉とは違い〈遠隔接続〉や〈浮遊〉は付与していない。
ナハトの場合、それらは彼の自前のギフト――〈装骨靭〉により代用可能だからだ。
「アドルムが使っていた装備ですね。やってみましょう」
ナハトは〈ボーンレサト〉を手に取り装備状態にすると、手から浮かせたのち高速で射出。さらにそこから急停止させたりして、自在な操作を見せる。
先日の戦闘で僕が実際にやられたことでもあるが、彼のギフトは自分の能力を飛ばしたり、自由に操作することが可能である。
つまり自身の骨限定とはいえ、〈遠隔接続〉と〈浮遊〉を含む能力なのだ。
さすがはギフト。
性能のイカれ具合は魔具や疑似ギフトを軽く上回ってくるね。
「基本性能は問題ないか。付与した能力の使用は?」
「問題なく可能です。〈突貫〉」
ナハトが能力を発動する。
その瞬間、浮遊する骨が凄まじい勢いで前方へと射出された。
本当に完璧に操ってるな。
むしろ、僕やセルネが操作するより素早く柔軟に動いている。
何これ?
僕らが〈遠隔接続〉と〈浮遊〉で一生懸命操作してたのは何だったの?
「これはいい武器ですね。攻撃の幅がかなり広がりますよ」
「じゃあそれと、シールドバージョンも併せて基本装備にしようか」
「まだ増やすんですか? 流石にそこまで厄介になるのも……」
「別に良いよ。店に協力してもらう以上、君らは従業員だ。それなら装備の支給は福利厚生の一環になる。加えて僕が好きでやっていることでもあるし……それに能力の使い方を考えるのは面白いからね。ナハトの能力は興味深いよ」
口には出さないが、良い玩具を手に入れたような心境だ。
失礼すぎるから言わないけどね。
僕が答えると、なぜかナハトは声を低めて憂いを滲ませた。
「面白い……ですか? 俺の能力が?」
「うん。でもその反応、君自身はそう思ってない感じ?」
「ええ、まぁ。俺のギフトはいわゆるハズレギフトですからね」
「はぁ? ハズレ? この性能で?」
驚いてしまった。その性能でハズレ扱いはない。
たしかに世の中にはハズレ扱いされるような使いにくい能力もあるが、ナハトの〈装骨靭〉は明らかに違う。
僕が馬鹿みたいに驚いていると、ナハトは気づいたように指摘してきた。
「もしかして勘違いしていませんか? 俺のギフトが良いもののように思えているとしたら、それは今の俺しか見ていないからですよ」
「ん? どういう意味?」
「俺の能力は『自身の骨を操る』ものです。骨があれば使いやすいですが、そうでなければできることなんてほとんどないんですよ。考えてみてください。俺がシャリオと出会うまで――自分の骨を増やせるようになるまで、能力をどう使っていたと思いますか?」
言われて考えるが……たしかに何もできないかもな。
特異部位系ギフトに共通する身体強化くらいしか、恩恵がないかもしれない。
骨というのは通常身体の内側にあるもので、その状態で自由に操れてもあまり意味がない。それこそもしもの時の備えにしかならないだろう。
たとえば生身を斬りつけられた時とか、そういう場合のね。
切断を防げる、骨折しない……恩恵はそのくらいだろう。
「わかりましたか? 俺の能力は充分ハズレなんですよ。昔は使い道のない能力だったんです。ハズレのギフト持ちは結構悲惨ですよ。役に立たない能力なのに、周囲からはギフト持ちとして認識されていますからね。嘲笑を受けることも珍しくないんです」
「そうなんだ……変な話だね。別に損する能力ってわけでもないのに」
役に立たないとしてもギフトはギフトで、損をするわけじゃない。
むしろ特異部位系なら、身体能力は常人よりも高いという効果を発揮しているはずだ。それだけで常時より確実に優れている。
つまり嘲笑の対象になどならないはずだが……玉の中でも価値が低いというだけで馬鹿にする輩がいるとはね。
そいつがギフト持ちでない限り、そいつより確実に優れているはずなんだけどな。世の中いろんな人がいるものだ。
「ああ、そうだ。ハズレギフトといえば、知っていますか? 北部のとある都市には『ハズレギフトを魔具にできる』という技師がいるそうですよ」
ちょっと暗めの話題になったせいか、ナハトがやや強引に話題を変えた。
「は? 何それ、魔具を作れるってこと?」
だとしたら驚きだ。
僕以外にそういうことができるとは。
だがおかしいことではない。
僕だってやっていることなんだから、他の誰かにできてもおかしくはない。
「おそらくそういう意味だと思います。俺も最近知ったばかりなので詳しくはありませんが……その様子だと、アドルムは関係していないんですね」
「僕はこの町に来て以来、町から出てないからなぁ。魔具を作れる、か。それ本物かな――ってちょっと待って。ハズレギフトを魔具に変える? つまりギフトを消して魔具にするってこと?」
「そういうことになると思いますね。もっとも真実なら、ですが」
もしそうなら、それはかなり僕に近いことだ。
いや、むしろ言葉通りなら僕より上か?
僕は疑似ギフトを疑似魔具に変えているけど――それはあくまでも部位喪失に伴う能力の喪失だ。
間接的に、あるいは結果的に失わせて魔具に変えているだけで、直接的にギフトへ干渉しているわけじゃない。
もしもその技師のやっていることが直接的のほうなら、僕にできないことをやっている。そしてその部分のみならば、僕より上と言えるだろう。
「気になってきたな。ちょっと詳しく調べてみようか」
そうして僕は、その謎の技師について調べることにした。
そのせいで「ハズレギフトと人造魔具」にまつわる事件に巻き込まれ――いや首を突っ込むことになるのだが、それは別の話だ。
僕の作った〈千変万化〉は続いていく。
様々な人に変化をもたらし、その人生に影響を与えながら在り続ける。
そして数多くの客と関わることで、ほんの少しずつ世の中を変えていく。
僕たちは客を選び続ける。
いつの日か、この店の終わるその時まで。
お読み頂きありがとうございました。
完結です。
元々15万字前後で完結しようと思っていまして、何とか予定通りに終わらせることができました。
エタらなくてよかった。マジで。
予想以上に多くの方々に読んで頂けたことは大変嬉しく思います。
そのせいで途中「30万字くらいまで頑張ってみっかぁ!」などと増長したりもしましたが、なんとか冷静になることで無事に予定を優先させることが叶いました。
危なかった。見切り発車は良くないからね。
絶対にエタりたくなかったのだ。
着地点の喪失とリソースの誤認はフラグだよ。
終わらせ方は結構悩みました。
「作品としては終わるけど物語は続く」的な感じを目指した結果、ちょっと打ち切り感あるかもしれない。
難しいところですわ。
次回作ではもうちょいシンプルな話が書きたいですね。
というわけで、次もまた興味を持って頂ければ幸いです。
改めまして、ありがとうございました。