遺産で引き継いだSPメイドたちがヤバ過ぎる   作:最高司祭アドミニストレータ

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キノコの里とタケノコの里で派閥が出来ているようです。皆さんはどちらの派閥に属されているかは分かりませんが、私は両陣営に属しております。

ちなみに職場では後輩ひとりしかキノコの里を食べないので、私は後輩と二人でキノコの里を食べております。

気のせいかな、チョコの部分が少ないような…?

それではご覧ください。


第一回・屋敷内安全保障会議

 朝の陽光がさんさんと降り注ぐ大豪邸の広大なリビングルームには、場違いなほどの重苦しい沈黙が満ちていた。

 

 俺はイタリア製の最高級ソファに深く腰掛け、両手で顔を覆っていた。

 

 目の前の大理石のテーブルを挟み、直立不動で並んでいるのは三人の美しいメイドたち。フリルのエプロンも楚々とした立ち姿も、見た目だけならば非の打ち所がない最高峰の美少女たちである。

 

 しかし俺の目には、彼女たちが『人間の形をした戦略兵器』にしか見えなかった。

 

 

「──単刀直入に言う。お前たちの『護衛』は、明らかにやりすぎだ」

 

 

 静まり返ったリビングに、俺の絞り出すような声が響く。徹夜明けのひどく疲れた目で見上げると、三人はぴくりとも動かずに俺の言葉を待っていた。

 

 隣に控える唯一の常識人、メイド長の橘結衣が、家計簿を胸に抱きしめながら「よくぞ、よくぞ言ってくださいました旦那様…!」と涙ながらに祈るように手を組んでいる。

 

 その切実な応援を背に受け、俺は努めて冷静な声で話を続けた。

 

 

「いいか、よく聞いてくれ。俺は確かに四十万家の当主と名乗ってはいるが、どこかの巨大な軍需産業のトップでもなければ、裏社会を牛耳るドンでもない。先代の遺産を元手に、自室のモニター前で静かに株や為替の数字を眺めているだけの、しがない『個人投資家』だ」

 

 

 俺は基本的に在宅ワークなのだ。恨みを買うようなアコギな商売もしていないし、企業間のドロドロとした権力闘争とも一切無縁。

 

 そもそもこの家があるのは極めて治安の良い平和な現代日本の、閑静な高級住宅街のど真ん中である。

 

 

「俺の命を狙うマフィアも、暗殺教団も、武装テロリストも、この国には存在しない。だから日常生活において、軍事レベルの過剰な護衛は全く必要ないんだ。…ひまり、門扉の電子ロックが少し引っかかったからといって、素手で引きちぎって破壊するのはやめろ」

「はいっ! でも旦那様!」

 

 

 俺の指摘に対し、ハニーブロンドの髪を揺らした天然怪力のひまりが、悪気など微塵もない満面の笑顔で一歩前に出た。

 

 

「もしも敵対組織の装甲車で強行突破された場合、あの程度の鉄の門扉では数秒の足止めにもなりません! ご安心ください、私が自腹でもっと分厚い対戦車用のチタン合金製ゲートを──」

「装甲車は来ない! ここは世田谷区だ!」

「そうですひまりさん! 昨日の門扉の特注修繕費の見積もり、業者からの請求書のゼロの数が一つおかしかったんですよ! 私の寿命が縮むかと思いました!」

 

 

 天然のままに重装甲の軍事防衛を提案してくるひまりを俺が即座に切り捨てると、すかさず結衣も胃を押さえながら悲鳴のようなツッコミを入れた。俺は一つ溜息をつき、隣の赤いポニーテールに視線を移す。

 

 

「瑠璃。エントランスで宅配の兄ちゃんに関節技を極めるのもやめろ。彼が懐から出そうとしたのは、ただの受領印用のボールペンだ」

「考えが甘いです、旦那様。ボールペンに偽装した仕込み毒針や小型のスタンガンなど、暗殺の基本中の基本。相手が胸ポケットに手を入れた時点で、まずは対象の肩の関節を外して無力化しておくのが、近接護衛としての最適解かと…っ」

 

 

「仕事熱心なのは認めるが、その結果として配達会社のブラックリストに入れられ、我が家にMymazonが一切届かなくなったらどうするつもりだ!」

「そうです瑠璃さん! 置き配のダンボールすら『爆発物の可能性があります!』と言って回し蹴りで粉砕するのはやめてください! 中身は私が注文した特売の日用品です!」

 

 

 武闘派の冷徹な思考で淡々と恐ろしい釈明をする瑠璃。

 

 しかし、俺たちに真っ当に怒られていること自体が少し照れくさいのか、「べ、別にあんたの身を心配したわけじゃないからね! 仕事だからやってるだけよ!」とお約束のツンデレな言い訳を付け加えてくる。

 

 やっている行動が凶悪すぎて全く可愛く見えない。

 

 頭を抱えつつ、最後に俺は一番端に立つ、雪のように白い肌と漆黒のボブヘアを持つ少女を見た。

 

 

「セツナ。俺のコーヒーに、無言で怪しげな化学試薬を垂らすな。せっかく結衣さんが豆から挽いてくれた至高のブルーマウンテンが、シュワシュワと泡立つ紫色の劇薬に変わったんだぞ」

「…問題ありません。あの試薬は人体に完全に無害です」

 

 

 セツナは氷のように平坦な声で、一切の表情を変えずに淡々と答えた。

 

 

「対象の体内に入る全物質の事前スクリーニングは、戦場における生存率を最も高めます。…私はただ、あなたの平穏な呼吸を、脈打つ心臓の音を、私の手の届く範囲で永遠に守り続けたいだけなのです」

「言っていることはヤンデレみたいで少し怖いし、そもそも見た目が毒々しくなって俺の食欲が完全に死滅するんだよ!」

「そうですセツナさん…私の淹れたコーヒーがスライムみたいに溶けていくのを見る、私の身にもなってください…うぅっ」

 

 

 ついに耐えきれなくなった結衣が、エプロンで目元を拭い始めた。

 

 これ以上彼女の胃壁と精神を削るわけにはいかない。どうにかして、この異常な戦場思考をリセットさせなければならない。

 

 俺はテーブルの上で両手を組み、努めて冷静な、大人の男としての余裕を持った声色を作った。

 

 

「いいか、お前たち。ここは戦場じゃない。平和な日常だ。これからは一切の武器と殺気を隠し、周囲の風景に完全に溶け込み、『ごく普通の無害なメイド』として振る舞ってくれ…頼むから、俺に平穏な日常を返してくれ」

 

 

 俺の切実すぎる願いを聞き、三人のSPメイドたちは顔を見合わせた。

 

 俺の言葉の真意を測るように、数秒の静寂が降りる。

 

 やがて──ひまりが真剣な表情でコクリと頷き、瑠璃が口元に好戦的な笑みを浮かべ、セツナが静かに目を細めた。

 

 

「…なるほど。そういうことですか、旦那様」

「えっ?」

 

 

 ひまりが、納得したようにぽんと手を打った。

 

 

「敵を欺くには、まず味方から。いかなる時も『ただの無防備で可憐なメイド』を完璧に演じきり、油断して近づいてきた刺客を誰にも気づかれないように秘密裏に処理せよという…我々に対する極秘のミッションですね!」

「いや、違う。言葉の通り受け取って──」

「フッ、さすがは当主様。あたしとしたことが、少し表の警戒を出しすぎていたわね。了解よ。これからは誰にも悟られないように、裏で完璧に『処理』してあげる」

「…対象の意図、完全に理解しました。これより、完全ステルスモードに移行します」

 

 

 ──話が、まったく通じていない。

 

「普通」の概念を根底から履き違えた三人はその場で深々と一礼すると、新たな『防衛任務』への情熱に瞳をギラつかせながら、それぞれの持ち場へと散っていった。

 

 広いリビングに残されたのは完全に絶望した俺と、家計簿を握りしめて燃え尽きたメイド長の二人だけだった。

 

 そうして、先ほどの『屋敷内安全保障会議』から一時間が経過した。

 

 嵐が過ぎ去った後のような静けさの残るリビングで、俺は再び哲学書を開き、なんとか心を落ち着かせようとしていた。

 

 

(彼女たちも、俺の必死の訴えを理解してくれたはずだ。ステルスミッションだとかなんとか不穏な解釈はしていたが…少なくとも、目に見える破壊や過激な行動は控えてくれるだろう)

 

 

 そう自分に言い聞かせていた矢先。

 

 コンコン、と控えめなノックの音が鳴り、「旦那様、お茶の替えをお持ちしました」という、ひまりの弾むような声が扉の向こうから聞こえてきた。

 

 

「ああ、入ってくれ」

 

 

 俺が応じると、ガチャリとドアノブが回る音がした。しかし、扉はなぜか開かない。

 

 

「あれっ? おかしいですね。旦那様に『普通』と言われたので、ミリ単位で筋肉を制御して、微塵の音も立てない完璧な無音開閉を試みているのですが…少し力が足りないのでしょうか。よいしょ、っと」

 

 

 嫌な予感がした。彼女の「少し力」は、一般人の「全力」を軽々と凌駕する。ミキッと分厚いオーク材の扉から、本来鳴るはずのない不気味な軋み音が響いた。

 

 

「ひ、ひまり? 普通でいい! 普通に引くだけで──」

 

 

 メキィィィィンッ!! ガゴンッ!! 

 

 俺の制止も虚しく重厚なリビングの扉が、真鍮の蝶番ごと壁の枠組みから完全に引っこ抜かれた。

 

 ぽっかりと空いた空間の向こうで、両手で巨大な扉の板を持ったひまりが、ティートレイを頭に乗せたまま満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「旦那様! 見てください! 扉の可動音も足音も完全にゼロで入室できました! これならどんな刺客にも気づかれませんね!」

「蝶番を引きちぎる破壊音が屋敷中に鳴り響いてるんだよ! なんで開かない方向に無理やり力を入れた! 普通のメイドは建具の構造ごと破壊しない!」

 

 

 俺は思わず、持っていた本を投げ出しそうになった。

 

 

「だ、旦那様…っ」

「結衣さん、泣かないでくれ…っ!」

 

 

 駆けつけてきた結衣が、外れた扉と壁の残骸を見て本日二度目の絶望に膝から崩れ落ちた。

 

 しかし、惨劇はこれだけでは終わらなかった。

 

「ピンポーン」と、エントランスを知らせるインターホンが鳴り響く。俺はリビングのモニターパネルに視線を向けた。

 

 画面には、防犯カメラが捉えた玄関先の映像が映し出されている。そこには、再び荷物を持ってきた別の宅配業者の姿があった。

 

 対応に出たのは瑠璃だ。

 

 

『はーい、ご苦労様でぇす。四十万のお荷物ですねぇ』

 

 

 スピーカーから聞こえてきたのは、普段の彼女からは想像もつかないほどワントーン高く、愛想の良い完璧な「営業スマイル」の声だった。

 

 

(おお、瑠璃のやつ、ちゃんと普通のメイドを演じているじゃないか)と俺は一瞬感心しかけたが、モニターをよく見るとすぐにおかしなことに気づいた。

 

 

 瑠璃と対峙している大柄な宅配業者の男が、なぜか生まれたての小鹿のようにガクガクと震え、顔面から滝のような冷や汗を流しているのだ。

 

 

『サ、サインはこちらでよろしいですか…?』

『ええ、ありがとうございますぅ…ところで、その段ボールの底のテープ、少し不自然に浮いていますねぇ…まさか、変なモノ、仕込んでないですよねぇ?』

 

 

 瑠璃の声は極めて明るい。しかし俺には、彼女の背中の筋肉がいつでも瞬時に敵の喉笛を掻き切れるよう極限まで収縮しているのがわかる。

 

 画面越しにすら伝わってくる『濃密な殺気』が、業者の男を物理的なプレッシャーとして押し潰していた。

 

 瑠璃は一切の武器を出していないし、手も出していない。ただ、獲物を前にした肉食獣のプレッシャーを「笑顔」というオブラートで包み隠しているつもりなのだ。

 

 

「やめろ瑠璃! お兄さんが失禁寸前だぞ! 満面の笑みで殺気を垂れ流すな! 逆にめちゃくちゃ怪しまれてるだろ!」

 

 

 俺はモニター越しに悲鳴を上げた。表立って関節技を極めてこない分、精神的な拷問へとシフトしている。

 

 

「…旦那様。深呼吸をしてください。もう一度、心を込めて淹れ直しました」

 

 

 俺の疲労を見かねて、結衣が新しいコーヒーを淹れてきてくれた。

 

 外れた扉の惨状は見なかったことにして、俺は今度こそ平穏な一杯を飲もうと、ソーサーを受け取った。芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

 

 さあ、飲むぞ。俺はカップを口元へ運んだ。

 

 その時、リビングの廊下側から、わざとらしいほど大きな足音が近づいてきた。

 

 普段なら衣擦れの音すら立てないセツナが、なぜか不自然なほど大股で歩きながら、俺の目の前を横切っていく。

 

 彼女の瞳は一切の感情を宿していないのに、口だけが不自然に動いていた。

 

 

「おっと私としたことがぁ〜。手がぁ〜、滑りましたぁ〜」

 

 

 抑揚ゼロ。完全なる棒読みだった。すれ違いざま、彼女の袖口から目にも留まらぬ手品のような早業で、何かが一滴だけ落ちるのが見えた。

 

 ポチャッ。

 

 

「あっ」

 

 

 結衣の口から、魂の抜けたような声が漏れる。至高のブルーマウンテンはまたしてもシュワシュワと泡立ち、毒々しい蛍光パープルの液体へと変異を遂げた。

 

 慌ててセツナの方を見ると、彼女は完全に無表情のまま、「あ〜、普通のメイドは忙しい忙しい〜」と棒読みで呟きながら、廊下の奥へと去っていった。

 

 …何も解決していない。

 

 普通のメイドを演じさせた結果、彼女たちは自身の特技を『裏』へと回しただけで、むしろタチが悪くなっている。

 

 家の中は魔境と化した。




これが普通のメイドさんかぁ〜(遠い目)

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