異世界バトルドロイド軍団   作:サイリウム(夕宙リウム)

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25:マッド再び

 

 

魔族の男は、ただひたすらに逃げていた。

 

事前調査からこの町の地理は頭に入っているのだろう。たとえ衛兵に見つかり追い回されたとしても、逃走経路は複数用意済みなのが見て取れる。セーフハウスも複数ある様なので、そこに逃げ込めば時間が稼げる。その後は再度人として紛れ込んだり、闇夜に乗じて逃げてしまえばいい。

 

『魔族』なんて言うのだ。魔法には造詣が深いのだろう。おそらくその脳裏に浮かぶ選択肢は、私よりも多い筈だ。

 

 

(でも全部根本から叩き潰せば全部0だよねぇ! あはー!!!)

 

 

はい、と言うわけでミクニちゃん。現在観戦中でございます。

 

なんかウチの護衛ドロイド君がね? なんか怪しいの見つけたから色々と調べてくれたみたいなのよ。何故か町の中に複数あるそいつの家の中とか、虚空に向かって話している口の動きだとか。色々とおかしかったみたいでね? ルーちゃんとの会話で『魔族』の話題が出た時、追加調査をしてくれたみたい。

 

明らかに持っている情報が『この国の敵対者』であり、その口ぶりから『人間』であるか怪しい。そして護衛ドロイドたちが保持していた過去の映像記録。この町にいるすべての住民記録を再検索し、『ドラゴンが屠られる以前』と比べてみれば……。

 

あら不思議。とぉ~っても顔色が悪くなってるじゃないですか♡

 

 

(ウチの子達が優秀で困っちゃうねぇ? ……たぶん荒くれ者に襲撃された後かな? この町にいる人間全てを仮想敵として、広く浅くだけど情報を手に入れていた。それが役に立ったねぇ?)

 

 

そんなことを考えながら、護衛ドロイドに引っ張ってもらった屋根の上から、逃げ惑う魔族のあんちゃんの姿を眺める。

 

どうやらあのドラゴンは一定の視界共有が出来たようで。ウチの子が一瞬だけ姿を見せた時。途轍もなく“素晴らしい”顔を浮かべていた。自身の失策に対する後悔と、これから起こることに対する深い恐怖。正に『敵』が浮かべるには最高のお顔だったと言えるだろう。

 

 

(う~ん! 船から取って来たポップコーンが進む進む! 敵の不幸で飯が上手い!!!)

 

 

というわけで現在、魔族の捕獲作戦を実行中だ。

 

護衛ドロイドを使って追い立てて、体力が無くなったころに袋小路に追い込む。後は超ビリビリ電撃棒を長時間与え、気絶してもらうって寸法です。ま、既に作戦立案は終わってるし、ウチの子達に限ってミスることはないだろう。追手に向かって未知の魔法を幾つか放っているように見えるが……。そのすべてを、護衛ドロイドたちの電撃棒によって払われている。

 

後は私がその様子を楽しみながら眺めて、倒れるのを待つだけでいい。

 

 

(その後は……、うん。やっぱ『マッド』行きかな?)

 

 

さっきポロっと零したが、彼は何かと会話する様な仕草をしていた。

 

町の中に人間として紛れ込み、問題なく生活し、自軍の利益の為に行動する。

 

これは私達連合国。この銀河の外の住人からすれば、十二分に『人類』と分類できる存在だと言えるだろう。何せ最低基準である『言語使用可』の条件を大幅に上回る『知性』を持っているのだから。

 

 

(つまり、私達ドロイドは『魔族』が“人類”ゆえに、魔物同様『処理』することが出来ない。無論私みたいな例外が全員のセーフティを解除して戦うってのは可能だけど……。)

 

 

今回は、そんな必要はない。

 

なにせ彼らは、私たちに攻撃を行ったのだ。

 

それはもう、助けるべき民間人ではなく……。

 

ただのテロリスト。

 

 

(完全な排除対象だよねぇ?)

 

 

本来私達ドロイドは、民間人の保護を命じられている。

 

これは本国と言える連合国がそういった市民感情に響く物事に付いて、ちょっと神経質なのが理由なんだけど……。

 

この民間人の定義。結構あやふやなのだ。

 

軍上層部からすれば駒の一つでしかない私に対し、遠回しに『その定義を一任している』と言えば、解り易いだろうか。無論軍規を除けばちゃんとした基準は存在しているし、各ドロイドに色々と叩き込まれているのだが……。

 

戦時となれば、その基準はトップに委任される。

 

バトルドロイドが生み出された理由である『戦争』の外側にあるはずの“保護基準”。それを任せてしまっているのだ。

 

 

(ま、『邪魔』だもんね、民間人って。)

 

 

その場にいる人間からすればたまったものではないだろうが、そういう敵か味方か解らない奴。味方のリソースを食いつぶす奴ってのは、戦略の観点から見ると、邪魔になって来る。無論、そういうのを保護しないと兵たちに動揺が走り、作戦行動に問題が出てくるのだが……。

 

それは人間の話。

 

私達ドロイドには関係がない。多少パフォーマンスが下がろうとも、それを上回る戦力差。そして絶対的なプログラムによって無かったことにする。

 

 

(そしてドロイドに判断させてしまえば、もし何かあっても“ドロイドの暴走”で済む。)

 

 

事実、同僚だった高位戦術ドロイドの1体は、とりあえず視界に写った存在全てを敵とするようなヤバい奴だった。

 

無論平時は普通に話せたのだが、戦場となればマジで殺すことにしか興味のないドロイドに。たとえ市民が助けを求めても、敵の策略の一つとして断定し、即座に破壊するというヤバい思想を持っていた。

 

普通なら即座に廃棄されそうなものだが……。連合国のとある記者がすっぱ抜くまでの約2年間。ずっと上層部が放置していたと言えば、ウチのヤバさが分かってもらえるだろうか? ……まぁその記者って私なんですけど!

 

 

(いや~、懐かしいねぇ? まだただの戦術ドロイドだったせいで、普通に見捨てられそうというか、あっちの思い通りに動かなかったせいで敵認定されて殺されかけたからねぇ……。なんで私ドロイド相手に“政治”してるんだろ?)

 

 

というわけで、判断基準は私にあるわけだ。

 

つまりミクニちゃんが『魔王軍』という集団を、国際テロリスト集団と認定してしまえば……。ウチのドロイドたち全員の、枷が外れる。

 

もちろん“彼も”、だ。

 

 

「っと、そろそろ捕まりそうだし、連絡しておこっか。んじゃもしもし~! マッド~!」

 

『……ぉお! どなたと思えば、艦長殿でしたか! いかがいたしましたか? 現在自身は“ドラゴン”なる原住民が治療室に運ばれて来まして、その“治療”中。あまり邪魔はしてほしくないのですが……。』

 

「朗報と悲報。どっちから聞きたい?」

 

 

私の船と通信を繋げ、出てくるのは筆頭狂人『マッド』。

 

どうやら既にドラゴンの解体作業に入っていたようで、後ろから本来生物の治療に使わないであろう工具の騒音が滅茶苦茶聞こえてくる。即座にノイズキャンセリング機能を起動し、嫌な音を滅殺しながら話を続けていく。

 

 

「実はそのドラゴン君の“専門医”を見つけてね? ちょうど友誼を結べたから、今ソッチにいる子を輸送しようと思うのよ?」

 

『おぉ! おぉぉぉぉお! それは! それは何ともめでたいことです! 現在治療中ではあったのですが、この惑星の皆様への適切な治療法に辿り着くことが出来ず、何も出来ぬ自信を恥じ入っていたのです……! 是非! 是非自身も共に!!!』

 

「あ~、それが先方さんの希望でね? 余所はあんま入れたくないんだと。だからこう……。ちょうど君、パーツごとにしてるでしょう? それを綺麗にして、運べるようにしてくれるかな?」

 

『な、なんとッ! 医の道に進む者であれば、どんなものでも分け隔てなく治癒し、その知を多くの者に伝えるべきなはずなのに! ……いえ、取り乱し大変申し訳なく。患者が治癒するのであれば、それに励むのが我らメディカルドロイド。すぐに準備に取りかからせていただきますッ!!!』

 

 

実際は“専門医”に渡して治療するのではなく、素材化したソレを冒険者ギルドにうっぱらう為に箱詰めしてもらうだけなのだが……。

 

そのあたりを彼が知る必要はないだろう。リマインド設定して架空の退院日時を設定し、良い感じの頃に『完治して親元に帰ったみたいだよ~』と伝えておけば、満足することだろう。……あとは偽造カルテの作製とか?

 

まぁその辺は追々。んじゃ次! 本命!

 

 

『えぇえぇ、確かにそのお話は朗報でございました。……となると艦長、その、悲報というのは?』

 

「実はとっても残念なことにね。『魔王軍』っていうテロリスト組織がウチに喧嘩売って来ちゃったのよ。何体かドロイドがやられちゃって……。」

 

『なんと! 自身は人類専門のメディカルドロイドでありますが、同胞の死は非常に嘆かわしいものです。もしその場にいることが出来れば……!』

 

 

お前、型番見ればドロイド用のメディカルドロイドじゃん。そう突っ込みそうになってしまうが、相手はマッド。普通に否定されるだろうし、もしかすると更に狂気度が膨れ上がってしまうかもしれない。

 

ウチの黒い部分を要領よくこなしてくれるドロイドなのだ。良い感じに調整しておきませんとねぇ。

 

 

「だねぇ。……んで、そのテロリストなんだけど。1人捕まえられそうなのよ。ただちょっと、痛めつけちゃいそうで……。治療、頼めるかな?」

 

『も、勿論ですとも! たとえテロリストであろうと、我らが奉仕すべき人間であることに変わりはないのですから! 自身のメディカルドロイドとしての誇りと技術に掛けて、完治させてみせますとも!!!』

 

「んふふ、それは良かった。……あぁ、ついでに言っておくけど。」

 

 

記憶抽出機の用意も、お願いね?

 

そう付け足す私の視界の端では、ドロイドに囲まれた魔族が倒れ伏す姿が映っていた。

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