というわけであれから1週間後。
約束の期日になったので、魔道具屋の店主ルケトこと『ルーちゃん』の待つあの店にやって来たんだけど……。
「る、ルーちゃん。い、いま、何徹目?」
「ふ、ふふふふ、ふふ。7徹目よ。あれから一切寝ていないわ……!」
「いや死ぬ死ぬ死ぬッ!」
迎えてくれたのは、顔から完全に生気が抜け、明らかにふらついている彼女の姿が。
顔が白を通り越して青になってるし、眼の下の隈がひどすぎてフェイスペイントみたいになっている。けれど何故か全身から覇気が出ており、目もギンギラギンに光っちゃっている。
……あ、あの。知ってると思うけど、人間て寝ないと死ぬんですよ? 一応前世のギネスじゃ11日って記録があったみたいだけど、真似したら普通に死ぬ奴だし……。
「み、ミーちゃんの! 大親友の期待に応えるまで! し、死ぬに死ねないわッ!」
「ツッコミの前に心配が勝つッ! 早く寝よ! ね! 医者呼んであげるから! ね!?」
立ち上がり何故か両腕をブンブンと振り回し始めた彼女を何とか押しとどめながら、とりあえず近くにあった椅子に座らせる。
そして同時に行うのは、拠点である戦艦への通信。
流石にこのまま放置していると徹夜で死にそうなので、メディカルドロイドをこっちに連れてこさせるための指示だ。……あ、勿論マトモな人間用ドロイドだよ? 『マッド』じゃない方。
(に、にしても……。なんでもう“大親友”? 今日で会うの2回目だぞ?)
半ば現実逃避として、そんなことを考える。
いや7徹のインパクトというか、それに伴う心配が大きすぎてスルーしてしまったが、急に『大親友』呼ばわりされるのも相当だ。現実逃避するために思い浮かべた話題で、更に現実逃避したくなるなんて……。人生って儘なりませんね?
……いやほんとに何で?
初回時から急に『親友』呼び。多分最初はウチの護衛ドロイドたちが変に殺気を飛ばしたせいで、勘違いからの命乞い。そう言う意味で距離を詰めたんだろうけど……。ほんの数秒後には、心の底から私のことを親友だとガチで思い始めていたのが彼女だ。
(利用価値がありそうだったから、そのまま受け入れたんだけど……。)
蓋を開けてみれば、大親友にランクアップ。
私の為に7徹までして魔道具とかの開発をしていたことを考えると、こっちが『私の為に死んで♡』と言ってしまえば、即座に『ミーちゃんのためなら!』と首をかっ切ってしまいそうな熱意がある。
いや、おもしれー女は好きだけど、ここまでぶっ飛んでるとなると困惑しかないのよ。
「ふ、ふふふ! す、スクロールと魔道具の説明を終えるまで。ね、寝るに寝れないわッ! ……ところで、今日はミーちゃん5人もいるのね。お得だわ!」
「……幻覚見えてない? る、ルーちゃん? この指何本に見える?」
「…………8?」
あ、うん。駄目ですねコレは。
指一本しか経ててないのに8本とか本当に駄目な奴ですね。あと指8本ってどんなエイリアンで? ドロイドでもそうそう居ないよそんな多指生態持ち。あと同種族(だと思われてる)人間の指が5本じゃなくておかしいって思えないのも問題ですね。
というわけで早く寝ろ馬鹿ッ! マッド以外のメディカルドロイドー! 早く来てくれーッ!
「と、と言うわけでまずは新しいスクロールの方から説明させてもらうわ。後、無理矢理寝かせたら爆発する魔法薬を全身に巻き付けてるから、死なば諸共よ。黄泉の世界でも一緒にいようね、ミーちゃん……!」
「こわッ! というか何してるの!?!?!?」
もう恐怖だよソレは!
道理でこの場にいるはずのウチの護衛ドロイドが強制睡眠させないはずだよッ!
というか確か、初日に荒くれ者に襲われたのを鑑みて、彼女に変なのが襲い掛かってこないように1体付けておいたよね!? おい担当ドロイド! なんでこうなる前に止めなかったのさッ!
(も、申し訳ございませぬ。3連続徹夜時にそろそろ危険だと判断し、強制就寝させようとしたときには既に爆発物を巻きつけておりました……ッ! あ、それと『大親友』呼びは主様が帰った直後からです。)
(ただひたすらに怖いんだけどッ!?!?!?)
始めて顔を合わせてから今日まで。
この7日間で感情を熟成した結果、大親友であるのならまだ納得は出来た。欠片も理解は出来ないが、納得はギリ出来る。
けれど初日。出会ったその日から大親友カウントはマジで何も解らない。何がどうなったらそうなるの? こ、高位戦術ドロイドの演算能力をもってしても、このルーちゃんの頭がヤバい以外のことが解らない……!
そんなことを考えながら、『聞いてくれなきゃ自爆する』な視線を此方に投げかけ、説明を始めようとするルーちゃんの言葉に耳を傾ける。
「ま、まず……。新スクロールは2種類用意したわ。既存の技術だけで出来たものと、私が思いついたアイデアを形にしてみたもの。前者から説明していくわね?」
「お、おぅ。」
「まずはこれ……、“リュックサック型”スクロールよ。」
そう言いながら彼女が取り出すのは、言葉通りのリュックサック。
どうやら先日見せた“ゴーレム”。D2ドロイドの背丈に合わせている様で、少々大き目に作られているが……。その構造的に背中ではなく、お腹側に背負うタイプのリュックサックのようだ。
そして更に彼女が取り出すのは、魔法陣らしきものが書かれた手袋。
「スクロールのデメリットと言える、『起動までの手数の多さ』。普通の冒険者とか、普通の戦場じゃ気に成らない程度の工数だけど……。それじゃぁミーちゃんは満足しない。だからこそ“ワンアクション”での起動に注力したわ。」
彼女が取り出した手袋を嵌め込み、リュックサックに触れた瞬間……。その中央。中身が入っているであろう膨らみの“面”から、勢いよくシャボン玉が噴出してくる。
……なるほど、触れただけで起動できるってわけだね。
「えぇ、えぇ! その通りよミーちゃん! それに、このリュックサック! 中にはこの店で扱ってる普通のスクロールが入れてあるの! 今回は泡を出す魔法だけだけど、20枚まで! 種類に関係なく起動できるわ!」
ふらつきながらも、爛々と目を輝かせる彼女に従い、リュックサックの中を開いてみると……。数が底に刻まれ、20に区画分けされたものが目に入って来る。
どうやら先ほどの手袋でリュックサックを振れることで、ここに刻まれた数の順番にスクロールが起動されていくようだ。
布製で破壊されやすそうなこと、起動条件が触れるだけなので誤って起動してしまう危険性は有れど……。
「……すっごい便利。使い道も沢山ありそう。」
「でしょうッ!!!」
座らせたはずの椅子から飛び上がり、私の両手を握って大喜びする彼女。
お、おぅ。う、嬉しいのは解ったから座ろうね、うん。ほんと倒れそうで怖いから。
……それにしても、かなり良い出来だと言えるだろう。
私が提示して条件の幾つか、量産化などの問題が残っているようにも思えるが、それでも十二分に活躍が見込めそうな装備だ。
現所スクロールの仕入れ先がルーちゃんこと自称大親友の所しかないのは周知の事実だが、今後もしかすると増えるかもしれない。そこで、未だ見たことのない大魔法が宿ったスクロールを手に入れ、このリュックサックに込めれば……。
(ワンアクションで、ブラスター。ドロイドたちが装備する銃以上の破壊力を発揮できるかもしれない。それも、相手からすれば“何が飛んでくるか”解らないわけだ。)
何を仕込むか、いつ発動するか。
その辺りの判断は、戦術ドロイドレベルの知能が無ければ十全に発揮できないだろうが……。そのままの運用は勿論、見せ札にも使用できる。
配置するスクロールはどのみち此方で用意しないといけないため、補給面に心配が残るが、普通に“使える”装備と言えるだろう。
「ふふ、ふふふ! ふふふふふふッ!!!!!」
「お、おん? ど、どした? つ、ついに壊れたかルーちゃん?」
「壊れてないわ! でもミーちゃん! 貴女今、『スクロールの数を集めないといけないのは変わらないなぁ』って、思ったでしょう! 思ったわよね! いや思って! 今! 思って!!!」
「ア、ハイ。思イマシタ。ハイ。」
「でしょうッ! そんな問題を解決するのが……、これよッ!!!」
そう叫びながら彼女が取り出すのは、一本の棒。
一見何の変哲もない鉄の棒で、ついに徹夜のし過ぎで壊れたか、いや元々この人おかしいタイプの人間だったわ、と思い直した瞬間……。その棒に穴が開いていることに気が付く。
少し気に成り、手に取って中を覗き込んでみるのだが……。そこに見えたのは、幾重にも重なった文様たち。
「……棒の内側に、魔法陣?」
「その通りよ!!!!!」
自身には既にないはずの鼓膜が弾けそうな声量で、そう叫ぶルーちゃん。
そして彼女が更に取り出すのは、自身も良く知る『魔石』。魔物の体内で発見されるソレであり、この星における魔道具の燃料にもなる電池的な存在。
かなり小ぶりなもの。おそらくゴブリンなどから採取したソレを、勢いよく棒の中に押し込んだ瞬間……。
「…………へぇ?」
内部が光り輝き、魔石を押し込んだのとは逆側の穴から吐き出される、幾つものシャボン玉。
彼女の説明は未だ行われていないが……。棒の内側にスクロールと同じ魔法陣を刻むことで、固定。おそらく特殊な文様を使用することで、作成者の魔力ではなく、外部から動力源を得る設計にしてある。そしてその外部からのエネルギーというのが、魔石。
つまり。
「魔石を“弾”にした『魔法銃』?」
「ッ!!!!! 流石ミーちゃん! 貴女の中にはもう“名前”があったのね! 私が作るものなんて全部お見通しって訳かしらッ! さすがミーちゃん! さすが私の大親友!!!!!」
「そ、それは置いておくとして……。いやほんとに凄いよ、コレは。」
自身も持っていた魔石。
ウチのマッドが回収していた魔石を再度この『魔法銃』に押し込んでみるが、先ほどと全く同じ泡の魔法が起動される。これすなわち、連続使用が可能だということ。
現状は単なる鉄の棒。いや鉄の筒であるため、形式上は単なる“単発銃”になるのだが……。
「ねぇルーちゃん。これさ、内側にある魔法陣さ。もしかして……」
「えぇ! 文様だけ書けば起動するわッ! それは泡の魔法しか出ないけれど、別の魔法に書き換えた『魔法銃』を用意できれば!!!」
「……あはー。ほんと、最高だよルーちゃん。」
つまり。この『魔法銃』は、私達でも作れる。
内部に書き込む魔法陣の開発は、ルーちゃんに任せるしかない。しかしそれさえ出来てしまえば、量産が可能。戦艦に乗せてある工場設備を使用することで、大量生産できてしまう。
だがコレにも、問題が1点。
私達にとっては“気にする必要のない”問題が存在する。
彼女と再会するまでのこの1週間で軽くこの惑星の文化レベルを再調査したのだが、金属加工技術はあまり高いものでは無かった。魔法のおかげかその他の技術と比べれば少々発展しているように見えたが……。
(この鉄の筒。多分、数えきれないほどの失敗作があるはず。ルーちゃんの執念のせいか何故か形になっているけど……。本来こんな細かな細工、人の手じゃできない。)
おそらく、生まれる時代が早すぎたオーパーツレベルの作品。
彼女だけでは再現性が一切なく、歴史の闇に葬られることになっただろうが……。それはIFの話。
現地の職人では不可能なような細かい文様であっても、ウチの船ならコンマ単位で楽々作成が可能。なにせSFの銀河からこっちはやって来たのだ。ナノレベルの工作だって自動でやって見せるだけの設備が整っている。筒の中に細工をするという作業であっても、秒でクリアだ。
「ほんと、本当に凄いよルーちゃん! 正直、あんまり期待してなかったんだけど……、すっごく裏切られた気分! んもぅ最高!」
「でしょう! でしょうッ!!! これで私も、私も! 少しはミーちゃんに近づけ……、んぉごっ!?!?」
「…………はへ?」
思わず互いに立ち上がり、抱きしめ合おうとする私達だったが……。
自身の指が彼女に触れた瞬間。
人の口から出てはいけないような奇声を発しながら、その場に倒れ伏す彼女。そして急激に顔色が悪くなり、死体に近しい白へ。無論白目も剥いており、挙句の果てには泡まで吹き始めている。
……あの、えっと。もしかして。
今ここで、人体の限界が来ちゃった感じ?
あ~、うん。
メディッークッ! メディッークッ! 早く来てくれーッ!!!!!
〇魔法銃
ルーちゃんこと魔道具屋の店主、魔女ルケトの執念と狂気により生み出された1品。魔法に一定の知識を持つ者であれば、総じて『アタマおかしいんか?』と口にしてしまう存在。
本来スクロールに使用される魔法陣は、使用者の魔力を元に作成する“前提”で成り立っているため、今回の『魔石に込められた魔力を動力源にする』という仕組みは初。彼女が産み出した。
無論これまでのスクロール開発者も同じことを考え研究を行ったのだが、魔石のとある性質から『これ実現しても9割方暴発するな……。』ということが解り、先の無い技術としてほとんど研究がなされていなかった。しかしルーちゃんは大親友への友情パワー(一方通行)でその壁を吹き飛ばし、何とかした。コワイ。
ちなみに鉄の筒の内部に魔法陣を彫りこむのは、棒の中に繊細なバラ花束の彫刻を彫りこむのと同じくらいの難易度。無論人間では出来ない。というか地球における現代レベルの技術力じゃないと無理。でも狂気で達成しちゃった。コワイ。
現在は元込め式の単発銃、火縄銃に毛が生えたレベル。多大な発展性を残している。
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