異世界バトルドロイド軍団 作:サイリウム
「やっぱゴブリンじゃねぇか!!!」
『か、艦長?』
「ひゃッふーっ!!!」
部下の戦術ドロイドの一体が話しかけてくるが、んなもんどうでもいい。
私の前に投げ出された、緑の小鬼。
子供程度の小さな背丈ながら、非常に醜悪な見た目。知性を感じさせない瞳に、申し訳程度の腰布。そして傍から見れば“女性”に見える私に対し、欲望のまま声を上げる姿。何処からどう見てもゴブリン、前世で親しんだ異世界における定番魔物だ。
「何処からどう見てもゴブリンだよコレ。え、ということはこの星って異世界的な奴? 剣と魔法のファンタジー的な奴? いやでもまだそう決まったワケじゃ……。でもここまで“ゴブリン”な生物他にいるか? いないだろ普通。というかどんな偶然だよ! イッツァファンタジー! FooOOO!!!」
『か、艦長? そ、そろそろ落ち着いて頂けると……。』
「え? あ、うん。ごめんちゃい。」
戦術ドロイドの彼に結構強めに体を揺らされ、ようやく正気が戻って来る。
目の前にいる不可思議存在に興奮するのもいいのだが……。未だ自身はこのドロイドたちの頂点であり、指揮を取る存在だ。この場には眼前の“ゴブリン”を連れて来たドロイドたちもいることだし、ちゃんとした“艦長”の振る舞いを取らねばならないだろう。
(……よし、切り替えた。)
私達がこの墜落地点から出発させた偵察部隊、その中の一つである“第334臨時偵察部隊”のドロイドたちは、1体の未確認生命体を確保してこの場に戻って来た。
担当する戦術ドロイドが『言語を用い対話し、この惑星の情報を収集する』命令を彼らに下し、今回の部隊長であるD2バトルドロイド君もその命令に従った行動をとったらしいのだが……。彼らが姿を現した瞬間、かの“ゴブリン”は奇声を上げながら持っていた木の棒で攻撃を開始。思わずびっくりしちゃったD1ドロイドが発砲して撃ち抜いちゃったそうだ。
まぁそもそも彼らドロイドの装甲は木の棒程度で破壊できるワケないし、ブラスターも“非殺傷モード”になっていたので発射されたのはスタンガン的なもの。電流でビリビリになって気絶しちゃったゴブリンを、偵察小隊たちは仕方なく連れて来たって感じ。
勿論、ロープでグルグル巻きにしてね?
『それで艦長、このドロイドたちの処分は如何しましょう。確かに殺してはいませんが、“過剰防衛”に分類されるかと。さらにその他の問題行動も見受けられます。』
『ッ! お前のせいだぞD1!!!』
『あれモフモフじゃない! 気持ち悪い生き物! 殺してないし捕まえて来た! むしろ評価すべきだ! 昇進昇進! ご褒美にモフモフでカワイイペットが欲しい!』
『やばい~?』
「……あ~、うん。とりあえず発砲しちゃったD1ドロイドは再教育。それ以外はまぁお咎め無しでいいかな?」
『なんで!?!?!?』
『ふぅ……』
『よかった~』
「いやお前の発言、全部記録残ってるからな? 任務放棄とか言ってたし……。まぁスクラップじゃないだけマシでしょ。連れて行きなさい。」
『ちょ、まッ!?』
私がそう“指示”すると、すぐに反発の言葉を口にしようとするD1ドロイド君だったが……。
彼のスピーカーが音を発するよりも前に、背後に影。光学迷彩で完全に背景と同化していた2体のドロイドが、彼の電源を停止させる。普段私の護衛に付いてくれている特化型ドロイドの子達だ。にしてもやっぱり君たち優秀だよねぇ? さすがの早業。
そんなことを考えていると、此方に向かって軽く頭を下げた後にささ~っと彼を“どこか”に連れて行ってしまう特化型ドロイドの彼ら。
「みっちりお勉強頑張ってね~。」
一応大事な部下の1体だし、強制停止された彼を手を振りながら見送ってやる。
まぁね? 正直、ちょっと可哀想な気もするんだけど……。今回の一件を前世の現代日本に置き換えると、結構な不祥事なのだ。言ってしまえば、『他国に出張中の軍人が後ろから話しかけられてびっくり、思わずそいつを撃ち殺しちゃった』みたいな状況。
今回は確かに殺して無いし、相手であるゴブリンも木の棒で先に攻撃してたから全く同じわけじゃないんだけど……。私達って軍隊だし、命令に殉じるドロイドでもある。その辺りしっかりしなきゃな、ってワケなの。
「というわけで、この件は終わり! んじゃT2-8710君! この魅惑の緑くんについて再度説明してくれたまえ!!!」
『はッ! 今回艦長が“ゴブリン”と命名したこちらの生命体ですが、やはり知的生命体で間違いないようです。しかしながらD1バトルドロイドよりも低度なため、連合国憲章に定められた『人類』ではないと推察できます。腰部に装着している装備品からも、技術力は原始文明レベルかと。』
「うんうん、まぁそんな感じだろうね。」
戦術ドロイド君の言葉に頷きながら、そう口にする。
この眼の前にいるゴブリン君。おそらく私に向かって性的に興奮しながら喚き声をあげてる彼が『人類』に分類された場合、色々と不味かったのだが……。とりあえず一安心だ。
私達が所属する“連合国”だが、様々な星系国家が集まって成立している国家になる。
まぁ早い話。私の前世である『人間』のようなヒューマノイドタイプだけでなく、様々なタイプの生物が寄り添い合いながら国家を形成しているわけだ。動物の要素を持つエイリアンとか、菌とか虫から発展したエイリアンとか、それこそこのゴブリンに似たようなタイプのエイリアン。全て合わせて『人類』と称されている。
んで『人類』として扱われるラインが、言語によるコミュニケーションが可能か否か、という所。
“人”して扱われなかったギリギリのライン。そこに位置するエイリアンとかの話が絡むから、こういうのは色々ややこしいんだけど……。報告を聞く限り、今回の“ゴブリン”調査では、大幅にそのラインを下回るらしい。
つまりNOT人間判定できちゃうわけだ。うんうん、安心安心!
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
「……なんかタイミングよく否定された気がするけど、ダイジョブ?」
『先ほどから全て録音し翻訳ドロイドに言語解析を任せていますが、意味のない単なる鳴き声とのことです。一応メディカルドロイドに頭部スキャンを命じ脳を調べましたが、『人類と判断するにはEQが大いに低く、神経数も到底足りない』とのことです。良くて犬かと。』
「なるなる。ワンちゃんね、とりあえず“獣”扱いでいい感じか。」
そう言うと、頷くドロイド君。
まだ私達はこの星、墜落した惑星に対する知識が不足している。故にたとえ“獣”であろうともかなり慎重に扱わなければいけないのは確かではあるが……。この調査結果を見る限り、少なくとも“人として扱う”必要はなさそうだ。もし人だったら連合軍ドロイドとして民間人への対応マニュアルとか起動しなきゃいけない所だったからね……。
ほらウチの連合国、民主主義なわけでしょ? ちょっとしたスキャンダルが票に影響するからめっちゃ気にするんよそこら辺。
「ん~、個人的には色々研究というか、調べたいことがあるんだけど……。まぁ軍務から逸脱しちゃいそうだし、元居た場所に返す感じで動こうか。」
『よろしいので?』
「うん、無いとは思うけどこの墜落地点が“保護区域”で、このゴブリンが絶滅危惧種、みたいな可能性もあるでしょ? もしかしたらこの星の現地勢力にとって大切な生物かもしれんし、後の火種になりそうなのはね? あ、でも発信機は付けとこう! 何かあった時の保険に!」
『畏まりました。ではそのように。』
そういうと、礼をしてから送り返すための輸送任務。それに参加する部下を選定し始める戦術ドロイド君。
本音言えばこのゴブリン、隅々まで調べ尽くしたかったんだけどね? ほら魔物とかだったらさ、体内に魔石とかあるかもしれないじゃん。体の中に埋まってる不思議ちゃん物質。勿論そういうのが無い世界もあるんだろうけど、実際にこう“ゴブリン”を見せられると確かめなくなっちゃうものでしょう?
(ん~! それにしても懐かしいなぁ! 前世で見たような娯楽って、こっちに転生してから碌に見てないもんね! 余計気にしちゃう!)
ドロイドになったせいか記憶が薄れることが無いのが救いなんだけど、ドロイドなせいで休みなんて欠片も貰ったことないんだよね、私達。ずっと軍務ばっかりで娯楽とかマジでサッパリ。
そんな状況でこんな面白そうなものが目の前に転がってるんですもの。そりゃ楽しく成るってもんですよ。
……というか、もし魔石とかあったら冒険者ギルドに持って行って、換金して貰ったりするんだよね? まだこの星に人間、もっと言えば『人類』に値する知的生命体がいるとは限らないけど、ファンタジーのお約束なゴブリンがいるってことは、そういうのも期待できるってわけだよね!
んふふ! 夢が広がる~!!!
「今やってる仕事終わったら、そういうの“体験”しに行きたいよねぇ~。」
『……ッ! 艦長!』
「お。どったの?」
『第389臨時偵察小隊からの入電! 先ほどの“ゴブリン”の集落らしきもの! また“ゴブリン”に追われる別ヒューマノイドタイプを発見したとのことです!』
◇◆◇◆◇
「ギャギャギャ!!!」
「ひぃッ!」
バランスを崩し倒れ伏した少女に、その胴体を足で踏みつけ動けなくするゴブリン。
ドロイドたちが墜落した地点から幾分か離れた場所。そこではこの星における“よくある悲劇”が起きようとしていた。
「ギャッ! ギャギャ!」
「ギャギャギャ!」
「や、やめ! 離してッ!」
彼女の名前は“エリン”。ここから少し離れた場所に存在する村に住む少女だ。
丸みのある耳に、頭部以外にはあまり存在しない髪。一般的なヒューマノイドタイプに分類される彼女は、一人森の中へと入って来てしまった。
理由としては、薬草摘み。
彼女の家は先の戦で父が徴兵され、死亡した家庭だった。これもこの星ではよくある悲劇の一つではあったのだが、当事者である二人からすればたまったものではない。大事な家族が死んだ悲しみと、一家を支える大黒柱を失ったことによる経済的困窮。彼女達が所属している村が互いに助け合う共同体だったおかげか、食うに困る様な状況ではなかったが……。かなり追い込まれてしまったのは確かだった。
子を育てるためには自分だけでは食い扶持を稼げず、村から支援を頼るしかない。娘を持つ母の気持ちは察するに余りあり、支援を打ち切られぬよう“限界まで”村の為に働こうと考えるのは不思議な話ではない。
(お母さんが、倒れちゃった。だから……!)
そんな無理が祟り、母が倒れてしまう。経済的に余裕がないため薬を買う金がなく、食べ物の世話をしてくれている村にそこまで求めることは出来ない。
彼女が母の為に単身、森の中に薬草を探しに行くのは十分に考えられる話だった。
勿論彼女も、全くの無策で飛び出したわけではない。村に所属する狩人から助言を受け、“安全な領域”を聞き出している。人類の敵である魔物の生活圏に近づかすぎないように気をつけ、採取を行おうとしていた。いざという時に逃げる時間を稼げるよう、小石を詰めた小袋。簡易の武器だって持っていた。頭部目掛けてそれを使えば、ゴブリン程度であれば少女でも追い返せる程度のものを、だ。
そんな準備を彼女なりに行い、無事母の元に薬草を持ち帰えろうとしていた彼女だったが……。
(あの、大きな振動のせいでッ!)
運悪く起きてしまった“墜落事故”。
それが彼女の命運を完全に閉じてしまったのだ。
何せ今回墜落した存在は、5km級の超巨大戦艦である。宇宙空間を自由に飛び交う存在で、軍用。搭乗していた大量のドロイドのこともあり、その重量は途轍もないモノとなっていた。そんな存在が、幾ら速度を落していたとしても、宇宙から落ちて来たのである。
これによって生じる“衝撃”。そして“風圧”が如何に強大であったかは、説明せずともご理解いただけるだろう。
墜落当時には村を出て薬草採取を始めていた彼女は、その衝撃を全身に受けてしまっていた。大きく吹き飛ばされ、地面を転がる少女。運が良く、また同時に地面に草木が生い茂っていたおかげか、重要器官を強く打ち付けることは無かった。
しかしそのダメージは決して無視できるものではなく、数刻ほど気絶してしまったのだ。
(何とか起きることが出来て、急いで村に帰ろうとした。でも……!)
此度の墜落で影響を受けたのは彼女だけではない。
この森でその生存圏を増やしていたゴブリンを筆頭とした魔物たちも、また大きな影響を受けていたのだ。
少女のように気絶していた魔物もいたが、問題は一定の知性あるもの。簡易的な原始集落を築く魔物たちであった。洞窟などで生活していた者たちは拠点が崩落し下敷きになるか、家を失うことに。森の合間に出来た平地に拠点を立てていたものは、振動と風圧で全壊。かなりの個体たちが、住む場所を失うこととなっている。
そして生き残った魔物たちはこう思うわけだ、『何故これが起きたのか』と。
この世界には異世界の象徴ともいえるドラコンのような、強大なモノと言うのが存在している。ゴブリンたちのような雑魚では、どう足掻いても太刀打ちできない様な存在。一定の知識を持つ者であれば、墜落によって生じた衝撃を『強大な魔物が現れた』と解釈してもおかしくない。そしてこの場から“逃げよう”とすることも。
故に起きたのが、大移動である。
魔物たちは持てるだけの物資をもって、移動を開始する。その方向はまちまちではあったが、それまで人間と魔物の間に存在していた“干渉地域”が大きく変わったことには違いなかった。無論、少女が安全と考えていた領域に踏み込んでくる魔物も居るわけで……。
「ギャギャ!」
「ギャ、ギャッ!」
「ッ! やめッ!?」
その集団に運悪く捕まってしまうのも、そうおかしな話ではないだろう。
“獲物”を見つけたゴブリンたちは、少女を追い立てその体力を大いに削り取った。後は後ろから付き飛ばすことで、地面にたたきつける。そこから踏みつけ動きを制限した後は、隠れていた同族たちとどもに縛り上げればもう何もすることは出来ない。
本来であればその場で“ことを起こす”こともあり得たが……。その矮小な脳にも先ほどの衝撃、そして未知への恐怖が宿っていたのだろう。汚らしい布で少女の口を縛り、声を出せなくした後。ソレを引きずりながら自分たちの拠点に戻ろうとする彼ら。
既に少女には、何もすることが出来なかった。
(何で! なんでッ! いやだ! ご、ゴブリンなんて! 誰か! 誰か助けて!)
言葉に成らない音を、口から吐き出す彼女。
しかしながら、それを聞く“生物”はもういない。
これから自身に待ち受ける最悪な未来を思い浮かべてしまったのか、先ほどまでの逃走劇の影響もあり、思わず意識を手放しそうになってしまう彼女だったが……。
視界の端に、“赤い光”が浮き上がる。
『……了。第389臨時偵察小隊、攻撃ヲ開始シマス。』
〇戦術ドロイド T2シリーズ
ンャチタナア・オートマタ社製の戦術ドロイド、別名タクティカル・ドロイド。
知能に劣るD1シリーズを始めとしたドロイドたちを指揮、運用するために開発された戦術ドロイド。生身の人間に近しい思考が出来る高性能の人格コアを搭載しており、その演算能力は驚異的と言える。“白髪赤眼戦艦艦長”が言う所の『地球人類』と同じ背丈を持ちながら、スパコンがアカチャンに見えるレベルの計算能力と聞けばその性能もご理解いただけるだろう。
彼らが指揮を取ったドロイドはまさに驚異であり、基本となる波状攻撃だけでも、複数のパターン。相手の継戦能力を的確に、最速で削り取ることが可能となっている。
そんな高い頭脳を持つ弊害か戦闘能力は皆無であり、ブラスターなどの小銃照準機能などは搭載しておらず、前線に出した瞬間、タダの案山子に成ってしまうという欠点がある。そのため彼らドロイドと敵対する帝国軍は、真っ先に戦術ドロイドを刈り取る戦法を確立しており、ドロイドたちを現在進行形で苦しめている。
HT2-392(艦長)の旗下には数百体が配備されており、その一部は戦艦の参謀的な立ち位置にある。通常の“歩兵ドロイド運用に特化した戦術ドロイド”から、“艦隊運用に特化した戦術ドロイド”へと調整されているモノもおり、艦橋で業務を行うか艦長の傍で業務のサポートを行っている。
基本的に艦長の無茶振りに応えたり、投げつけて来た仕事を熟す中間管理職のようなものであり、気苦労は堪えない。下がポンコツであり、上もポンコツなのだ。そのストレスは計り知れないだろう。
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