異世界バトルドロイド軍団   作:サイリウム(夕宙リウム)

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37:末路

 

「なんだあれは!?」

 

 

時間は巻き戻り、今回の魔族軍の長である彼が侵攻の指示を出したころ。

 

彼の目には理解できない光景が、広がっていた。

 

なにせその瞳に移るのは、50近い空飛ぶ箱。それが一斉に空に出現し、大地へと降りてきているのだ。しかもサイズは彼らからすればかなりの巨体で、明らかな脅威。狼狽えるのも致し方ないと言えるだろう。

 

無論、彼も王から部隊を預けられた魔族。多少の想定外にも対応できるだけの強かさは有していたが……。

 

 

(一瞬にして現れた!? 転移か!? い、いやあの羽がある形状からして、空を飛び何かを運ぶモノ。……いや待て! どうして魔力の反応が無い!?)

 

 

即座に『ドロイド・カーゴ』を飛行する輸送機だと見抜けた彼であったが、それを塗りつぶすほどの衝撃。

 

そう、この星のすべての存在が持つはずの『魔力』を一切感じられないという“異常”が、彼の脳を埋め尽くしていた。

 

なにせ彼ら魔族と呼ばれる存在は、“魔”と呼ばれるだけあり、種族全体が魔法に対する高い適性を保有している。長い寿命を持つが、種族としての性質から数が少なく、繁殖力に勝る人類に追いやられてきた歴史を持っていた。

 

それゆえというべきか彼らが持つ魔法関連の知識は深く、少数で多数を圧倒するための技術。人間よりも高い魔法技術を保有しているのだ。一部の“例外”には劣ってしまうが、攻撃だけでなく各種支援的な役割を持つ魔法も開発済み。

 

今回のように急に現れる伏兵対策。周囲の魔力を感知するレーダーのようなものを使用し、周囲への警戒を十分に行っていたのだが……。

 

だからこそ、“異常”をより鮮明に理解してしまう。

 

 

(反応は一切無かった。つまりあの箱たちは魔力を持たず動き、何かを運んで来た。一体、何が出てくるというのだ……!)

 

 

転移魔法であればその高度な術式から、必ず魔力反応が生じる。

 

けれどそれが無かったということは、その姿を隠しながら空を飛びここまでやって来たという事に他ならない。

 

すなわち、魔力を一切使用せず空を飛び、その体を隠すことが出来る技術を人間側が手に入れた。もしくは、いやそうであってほしいが、何かしらの魔力を完全に隠蔽する方式を発明した。部隊の長である魔族はそう“思い込み”、警戒を最大限に引き上げる。そして視線を向けるのは、ゆっくりと開かれていくその輸送機の中。

 

未だ目の前の光景を飲み込めていない彼だったが、戦場で驚き止まっているような時間は無い。魔力で察知できぬのならば目視で判断するしかないと考え、視力強化の魔法を使用。

 

より詳細に“納まっているモノ”を見るのは、そう可笑しな話では無かったが……。

 

 

(なん、だと。)

 

 

そこに納まっていたのは、一万を優に超える“アイアンゴーレム”たち。

 

彼らの言葉ではドロイドを表す言葉が無かったため、そう表現するしかなかったのだが、言語化してしまったがゆえに、この現実を強く受け止めてしまう。

 

何せゴーレムと言えば、魔力を持って動く使役物。人間も魔族も一定の使用者がいる存在であり、言わば見慣れた存在である。モノであるため痛みを感じず、破壊されるまで動き続ける人形。鉄ゆえに防御力も高く、質量ゆえの破壊力も高いという事実が、一瞬にして理解できてしまった。

 

そんな“普通のゴーレム”であっても、無視できない戦力なのだ。

 

明らかに強固で質の良い鎧を纏い、寸分たがわず整列していく『D2ドロイド』を見てしまった彼の驚愕。自身の知識を元に判断すれば、決して無視できない戦力が一万近くこの場に出現してしまった。

 

それまで組み立てていた“対ミクニ”の戦術に基づき配置していた魔族陣営が、一瞬にして無意味になったことは、自身の正気を疑い始めた彼でもすぐに理解できた。

 

 

(……不味いッ! このままでは前衛が崩壊する! 少なく見積もっても相手は1万! ゴブリンなどの下級の魔物では手も足も出ないアイアンゴーレムが1万! 中衛を前に出さなければ!)

 

 

魔族側の陣営は、対ミクニ。

 

数の相手を苦手とする魔女に合わせた布陣を行っていた。

 

失ってもいいゴブリンなどの下級魔物を多数前線に配置し、ミクニに突進させることで相手の消耗を誘う。そして中衛の多少強力な魔物で町を攻め入ることでミクニの注意を引き、その隙を射止める様に多数のドラゴンを打ち込む。必要ならば町内部に潜む“彼”がアンデッドを使用することで敵魔女の意識を更に割かせる、という手筈になっていた。

 

けれど目の前に現れた“アイアンゴーレム”たちによって、戦況が一変する。

 

このまま魔物たちを突撃させてしまえば、質に劣る前衛陣は瞬く間に崩壊してしまうだろう。せめて魔族側の中衛。オーガなどで構成されたアイアンゴーレムを打ち倒せる軍勢を当てなければ、良い様に兵力を消耗させられてしまう。

 

即座に部下たちに通達し陣容を変更するため、一瞬だけゴーレムたちから視線を外す彼だったが……。

 

 

 

 

 

瞬間、世界が変わる。

 

 

 

 

 

彼が最初に理解したのは、信じられない数の魔力反応。

 

“ゴーレム”たちが一瞬にして掲げた筒のようなものから、生じる魔力。まるで非活性状態の魔石を一瞬にして燃焼させるかのような輝き。そして彼が再度敵を視認した時、その目を疑う。

 

 

「壁、だと」

 

 

ファイアボールという点を積み重ね、形成された壁。

 

彼にも原理は理解できた。魔石の起動反応に近い魔力から、大多数の火球を生成し壁とすることで、こちらの逃げ場を無くし殲滅しようとする考えは。しかしそれを、何故魔力を持たないゴーレムが行っているのか。何故魔石の反応が見られたのか。

 

未だこの星には早すぎる技術である、魔法銃。その原理に辿り着けない彼の脳では、困惑。そして恐怖しか生まれない。

 

そしてその困惑すら刈り取る様に……、その頬に“光弾”が掠る。

 

 

「ッ!?」

 

 

彼がブラスターの弾丸を認識した瞬間。即座にしゃがみ、身を屈める。

 

そしてその考えが正しかったことを示すように、その頭上を幾重にも通り過ぎていく。規模としてはほんの少し、おそらく親指程度の太さの光弾であるため、一瞬だけ杞憂だったかと思う魔族であったが……、その直後。自身の選択が正しかったことを理解する。

 

何せ彼の網膜に移るのは、たった1発でオーガが絶命した光景。

 

巨大な体躯と溢れんばかりのスタミナを持つ大鬼。それが一瞬にして事切れていく姿。ブラスターに理解ある者であれば、限界まで加速した粒子の粒が肉体に接した瞬間、体内に拡散。全身に目に見えない小さな粒たちが走り回り内部がメッタ刺しにされたことが理解できるが、何も知らぬ彼からすれば、全く理解できない光景。

 

 

(光系の魔法!? 全く未知の!? いやコレは魔力を有していない!? な、何を! 人類は何を手に入れたというのだッ!!!)

 

「た、隊長ッ!」

 

「……ッ! すぐにドラゴンを上げろ! デコイとして他の飛行部隊もだ!」

 

「は、はいッ!」

 

 

先程生み出された火炎の壁をすり抜ける様に、撃ち込まれ続けるブラスター。全くの未知との遭遇に脳が理解を拒否し始めた彼であったが、指揮官である以上、止まることは許されない。

 

側に付いていた女魔族が彼を呼び、再起動した隊長は即座に対抗策を講じる。

 

迫りくる火球の壁も、この光弾も。あの鎧を着たゴーレムが放っているのだ。一瞬だけ見えたその形態から、地上向きの存在。少なくとも空を飛べないだろうと考えたがゆえに、最大戦力のドラゴンを投入する彼。

 

このままでは味方の被害が積み重なってしまい、軍としての行動が不可能になってしまう。だからこその、選択だった。

 

けれど……。

 

 

「GGGRRRRaaaaaAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

 

彼の鼓膜を揺らす、ドラゴンの悲鳴。

 

思わず其方に視線を向けてみれば……、腹から下。そのすべてを消し飛ばされた竜の姿が。

 

そんな信じられない光景に声を上げそうになった彼だったが、直後さらにドラゴンに降り注ぐ光弾。ブラスターよりも太く重い存在がその頭部に突き刺さる。

 

 

「ひぃッ!?」

 

「……これは。」

 

 

近くにいた女魔族が悲鳴を上げた直後、地面に落下するドラゴンだったもの。

 

気が付けば空に上がった魔物たちすべてが撃ち落とされており、航空戦力は全滅。そして無慈悲なことに、先ほどの大きな光弾が地面を狙い始めており、実体を持たないソレが空中で曲がりながら地面を耕し始めている。

 

 

(これは、勝てない。)

 

 

戦闘開始から、1分も経っていない。

 

だが魔族側の陣営は完全に崩れており、その総数は敵砲弾によって半数を切ろうとしている。主力でだったドラゴンは全滅しており、もはやまともに戦える状況ではない。

 

 

(町内部にいる彼を……。いや、安易に切れる手札ではない。)

 

 

あの町の中に潜んでいる“ハズ”の味方。

 

スパイである彼に合図を送り、アンデッドを生成させることで敵側に混乱を起こそうとした魔族だったが、すぐに思い直す。

 

既にこの戦いの勝敗は決しており、出来ることは限られている。ここでアンデッドと言う札を切ったとしてもひっくり返すことはできない。ならばそのスパイと言う立場を十全に活用し、今後。戦後にあの“ゴーレム”たちの情報を集めることに専念した方がいい。

 

そして集めた情報を本国に送り、対策を練り、更なる被害を産まないよう動く。

 

自身含めたこの場にいる味方全てを捨てることになったとしても、あのゴーレム。魔力を持たないモノたちの情報を届けるべきだと、そちらの方が魔族にとって大いに利を産むと、彼は判断した。

 

 

「ッ! 総員に通達! 撤退だッ! 魔物を囮にするよう伝えろ!」

 

「は、はいッ!」

 

 

そう叫びながら、自身の魔力の全てをつぎ込み、周囲にいた魔族たちの防御力を向上させる隊長。

 

既に死を覚悟した彼だったが、最後の瞬間まで生きることを諦めるべきではない。部下を預かる以上、それを生きて故郷に返すまでが仕事なのだ。相手の謎の光弾に対抗できるかは解らなかったが、せめてもの気休めを施しながら撤退を指示する。

 

 

「た、隊長! 繋がりません! 他部隊指揮官、全滅です!」

 

「ッ! この場にいる者だけで退く! 先頭はお前、殿は私だ! 走れ!」

 

 

その指示が通達された瞬間、一斉に走り出す魔族たち。

 

この場に集まっていた彼ら以外。前衛や中衛の指揮に付いていた者たちに連絡が付かないことから、戦死と判断。これ以上この場にいることは不可能だと断じ、一斉に撤退を開始したのだ。

 

彼らにとって一番価値のある命は、魔族の命だ。確かに竜などの強力な魔物は替えが効かない存在だが、それでも時間と費用をかければ準備できる。けれど魔族となれば、そうはいかない。

 

故に魔物たちを盾としながら、逃げ始める彼ら。大多数で離脱するよりは、少数の魔族だけでの逃走の方が成功率が高い、という判断だ。

 

 

「前方に森! 中に入って射線を切ります!」

 

「了解した!」

 

 

先頭を走る女魔族の先導に従いながら、森の中に入る彼ら。

 

この地域に存在する大森林と比べるとかなり小さいが、木々が生い茂り射線を切るには最適な立地。遮蔽物が多く相手からすれば追いかけるのも難しいため、ここさえ超えれば逃げられる確率が各段に上がる事だろう。

 

 

(……だが、森を抜けた先はまた平地だ。あの空飛ぶ箱が追って来なければいいが。)

 

 

小型の光弾、D2ドロイドが放つブラスターの数は減って来たが、空から降り注ぐ砲弾の数は未だ止むことはない。

 

故に隊長である彼は、相手がこちらの撤退を察知し、この砲弾が“ある程度の照準”を合わせることが出来ると判断する。一瞬だけ“あえて外されている”という思考が浮かび上がるが、どんな魔法でも距離が離れるごとにその命中精度は下がるもの。

 

杞憂だと判断し、より前へと進む。

 

 

「……ッ。収まったか。」

 

「どうやら敵の有効射程から外れた様です。……通信を開きますか?」

 

「いや、今はこの場から離脱することに専念する。」

 

 

降り注ぐ光弾が納まってことで、思わず安堵の息を吐く魔族たち。

 

それに合わせ先頭を走っていた女魔族がそう進言する。短距離通信を用いてスパイである彼に新たな指令を出すか、長距離通信を用いて本国に報告を行うか、という提案だった。

 

しかし返答は、却下。

 

確かに今回の相手は魔力を持たないドロイドたちだったが、未だ魔族たちは“自分たちの星の基準”で動いている。あの場では『魔力を持っていない』という可能性が頭に浮かんでいたが、冷静に考えてみれば『魔力を持たない存在などありえない』。それがこの星のルールであり、例外など存在しない事実だ。

 

故にあのゴーレムたちは、何らかの方法で魔力を隠蔽された存在。そんな判断を、してしまう。

 

 

「あちらも魔力感知の魔法を持っているのだろう。あの光弾が直前まで我らを狙っていたのがその理由だ。……ここで通信を行ってしまえば、あの町に潜む彼の存在を露見させてしまうかもしれん。そして遠距離は、起動まで少々時間がかかり過ぎる。今は安全な場所まで逃げるべきだ。」

 

「……了解です。」

 

 

自分たちが死んだ時の保険、情報を本国に送るためのスパイの存在は最重要。何があろうと守らなければならない。そしてこの森中で有効射程から離れられたとしても、相手が追いかけて来ればすぐに撃ち殺されてしまうだろう。

 

故に選択したのは、更なる逃亡。

 

再度女魔族を先頭にし、互いに移動力上昇のバフをかけながら移動。背後から飛んでくるかもしれないブラスターの光弾や、上から襲い掛かって来るかもしれない輸送機の恐怖に怯えながら、彼らは進んで行く。

 

そして

 

 

「ッ! そろそろ森を抜けます!」

 

 

先頭の彼女が、声を上げる。

 

そこに潜む、ほんの少しの喜色。

 

ほんの短時間だったが、あの戦場で彼らの心に刻まれた恐怖は決して無視できるものでは無かった。一撃で自分たちが死ぬかもしれないものが、五月雨式に飛んでくるのだ。自分たちの常識が通用しない相手との戦いは、想像以上の疲労を齎す。

 

そして、そんな相手から逃げるという撤退戦。

 

背を向けて逃げるがゆえに、次の瞬間には打ち抜かれて死ぬかもしれないという恐怖が常に襲い掛かって来るのだ。

 

過酷な状況から逃げ延び、ようやく森を出ようとしている。未だ油断はできない状況だったが、その頬が緩むのは仕方のないことだろう。

 

一瞬だけ彼女を注意しようかと思った隊長であったが、周囲を見渡してみれば他の魔族も同じような顔をしている。これ以上求めるのは酷だと判断し、開こうとした口を閉じる彼だったが……。

 

 

「ぇ」

 

「どうした!?」

 

 

一番先に森を出た彼女の動きが、止まる。

 

最後方で殿を務める隊長が声をかけるが、反応は無し。疑問に思った彼女の近くにいた魔族が近づき、同様に森の外に出るが……。また、止まる。本来聞こえてくるはずの足音が、続いて来ない。

 

即座に彼らに何か起きたと判断し、他の魔族たちに停止命令。森の中に待機するよう指示し、最後方から前へ。森の外に出ようとする隊長。

 

足を踏み出すことで、木々によって遮られていた視界と光が、開けていく。

 

そこに、あったのは。

 

 

 

「なんだ、これは。」

 

 

 

『お、来た。』『コッチカー』『賭け勝った』『クソが!』

『あれが魔族か』『マッドノ餌食……』『可哀想』

『脳ミソ取られるんだろ?』『ヤバいわよ!』『まぁウチだしねぇ。』

 

 

地平線を埋め尽くす。大量のドロイド。

 

少なくとも十万はくだらない、人形たちの波。それがゆっくりと、そして確実に、こちらに向かって歩を進めている。

 

 

「包囲、だと……。ッ!」

 

 

敵が何を企んでいたのか、それを理解した瞬間。

 

彼の真横に着弾する、光弾。

 

対象が死なないように調節され、風圧だけが襲い掛かる様に弱められたソレ。

 

 

これだけで、理解してしまう。

 

 

先程砲撃が止まったのは、あえて。有効射程は魔族たちが思ってるよりも長く、そして正確。やろうと思えば森の中を走る彼らでさえ打ち抜けるほどの技量。そして威力までも調節可能という、砲兵ドロイドたちの恐るべき能力。

 

そして何より、圧倒的な数。

 

見渡す限り、ドロイドだけ。

 

街を襲い掛かろうとした魔族軍。町の近くに展開したD2ドロイドたち。そのすべてを円で囲うように包囲し、徐々に狭めていくという方法。莫大な兵力が無ければできない芸当。

 

彼からすれば正確な数など判別のしようが無かったが……。少なくとも、何も考えずに平押ししたとしても、完璧に勝ち切れるだけの数が、そこに。

 

つまり、最初から勝ち目など。

 

 

「欠片も……。」

 

 

存在しない。

 

 

「お? ようやく理解できた?」

 

「ッ!?」

 

 

背後から聞こえる声に振り向こうとする彼だったが……。それよりも先に感じる、首筋への鋭い痛み。針のような何かが撃ち込まれ、液体が注入されている感覚。

 

振り向こうにも、体が動かない。意識すら薄れていく。

 

ただひたすら気を保ち、背後から聞こえる声に耳を傾けるしか出来ない彼。

 

 

「んふ~! 凄いでしょ! 実は倉庫で眠ってる奴らからクレーム来てね? せっかくだから全軍でぐるっと町の周囲を囲ってみたのよ! これから大々的に外に出ていくわけだし、アピールは盛大にしておかないとね、ってことで!」

 

「なに、を。」

 

「あはー! ま、軍事演習のお手伝いありがとさん、ってことで! あ、ちなみにさっき打ち込んだのって麻酔ね? いやはや、ちょうどいい“サンプル”がいてさぁ? ……誰のことか、解るよね?」

 

 

その言葉で、理解できてしまう魔族。

 

この国に潜んでいた魔族たちは、全て彼の指揮下にあった。そのすべてを今回の為に投入し、その隊から外れていたのはスパイである彼のみ。つまり“サンプル”なり得るのは、“彼”だけ。

 

 

「いやね? 一応ウチにも真面な医者はいてさ。何かあった時の為に色々調べて貰った訳よ。んでその過程で君らにも作用する麻酔を作ってもらったワケ。ほんとは優しく消し飛ばしてあげても良かったんだけど……。ココ、まだ利用価値、あるでしょ?」

 

 

そう言いながら、何度か後頭部を叩く彼女。

 

麻酔のせいか、それが何を意味しているのか理解できなかった彼だが、状況が最悪なのは理解できる。気が付けば彼以外の魔族たちも薬を注入されており、その場で倒れ伏してしまっている状態。今後何が待ち受けているのかは魔族の彼には欠片も理解できなかったが、生きていれば逃げ出すチャンスがあるかもしれない。

 

そう考え、必死に意識を保とうとする彼だったが……。

 

限界が、訪れる。

 

 

「っと。そろそろか。んじゃ一応……、ご愁傷様~。」

 

 

何処か嘲笑うような、しかし芯ではこちらに何の興味も抱いていない様な。甘ったるく作り物が如き声を最後に、彼の意識は闇に呑まれていく。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高い、金属音。

 

 

『おぉ、起きてしまわれましたか! ご気分はいかがですかな?』

 

「!?」

 

 

爛々と目を光らせたゴーレムが、こちらを見つめている。

 

思わず声を上げそうになったが、音が出ない。

 

いや、音を出すものが無い。

 

自身に何が起きているのか理解できず、周囲の状況を探ろうとする彼だったが……。

 

何も、動かない。

 

動くものが、無い。

 

 

「ッ! ッ!?」

 

『これは失礼。ワタクシ艦長から“マッド”の名を頂いているメディカルドロイドと申します。魔族である皆様の早急の復帰を目指し、治療を担当するものです。あなた方の言葉でいう所の、“お医者”ですね。以後、お見知りおきを。』

 

 

眼前の存在が放つ言葉を、彼は理解できない。

 

その能力が無くなったのではなく、全く知らない言語ゆえに。だからこそと言うべきか、唯一理解できた単語が深く脳に刻み込まれてしまう。つまり、眼前の存在が医者であることを、彼は理解した。

 

それに一瞬、安堵しそうになるが……。

 

やはり、無い。

 

必死で自身の体。首から下を探そうとするが、何も見えない。何も存在しない。首から下、そのすべてが、あったはずの体が、完全に消えてなくなっている。

 

 

『おや、視線が……。あぁ成る程。貴方の身体パーツですが、現在洗浄を行わせてもらっています。頭部パーツと、姿勢維持に使うメインフレーム以外は取り外している状況ですね。ただちょっと、油圧モジュールに互換性があると思われましたので……。』

 

 

そう言いながらゴーレムが何処かを指差し始める。

 

自身に起きていることを理解したくないのか、思わずそれにつられ其方を見てしまうが……。

 

そこに吊るされていたのは、異様な肉塊。

 

多種多様な魔物のパーツが繋ぎ合わされた理解できぬ異物が、ソコに。しかしながら確かな技量をもって処置されており、構成するパーツすべてが本来の持ち主でないどころか、同じ種族でないことを理解できながらも、一個の生物だと認識できるような形に納まっていた。

 

だからこそ、解ってしまったのだろう。

 

その頭部を構成するパーツ。

 

その持ち主が、彼の部下だった女魔族のモノであることを。

 

 

「ッ!? ッ!?!?!?」

 

『えぇえぇ、あちらの胸部に使用させて頂きました。……しかしながら自身の技量が足りぬのか、再起動には至らず……。本当に申し訳ない限りです。よろしければ同種族である貴方に、何か魔族特有のモノが無いかお聞きしたいところなのですが……。』

 

「ッ! ッ!!!」

 

『おっと。そう言えばスピーカー関連も全て洗浄中でございましたね。少し息苦しいとは思いますが、もうしばらくお待ちいただければ。』

 

 

自身の置かれた現状、見るも無残なバケモノにされてしまった部下、理解できぬ言葉を喋り続ける目の前の鉄塊。

 

恐怖か、怨嗟か、絶叫か。

 

彼が何を言おうとしたのかは既に誰にもわからないが、マッドを名乗るドロイドは淡々と作業を進めていく。何せまだ治療、“オーバーホール”は終わっていないのだから。

 

 

『っと、では次の作業に移っていきますね? 艦長殿から記憶領域の提出を求められていますので、一部摘出させて頂きますが……。“医者”の名に懸けて、必ず取り戻し元の形に戻れるよう努力いたしますので。どうか御安心頂ければ。』

 

「ッ! ッ! ッ!!!!!!!!!」

 

『では、分解させて頂きますねー。』

 

 

そう言いながら、彼に向かって回転するナニカを向けるソレ。

 

形状、そして回転数から、頭蓋を削り脳を引きずり出すもの。抵抗するため声を上げようとする彼だったが、既にそのような機能は残されていない。

 

ただ、自分が壊れて行く様を、見る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、相変わらずR18G。」

 

『おぉ! コレは艦長。データ摘出ですかな?』

 

「あ、そうそう。この“テロリスト”の魔族ちゃんね? どうやら隊長だったみたいだからさ。記憶だけ読み取っちゃおって。終わったらすぐ返すから、治療頑張ってね~。……まぁ記憶読み取ったらこの脳焼き切れちゃうんだけど。」

 

『勿論! 全力を尽くさせて頂きます! ……ところで何か言われましたかな?』

 

「うん? 気のせいじゃない? ログ見たけどお互い何も残ってないよ?」

 

『おぉ、確かに! コレは失礼いたしました!』

 

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