「よ、っと。お~、一杯おるおる。どうしたんコイツら。もしかして暇人?」
「だ、誰だッ!? ……ってお前か。」
「お。モヒおじ。どもども~。」
軽く防壁をかけ登り、上に到着。偶々見かけたモヒおじの隣に着陸する。
その瞬間視界に広がるのは、ずらっと並んだ敵集団の姿。約3万の魔物の群れだ。どうやら想定通りの“本気侵攻”を企んでくれたようで、多種多様の魔物の姿が見て取れる。一応冒険者ギルドでデータ収集したから名前は解るんだけど……、見るからにすっごいファンタジー。
ゴブリンやオーク、オーガは勿論。何かクソデカい鼠に、なんかゴブリンの亜種的な奴。あとスライムと、めっちゃ顔が怪物なハーピー。でっかいのだとトロールとか、ミノタウロスまでいる。アレ全部に魔石があって、確か一部は素材として売買できるはず。
う~ん、ミクニちゃんにはお宝の山にしか見えないねぇ♡
(それに……、ドラゴンが5体も。ふふ、大振る舞いで何より。)
ドラゴンの販売価格は、以前見せた通り。
そして得られる魔石の“体積”も素晴らしいことになるだろう。現状『魔法ブラスター』以外の魔法兵装の開発は済んでいないようだが、ルーちゃんはより大きな魔石を用いた兵装の開発に意欲的だった。彼女のおかげで自由にサイズ調整が出来る様に成ったが、そもそも量が無ければ加工は出来ない。
今後もその猛威を振るってもらうためには、より大きな魔石を持つ強力な個体。ドラゴン含めた視界に写る全てを刈り取る必要があるだろう。
ま、そのためには。ここの“責任者”と話を付けておかないとね♡
「んで。どうなんモヒおじ、戦況は。……見るからにヤバそうだけど。」
「まぁな……。というかクソガキ。親に防壁登るなって教わらなかったのか? 民間人は立ち入り禁止だぞ。」
「う~ん、知らない常識。ミクニちゃんのマミーはそんなこと教えてくれなかったけど?」
今世ドロイドですし、前世は戦争なんてない時代でしたからねぇ。
海外は色々とヤバいことになっていたけど、前世の日本はありがたいことに戦火に呑まれることは無かった。……まぁその代わりと言うべきか、転生した後にめっちゃ戦火に呑まれたんですけど。
あはー! 10年ずっと殺し合いしてました!
「はっ、なら今度からは気をつけるんだな。……今度があるかは解らんが。」
そんなことを考えていると、声をかけてくるモヒおじ。
いつも通りにクソガキ扱いしてくれてありがたい限りなのだが……、やはりちょっと元気がない。しかも一瞬こっちを見ただけで、すぐに魔物の軍勢の方に目を向けてしまった。
ま、それも仕方のないことだろう。ばっと防壁の上から見てみた感じ、この町に詰めている勢力は1000もない。多少の防衛兵器も見受けられるが、可愛いモノ。多少のバリスタと投石機しかないし、碌な抵抗も出来ないだろう。
そして、傭兵的立ち位置。冒険者たちの集まりも悪い。正確に言うならば“数”が無いという状況だ。
(この町にあんま残ってないんだよねぇ。“状況”を整えるために色々やったし。)
私が管理している『魔族がスパイから受け取る情報』だが、それにはこの町に冒険者の数がほとんどいない、という風に報告を行っている。
アチラさんがこの町を攻めやすくするための理由の一つであり、それを現実のものとするためにモヒおじに頼んで適当な依頼を受けさせていたのだが……。そのせいか、元々『他の町への救援派遣』を行い数を減らしていたこの町は、本当に片手で数えるほどの冒険者しかいない状況になっている。
ま、そんなわけで。絶望的な数的不利な訳だ。モヒおじどころか、この防壁の上に集まってる兵士たちの顔が酷いことになっているのも、致し方のないことだろう。
「……なぁミクニさんよ。冒険者でもないお前に言う事じゃねぇかもしれねぇが。」
「お、何々?」
「ちと、力を貸してくれねぇか? 奴さん、確実に滅ぼしに来てやがる。何せ1体で町をぶっ壊せる竜が5体。しかも3万の魔物のおまけつきだ。……魔族の仕業だろうよ。」
だねぇ。そうなる様にミクニちゃんが仕組んだわけですし。
でもでも、私のことを『民間人』扱いしたのはそっちですよ? そもそもミクニちゃんって“この辺り”に国籍内ですし。戦う義務も責務も無いんですよ。冒険者ギルドにも登録してないしね~。
「あぁ。だからお前さんがここから逃げ出そうが俺らに文句をいる筋合いはねぇ。だが……、唯一ひっくり返せるかもしれねぇのが、お前だ。何食わぬ顔でドラゴンの素材を担いできたお前なら、攻めて撃退するぐらいはできるかもしれねぇ。……頼む、助けてくれ!」
どこか悲壮な声を出しながら、こちらに頭を下げてくるモヒおじ。
そんなことされちゃうと、ミクニちゃん心が痛くなっちゃう。だってコレ正真正銘のマッチポンプですしお寿司……。う、う~ん。エリンちゃんの村での魔物騒ぎよりも心が痛い。
とと、あっちからすれば本気でお願いしてくれてるんだ。さっさと答えないと失礼だよね。
「……ふふ。んふ~! その言葉を待ってました! だってこんな大量の魔物たちがミクニちゃんに魔石をプレゼントしに来てくれたんだよ? お陰様で“研究”も大助かり! 倒さない以外の選択肢は無いよね! あはー!」
「く、クソガキ……!」
「と、言うわけで。とりあえずこの町? のお偉いさんに話付けたいんだけど。何処にいる感じ? ほら冒険者でもないただの部外者“魔女”がさ。勝手に戦ってたら問題じゃん。一応顔だけでも合わせておきたいんだけど。」
「あ、あぁ。それなんだが……。」
そう言いながら、申し訳なさそうに言葉を紡ぎ始めるモヒおじ。
どうやらこの町の町長さんは、魔物の群れが見つかった瞬間に逃げ出してしまったそうで……、現在行方知れずだという。更にこの防壁にいるはずの指揮官も何故か魔物発見時から姿が見えず、仕方なくギルド所属で一番戦えるらしいモヒおじが指揮を取ることになっているそうだ。
……うん? つまりトップ全員逃げちゃった感じ?
「ま?」
「マジだ。」
「は、はぇ~。すっご。」
い、いや。そっち方面の情報とか気にしてなかったから放置してたけど、逃げちゃったかぁ……。
お、どした護衛ドロイド。そんな秘匿通信送って来て。あ、逃げようとした瞬間に確保して仮拠点の方に纏めて縛ってる? な、なるほど……。う、うん。じゃあとりあえず色々終わった後に対処するとしましょうか。利用するにも、処分するにもね?
「ん、んじゃ。とにかく責任者はモヒおじってことでいいんだよね?」
「あぁ。そうなるな。……お前さんがどこまでやるか解らんが、頼もしい事この上ねぇ。それに、クソガキの事だからしっかり“金”は取るつもりなんだろう? んじゃしっかり生き残って払わねぇとなァ!」
「お。わかってんじゃ~ん!」
彼の言う通り、戦後私はかなりの額を吹っ掛けるつもりだ。
まぁ町にもギルドにも、金を求めるつもりはない。彼らに払ってもらうのはただ一つ、“情報”だ。
今後私達は、ドロイドを戦力として貸し出す死の商人としての活動を進めていくことになる。その報酬金として金銭や鉱物、もっと行けば鉱山を手に入れることで、この星での補給線を確立するのが目的なのだが、それには何より“情報”。そして“知名度”が必要になって来る。
どんなに強い力を持っていても、戦場がある場所を知らなければ仕事にはならず、知名度がなければ舞い込んでくる仕事もない。とまぁそういうわけで。ウチの広告塔の仕事を、ギルドと町のトップたちにやってもらおうってワケ。
「んじゃま、始めていきましょうか。……モヒおじ? 腰抜かさないようにね?」
「あ? 何を……」
「『総員、降下開始。』」
私がそう言った瞬間。上空から響き渡る、轟音。
見上げてみれば、この町と敵軍。その間に入る様に降りて来る“ドロイド・カーゴ”たち。
それまで空中で待機状態、隠密化にあった彼らが一斉に姿を現し、着陸。
すぐに外壁が開かれ、姿を現すのはキューブ状に格納された兵士たち。そんなこの星の“埒外”が現れたことに動揺する者たちをあざ笑うように、そのまま展開していく。そして全員が整列を終了し、カーゴがその場から飛び立とうとした瞬間。
鋼鉄のボディが外気に晒される。
「な、なんだ、アレは……。」
「さぁさ本邦初公開! “ドロイド”様のおな~り、ってねッ!」
自身の中で課してあった枷を全て解き放ち、高位戦術ドロイドとしての全てを目の前に広がる戦場へと向ける。すべてのドロイドの視界が共有され、世界の掌握が完了する。
総勢12000。数は劣るが、中身は段違い。“特殊兵装”を持たせたD2ドロイドと、後衛として配置した砲兵ドロイドで構成された集団。素人が指揮しても勝ち切れるだけの軍勢だ。
それに後ろで“も~っと楽しい仕掛け”も用意してる奴らがいることだし。準備は万全と言えるだろう。
さぁ私の可愛い可愛いお人形さんたち? 準備できたかな?
『……お待たせいたしました、我が神。D2ドロイド及び砲兵ドロイド。配置完了致しました。いつでもどうぞ。』
私の問いに帰ってくるのは、対ドラゴン用として配置し、今回の“防衛軍”の部隊指揮官を任せた彼女、シスターの声だ。
いつも通り私を神として崇めてくるが……、やはり彼女もバトルドロイド。楽しい楽しい戦場なせいか、若干声に艶があるように思える。単に私に指示されることに興奮してるのかもだが、やる気があるのはいいことだ。
……さ、準備が出来たのなら。始めましょうか。
「『D2ドロイドに通達。魔法ブラスターの使用を許可、一斉射せよ。』」
整列したD2ドロイドたち。そのすべてが銃口を前へと向け、一斉に引き金が引かれる。一つ一つは小さな排莢音だが、今日の為に配備された魔法ブラスター1万丁。
そのすべてが同時に引き抜かれたことで、轟音が響き渡る。
まるで世界自体が悲鳴を上げるかのような絶叫。そのすべてが魔石を輩出し、吸い取ったエネルギーで術式を構築する。
そして現れるのは……、真っ赤に染まった世界。
「ふふ。物量こそ正義、ってね?」
銃口に生成される巨大な火球。
そのすべてが積み重なって行き、魔物たちの前に生じるのは火炎の壁。一万の点によって生み出された帯、本来ならば複数人による詠唱という準備期間を要するソレが、一瞬にして生み出されてしまう。
この場にいる全員に、驚愕と恐怖を与える存在。
そして生じる、ほんの少しの隙。
これを逃すほど、我らは甘くない。
「『ブラスター斉射開始。』」
『『『らじゃらじゃ』』』
自分たちに高速で迫りくる巨大な火の壁。
魔物たちがそれに慄き、対処のため次の行動に移ろうとした瞬間。火炎の中から穿ち貫いてくる“赤い閃光”。魔法ブラスターが打ち込んだファイアボールよりも高速で、魔物たちの身体を貫くソレ。
行動を起こそうとしたもの、何もできず動きを止めてしまったもの、対魔法のため防御を行おうとしたもの。そのすべてを、穿ち屠っていく。
そして赤い銃弾があらたか処理し終えた瞬間、到着する火炎。
未だ生き残っていたモノ、既に死したモノ。一切合切を焼き払い、等しく死者へと変えていく。
「……敵第一陣の士気崩壊を確認。各自、自由戦闘を許可する。あ、魔法ブラスターを優先的に使うように。」
『らじゃらじゃ』
『やるぞー!』
『蹂躙蹂躙!』
『消し飛ばすぜ!』
うんうん、やる気があるようで何より。
……さて、そろそろ仕事が来そうだけど。準備できてるかな、シスター?
『勿論でございます、我が神。』
彼女がそう言った瞬間、敵陣の後方で動きが。
そちらの方に視線を向けてみれば、大きく羽ばたき飛び上がろうとしているドラゴンたちが確認できる。急に現れたドロイド達が決して無視できない戦力だと認識し、最大戦力をぶち込むようだ。
同時にあちらの航空戦力である小型竜のワイバーンや、ハーピーなども空に上がり始めている。五月雨式に放たれている火球とブラスター、その両者に屠られ続ける地上の味方を救うため、空からこちらを抑え込む気らしい。
まぁ確かに、今日のこっちは航空戦力を持ってきていない。帰りの船として上空に待機させているドロイド・カーゴを呼び戻せばソレになるが……。今日はもっとイイモノを連れてきている。
というわけで、やっちゃえシスター!
『砲兵師団、順次我らが神の怒りを示しなさい。』
我が信徒が師団にそう通達した瞬間、後方に控えていた2000の砲兵ドロイドたちが一気に砲弾を撃ち込んでいく。
空に浮かぼうとした魔物たち。そのすべてに“重力”を解らせるように、光の熱線が空を彩っていく。大口径のビーム砲が敵に直撃し、消滅。小型の魔物たちは文字通りこの世から消し飛ばされ、大型の魔物。ドラゴンですら頭部や胸部といった重要個所を穿たれ、次々と地面へ吸い込まれていく。
『……敵航空戦力、殲滅完了。全て我が神の御威光にひれ伏しました。必要あらばこのまま愚かな地上の者どもにも降り注ぎますが……。いかがいたしましょう?』
「んじゃおねがいしよっかな? 巻き込み誤射だけは気をつけて。あと“後ろ”もいることだし、多少は残しておいてね?」
『心得ております。』
〇現在の素材たち
総兵力:約30,000 → 20,000
第一部隊 先鋒部隊
兵力:約14,000 → 7,000
第二部隊 主力部隊
兵力:約10,000 → 8,000
第三部隊 決戦部隊
兵力:約6,000 → 5,000
魔法とブラスターによる攻撃で前衛が半壊。また虎の子であったドラゴン含む航空戦力が全滅。指揮を担当していた魔族が一部消し飛んだため、正常な指揮が出来ない状況。一応本陣にいる隊長などの魔族は生き残っているようだが、今後“シスター”による砲撃が開始されるので更に被害は拡大する模様。
次回は魔族視点からです。