魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第5話 「魔導よろず屋〈千変万化〉」:〈疑似ギフト〉と〈疑似魔具〉を売る

 僕の〈生体改造〉は身体の変化に「特殊な能力を有する状態」を含めることで、疑似的に能力を持たせることが可能だ。

 

 これは身体能力の改造結果を、能力だと言い張っているわけではない。

 

 たとえば腕力を強化することで、「実質的に〈腕力強化〉の能力を持っていることと同じだろ」と強弁しているわけではないということだ。

 本当にただ言葉通り、能力を持っていることにして実現している。

 

 これは「能力」という概念が――いうなれば「生体機能プリセット」と呼べるようなものが存在するこの世界だからこそ、通用する理屈だと言えるだろう。

 そういう意味では、この世界の生物は本質的に誰でも能力を持ち得るのだといえるのかもしれないね。

 

 ちなみに付与できるものは「僕が実在すると知っている能力」か「実在する能力を少し改変した能力」のみである。

 

 故にどんな能力でも付与できるわけではないし、「自分を不老不死にする」とかそういう能力も付与できない。

 それがやりたければ、まずその能力を見つけるところから、ってことだ。

 

 諸々の事情はともかく、僕の能力は「能力を付与する」こともできる。

 それによって人に付与する能力が「疑似的なギフト」――〈疑似ギフト〉だ。

 

 僕はセルネの問いに答えを返す。

 

「うん。それともちろん、〈疑似魔具〉もね」

 

 この世界には、魔具や魔導具というものが存在する。

 

 魔具とは超常的な機能を有する道具のことで、主にダンジョンからしか得られない超常の物品だ。

 ギフトみたいなものと考えていい。

 そして魔導具とは、人類が魔具を真似て作った同種の道具のこと。

 

 要するにダンジョン産の高性能なアイテムが魔具だとすれば、人類産で劣化版のアイテムが魔導具である。

 

 僕の能力はこの魔具を、魔導具とは別の形で真似ることも可能としている。

 

 作り方は単純。

 まずは人体の一部に疑似ギフトを付与する。

 そのうえで持たせた能力ごと部位を切り離し、見た目を無機物に変えれば完成だ。

 大雑把な説明になるが、これで大体合っている。

 

 切り離した「元」人体とはいえ、能力を有する道具には違いない。

 それこそが〈疑似魔具〉なのである。

 

 疑似ギフトにしろ疑似魔具にしろ、僕はある程度自由に作り出すことが可能だし、その性能も高いと自負している。

 何も知らない者を騙そうと思えば余裕で簡単に騙せるくらいには、本物に近い。

 

 だがどれほど性能が良くて本物に近いとしても、あくまで「似た別物」だ。

 決して本物ではない。

 だからこそ「疑似」とつけているわけだね。

 オリジナルを真似た劣化版という意味では、魔導具と同じなのだ。

 

 僕の答えに、セルネは眉をひそめながら心配そうな顔をした。

 

「あれを……疑似ギフトと疑似魔具を売る? それは大丈夫なの? 使っている側の私としては、その……いろいろ問題がありそうとしか思えないけれど?」

 

 セルネは能力の被検体として、疑似ギフトや疑似魔具を有している。

 言い換えれば、常時たくさんの能力を持ったまま生活しているのだ。

 

 物である疑似魔具はともかく、能力である疑似ギフトは簡単につけ外しできない。

 それができるのは〈生体改造〉を持つ僕自身だけだ。

 

 そのため他者であるセルネは、常時能力を有したまま生活している。

 彼女は探索者だから外したあと付け忘れた――なんてことになると面倒だしね。

 付けたままのほうが都合がいいのだ。

 

 常時能力に向き合う彼女だからこそ、疑似ギフトや疑似魔具の力は僕以上によく分かる部分もあるのだろう。

 そして分かるからこそ、これが世の中にバラ撒かれた時のことを心配しているというわけだ。

 

「能力を配るような真似をすれば、身柄を狙われるんじゃない?」

 

「なるべく隠れてやるよ。店を開くと言っても、公然と構えるつもりはないんだ」

 

「手に入れた能力で暴れるヤツも出そうよね?」

 

「客の厳選で対処するよ。サービスを無節操に提供するんじゃなくて、こちらが選んだ客だけを相手にしようと思ってる」

 

「つまり押し売りみたいな感じにする……ということ?」

 

「いい例えだね。そう、押し売りだ。客はこちらが選び、その客にしか売らない。店のことを言い触らすような人物や、迂闊なことをする考えの浅い人物は選ばないようにする」

 

 客を選ぶことで、店の情報が不本意に広まることを防ぐ。

 まともな客だけを相手にすれば、それがそのまま悪評を避けたり、大きな問題を起こさないことに繋がるはずだ。

 

「隠匿と厳選……なるほど、考えているのね」

 

「もちろん。構想は前からあったからね。このやり方に問題があるとすれば、あんまり稼げないことだけど――」

 

 闇医者時代も割と患者を選んでいたけど、それよりもさらに客を絞るつもりだ。

 そのため稼ぎという点では、闇医者のほうが上になるだろう。

 でも別に問題ないんだよね。

 

「稼ぐつもりがあるの?」

 

「いや、ないね。正直、店の件は闇医者と同じで趣味みたいなものだからさ」

 

 僕はこれで稼ごうと思っていない。

 稼ぐだけならもっといい手段は他にあるしね。

 仕事や商売という扱いではあるものの、実質的に趣味なのだ。

 

「商売を舐めた発言ね」

 

「ははは! そうかもね。でも僕は本気でやるつもりだよ」

 

 趣味だとしても、いや趣味だからこそ手抜きはしない。

 僕はそのつもりだ。

 

「意気込みはともかくとして……大体わかったわ。とりあえず大丈夫そうね」

 

 セルネは納得した様子で頷いた。

 

 彼女は基本、僕に反対しない。

 だが絶対に反対しないわけでも、意見しないわけでもない。

 ちゃんと考えを教えてくれて、指摘してくれる。

 昔から――ギフトの検証や考察を始めたばかりの頃から、彼女には助けて貰ってばかりだ。

 

「店の名前は考えてあるの?」

 

「『魔導よろず屋』ってのはどう? 提供するサービスはいろいろあるし、良いと思うんだけど」

 

 一応考えていた暫定案を口にすると、セルネは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「あっさりしすぎね。特徴がないわ。もう少しひねったほうが良いんじゃない? というか魔導よろず屋って店名じゃなくて、店の種類でしょう? 武器屋とか防具屋みたいな。店名は別に考えたほうがいいわね」

 

「そうかな……じゃあえーと……『魔導よろず屋〈千変万化〉』! これでどう?」

 

 僕の能力は無数の変化をもたらすもので、よろず屋の「よろず」は漢字で書けば「万」だ。

 それらを加味して〈千変万化〉という、それっぽい店名を考えてみた。

 といってもこの世界に日本語はなく漢字もないので、この洒落がわかるのは僕だけなんだけど。

 

 セルネの表情は――今度は悪くない。

 

「〈千変万化〉ね……売り物の示唆にもなっているし、良いと思うわ」

 

「良かった。それじゃ開業に向けて、しばらく忙しくなりそうだね」

 

 この夜、この瞬間から僕らの「魔導よろず屋〈千変万化〉」が始まった。

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