遺産で引き継いだSPメイドたちがヤバ過ぎる   作:最高司祭アドミニストレータ

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面接官を務めさせていただきます。
よろしくお願いします。
さて、資料を拝見させていただきましたが…以下略。

PS : とどのつまり、メイドたちはこんな人物なんだよ回でございます。


個人面談と履歴書確認

 俺は広大な執務室のデスクに座り、目の前に広げられた四枚の『履歴書』を前にして、両手で頭を抱えていた。

 

 

「…なんで俺は、この紙を昨日、サインする前に読まなかったんだ」

 

 

 後悔先に立たず。昨日の俺は「綺麗なメイドさんたちだなぁ」と完全に油断し、同情的な弁護士の視線にも気づかず、この恐るべき書類の束に目を通すことなくハンコを押してしまったのだ。

 

 だが、現実に屋敷が物理的に破壊され始めている以上、当主として彼女たちの正確なスペックと『役割分担』を把握し、強固なルールを敷かなければならない。

 

 俺は胃薬を水なしで飲み込み、インターホンのボタンを押した。

 

 

「よし。一人ずつ入ってくれ」

「失礼いたします、旦那様!」

 

 

 ガチャリと扉が開き、春風のように朗らかな声とともにハニーブロンドの少女が入室してきた。フリル付きのクラシカルなメイド服に身を包んだその姿は、一見するとどこかの良家のお嬢様のように可憐だ。

 

 俺は執務デスクの前にある来客用の椅子を指差し、努めて冷静な「面接官」としての態度を作った。

 

 

「ああ、入ってくれ。そこに掛けて」

「はいっ!」

 

 

 ひまりが背筋をピンと伸ばして椅子に座るのを確認し、俺は手元の履歴書に視線を落とした。

 

 

『氏名:天音ひまり(18) 担当:庭園管理および重量物運搬』

『特記事項:戦車を素手で横転させる膂力あり。笑顔が可愛い(※祖父の直筆メモ)』

(笑顔が可愛い、じゃないんだよクソジジイ。特記事項のスペックがバグりすぎているだろ)

 

 

 俺は内心で祖父に毒突きながら、咳払いを一つ挟んだ。まずは社会人の基本、本人確認と能力のヒアリングからだ。

 

 

「ええと…天音ひまりさん。書類には『庭園管理と重量物運搬』とあるな。とりあえず自己PRというか、君の得意なことやこれまでの経験を教えてもらえるかな」

「はいっ! 私は幼い頃から山奥の集落で育ち、日々の薪割りや素手での熊との相撲を通じて基礎体力を培ってまいりました! 前職…いえ、先代の当主様にお仕えする前は、主に岩盤の破壊や、崩落したトンネルの素手での開通作業などに従事しておりました!」

 

 

 俺の持っていたボールペンの芯が、ピキッと音を立てて引っ込んだ。

 

 

(熊と相撲? トンネルの素手開通? 履歴書の『戦車を横転させる』って、比喩じゃなくてマジなのか!?)

「そ、そうか。とても力仕事に自信があるんだな。だが、ここは採石場でも戦場でもない、世田谷区の高級住宅街だ。君のその素晴らしいパワーを、この屋敷の『庭園管理』にどう活かしていくつもりなのか…具体的に聞かせてもらえるか?」

 

 

 俺が本物の面接官のように両手を組んで尋ねると、ひまりはパァッと顔を輝かせて身を乗り出した。

 

 

「はいっ! お庭の平和を守るのも庭師の重要な仕事です! 例えば、外部から侵入者が車両で突入してきた場合、私が敷地内の庭石を投擲して物理的に粉砕します! それから景観を損ねないよう正門の裏に落とし穴を掘り、対戦車用の塹壕を迷彩ネットで美しくカモフラージュしておく計画も立てております!」

「おお、それは凄い…じゃない! なんで一般家庭の庭に地雷原と塹壕を作ろうとしてるんだ!」

 

 

 俺はたまらず机を叩いてツッコミを入れた。

 

 

「いいか、ひまり? お前の担当は『庭園管理』だ。つまり、花に水をやったり落ち葉を掃いたり、せいぜい伸びた枝を切るくらいが仕事なんだ。門扉の電子ロックが遅いからといって、素手でチタン合金を引きちぎるのは庭師の仕事じゃない!」

「はいっ! 申し訳ありません!」

 

 

 ひまりはシュンと肩を落とし、素直に頭を下げた。本当に悪意は1ミリもないらしい。

 

 

「分かってくれればいいんだ。これからは、もっと普通に…そうだな、花壇にパンジーとかチューリップを植えて、綺麗な庭にしてくれ。それなら力もいらないだろう」

 

 

 俺が妥協点を見つけて優しく諭すと、ひまりの顔に再び希望の光が宿った。

 

 

「パンジー…チューリップ! なるほど! 美しい花に偽装して、根や球根に毒性を持つ植物を配置し、侵入者の足元を狂わせるという罠ですね! しかも開花時期をずらすことで、一年中途切れることのない毒のデッドラインが完成する…! 流石は旦那様、素晴らしい戦術です!」

「違う! 純粋な鑑賞用だ!! なんで全部の思考が殺傷能力に結びつくんだ!?」

「お任せください旦那様! 明日の朝までに、最高に致死率の高いお花畑を構築してみせます!」

 

 

 俺の悲痛な叫びを「照れ隠しの激励」と見事なまでに誤変換したひまりは、ビシィッと勢いよく敬礼をすると、そのまま満面の笑みで執務室から元気よく退出していった。

 

 静まり返った部屋の中で、俺は深く深くため息をついた。頭が痛い。彼女との面接を通して、我が家の庭が遠からず「ボタニカルな殺戮要塞」と化す未来が確定してしまった。

 

 

「…次。炎堂瑠璃さん、入ってくれ」

 

 

 ひまりが残していった頭痛の種を振り払うように、俺は再びインターホンのボタンを押した。直後、重厚な扉が開いた。

 

 赤いポニーテールを揺らし、メイドとしての記号を残しつつも実戦に特化したスリット入りのタイトスカートを穿いた少女が、足音一つ立てずにデスクの前に立った。

 

 立ち姿だけで、彼女の体幹が恐ろしく鍛え抜かれていることが素人の俺にもわかる。

 

 俺は二枚目の履歴書をめくった。

 

 

『氏名:炎堂瑠璃(18) 担当:専属運転手およびフロントドア近接警護』

『特記事項:炎堂流武術のエースにして正統後継者。無敗。ツンデレなところが最高にイイ(※祖父の直筆メモ)』

(死んだじいちゃんを今すぐあの世から引きずり出して説教したい…ツンデレ目当てで武術の達人を雇うな)

 

 

 俺はこめかみを揉みながら、履歴書から瑠璃へと視線を移した。

 

 

「炎堂瑠璃さん。君の担当は『専属運転手』と『玄関の受付(フロントドア警護)』ということになっているが…まずは自己PRから聞かせてもらえるか」

「ええ。あたしは代々続く裏の武術の家系、炎堂流の正統後継者にして最高傑作よ」

 

 

 瑠璃は腕を組み、自信に満ちた勝気な笑みを浮かべてスラスラと語り始めた。

 

 

「打撃、投げ、関節技、そのすべてにおいて達人クラスの練度を誇っているわ。人間の骨格と筋肉の構造を完全に熟知しているから、対象を『殺す』のはもちろん、『一切の怪我をさせずに激痛と恐怖だけを与えて無力化する』不殺の制圧術も完璧にこなせる。どんな刺客が来ても、アタシがアンタの前に立つ限り、指一本触れさせないわ」

 

 

 彼女の輝かしい自己アピールを聞き、俺は深く重いため息をついた。

 

 

「…素晴らしい経歴とスキルだ。だが瑠璃、ここは闘技場でも要人警護の最前線でもない。君の仕事はあくまで、車の運転と来客の対応だ。配達員さんの関節を極める仕事じゃない」

「考えが甘いわよ、旦那様」

 

 

 俺の指摘に対し、瑠璃はフッと鼻で笑った。

 

 

「相手がボールペンに偽装した暗器や、小型のスタンガンを持っていたらどうするの? アタシは骨格構造を熟知しているから、彼らの骨には一切ヒビ一つ入れていないわ。相手が胸ポケットに手を入れた時点で、怪我をさせずに肩を外し、圧倒的な死の恐怖で戦意を喪失させる。これこそが、受付における最強のクレーム対応であり最適解でしょ?」

「違う! ただの営業妨害だ! その結果として我が家にMmazonが届かなくなったら、俺の日用品はどうやって買えばいいんだ!」

 

 

 俺が机を叩いて抗議すると、瑠璃は不満そうに唇を尖らせた。

 

 

「チッ、平和ボケが。なら車の運転でアピールさせてもらうわ。あたしのドライビングテクニックなら、どんな追手が来ても路地裏でドリフトして完全に振り切ってあげる」

「追手なんかいない! だいたい、ただスーパーに買い出しに行くだけなのに、なんであんな対戦車仕様の重装甲の防弾車を出すんだ。サスペンションがガチガチで乗り心地が最悪なんじゃないか!?」

「当然でしょ! 普通のセダンじゃ、RPGを撃ち込まれたらあんたの命を守れないじゃない! 買い物帰りの交差点は、一番伏兵に狙われやすいポイントなのよ!」

 

 

 瑠璃は身を乗り出し、俺の机にバンッと両手をついた。そして、なぜか急に耳まで真っ赤に染め上げ、プイッと顔を背けた。

 

 

「べ、別にあんたの身を心配してるわけじゃないからね! あくまで仕事だから、アンタに死なれちゃ困るってだけで…!」

「だから! 安全運転で普通のエコカーに乗ってくれればそれでいいんだよ! ロケット弾なんて飛んでこないから!」

 

 

 ツンデレと武闘派の思考が混ざり合ってわけのわからない言い訳をする瑠璃に、俺は完全に頭を抱えた。

 

 俺の求める『普通』は、彼女の辞書には一行も載っていないらしい。

 

 

「…まったく、世話の焼ける主ね。まぁいいわ、受付の対応はもう少しマイルドにしてあげる」

 

 

 瑠璃は少しだけ妥協したように肩をすくめると、赤いポニーテールを揺らして颯爽と部屋を出て行った。ツンデレを通り越して、ただの狂犬である。

 

 残る面接はあと一人。俺は気を取り直し、疲れた声で部屋の空間に向かって呼びかけた。

 

 

「次。氷川セツナさん、入ってくれ」

 

 ……。

 数秒待っても、扉が開く気配はない。ノックの音もしない。

 

 

(あれ? 声が聞こえなかったか?)

 

 

 首を傾げた、その時だった。

 

 

「お呼びでしょうか、旦那様」

 

 

 俺の耳元、背後のたった数センチの距離から、氷のように冷たく平坦な声が響いた。俺は悲鳴を飲み込みながら、弾かれたように椅子ごと回転する。

 

 いつの間にか、本当にいつの間にか、執務室のドアを開ける音すら立てず、俺の真後ろの死角に漆黒のボブヘアの少女が立っていた。

 

 

「お、お前…! いつからそこに…っ!?」

「ひまりが退室した直後から、旦那様の椅子の影に潜伏しておりました。気配を消すのは得意ですので」

 

 

 無表情のまま淡々と告げるセツナに、俺は心臓が口から飛び出そうになるのを必死に抑えながら、三枚目の履歴書を震える手で持ち上げた。

 

 

『氏名:氷川セツナ(18) 担当:毒味係および内部セキュリティ』

『特記事項:暗殺と隠密のスペシャリスト。気配ゼロ。無表情クーデレは男の浪漫。絶対領域が眩しい(※祖父の直筆メモ)』

(ロマンとか絶対領域とかどうでもいい! 寿命が縮むわ!)

 

 

 俺は乱れた呼吸を整え、再び面接官としての威厳を取り戻そうと咳払いをした。

 

 

「…セツナ。君の担当は『毒味係』と『内部の戸締り』だな。まずは、君のこれまでの経歴と特技を聞こうか」

「はい」

 

 

 セツナは一切の感情を排した無機質な瞳で俺を見据え、機械のように正確な口調で語り始めた。

 

 

「私は物心ついた頃より、光の届かない裏の世界で『排除』と『潜入』の技術を叩き込まれてきました。呼吸音、衣擦れ、体温に至るまで自身の存在を完全にゼロにするステルス能力。そして、古今東西のあらゆる毒物、劇薬、化学物質の知識と、それを用いた暗殺および解毒のスキルを有しています。私に破れないセキュリティも、私が感知できない毒も、この世には存在しません」

「…凄まじい経歴だな。映画の主人公みたいだ」

 

 

 俺は乾いた笑いを浮かべた。

 

 

「けどねセツナ? 俺は君に、『毎日の食事の準備』と『夜寝る前の戸締り』をお願いしたいだけなんだよ。俺の朝のコーヒーに、スポイトで怪しげな化学薬品を垂らして、至高のブルーマウンテンを紫色のスライムに変色させるのはやめてくれ」

 

 

 俺の切実な訴えに対し、セツナはわずかに小首を傾げた。

 

 

「問題ありません。あの試薬は人体に完全に無害です。対象の体内に入る全物質の事前スクリーニングは、戦場における生存率を最も高めます。旦那様の視覚的ストレスを軽減するため、次回からは色が変色しない、透明の最新型神経毒探知フィルターを使用します」

「そういう問題じゃない! そもそも俺の食事に薬品を混ぜるな!」

 

「そうですか。化学的な検知がご不満であるならば、アナログな手法に切り替えます。私が旦那様の口に入るものを事前にすべて咀嚼し、安全を確認した上で、口移しで給餌します」

「小鳥のヒナみたいな真似はやめろ!! 倫理的にも絵ヅラ的にもヤバすぎるだろ!!」

 

 

 俺が全力で拒否して机に突っ伏すと、セツナは無表情のまま、微かに残念そうな(?)空気を漂わせた。

 

 

「…理解不能。旦那様は、ご自身の強固な安全確保よりも、コーヒーの風味や食事のプロセスを優先するのですね…仕方がありません」

 

 

 セツナはスカートの裾をわずかに持ち上げ、太もものガーターベルトに隠された漆黒のコンバットナイフを撫でるようにして言った。

 

 

「食事が無防備になるのであれば、その他の時間で警護の密度を上げるしかありません。…私が二十四時間、瞬きをせずに、旦那様のベッドの下、あるいは天井裏から、一切の気配を絶って監視し続けます」

「怖いからやめてくれ! 頼むから俺のプライバシーを返せ!」

 

 

 無言で会釈をして闇に溶け込むように消えていったセツナを見送り、俺は机に突っ伏した。終わった。全員、根底から『普通』の概念がバグっている。こんな連中に囲まれて、俺はどうやって平穏な生活を送ればいいというのか。

 

 …待てよ。

 

 俺はハッとして顔を上げた。面接はまだ一人残っている。俺は最後の四枚目の履歴書に、恐る恐る手を伸ばした。

 

 

『氏名:橘結衣(26) 担当:メイド長・経理・家事全般』

 

 

 特記事項の欄を見る。

 

 

『特記事項:日商簿記一級。実務能力カンスト。あの猛獣たちを裏で制御し、屋敷の口座とインフラを支える、四十万家に絶対不可欠な超・有能一般人。※あいつらだけだと屋敷が崩壊するから、何がなんでも引き留めろ(※祖父の血文字のメモ)』

「一般人?」

 

 

 コンコン、と控えめなノックの音が鳴り、「失礼いたします」と静かな声が響いた。

 

 入室してきたのは、クラシカルなメイド服を綺麗に着こなした結衣さんだった。彼女の瞳は暗殺者のそれではなく、武器も隠し持っていない。

 

 ただ、その腕には分厚い『家計簿』が大事そうに抱えられていた。

 

 

「旦那様。ひまりさんによる門扉破壊の件ですが」

 

 

 結衣さんは机の前に立つなり、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

 

 

「特注のチタン合金の再発注と、業者への慰謝料で…今月の屋敷の維持予算が、もう限界です…っ。私、毎朝あの子たちが何か壊すたびに、寿命が縮む思いで…っ」

 

 

 分厚い家計簿を抱きしめた結衣さんのその涙は、狂った世界に巻き込まれた『普通の人間』の、本物の絶望から来る涙だった。

 

 

「…無理もない。あの三人の猛獣を裏で管理するなんて、一人じゃ到底不可能だ。他のメイドたちはどうしたんだ? 昔、じいちゃんが生きていた頃は、この屋敷にも三十人くらい普通のメイドがいたはずだろう?」

 

 

 俺が率直な疑問を口にすると、結衣さんはハンカチで目元を拭いながら、遠い目をし始めた。

 

 

「…ええ。私が三年前にこの屋敷で働き始めた頃は、確かに大勢のメイドがおりました。ですが…大旦那様が『究極のロマンじゃ!』と言って、あの三人を屋敷に招き入れてから、すべてが変わったのです」

 

 

 結衣さんの声が微かに震える。

 

 

「庭掃除のたびに地響きが鳴り、来客のたびに骨の軋む音が響き、まかないのカレーが紫色に変色する日々…。普通のメイドたちは次々と胃に穴を開け、ある者は田舎へ逃げ帰り、ある者は夜逃げ同然で屋敷を去っていきました。…気づけば、特別ボーナスと実家のローン返済という『欲望』だけで正気を保ち、逃げ出さずに残っていたのは…一番下っ端だった私一人だけだったのです」

「…」

 

 

 壮絶すぎる。

 なんという地獄のサバイバルレース。彼女は実力でメイド長に登り詰めたのではない。

 他の全生存者が脱落した結果、ただ一人残された『悲しき生存者』だったのだ。

 

 俺は椅子から立ち上がり、思わず彼女の手を両手でギュッと握りしめていた。

 

 

「結衣さん…あんた、そんな苦労をしてたんだな…っ」

「だ、旦那様…?」

「すまん! 俺が…俺がもっと早く、この屋敷に戻ってきていれば…っ」

 

 

 俺は深く頭を下げた。胸の奥から、強烈な罪悪感が込み上げてくる。5歳で両親がマヌケな事故死を遂げた後、俺はこの屋敷で祖父に引き取られた。

 

 しかし、物心ついた頃には「このじいちゃんに付き合っていたら、俺の人生が崩壊する」と本能で悟った。

 

 だから俺は中学に入ると同時に、『大富豪の跡取りたる者、あえて一般社会の荒波に揉まれ、庶民の金銭感覚を学ぶべきです!』という、もっともらしい大義名分をでっち上げた。

 

 漫画やアニメのテンプレ展開が大好きな祖父は、『おお! 若獅子が千尋の谷へ落ちる修行編じゃな! ロマンあって最高じゃろ!』と大喜びで俺の提案を許可してくれたのだ。

 

 それ以来、俺は世田谷のワンルームマンションで一人暮らしをしながら、祖父の狂気から完全に隔離された『絶対的な平穏』の中で青春時代を過ごしてきた。

 

 自室のPCモニターで株と為替のトレード技術を磨き、誰にも邪魔されない投資生活を謳歌していたのだ。

 

 そして22歳になった春、祖父が寿命で大往生を遂げ、「遺産相続」という名目でこの屋敷に強制送還されるその日まで──俺は、結衣さんがたった一人でこんな最前線の塹壕に取り残されていることなど、露ほども知らなかったのである。

 

 

「だ、旦那様…お分かりいただけるのですか? この屋敷で、ごく普通の『常識』を守り続けることの、この胃が千切れるような辛さを…っ!」

「痛いほど分かる! 俺もすでに胃薬のシートが半分空になった! 平和な日本で、なんで毎日地雷や暗殺の心配をしなきゃいけないんだ!」

 

 

 俺と結衣さんは、机越しにガッチリと手を握り合った。

 

 俺が安全なワンルームで株のチャートを眺めていた数年間、彼女はこの魔境でたった一人、屋敷の口座とインフラを守るために猛獣たちと戦い続けてくれていたのだ。

 

 

「結衣さん。足りない予算は俺のポケットマネーから出すし、君の特別ボーナスも、俺の小遣いを削ってでも必ず弾む。君の家のローンも、俺の投資の利益で全部チャラにしてやる」

「えっ!? ほ、本当ですかっ!?」

 

 

 結衣さんの瞳に、かつてないほどの強烈な『生気』と『資本主義の光』が宿った。

 

 

「ああ、約束する。だから頼む、絶対に辞めないでくれ! あんたがいなくなったら、俺はこの屋敷で生きていけない!」

「旦那様…っ! はい、私、頑張ります! 旦那様の平穏な日常と、この屋敷の口座残高は、私が絶対に守り抜いてみせます…っ!」

 

 

 窓から差し込む光の中、俺とメイド長は熱い涙を流しながら、互いの健闘を誓い合った。

 

 だが、感動してばかりもいられない。現状を放置すれば、確実に新たな物理的被害と修繕費が発生する。

 

 当主として、あの猛獣たちの狂った防衛意識を、今すぐ根底から正さなければならない。

 

 

「結衣さん。涙を拭いて、すぐにあいつらをリビングに集めてくれないか」

「3人をですか?」

「ああ。時間は三十分後だ」

 

 

 俺は固く握りしめていた結衣さんの手を離し、当主としての、そして一人の平穏至上主義者としての決意を込めて宣言した。

 

 

「これより、第一回『屋敷内安全保障会議』を開催する。あの異常者たちに、日本の一般常識というものを徹底的に叩き込んでやる」




これがSPメイドか〜(遠い目)

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