異世界バトルドロイド軍団 作:サイリウム
「そ、それで。お母さんは!」
『ふむ。……見た所、過労と軽い肺炎ですね。お薬を出しておきますので、毎食後に摂取してください。後は栄養を取って良く休めば、すぐに完治するでしょう。』
「ほんとですか! よ、良かった……!」
メディカルドロイドの診断を聞き、気が緩んでしまったのだろう。膝から崩れ落ちながら、安堵の息を付くエリンちゃん。まぁ今日1日だけで色々あっただろうからねぇ。そうなるのも仕方ないという奴ですよ。
あ、改めましてどもども。HT2-392あらため、ミクニちゃんです。
どう? 可愛い名前でしょ。反論は許すけど私の旗下ドロイドの場合は軍法裁判一直線なので、注意してね! ちなみに現状私が法なので即刻スクラップとなります。
(……にしても、背後からの視線が凄い。)
この背後の視線に付いて説明するには、これまでのことを話さねばならないだろう。決して視線が気まず過ぎて現実逃避しているわけではない。無いったら無い。
……話は遡り、ちょっと前のこと。
というかエリンちゃんが『ママが病気なんです!』と話してからのことだ。
私達の行動は、爆速だった。
何せ連合国の政治家たちの為に、人気取りもしなくてはいけないのが私達ドロイドである。さっきも言ったが、たとえ連合国の民でなかろうと、近くに負傷者がいるのであれば救助せねばならない。それが自身の身を顧みず危険に飛び込み、母を救おうとした娘だと聞けば、もう大盛り上がり。
美談を求めている有権者の皆様は大はしゃぎだし、コレを自軍のドロイドが助けたと知れば次回の選挙も安泰。我が軍団は多大な評価を受けることになるだろう。現状本国と通信を取れない状況だが、帰ったら帰ったで記憶領域をチェックされる。
やらない以外の選択肢は無かった。
(ま、そうプログラムされてるだけ、なんだけど。)
ドロイドなんぞ、偉い人たちの票を集めるための道具でしかない。あらかじめそう整えておくのが普通だ。
でもまぁ? 私は“特別”なので? この辺りのプログラムを無効化するのは簡単に出来ちゃうってわけよ。勿論自分の記憶領域を弄って外部から見れば“何もなかった”ことにするぐらい簡単だし、配下のドロイドたちを一斉に弄って証拠に繋がりそうなものを丸ごと消し飛ばすことも可能。
その辺りの保身対策はカンペキってやつです。
といっても、ここで見殺しにする選択肢はない。なにせエリンちゃんは折角の『第一情報提供者』。恩は売れる時に売るべきだし、下手に死なせでもしたら夢見が悪いでしょう? 私、ドロイドだから夢見ないけど。
(というわけで、メディカルドロイド。ドロイドの治療だけじゃなく、人間の治療も出来ちゃうドロイドを1体呼び出して、その他何体かのドロイドと一緒に出発したってわけです。)
私としては徒歩でテクテク歩きながら、この星の観察とかもして見たかったんだけど……。
配下の戦術ドロイド君と、護衛に付いてるドロイドたち。彼らが烈火のごとく怒りながら止めて来たんだよねぇ。『艦長が破壊されたらどうするんですか!?』って感じで滅茶苦茶怒られちゃった。まぁ確かに、私はこの軍団唯一の高位戦術ドロイド。私がいなくちゃ誰が指揮取るのか、って話だもんね。
でも一応こっちのも考えはあって。ゴブリンを連れて来た334臨時偵察小隊とか。エリンちゃんを連れて来た398小隊とか。こういう小隊を大量にばら撒いて偵察してるんですよ。だからまぁ危険は事前に察知できるし、護衛に付いてるドロイド君たちの性能はピカ1だから、まぁいけるかなって。
そんなわけで個人的には10年ぶりに自然の中での散歩、滅茶苦茶したかったんだけど……。
(止められちゃった以上、仕方ない。次の機会に、ってことで。)
というわけで探りますのは戦艦の倉庫。
正確に言うならば“元の輸送任務”で積み荷の一つだった兵器。
陸上を戦うバトルドロイドたちを守る箱舟であり、大地を掘り進める爆撃機としての役割も果たせるソレ。300以上のドロイドを一度に輸送することができ、“空の戦車”の異名も持つ連合国軍の傑作機。
(“ドロイド・カーゴ”のお出ましだ!!!)
エリンちゃんが『鉄の箱が飛んでる!?!?』と騒いだソレは、私達に残された数少ない航空戦力の一つ。
あの大隊長くんが乗っていた戦闘機とは違い、宇宙空間での活動は出来ないタイプ。『ドロイド用低空強襲輸送カーゴ』って分類で数は結構あるんだけど、戦艦内部のドロイド工場では作れない“替えの利かない”兵器。
結構大事な奴だから私個人の為にこれを使うってのは少し気が引けたし、小型のビーグル。空飛ぶ車みたいなのならもっと沢山あるから、そっちで移動しようと思ってたんだけど……。
戦術ドロイドからも、翻訳ドロイドのおばさんからも『こういうのは大きい方がいい』って言われて、こっちにした感じなんだよね。
(というわけでその後は、ドロイド・カーゴを使ってエリンちゃんの村まで移動。開けた広場的な所に機体を降ろして、彼女の家までお医者さんこと“メディカルドロイド”を運んだってわけだ。)
けれどまぁ、そんなことしたら村中の人が集まっちゃうわけで……。
うん、すごい目で見られてます、はい。
集まって来た村人たちの反応を見る限り、“空飛ぶ乗り物”は確実に未知のもの。そして全員の姿勢が若干低いというか、身分の高い人に対しての恐れから来る敬いみたいな視線が見て取れる。
……うん、絶対これ貴族として見られてますね、ハイ。
「せ、説明とか色々めんどいんだよな……。お、おばさん? 任せていい?」
『だからおばさんではなく型番をッ! ……はぁ、もういいです。どうせ艦長殿は言っても聞きませんし。えぇえぇ、拝命いたしましたとも!』
スピーカーを用いない会話。通信を用いておばさんこと翻訳ドロイドである彼女にお願いしてみるが……。めっちゃキレた声で言葉を返してくる。
う、受け入れてはくれたが、コレ後で何かしらのフォローしないといけない奴だな。流石に後ろから刺されたり、ブラスターで撃ち抜かれたりはしないだろうけど、滅茶苦茶面倒になる奴。
ふ、服とか好きみたいだし。この惑星で良さげなの見つけたら優先的に渡すとか……? あ、まだ話の続きがある。えぇ聞きますとも。
『その“埋め合わせ”についてはまた後程。して、話を元に戻しますが……。貴殿が『我らの主』であること、『人』であること、そして我々ドロイドは対外的には『ゴーレム』である、という風に説明いたします。よろしいですね?』
「……ゴーレム?」
『さっき貴女が『お外歩きたいィィ!!!』と騒ぎ散らかしていた時にエリンちゃんから聞き出しましたわ。』
隠れて録音していたのだろう。わざわざ私の醜態をデータでこっちに投げつけながら、そう紡ぐ翻訳ドロイドおばさん。
い、いやだって10年ぶりの大自然よ? これまでずっと戦場でこき使われた上に、ちょっとだけ休みが入ってもめっちゃ機械機械した場所しか出歩けなかったんだよ? 遊ばせてよマジで!
『この会話データを帰還後に本部へと提出いたしましょうか?』
「黙ります。」
『よろしい。』
そんな会話をしながら。私達が移動方法の準備などをしていた時、その間にエリンちゃんとの会話で得たデータを送ってくれるおばさんドロイド。
これ見る限り、どうやらこの惑星には“ゴーレム”と呼ばれる動く無機物。ドロイド的な存在があるそうだ。村人たちではお目にかかることが出来ない存在で、高名な魔法使いや、冒険者などが飼っていたり、討伐したりするという。
はぇ~、そんなの居るんだ。私の知ってるファンタジー系とおんなじ感じだね。
……いやちょっと待って魔法!? やっぱココ魔法あるの!?!?!?
『まだそれがお伽話なのか、それとも一定のエイリアンが使用できる“超能力”の一種なのかは不明ですがね。』
「う~ん! ファンタジーしてるッ! 私! 私も使いたい! 使わせろ!」
『話聞いてるんですかね、この人……?』
うんうん! いいねこの惑星!最初は変なとこに墜落したってことで気分あんまりよくなかったけど、前世想像の世界で親しんだ魔法とか魔物が出てくるのなら話は別! 私もゲームや漫画みたいなことしたい!
どうせ船の修理終わるまでかなりの時間がかかるんだ! こうなったらもう遊びまくっちゃうぞ! 仕事なんかしてる場合じゃねぇ!!!
『いやそれはしてくださいな?』
◇◆◇◆◇
「な、なるほど。つまり其方の騎士様は……」
『えぇ。ここから遠く離れた“連合国”にお仕えする方ですわ。本来、他国の方などどうなろうと関係の無い事ですが……。ミクニ様は大変お優しいお方。あの娘を哀れと思い、薬師の知識を持つゴーレムを遣わした。というわけです。』
「そ、そりゃありがたいことで……!」
というわけで淡々と進む、おばさんドロイドのお話。
幾つか事実を含んだカバーストーリーのせいか、それともおばさんの話術が単に凄いのか。おそらく後者のおかげで、エリンちゃんの住む村の人たちは“話の内容自体には”疑問も抱かずに聞いてくれているように見える。
いや、本当は『我々は連合国軍所属のドロイド軍団で~』とか話したいよ? そもそも所属国の偽証とか、戦場じゃ御法度なわけだし。あのクソ帝国みたいに船の識別コードを連合軍のに変えてかく乱したりとか絶対しないよ?
でもさ、流石にまるっきり全部事実を言うわけにはいかなくて……。
(防諜の意味もあるけど、理解して貰えないってのがなぁ。)
あちら側が急に『実は魔法と言うのは……』というのを話し始めても私以外のドロイドにはチンプンカンプンのように、この村の住人たちに対してSF的な話をしても欠片も理解して貰えないだろう。
言語の壁による相対する単語が無いってのも理由の一つだが、技術力や形成している文化の違いなども理由になるだろう。見るからに中世の人たちだし、彼らの常識にない話をいきなり馬鹿正直に説明しても……、時間の無駄になっちゃう。
理解されないくらいなら、解り易い言葉に置き換え、出来るだけ寄せる。ま、それぐらいは許容しないとね。
『……と、このようにミクニ様は我ら“ゴーレム”を使役しているお方です。見た目は少々違いますが、人のように考え、人のように動くことが出来ます。話しかけるぐらいならば良いですが、無暗に触らないように。』
「そ、そりゃもちろんですじゃ。」
「違う国のお貴族様みたいなもんか。」
「何もないとええが……。」
おばさんの言葉が周囲に響く中、村人たちの小さな声が聞こえてくる。
此方に聞こえないよう小声で話しているみたいだが……。こっち全員人じゃなくてドロイドなので、全部筒抜けなんだよなぁ。
……声と顔色、それを見る限り、あちらさんの反応は『触らぬ神に祟りなし』と言った感じ。おそらく貴族などの権力者の力が強く、村人たちの被支配者はあまり逆らえないのだろう。やって来た台風に対し家の中で通り過ぎるのを待つように、彼らもこちらが早くどこかに行くのを願っている。そういった表情なのが大半だ。
此方からすればエリンちゃんの母親を医者に見せてあげたわけだが、すぐに目に見えて結果が出るわけではない。すぐに信用を得るってのは難しいのだろう。
(まぁ他国の人間、それも武力持ってる奴が急にやってきたらビビるか。)
ドロイド・カーゴを使った空からの訪問ということで注目を受けたが、今は恐怖の方が多い。
確かに非常に話が解りそうな一部の子供たち、とくに男子からはドロイドに向けて『ナニアレめっちゃかっけぇ!』の視線が降り注いでいるため、そこは問題なさそうなのだが……。
問題なのが大人たちの方。特におばさんが“ゴーレム”の単語を発した時、より恐怖の色が強くなったように見える。ソレが何を意味するのか理解し、ウチのドロイドたちが金属製であることから正確な戦力差を理解する。
此方にその気がなくとも、襲われれば確実に負ける相手が目の前にいる。この村の住人たちが強く警戒するのもおかしな話ではない。
でもハナからそう見られちゃうのは……、世知辛いねぇ?
(仲良くなる必要はない、それがまだ救いかな?)
この場にいるのが私だけならば、何が何でも仲よくしようと思っただろう。そっちの方が楽しそうだし、折角初めて見つけた村なのだ。友好関係は結んでおきたい。
けれど軍団の長、高位戦術ドロイドHT2-392として考えれば……。別にどう転んでも問題はない。私達が必要なのは『この周囲は安全か否か』という情報だけであり、現状物資などに困ってもいない。
ドロイドである限り必要なのは電力だけであり、その電力はあの戦艦が生きている限りほぼ無限に生成される。人であれば外に食料を求めたりもしただろうが、その必要もない。
強いて言えば鉱物資源とかは欲しい所だけど……。連合国で使われた精錬レベルものが出てくるとは思わないし、ねぇ?
(ま、怖がられてるんならそれまでだ。本人たちが望まない以上、変に関わる必要もないかな?)
個人的な欲望、魔法や魔物などのよりファンタジーな存在を感じたいという欲は、別にこの村でなくても手にすることが出来るだろう。
今回生まれたエリンちゃんとの縁も、村の外で交流できることを考えると、別に無くなるわけじゃない。
そう考え、そろそろ帰ろうかと口にしようとしたところ……。
「て、てぇへんだ! 魔物が! 魔物が攻めて来るぞ! 大量だ!」
叫びながら、こちらに走って来る村人。
走って来た方角からして、見張り台。空飛ぶ鉄箱ことドロイド・カーゴが村にやって来たとしても、見張りの役目を果たし続けていた者のようだ。
「ほ、本当か!」
「あ、あぁ! 軽く見ただけで百は超えてる! 一直線でこっちに向かってるぞ!」
「ひゃ、百だって!?」
「そ、そんな数、俺たちだけじゃ……!」
「くッ! あの今朝の揺れのせいで魔物たちが動きだしたのか!」
……うん? ちょっと待って。“揺れ”?
「確かにあの大きさだ。大地が吹き飛んだのかって思うぐらいの揺れだったし、どでけぇ魔物か何かが森の奥で出たんだろう。」
「それに恐れて大移動、ってわけか……。」
「ゴブリンだけじゃなく、オークとかもいたぞ。」
「くッ! 戦で男手が足りねぇ! 追い返すのは無理筋か……!」
あの、えっと……。今朝の大きな揺れって、確実にウチの墜落ですよね……?
超巨大な質量が地面に叩きつけられて、地震みたいなのが発生。それが原因で魔物の大移動が起きて、その一派がこの村にやって来た、と。
な、なんだろ。この言い知れない罪悪感。
これ……、私達が対処した方がいい奴ですよね?
「お、おばさん?」
『トップは貴女なのですから。お好きにされればよろしいかと。ただ交渉ドロイドと致しましては、恩と信頼を得る良い機会ではなくて? 戦術面での問題が無ければ、の話ですが。』
「戦術ドロイド君?」
『“オーク”なるものの戦力分析がまだですが、ドロイド・カーゴの航空支援があれば問題ないかと。それと、自身で解る程度の事でしたら、艦長である貴方様であれば既に把握済みかと。』
あ~、うん。だよね。
んじゃちょっとだけ、私の“切り札”に頑張ってもらうとしますか。ちょうど連れてきてるし、この前ずっと護衛ばっかりだと腕が鈍るって零してた。あんまり良い相手かどうかは解らないけれど……、何もないよりはマシでしょ。
そんなことを考えながら、指を鳴らす。
「護衛ドロイドちゃんたち? ちょ~とだけお仕事。頼めるかな?」
〇メディカルドロイド DCD-119A-21
ンャチタナア・オートマタ社製のメディカルドロイド、DCD-119A型の21号機。
本来ヒューマノイドを始めとした“人類”を対象とした治療を行うドロイドだったが、ンャチタナア・オートマタ社の開発陣が『これドロイドも修理できるように成れば最強じゃね?』という深夜テンションから再設計された機体。当初の目論見通り、人類とドロイドの治療を行うことが出来る万能ドロイドとなっている。
ただ必要となる医療データ量や、アタッチメントの数が増加したため大幅にコストが上昇。それまでのドロイドより5倍ほどの値段が掛かる設計となってしまった。これならば人類用とドロイド用の2体を用意すれば良いという話になり、初期型のみ少数生産されるにとどまっている。
なお艦長こと“ミクニ”が『コスト高いせいでエリクサー症候群になってコイツら倉庫で眠らせるぐらいだったらさ、ウチに寄越してくれない? ちょうど枠開いてるし』と上層部に申請したため、その少数生産分の大半が彼女の戦艦で勤務している。
今回エリンの村に連れてこられた21号機は最初から空気となっていたが、しっかりと仕事を熟し後ろで控えていた。自分の業務外であるため戦闘などに関して口出しすることは無いのだが、村内部で他にも病を持つ人間を発見したため『後で治療させてくれないかなぁ』と考えている。
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