異世界バトルドロイド軍団 作:サイリウム
「て、撤退! てったーい!!!」
『らじゃらじゃ』
『取舵一杯、反転せよ!』
あ、ども。高位戦術ドロイドのHT2-392です。
いや~、人生何があるか解りませんね。何か急に車に轢かれたかと思ったら、次はドロイドたちが集まる巨大な倉庫。戦術ドロイドとして生まれ変わるなんて考えたことも無かったです。だって急に肉の柔らかい体から、カチカチの鉄の身体に変化してるんですもん。取り乱し過ぎてヤバかったですよ。
あまりにも慌てすぎて初期不良からの処分ルートに成りそうだったのは良い思い出……、ではないですね。うん。マジで処分されなくて良かった……!
(本当に急だったものなぁ。)
よくある転生モノだったら次の新しい人生を始める前に神様とかに会ったり、赤ん坊を経由したりして一程度『転生を受け入れる時間』ってのがあると思うんですけど、私の場合は一切なし。
交通事故でおそらく車に吹き飛ばされて、気絶からの死亡。んで目が覚めたら鉄の体のドロイドに。私からすれば一瞬のうちに体が切り替わってるわけですから、驚いても仕方ないってもんなんですよ。
……まぁ“製造元”からしたらドロイドに変な精神が宿ってるわけだから、不良品で間違いないんだけど。
(まぁでも? こういう宇宙空間での艦隊戦を目直で見られるってのは役得だよね。)
私が転生したHT2型ドロイド、正確にはT2型ドロイドってのは戦術ドロイドになる。
戦場で味方ドロイドを指揮したり、艦隊戦のサポートを行ったりする役職。早い話、指揮官としての働きを求められたロボットだ。内蔵武器を持たないから前線に立たされると物置にしかならないんだけど、頭に乗せてるAIコアは超優秀。演算能力は前世のスパコンが可愛く見えるレベルだし、必要な軍事知識は既にインストール済みだから最初から名軍師になれちゃうってワケ。
それに、私の型番は様々な環境に適応して柔軟な対応を求められるせいか、結構人間ぽかったりもする。私のような『中身が人間』なイレギュラーでも、あまり怪しまれないのがT2型ドロイドなのだ。
んで、そんな私達ドロイドを作って戦争しまくってるのが……、『連合軍』になる。
(重要資源の取り合いが始まりだっけ? 私が製造される前から戦争してるせいか、理由がちょっとあやふやになりつつあるみたいだけど。)
民主主義を掲げる星間国家の集まり、『連合軍』。
中央集権を押し進め皇帝という絶対的な頂点を掲げる『帝国軍』。
私がいる銀河ではこの陣営たちの戦いが起きていて、ドロイドである私も投入されているわけだ。
最初は私も『ドロイドなら分離主義勢力じゃない?』と思っていたのだが、何でも我らが正義の連合軍様は“民主主義”がかなりネックになっている様で、有権者でもある生身の兵士を戦場に出すことが難しいそうだ。戦争初期はクローン兵の導入も考えられていたらしいけど、倫理問題からの票離れを懸念し却下。私のようなドロイドを大量投入することで、この数十年間を戦い続けていたらしい。
(……けど。)
たしかに、ドロイドは有用だ。
様々な種類がいるため一概には言えないが、一番安い歩兵ドロイドの値段はまさに驚異的。生身の人間一人を教育するお金で、3ダースのドロイドが用意できると聞けばその違いをご理解いただけるだろう。まさに物量=強さを体現しているのが我らドロイドなのだ。
けれど、ドロイドは所詮ドロイド。
弱点は多く、私のような高位戦術ドロイドの指揮が無ければ烏合の衆。一定の作戦行動は出来るが、扱える戦術は『相手が疲弊して死ぬまで数で押す』という波状攻撃のみ。
まぁつまり。“生身の人間”を大量に投入でき、現場単位での創意工夫に富んだ戦い方をしてくる『帝国軍』には苦戦を強いられるわけで……。
「にぎゃァァア!!! クソ帝国! やっぱあっちクローン兵使ってるじゃねぇか! おんなじ顔! おんなじ顔ばっか! これまで普通の人間だったよね! 何の変哲もない普通の人間だったよね! なのになんで今日この日に限ってクローン出してくるのッ!? 死ねぇぇぇ!!!!!
『また艦長騒いでる。』
『イツモノ事ダ。』
「せっかく! せっかく昇進して“HT2型ドロイド”になれたのに! ようやく夢の戦艦の艦長になれたのに!」
え~、はい。現在、大敗北して撤退中であります。
というかッ!
これまでどれだけ私が苦労したのか!
知ってんのかクローンのクソ!
死ぬほど苦手な地上戦の指揮とか! 滅茶苦茶お馬鹿な人間のご機嫌取りだとか!予算が無いって言って補給寄越さない上層部の相手とか! 死ぬほど苦労して昇進したのに!
より上位の戦術ドロイドに再調整するからってことで、それまで横領してた金と資材積んで、私好みのクッソカワイイ美少女みたいな人間ボディにしてもらったばっかりなのに! 白髪赤眼で人間らしい肉感のボディにしてもらったのに!
ちょうど肉体換装後の赴任先が超巨大な宇宙戦艦の艦長ってことで、『美少女艦長。うむ、良い響き!』とかまだ数回しかやってないのに!!!
「なんで私が艦長してる時にクローン初投入して来るんだよクソ帝国ッ! これまでそんな兆し見せなかっただろうがッ! しかもウチ以外味方全部沈んでるし!!!」
『艦長、エネルギーシールド限界デス』
「気合で張り直せッ!」
『……気合?』
『何言ってんだコイツ』
まぁ私が参加してた艦隊、全部ドロイドで構成されてるから軍上層部からしたら“失ってもいい”犠牲だろうけどさぁ! 敵がクローン使って来るっていう情報を知れただけで儲けものだろうけどさァ! こっちからすれば破壊されたら終わりなんですよ!
技術的には人格コアだけをサルベージして作り直すとか出来るみたいだけど、そんなのやってくれるわけないんですよ! だってわざわざ人格コア拾って来て作り直すより、同タイプのドロイド沢山作った方がお得になりますからね! クソがよッ!!!
「何がッ! 何でも! 生き残ってやる! こっちは人間らしい体をようやく手に入れたばかりなんだぞ! 10年! 10年も待ったのに! 全くこの体で楽しんでないんだぞ! お前ら全員犠牲にしてでも生きるぞ私は!!!」
『艦長……』
『下位ドロイドの権利を保障しろ~』
『ヒドイ』
『俺ら見捨てられる?』
「煩い! 騒ぐなら仕事しろクソドロイド!」
『ッ! 艦長、敵戦闘機が接近! あっちデス!』
「あっちってどっちだよッ! 権限渡せッ!!!」
担当ドロイドから権限を強奪し、戦艦のセンサー類と自身を同期する。
すると見えてくる、敵の存在。
視界に映るのは、8時方向から突っ込んでくる敵戦闘機35。砲台に付いているドロイドたちが高射砲を次々と打ち込んでいるようだが……、全く当たっていない。普段の帝国軍なら既に落ちていてもおかしくないが、流石のクローン兵といった所か。人間の限界を超えた軌道で回避してきやがる。
このままでは魚雷系の武装を叩き込んでくるか、機体ごと突っ込んできてもおかしくない。
こっちの船は超巨大な宇宙戦艦だ。20m弱の十数機の戦闘機が突っ込んできても、こっちは約5kmのバケモノサイズ。その差から簡単に沈むことはないだろうが……。動力源や内部のエネルギーパイプ、重要機関つっこまれると流石にマズイ。
何せ今現在も敵の戦艦とも撃ち合っているのだ。伏兵がいるかもなので敵の総数はまだ解らないが、撃ち込まれているエネルギー砲の数からおそらく同レベルの戦艦が5艦以上。小型の船を合わせればもっとだ。
圧倒的に不利な状況で、バカスカ撃ち込まれているのだ。
動きが止まるか、シールドが破られれば即お陀仏な状況。
厄介な艦載機は先に落すに限る。
「こっちの艦載機は!」
『だいたい落ちました。』
「大体って何ッ!? あぁもうブンブン飛び回ってうざったいッ! 主砲担当! 権限渡せ!」
『エ、デモ今敵ノ戦艦ニ撃ッテル途中……』
「うるさい!」
即座に主砲を動かし、狙うは敵戦闘機群へ。
戦闘機用の機関銃をぶち込んでも回避されるのであれば、避けられないレベルの“広範囲攻撃”で薙ぎ払うしかない。
即座に船内のエネルギーを許容限界まで主砲に叩き込み、チャージ開始。これまで他ドロイドたちが蓄積しフィードバックしてきた情報を此方で纏め、相手の動きを予測。敵戦闘機の限界スペックを算出しながら、機関銃を撃ち込むドロイドたちに詳細な指示を送る。
雨あられのように降り注ぐエネルギーの弾丸、数百を超える砲門が私の指揮の下で“悟らせぬ”よう完璧に動き……。
出来上がる、キルゾーン。
「主砲、斉射ッ!」
瞬間、放たれる赤い奔流。
限界ギリギリまで溜め込まれたソレは、その砲身を起点に放射状へと広がっていく。この銀河における一般的な武装であるビーム兵器。人が携帯できるサイズの銃ならいざ知らず、数kmの巨大戦艦の主砲が放たれたのだ。クローンの中でも聡い者は緊急回避を試みたようだが……、その一切合切を消し飛ばしていく。
『敵戦闘機、消失シマシタ!』
「しゃァ!」
『……ぁ、シールド切れた。』
喜んだのもつかの間、何処か気の抜けたドロイドの声が響いた瞬間、船内に轟音が鳴り響く。
「ッ! 張り直せ!」
『ギャーッ!』
『シールド班応答なし』
『第7エンジンに被弾! 誘爆しました!』
『ダメコン! ダメコン!』
『も、もうダメだァ! お終いだァ!』
「あぁもうッ!」
艦橋にドロイドたちの悲鳴が鳴り響く。普段は愛嬌があって退屈しない奴らではあるが、こんな状況で騒がれれば堪ったものではない。
……シールド発生装置に付けているドロイドからの応答が無いということは、おそらくこの戦闘でシールドを貼り直すことは難しいだろう。酷使しすぎて爆発したか、敵の攻撃を受けて吹き飛んだか。どっちにしろ頼りには成らない。
そして全部では無いにしても、エンジンもやられた。無理矢理ぶん回して速度を出し、この宙域から逃げるのも難しいだろう。
「……仕方ない、ワープスペースに入る。」
『そんな! 戦闘中ですよ!』
『キケンキケン』
『そも付いて来られるのでは?』
「だね、だからランダム。まだ残ってる艦載機があれば収容させろ! 準備完了次第即座に飛ぶぞ!!!」
一気に他ドロイドたちからの非難の声が飛んでくるが、無視して準備を始める。
ワープスペース、早い話“光速を超えた恒星間航行”だ。船体をとんでもない速度で動かし、広大な宇宙を簡単に行き来できる技術。私の居るこの銀河系のようなSF作品ではお決まりの技術だ。これならば少々エンジンが動かなくても十二分に逃げ延びることが出来る。
ただ、問題が幾つか。
まずこの技術は、私達『連合軍』だけでなく、相手の『帝国軍』も保有している。つまり私達がワープで逃げたとしても、相手が付いてくるってことだ。それにそもそも、数秒の“タメ”が必要なので相手から狙い撃ちにされる可能性がある。
まぁそれを避けるために、出口を完全なランダム。闇雲にワープしてやろうってつもりなんだけど……。
(これ、進行上に物体があったら終わるんだよね。)
普段は航路を算出し、ぶつからないように細心の注意を払うのだが……、今回はランダム。そういった計算をせずに飛ぶ。こうをすれば相手は怖がって追いかけてこないのだが、最悪何かにぶつかって木っ端みじんになる可能性が高い。
正直、こんな選択は戦術ドロイドとして下の下。別の方法を取りたいところなのだが……。
うん、生き残るにはコレしかなさそうなのよね。
「と言うわけでワープしまーす!!!」
『『『ちょ、まッ!!!』』』
まぁそんなわけで、私達ドロイド軍団はこの宙域から逃げ延びることが出来たんだけど……。
まさか異世界に辿り着くとはねぇ?
〇高位戦術ドロイド HT2-392(艦長)
ンャチタナア・オートマタ社製の高位戦術ドロイド、HT2型の392号機。
別名、タクティカル・ハイグレード・ドロイド(ハイエンドカスタム)。
ドロイドの人格が宿る“人格コア”に何故か人の精神が宿った不良品ドロイド。本来であれば即座に廃棄されるところだったが、コアに宿った人間が上手く誤魔化したためそのままになっている。
元々はT2型という単なる戦術ドロイドだったが、功績を上げ昇進したことでより高性能なドロイドであるHT2型へとボディを換装するに至った。
本来であれば無骨な金属製ボディが与えられるはずであったが、本ドロイドが換装担当者にこれまで横領し続けた金と資材を投げ渡すことで、美少女と呼べるような白髪赤眼の肉体。人間らしいボティを“取り戻して”いる。また中身の方も同型ドロイドより格段に良いパーツを積み込んだため、通常のHT2型よりも高い性能を発揮可能。
カタログスペックだけを見れば高い演算能力と空間把握能力を持ち、状況が揃えば半ば未来予知とも呼べるような“予測”を行うことが出来る、艦隊戦に於いて無類の強さを誇る最高級の高位戦術ドロイドとなのだが……。
ドロイドの性か、それとも人格コアに宿る人間のせいか。ドロイドらしいポンコツさを多分に含んでいるため全く信用できない。
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