菜月昴成り代わりオリ主   作:雨天

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第一話 異世界召喚

 

 

 

 俺の名前は菜月昴。転生者だ。

 ある日過労で死んでしまい、気が付いたら赤子になっていた。死んだ自覚も薄いままに新しい人生を始め、そこそこ順調に日々を送っている。

 

 勉強は前世から蓄えた知識があるから困ることはなく、転生者という特性があるからか肉体性能を極限まで引き出すことが出来る。

 そんな訳で壁という壁にぶつかることなく進み続け、家族仲も良好なまま二度目の生を謳歌している。

 順風満帆と、そう言える人生を歩んでいる。怖いくらいに平穏で、恐ろしい程に静かな日々に身を浸している。

 いつか、この日々が足元から崩壊するのではないかと、そんな漠然とした不安を抱えている。

 

 終わりとはいつだって唐突だ。

 俺が仕事している間に自覚もなくポックリ逝ったのが良い証拠だ。

 報せも予告も予兆もなく突然に訪れる。

 だからこそ俺は終わりが恐ろしい。一度終わりを経験したからこそ他人よりも不安が大きいのだと思う。

 終わりはいつかは必ず来るものである。しかしそれがいざ、今終わるかもしれないとなると急に恐ろしくなるのだ。

 一度経験してしまった俺は誰よりもそれを恐れている。

 

 その恐れから逃げるように、紛らわせるようにゲームや漫画といった娯楽に手を出したり、筋力鍛錬を行って無意味に備える。

 現代じゃ肉体を鍛えても健康以外には大して意味がないのに、剣道をやってみたり、ボクシングや空手、柔道にまで手を出している。

 そうして備えていても、事故や天災が起これば無意味に消えていく。それを自覚しないように、努めて無視して日々を過ごしている。

 

 特に今はFPSゲームが一つの時代を築いている。

 だから、俺も王道なゲームタイトルに手を付けて、無駄にランキングに名を刻んだりしている。

 そうしていなければ、普通に暮らすのが難しいから。

 一度死ぬまで気付かなかったが、俺は臆病なんだと思う。

 だから、様々なことを想定して備えておく。そうしておくことで漸く普通の男子高校生らしい生活を送れる。

 

 今日も学校から帰宅してすぐに筋トレして、夕飯の席で親と歓談して過ごせばゲームを起動する。

 途中で小腹が空いてコンビニに向かうことにした。

 

 玄関に立つと後ろからお母さんが声を掛けて来た。

 

「行ってらっしゃい」

「行って来ます」

 

 俺は笑顔を貼り付けてそう口にした。

 そして逃げ出すように玄関の扉を開けて外に出た。

 空は暗く、街灯だけが道を照らしている。

 暗い道が俺の人生の暗喩のような気がして、すぐに馬鹿馬鹿しいと頭を振る。

 俺の内心は別でも、上っ面だけ見れば俺の人生は順調だ。何も暗いことはない。

 

 神経質も臆病も過ぎれば生き辛いものだ。

 俺は特に人生そのものに囚われている気がする。

 もっと目先の幸せに目を向けられるようになれれば良いのにと毎日思う。

 それでも性分というのは中々変わってくれなくて。俺は常に不安を抱えながら生きている。

 

 コンビニに立ち寄って適当に品を選んで購入する。

 そしてコンビニを出て帰路に就こうとした所で視界がボヤける。

 知らぬ間に疲れが溜まっていたらしい。

 

 俺は目を擦って何度か瞬きする。

 そして開けた視界に飛び込んだ光景に唖然とする。

 人や人以外の多種多様な種族が道を行き交い、デカいトカゲが馬車を引いている。

 人々の髪色は金髪や白髪、茶髪が混ざり合い、黒髪のものは見当たらない。

 それ故に唯一の黒髪で、また服装も彼等とは違っている為に注目を浴びる。

 

 集まる視線に何となく居心地の悪さを感じながら、俺は溜め息を吐いた。

 

「日々の終わりは唐突に、なんて考えていたけれど。こんな終わり方、いや、変わり方があるかよ。目を開いたら異世界に召喚されてました?唐突過ぎて笑えて来るわ」

 

 思わず乾いた笑いが溢れる。

 日常の終わり方がこんなにも唐突で出鱈目だとは思わなかった。

 終わりを数多夢想して来たけれど、流石にこれは想像の範囲外だ。

 

 いっそ清々しく切り替えるか。

 こっからが俺の第三の人生。今度は未来への不安なんて抱かず、目先の幸福を噛み締めて生きて行く。

 それが俺、菜月昴の新たな生き方だ。

 

 

 

 

 一先ず場所を変えて、果物屋のような店の前に来た。

 果物は地球のそれと変わらないように見える。

 少なくとも、林檎のような果物があるのは分かる。

 

「おい、兄ちゃん。リンガ買うのか?」

「林檎だからリンガね。まー安直なこと。店主、この硬貨って使える?」

 

 俺は試しに百円玉を幾つか取り出してみせた。

 すると店主が渋い顔をした。

 

「何処の硬貨だこりゃ。こんなんウチでは使えねえよ。文無しは帰んな」

 

 店主の冷たい視線を浴びながら俺は若干の落胆と共に移動を開始した。

 人目に付かない路地裏に入って段差に腰掛ける。

 

「日本の通貨が希少な価値を持つ、とかは期待出来ねえか。当分の問題はどうやって金を稼ぐかだ。手持ちは…ケータイ、お菓子、カップラーメン、か。最悪圏外で使えない携帯は売り飛ばしても良いな。でも、それはあくまで最終手段。本当に追い詰められた時の保険だ。食べ物類も売れなくはないか?………自分で食った方が良い気がする」

 

 ブツブツと思考を口に出すのは昔からの癖だ。

 思考を口に出すことでより集中することが出来るのだ。

 

「この世界をジャンル分けするなら、異世界ファンタジーで亜人もありあり。戦争、冒険もあるって感じか?魔王とかいるのかな……いたとして、俺はどの立場だ?世界を救う勇者的な?それとも追放系のチート持ち?チートを得られた感覚はねえが、魔法とか使えんのかな」

 

 魔法が使えるようになった、という自覚はないが既に変化は起きているのだろうか。

 それともチートなんて得られてないのか。

 まあ、都合良くチートが与えられてるとは考え難いので余り期待しない方が良いだろう。

 

「ヒロインっぽい感じの子もいないし、俺が召喚された方法も目的も分からねえと来た。かなり絶望的な状況に立たされてる気がする」

 

 俺は現状を整理した結果提示された現実に項垂れる。

 召喚しといて放置とか有り得ないし、転移の方が近いのか?

 だとしたら原因は何だ。この世界に来ることになった原因に心当たりがなさすぎる。

 脈絡もなく転移しました、じゃ異世界ものとして致命的すぎるだろ。

 

「現実にファンタジーを持って来た癖に、テンプレから外れ過ぎてんのはどうなのよ。何考えてんだ神様は……」

 

 そこまで考えたところで、不意に足音が耳に届いた。

 俺の優れた耳は俯いた状態でも路地に入って来たのが三人だと知らせてくれる。

 体格は三人ともバラバラ。小柄、普通、大柄の順番で並んでいる。

 

 俺は顔を上げて声を掛けた。

 

「目的もなく路地裏なんか入んないだろ。目的はカツアゲか?」

「ハッ。分かってんじゃねえか。なら、さっさと出すもん出しな」

「いやぁ、異世界で最初に遭遇するのがチンピラとはね。数が多いからって調子乗んなよ。数の有利が効くのは、完璧な連携があってこそ。連携が取れないなら不利にしかならねえよ」

 

 順調な生活を送っていたとは言っても、喧嘩はしていた。

 イジメを見掛けたら止める為に殴り合いをしたし、日々の不安を紛らわせる為に路地裏の不良に喧嘩売ってた時もあった。

 お母さんからは良く心配されたな。父さんからは程々にしろよって叱られた。

 だから最近はあんまりしてなかったが、鈍っちゃいない。

 警戒すべきなのは武器や魔法。ナイフとか取り出されたら危ねえし、異世界特有の初期魔法とかぶっ放されても困る。

 そもそも相手の戦力が見た目以上の可能性もある。油断は禁物。

 

「聞いとくがお前ら、魔法は使えんのか?」

「使えたら物盗りなんてしてねえよ」

「そっかそっか。安心したよ」

 

 今の言葉は嘘じゃなさそうだ。

 魔法は一般人にはハードルが高いらしい。

 そうポンポン使える世界観じゃないってことだ。

 つまり俺が使える可能性もグッと低くなった。悲しいが仕方ない。

 異世界で無双なんて夢だ。有り得ないから夢なのだ。

 出来ることを精一杯やるしかない。

 

 俺はその場に荷物を置いて拳を構えた。

 半身を引いて開戦に備える。

 大柄な男が駆け出した。体格に見合った素早さで、俺からすれば遅過ぎる。

 男の放った右ストレートを避けて顔面に拳を叩き付ける。

 その勢いのまま小柄な男の腹を蹴り飛ばす。小柄な男は軽々と吹っ飛び、壁に背中を叩き付ける。

 

「チッ。クソがっ!」

 

 残る男がナイフを取り出して迫る。

 俺は男の左手に握られたナイフを蹴り上げて後方に吹き飛ばす。

 男は残った右手のナイフを突き刺そうとして来る。

 予測出来たその動きに合わせて体を少し横にズラして避ける。

 

 そして空振りした勢いで前のめりになり、目の前に晒された男の後ろ首に手刀を落とす。

 男は手刀を受けて白目を剥いて気絶した。

 喧嘩で身に付けた秘技、首トンである。

 

 三人を軽く制圧した所で割り込む人物がいた。

 

「ちょっとどけどけどけ!そこの奴等、ほんとに邪魔!」

 

 路地裏にセミロングの金髪の少女が入って来る。

 意思の強そうな瞳に、八重歯がチャーミングな小柄な少女だ。

 少女は三人のチンピラを足蹴にしている俺を見る。

 

「なんか凄い現場だけど、ゴメンな!アタシ忙しいんだ!強く生きてくれ!」

「俺が悪者みたいな言い方やめてくれません!?」

 

 まるで俺が一般市民三人をボコる悪人のような言い方である。

 これには流石に抗議の声を上げざるを得ない。

 

「ん?違えのか?……まあ良いや。アタシ先行くから!」

 

 少女は路地裏の奥まで駆けて行き、袋小路に立て掛けてあった板を蹴り、身軽に壁の取っ掛かりを掴むとあっという間に建物の上へ消えて行った。

 台風のような少女であることよ。

 

 俺は気を取り直して男達を壁際に並べる。

 そして持ち物を漁ってみる。

 収穫はなし。討伐報酬はないようだ。

 

 俺が現実の非情さに唸っていると路地裏に鋭い銀鈴の声が響いた。

 

「そこまでよ!悪党!」

 

 美しい少女であった。

 腰まで届く長い銀髪を一つに纏め、理知的な瞳が俺を鋭く捉える。

 柔らかな面差しには美しさと幼さが同居し、何処となく感じる高貴さが危うげな魅力すら生み出していた。

 身長は百六十センチ程。紺色を基調としたシンプルな服を着ている。

 目立つのは彼女の羽織っている白いコートに入った鷹に近い鳥の紋章を象った刺繍くらいか。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。そこまでよ」

「おいおい。何勘違いしてんのか知らねえけど、俺は被害者側だぜ?」

「何言ってるの?私から徽章を盗んだじゃない!」

 

 俺はその言葉で先程浮かんだ疑問が解消した。

 さっき路地を駆け抜けて行った金髪の少女は銀髪の子から盗みを働いたらしい。

 

「成程ね。君の徽章を盗んだ子ならさっきそこの建物の上に登って行っちゃったよ。俺達は別件」

「え?そうなの?………嘘じゃ、ないみたい。急がないと」

 

 少女の足が路地の外へ向かう。

 俺はほっとして息を吐く。

 すると急に少女が振り返った。

 

「それはそれとして見逃せる状況じゃないのよ」

 

 少女が此方に向けた掌から氷の飛礫が放たれる。

 俺はその場から飛び退いて難を逃れる。

 今のが魔法か。やっぱ使える奴は使えるんだな。

 それより誤解を解かないとな。

 

「だから俺は被害者側だって!」

「え?でもさっきその人達の荷物を漁ってたじゃない?」

「それは俺が持ち物奪われそうになったから、逆に奪ってやろうと思ってな」

「人の物を奪うのは悪いことよ」

「うっ…確かに。RPG感覚で漁っちゃいけないよな」

 

 俺は正論を受けて萎れる。

 RPGの勇者とかなら許されるんだけどな。現実じゃ立派な悪党のやることだ。

 

「悪い悪い。それで徽章が盗まれたんだろ?早く行かないと不味いだろ」

「そうね。もう仕返しとか考えちゃ駄目よ」

「はい。反省してます」

 

 俺は萎れた顔で反省を口にした。

 銀髪の少女は俺の言葉を聞くと今度こそ踵を返して去ろうとする。

 今度は俺がその足を止める。

 

「徽章探し手伝おうか?」

「え?でも…貴方にメリットがないでしょ?」

「一日一善ってな。それと情けは人の為ならずって奴だ」

「どういう意味なの?」

「人に親切にすることは巡り巡って自分の為になるって諺だ」

「お礼とか出来ないわよ?」

「良いの良いの。俺がしたくてするだけだから。それに盗んだ子の見た目を知ってる俺がいた方が見つけ易いと思うぜ」

「その子の言う通りだよ。全くの手掛かりなしで人探しなんて王都の広さからしたら無謀だよ」

「猫…?」

 

 少女の肩から一匹の猫のような生き物が現れる。

 ような、と表現したのは人語を喋り、空中に浮いているからである。

 

「私、精霊使いなの」

「精霊!ファンタジーにゃお約束だよな。可愛い見た目だこと」

「そんなに見つめられると照れるなぁ」

「ま、そいつの言う通り、人探しは特徴知ってる奴がいる方が見つかり易い。だから手伝わせてくれ」

「………ほんとにお礼なんか出来ないんだからね」

「大丈夫!俺はお礼とか期待して人助けする野暮ったい奴じゃないからな!」

 

 そう言えば少女は呆れたように笑った。

 そうして俺達の人探しが幕を開けたのだった。

 

 

 





・オリ主
高次の世界から降りて来た魂である為非常に強大な力を持つが自覚は薄い。
肉体性能を極限まで引き出すことが可能な上に技術の習熟もとても早い為、戦闘力はかなり高い。
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