魔導よろず屋『千変万化』 ~ギフト〈生体改造〉で商売始めました。治療や魔具の販売、魔眼などの能力を提供しております~   作:弐哉

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第8話 〈モードルード〉:まるで犯罪者だ。分類としては商人のはずなんだが

 ■

 

 僕たちが〈モードルード〉にやってきてから、およそ一ヶ月。

 引っ越しを済ませ、「魔導よろず屋〈千変万化〉」の開店準備も最近ようやく済んだところだ。

 

 引っ越しにしろ店の準備にしろ、僕にはそこまで大変なことじゃなかった。

 なにしろ〈生体改造〉は無機物にすることもできるし、疑似魔具という「能力を持つ物」を作ることも可能だからね。

 

 それっぽい土地と建物さえ購入すれば、内装を整えるのは楽な話だ。

 不都合があっても疑似魔具を用いることで解決できる。

 治安が気になるなら疑似魔具で防犯システムを構築すればいいし、部屋が狭ければ〈空間拡張〉の疑似魔具を使って拡げればいいだけだ。

 

 準備期間中は外の仕事をしていなかったのかというと、そうでもない。

 店とは関係のない僕個人の仕事として、押し売りスタイルでの軽い治療と美容整形などをやっていた。

 

 これからは積極的に押し売り……あるいは飛び込み営業をしなくてはならないため、その練習も兼ねての仕事だね。

 

 とはいえ、これから僕らは〈千変万化〉として活動するわけで、その前に働きすぎて気力を削がれては本末転倒。

 

 そのため個人としての仕事は適度に、軽めにやっていたつもりである。

 だがそれでも結構しんどかった。

 

 治療はともかく、美容整形の反響が殊の外大きかったからだ。

 施術した人数はせいぜい十数名だというのに、今の〈モードルード〉には「凄腕の美容整形師がいる」みたいな噂が立ってしまっている。

 

 こうなった原因としては、やはり美容整形がそこそこレアだからだろう。

 この世界には医療に使えるギフトや魔具が存在しているように、美容整形に使える能力も存在する。

 

 だが世に存在するというだけで、整形に使える能力は決して多くない。

 治療と比べれば数も種類も差がありすぎるのだ。

 治療のほうは〈聖魔法〉とか治療系の魔具とか、癒やしの能力というだけならそれなりにあるんだよね。

 

 もっともそのほとんどは癖があったり低性能だったりするから、お手軽で便利な治療とは言い切れない。

 重傷化するほど治療が難しくなるのはもちろん、確実に治せるわけでもないのだ。

 

 治療のほうはともかくとして――整形に使える能力は限られているわけだから、〈モードルード〉という一つの街で十数人も施術すれば、そりゃ有名になってもおかしくない。

 美しさを求める女性たちの熱意にはすごいものがあるな、と痛感している。

 

 いや正直、顔を隠した闇医者時代のやり方で、さらに押し売りスタイルでやっていて本当に良かったと思う。

 反響から考えると、こっちの素性を調べる動きは絶対にありそうだ。

 

 もう美容に手を出すのは避けようかな……どうせ店の活動があるから、今回みたいな仕事はもうできないだろうしね。

 

 さて、そんなことは置いておこう。

 今の僕には重要なことがある。

 

 僕は今夜、ついに初めての疑似ギフト販売を行う。

 それに完成したばかりの店舗も使う予定である。

 つまり今夜が「魔導よろず屋〈千変万化〉」の正式な開店となるのだ。

 

 店主として活動する際の服装も新たに用意した。

 ビジネススーツをベースとした高級感のある制服である。

 以前の闇医者時代のように、顔を隠す仮面も続投だ。

 これはこれで、相変わらず怪しい姿だな……素性を隠すためには仕方ないけど。

 

 店主はこんな姿で、扱う商品は怪しくて高額……客観的に見たら失敗しそうな要素の詰め合わせだ。

 まぁそこは技量と品質でカバーすればいい。

 当店の商品は良いものばかりなのでね。

 

 ■

 

 日が落ち、夜の闇が広がった頃――僕は下ろし立ての店主の制服を身に纏い、〈モードルード〉のとある住宅街にいた。

 一軒の屋敷の屋根に立ち、そこから別の屋敷を眺めている。

 

 僕の見ている屋敷こそが、今夜のお客様の住む家だ。

 踏み台にしている無関係なお屋敷には申し訳ないが、汚したり壊したりしないので許して欲しい。

 

 お客様の素性は、もちろん調査済みだ。

 そうでなければ疑似ギフトを売っていいかどうかの判断もつかないからね。

 

「さて、早いところ独りになって欲しいんだけど……」

 

 僕は疑似ギフトの〈遠視〉と〈透視〉を自身に付与して、お客様の住まいを覗き見ることで突入のタイミングを計る。

 

 ここ最近の経験により学んだことだが、押し売りはお客様ご本人ただ一人を相手にするのがベストだ。

 家人に見つかると面倒くさくなりがちで、話も進みにくい。

 

 まぁ当たり前なんだけどね。

 向こうからしたらこっちはアポ無しでやって来た不審者、招かれざる客だ。

 どれほど有用な商談をしてこようと、そんなヤツと話すほうが間違いである。

 妨害してくる家人の対応は至極当然で、常識的だ。

 

 だからこそ、対象が独りに――孤立したところを狙うわけなんだよね。

 ……おかしいな、言っていることがまるで犯罪者だ。

 僕は一応、分類としては商人のはずなんだが。

 

 ■

 

「フェリシア、寒くはない?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「トイレの時は呼ぶのよ? ベルに手は届くかしら?」

 

「それも大丈夫です。心配ありませんよ、お母様。いつものことでしょう?」

 

 フェリシアが就寝する際には、ベッド脇のサイドテーブル上にベルがあるかを念入りに確認される。

 夜中に何かあれば、これを鳴らして部屋前の夜番を呼ぶようになっているからだ。

 これがなければフェリシアは、トイレにも行けない。

 

「そう……そうね。じゃあ、お休みなさい……フェリシア」

 

「はい。お休みなさい、お母様」

 

 母親はフェリシアに微笑むと、サイドテーブルのランプ型魔導具を消灯してから部屋を出ていった。

 

 明かりが消えたことで、フェリシアの寝室は光が一切ない暗闇となる。

 だが彼女には何の違いもなかった。

 

 フェリシアの両目は、見えないからである。

 

 これは生まれつきのものではない。

 ごく最近――ほんの半年ほど前に生じた、厭わしき負傷であった。

 

 ジェスタス魔導具店の第三子であるフェリシアは、今年で十四歳になる少女である。

 上に二人の兄がいる末妹であり、唯一の女子でもあった。

 両親が長らく女子を望んでいたこと――そして彼女が容姿に優れた美少女であったことから、家中では大変に可愛がられて育った。

 

 そんな彼女の生活が一変したのは今から一年と少し前のこと。

 始まりは父の持ってきた、とある縁談だった。

 

 縁談の相手はジャガノバ男爵家の次期当主である、ハッシュという青年。

 年齢は当時二十一。

 フェリシアとは八歳ほどの差があった。

 

 ジャガノバ男爵家は〈モードルード〉の近隣に領地を有する王国の北部貴族である。

 

 一方ジェスタス魔導具店はといえば、北部のダンジョン都市として有名な〈モードルード〉に店を構えてこそいるものの、その規模は決して大きくなく、精々が中堅程度の商人に過ぎない。

 

 故に北部地域の貴族家との繋がりは、ジェスタス魔導具店としても欲するところ。

 さらにハッシュは次期当主であり〈火魔法〉のギフト持ちでもあることから、この縁談は間違いなく良縁である……と思われた。

 

 フェリシアの一家はみな喜んだ。

 特に父と母は非常に乗り気で大変に機嫌が良く、笑顔の絶えない毎日だった。

 家中の誰もが、ジェスタス魔導具店の躍進を信じて疑わなかった。

 

 しかし世の中、都合のいい話ばかりではない。

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