異世界バトルドロイド軍団 作:サイリウム
『ひぇぇぇ』
『ブツカルナ、ブツカルナ』
『ママ~!!!』
「ドロイドのママってなんだよ。工場か?」
見慣れた青い世界。ワープスペースの世界を眺めながら、艦橋で騒ぎ始めたドロイドの相手をする。
まぁ超光速で飛行してるわけだからね、進行方向上に何かあったら即ぺっちゃんこなのは皆解ってるんだと思うんだけど……。なんでドロイドがそこまで怖がるかなぁ?
お前ら私と違って積んでる人格コア安っすいのだろ? 情緒あり過ぎ。あと戦闘用ドロイドが怖がってちゃダメでしょ。
『低位ドロイド差別だ。』
『艦長は狂人。』
『退職届ヲ出シタイ。』
「あ~、確かにウチらドロイドの扱いヒドイもんねぇ。給金でないから横領しなくちゃいけなかったし。ほんと隠すの面倒だった。」
『そっちじゃない』
『……横領ッテ言ッタ?』
『気のせいだと良いなぁ……』
「っと、時間も十分すぎたし、そろそろ解除してもいいかな?」
そんなことを口にしながら、この船の操作盤に手をかざしていく。
完全ランダムのワープスペース。本来は事前に細かな計算を終わらせてから飛び込むものだが、今回使用したのはその計算やもろもろの準備を全てスキップしたものだ。つまり狂気の運任せであり、相手の指揮官が有能。もしくは正気であればある程“ついてくる”という選択肢は取らないもの。
故にワープを解いた瞬間、相手がすぐ後ろにいるってのは無いだろうが……。流石にこれ以上ワープスペースに入っているのは不味い。今やっていることは時間が経過すれば経過するほどに危険が増す最悪のギャンブル。次の瞬間には恒星なんかに突っ込んで皆丸ごと燃え尽きる、とかあるわけだからね。超コワイの。
「さぁ~って、何処に出ますかねぇ? んじゃ解除……、ッ!?!?」
瞬間、見えるのは“緑”。
恒星の光が反射され植物が光を放つことを表す色。
コレが意味するのは。
目の前に。
惑星。
……うん、ぶつかりますね、このままじゃ。
「き、機首上げッ! 急げッ! 早く!!!」
『い、いそげー!!!』
『ぶつかる! ぶつかる!』
『ヤダー! シニタクナイー!』
速度を落し逆噴射しながら、思いっきり機首を上げる。
どうやら大気の存在する惑星の様で、大気圏突入時特有の赤い火花が舞い始めるが……。今はそれどころじゃない。何せさっきまで超光速で飛んでいたのだ。速度を落さなければぶつかって全員死ぬ。
「え、エンジンフル稼働! ぶっ壊していいから逆噴射しまくれッ!!!」
『わ~!!!』
『た、大気圏抜けますッ!』
『あ、大陸型惑星だ。』
『緑が一杯、自然が綺麗だなぁ。』
「機体を水平に保て!」
悲鳴を上げるドロイドに、変なことを言い始めるドロイド。
後ろで多種多様な反応が返って来るが、それでも機体は地面に向かって落ちていく。逆噴射のおかげか、何とか速度が落ち始め、地面と接触する頃には機体を水平に保つことが出来そうだが……。未だ全身に降りかかる強い力。墜落は確定だ。
惑星上空で留まるのが最上だったんだけど……、致し方ない。
「エンジンそのまま逆噴射! 総員耐ショック姿勢ッ!!!」
『ヤダ~!』
『耐ショック姿勢って何?』
『頭抑えろ!』
『輸送形態に移行します。』
直後、轟音と共に押し寄せる衝撃。
機体を持ち上げるため動かし続けていたスラスターの奮闘虚しく、墜落してしまう私達。かなりの勢いだったがゆえに、そのままぺちゃんこに成ることも覚悟していたのだが……、徐々にその衝撃が、収まって来る。
墜落した直後に機能が停止した艦橋も徐々に復活していき、艦橋に勤めているドロイドたちも、恐る恐る首を伸ばし始めている。
『い、生きてる?』
『た、助かった! やった!』
『タ、タイヘン! 世界ガ反転シテイル!』
『頭取れてるぞお前』
「な、何とかなった、か……。ふぃぃ、よ、良かった。」
『ウ、ウワ~! 頭! 頭ガ!』
『ぽっきり折れてるな』
『廃棄カナァ、コレ』
『スクラップ置き場に運べ!』
『ヤダー! シニタクナイー!』
「……うん、とりあえずこっちは放置! 各員状況知らせ!」
何処かに連れていかれるドロイドを眺めながら、この船のコンピューターと意識を繋げる。
口頭でのやり取りでも十二分に状況把握は可能だが、この船に乗っているのは全てドロイドだ。そのすべてがこの戦艦の統制コンピューターと繋がっており、そのコンピューターには船の情報も集まっている。そこに直接アクセスし、各区画の状況を把握し、指示を出す。
言葉で説明し合うよりも、情報を直接やりとりした方が早い、ってわけだ。
とまぁそんな感じで確認したわけなんですけど……。
(え、エンジンがヤバい事なってる……。)
地面への着地。半ば墜落によって起きた衝撃が船全体にダメージを与えているのは確かだ。しかしコレはまだ修復可能区域にあり、そこまで慌てる様な状況ではない。
問題なのは、先ほどの艦隊戦。帝国軍からの砲撃によってダメージを受けたエンジン周りだ。ワープスペースに入るための酷使、そして墜落時の逆噴射で無理させたせいか、スクラップ一歩手前レベルの状態になってしまっている。下手な処置をすれば、機体諸共大爆発するレベル。こんな状況なのだ、飛ぶどころか機体を浮かせることもままならないだろう。
こりゃ反転して母港に帰還、とか無理だなぁ。
「うん、手ひどくやられちゃったね。修理が終わるまでこの惑星に駐留、って感じになりそう。」
『戦闘より不時着のダメージの方がでかくない?』
『わかる~』
『エンジンは確かに不味いが、機体自体も中々……』
『アノワープ、ヤッパ要ラナカッタダロ』
『無茶シスギ』
「はーいそこ煩い~。というかあの場で逃げてなかったら100%撃沈だったでしょうが。高位戦術ドロイド様の未来予知レベルの演算力なめんな。……まぁもうちょっと早めにワープ切っとけば墜落しなかったよね、って言われればそうだけど。」
『『『だよな』』』
「合わせんな馬鹿。はぁ……、とりあえずエンジニアに船の修理させて? しっかり工程考えたやつね? あと周囲の偵察も進める様に。まだ動く艦載機あるでしょ? 今いる星系の確認と、周辺地理。私が指示しなくてもコレ位は熟してよね~。」
『『『らじゃらじゃ』』』
◇◆◇◆◇
「あ~、うん。まずはお疲れ。あと機体直って良かったね? キミの艦載機、手ひどくやられてたみたいだし。」
『は、帝国如きにやられお恥ずかしい限りです。』
そんなこんなで数時間後。
私の目の前にやって来たのは、一体のドロイド。そう、戦闘機乗りのドロイド君だ。
D1-HP-1193。私達連合軍の中で一番数の多い“最安価ドロイド”であるD1型。それをより高位なパイロットとして再構築したD1-HP型の1193号ってわけだ。この戦艦に乗せてる艦載機たちのリーダーを務めていて、役職は大隊長。さっきの帝国との戦いで手ひどくやられていたのを何とか回収できた感じの子でもある。
「ん~、やっぱクローン手ごわかった感じ?」
『はい、こちらのプログラムに無い動きを取るため非常に厄介です。自身のようなハイグレードモデルを同数ぶつけなければ難しいかと。』
「そこまでかぁ。」
ドロイド故に表情の変わらない文字通りの鉄面皮だが、何処か悔しそうに答えてくれる彼。
先の敵国との戦いで初めて旗下に入れた子ではあるが、殉職率の高いパイロットで3年も生き抜いている超ベテランパイロットの言葉だ。そう間違った判断ではないのだろう。……でもウチの戦艦にいるパイロットって彼以外ノーマルの子しかいないんだよねぇ。
さっきの戦闘記録を見る限り、彼が被弾したのも味方パイロットの尻ぬぐいに回った結果の被弾だったみたいだし。そう考えると、数の減った今。同行してた他戦艦の戦闘機を幾つか回収したのを含めても圧倒的に減った艦載機のことを考えると、次帝国のクローン軍団にぶつかったら確実に負けるね。
というか私達以外の船団でも不味そう。ハイグレードだけで構成した戦闘機隊とか聞いたことないレベルだし。
「……でもお上が予算増やすワケないんだよなぁ。『ハイグレードだけで大隊組ませて♡』って言ったら『ドロイド如きが生意気言うな、死ね♡』って返って来そうだし。」
『同感です。』
「まぁとりあえずその辺の“戦術”はこっちで考えとくよ。……んじゃ、本題に入ろう。」
そう口にしながら、少しだけ意識を切り替える。
互いの性格、人格コアに由来する差異の確認は終わった。過去の反省も良いが、私達が陥っている現状から目を背けては成らない。
というわけで表示するのは、ホログラム。彼が先ほど手渡してくれたデータを再構築したものだ。
(索敵データ。……とりあえず最悪は免れた、って感じかな?)
そもそも私達は、“今どこにいるのか”すら解らない状況だった。
ワープスペースを使って逃走出来たのは良かったが、このワープは出口完全ランダムの博打。何処に飛び出すのか解らない様な代物だ。お陰様であの戦場からの撤退は出来たけど、その代償として問題がドカンとやって来て感じ。
つまり、お味方である連合国の領内にいるのか。もしくは敵である帝国領内にいるのかすら解らない状況だったワケ。
「このままのんびりしてたら帝国の戦闘機が飛んできてもおかしくない。だからこそ索敵は必須だったし、腕利きのパイロットが動けて、まだ動く艦載機があるのなら飛ばすしかないでしょ?」
『同意致します。』
というわけで彼にお願いしたのが、単騎で宇宙空間に飛び出しての索敵。
星々の位置を調べ自分たちが銀河のどのあたりにいるかの確認。周辺に連合国か帝国の基地が無いかの確認。後は墜落した惑星をぐるっと回って調べてみたり、長距離通信を飛ばしてみて味方にSOSが届くかやってみたり。
まぁ色々してもらったわけなのだが……。
「でもまぁ、こんな情報を持ち帰って来るのは正直予想外と言うか。」
『艦長のような高位戦術モデルでも、ですか? 未来が読めるとウワサですが。』
「いや私の“未来予知”はお客様向けのカタログスペックであって、マジで未来解るわけじゃないからね? まぁ演算フル稼働したら似たようなことは出来るけどさぁ。」
大隊長くんが持ち帰って来てくれた情報ってのが……。
まったく未知の、星系地図。
連合軍の基地も、帝国軍の基地も存在しない。それはまだ良かったのだが、本来同じ銀河にいるのであれば何処にでも繋がるはずの通信が一切繋がらない。半ばヤケというか博打覚悟で広域のSOSを出したようだが、それにも反応が一切なし。
んで挙句の果てに、“取得した星々のデータ”が完全に不明。
「どれだけ見ても一致率0%。ま~じで未知の星系に来ちゃったみたい。」
なんども確認してみたのだが、データベースに一致する星が一つも見当たらない。
ここから推測できるのは、現在私たちは自分たちのいた銀河の光が届かない場所。私達がいた星系から気が遠くなるほど離れた場所にある、銀河外縁部。アウターリムと呼ばれる区域に来てしまったかもしれない、ということ。
まぁ早い話。めっちゃ遠くにワープしすぎて帰り道わかんない、って感じ。
(まぁ大隊長くんが持って帰って来たデータ見る限り、最悪“私達のいた銀河ですらない”って可能性もあるけど……。)
『艦長?』
「あ、ごめん。……ま、とにかく滅茶苦茶厄介だね~、って奴。」
『ですな。帝国の急襲に怯えなくていいのは朗報ですが、外縁部となれば連合国の威光も届きますまい。現地勢力の攻撃に備え、スクランブル態勢の維持を上申します。』
「うん、それでお願い。」
彼の言う通り、ここじゃ私達の所属国なんて欠片も意味をなさない。
どんな場所でも通用する最強のコミュニケーションツールである、暴力。まだ見ぬ未知が何を仕掛けてくるか解らない以上、小回りが利き応用力もある戦闘機たちをいつでも出せる状態にしておくべきだ。
……ただ私達が墜落してから既に数時間が経過している。5km級の巨大戦艦が墜落したのだ、一定の技術力を持つ存在であれば、すぐに哨戒機を飛ばしてきてもおかしくない非常事態なはず。それでもなお未だ“敵影がない”。更に大隊長がこの星系を飛んで調査した時、“人工衛星”らしきものが見当たらなかったということは……。
ま、この辺りはトップが考える事であって、手足となって動く“彼ら”にはあまり関係のないこと。わざわざ説明して変な不満や期待を抱かれるよりは、ご機嫌取りを兼ねた通達。不測の事態に備えられるよう手数を増やしておこう。
「そのスクランブルに伴って、だけど……。修理すればまだ動く艦載機、幾つかあったでしょ? メカニックに修復を命じとくよ。動かせる機体は増やした方が良いだろうし。」
『それは願っても無いことですが……、よろしいので?』
「勿論! さっきメカニックに聞いたんだけどさ、この船の修理自体、かなりの時間がかかるみたいなのよ。一応機体全体の見通しは立ったみたいなんだけど、エンジンの方がひどすぎるみたいでね? だったら戦闘機を先にしちゃった方がいいかなぁ、って。」
大隊長くんが来る前にだが、この戦艦に乗っていたエンジニアドロイドたちを呼び出し、色々と意見交換をしていた。
彼らが言うにはこの船自体の修理、墜落によって生じたダメージの修理はまだ何とかなるようで、時間と資材さえあれば完全な元通り。航行に耐えるレベルの応急修理なら数週間で何とかなるという。
しかしながらエンジンの方が少々厄介なことになっており、未だに爆発寸前レベルの奴があるそうだ。流石に『爆発したらこの戦艦もろとも全部吹き飛ぶ!』みたいなヤバい状況は脱したそうだが、未だ予断の許さない状況。修理にどれだけ時間がかかるか解らないため、この船がまたお空を飛べるように成るかは未知数、という感じだそうな。
だったらもう動かせない戦艦は一旦放置して、小回りの利く戦闘機を直した方が効率的じゃない? って話。
「ま、クローンに結構落されちゃったからさ。虎の子としてどっしり構えといてよ。帝国領内でない以上、敵戦闘機が急行して来る可能性も低い。だったら大隊長くんたちには船の中で待機してもらって、代わりに暇してる歩兵ドロイドを索敵に放とうかな、って。」
『地上部分の調査、というわけですな。』
「そゆこと。」
ウチの戦艦、もともと兵員輸送の為にあの宙域を飛んでたワケだからねぇ。まぁクソ帝国のクローンのせいで逃げる羽目になったわけだけど。
ともかく今この場に普段以上のドロイド、戦艦の乗務員以上のドロイドが納まってることには変わりない。何かあった時の為に指揮権は全部私に移譲されてるし、連合軍の軍規的にも私が兵を動かすのには問題はない。船の中で一番偉いの私だしね?
「さ~て。索敵部隊の編制、考えますかぁ。」
〇高位航空バトルドロイド D1-HP-1193(大隊長)
ンャチタナア・オートマタ社製の高位航空バトルドロイド、D1-HP型の1193号機。
単なる航空バトルドロイドであるD1-P型のハイグレードモデル。宇宙空間及び、大気圏内における戦闘機パイロットとしての役割が与えられたドロイド。通常のバトルドロイド同様にブラスターを装備し単身での陸上戦闘も可能だが、その能力はコックピットにて発揮される。
当ドロイドは高い知能と指揮能力、空間把握能力を保有し、ダウングレードモデルであるD1-P型を指揮しながら、戦場のエースパイロットとなることを求められた存在である。ドロイドの性ともいえるポンコツさは控えめになっており、必要ならば生身のパイロットのようなウィットに富んだ会話が可能。
1193号機は、HT2-392が艦長を務める戦艦。その護衛戦闘機大隊の長を務めている。運が悪ければ稼働開始から数時間でスクラップになるドロイドたちからすれば、3年も稼働し続けている彼は大ベテラン。頼れるエースと言えるだろう。
なお10年近く稼働し続けている艦長ことHT2-392は、ドロイドたちの中で妖怪扱いされている。本人は知らない。
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