前世がYAMA育ちな菜月昴の異世界生活   作:雨天

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第十話 慟哭

 

 

 

 何故死んだのか。それが分からずに頭を悩ませる。

 寝ていたとはいえ、奇襲は気配で察知するし、敵対行動にはオートで反撃するように仕込んである。

 寝ていたからこそ、奇襲で死んだという線はかなり薄くなる。

 

 眠っている間に静かに命を吸い取られた。

 魔法が存在する世界観だ。有り得なくはない。

 問題は発動条件をいつ、満たしたのかだ。

 

 それを特定する為には前回と同じ動きをして、違和感を探す必要がある。

 正直、記憶を探る限りでは違和感なんて存在しないが、切っ掛けはあった筈。

 俺が見落としている何処かに答えがある。

 それを見つける為にもヘマはしてられない。

 

 取り敢えず二人がいるってことは今の二度目の起床ということだろう。

 二人の視線が他人を見る目になってるのが辛いが、仕方ないと割り切ろう。

 関係性はまた一から構築していけば良い。

 

「「お客様?」」

「ん?─ああ、悪い。ちょっと考え事してた」

 

 二人の疑問の浮かんだ視線を受けながら、俺はベッドから降りて部屋を出ようとする。

 

「お客様、急に動かれてはいけません。まだ安静にしていないと」

「お客様、急に動くと危ないわ。まだゆっくり休んでいないと」

「あぁー…少しベアトリスと話したいことがあるからさ。一人にしてくれ。体は大丈夫。バッチリ動くから」

 

 俺は二人の心配の声を振り切って部屋を出る。

 そして適当な扉を選んで開けるとそこには禁書庫が広がっていた。

 

「よっ」

「当たり前みたいに扉渡りを破るのはやめるかしら」

「いやーちょっと聞きたいことがあってさ。相手を衰弱させて、眠ったように殺す魔法ってあったりする?」

「あるかないかで言えば、あるのよ」

 

 ベアトリスは椅子から降りて書棚を漁る。

 

「魔法というより呪いの方に近いかしら。呪術師が得意とする術法にそんなのが多いのよ」

「呪術師?」

「呪い師、転じて呪術師は北方のグステコって国が発祥の魔法や精霊術の亜種かしら。もっとも出来損ないばかりで、とてもまともに扱えたもんじゃないのよ。でも呪いよりももっと簡単な方法もあるかしら」

「簡単な…」

「お前はそれを身を持って知ってる筈なのよ」

 

 俺はベアトリスから受けたマナ徴収を思い出す。

 

「あれ死に至る可能性があったのかよ!?」

「マナは生命力そのものでもあるのよ。それを強引に吸い出し続ければ衰弱死させることも出来るかしら」

「マナチューチューすんのって誰でも出来んの?」

「その表現は心外に尽きるかしら。屋敷だとベティーとにーちゃくらい。ロズワールにも出来ないのよ」

「意外とレアなスキルなんだな」

 

 可能なのが今んとこ精霊のみだと考えると、人間からしたら高等技術なんだろう。

 

「あんまし俺のマナ吸うなよ。ただでさえ今は血が足りねえんだから」

「あぁ。もつは全部戻したけど、血までは戻らなかったかしら。ま、ベティーもそこまでやってやる義理はないのよ」

「その言い方だとベアトリスが治してくれたって風に聞こえるんだが?」

「あの半端者の小娘に致命傷まで治せる力はまだないかしら。にーちゃと小娘が小康状態にした傷をベティーが治してやったのよ」

「マジか!?じゃあ、命の恩人ってことになるな。ありがとな。助かった」

「治さないとにーちゃが気にするから治しただけかしら」

「でも、治してくれたのは変わんねえだろ。だから、ありがとう」

「ふん」

 

 ベア子はそっぽを向いて本を読むのに集中し始めた。

 俺は感謝の舞を踊ってから禁書庫を後にした。

 ベア子は迷惑そうにしていた。

 

 さて、禁書庫を出ればそこは正面入り口であった。

 庭先に見慣れた銀髪の少女を見つける。

 エミリアも此方に気付いて駆け寄って来た。

 

「スバルっ!もう、心配するじゃない。目が覚めてすぐにいなくなったってラムとレムが慌ててたんだから」

「そりゃすまねえことしたな。ちょっとベアトリスに用があってな」

 

 俺を殺した相手が呪術師だってことは分かった。

 取り敢えず進捗あり。このまま犯人まで特定してやる。

 

「体は平気なの?」

「おう。ちょっと血が足りなくて、オマケにマナもごっそり吸われてて、色々あって朝から気力が削がれてるだけだ」

「それって満身創痍って言わない?」

「んー。エミリアたんの顔見れば回復するかな」

「そうなの?……ん?今なんて?たんって何?何処から来たの?」

「さて、今日も元気良く一日を始めますか!」

 

 俺はエミリアの疑問をスルーして伸びをした。

 凝り固まった体が解れるのを感じる。

 

 俺は前回の動きを踏襲する為に動き出したのだった。

 

 

 

 

「ふへぇー…疲れた」

 

 湯船に体を沈めて息を吐く。

 前回と同じ道を通ろうとしたら案外難しかった、というのが今回の結論だ。

 

 先ず、パックのモフり権、エミリアの呼び名、ロズワールとの初対面、朝食の席での一通りのイベントは熟した。

 肉体に任せて前回と同じ言動を繰り返すだけなので楽だった。

 しかし、そこから先が問題だった。

 

 台所周りであったり、単なる部屋の掃除であったり、或いは衣類の洗濯や片付けといった仕事内容が、質と量揃えて前回より増した。

 体力は人並み以上とはいえ、疲労は蓄積する。ハードな仕事内容に体はクタクタになってしまった。

 前回と同じ会話内容でどうしてこうも違いが出るのか。これが分からない。

 

 兎に角、何とか仕事を終わらせて今に至る訳だが、これでは先が思いやられる。

 前回と同じ道を辿るのは初日で挫折してしまった。

 ならば、使用人生活はそのままに犯人特定に動くのが賢明だろう。

 大枠が同じなのであれば大した違いは出ない筈、と信じるしかない。

 

 不意に俺の前に影が差した。

 

「やぁ、ご一緒して良いかい?」

「ロズっち……屋敷の主人なんだから、ご自由に」

「では、失礼して」

 

 ロズワールが浴槽に入る。

 俺は何となく距離を取った。また前回とは違う展開である。

 俺は素直に疑問を口にした。

 

「旦那様、随分と遅めの入浴ですね?」

「少々仕事が立て込んでいてねぇ。片付けている間にこんな時間だ。もぉっとも、君とこうして語らう時間が持てたのは喜ばしい。初日はどうだったかな?」

「実に有意義だったよ。俺の筋肉が歓喜の叫びを上げてるところだ」

「それは重畳。そうそう、ラムとレムはちゃんとやぁっているかな?二人は屋敷で働いてから長いから、後輩との接し方についても弁えてはいる筈なんだけど」

 

 俺は今日一日を振り返っての印象を考える。

 

「レムとはあんましだけど、ラムとは仲良くしてんよ。寧ろ、ラムはちょい馴れ馴れしすぎねぇ?先輩後輩関係なく、俺がお客様の時点から変わんねえよ、あの子」

「なぁに、足りない分はレムが補う。姉妹だから助け合わなきゃ。そういう意味じゃ、あの二人は実に良くやっているよ」

「ふーん?傍目からじゃ分かんねえもんだな。今んとこラムの良いとこが蒸し芋作りが得意くらいなんだけど」

 

 他人からは見えないだけで、二人は二人で補い合ってるのだろうか。

 ずけずけと踏み込むのは躊躇われるが、一緒にやっていくならいつかは知らなければならないだろう。

 

「そだ、ロズっち。ちょっと聞きたいことあんだけど、答えてアンサー?」

「慣れないねぇ、渾名、嬉しいけど。で、質問かい?まぁ、私の広く深い見識で答えられる内容なら熟考した上で構わないよ」

「この風呂ってどんな原理で働いてんの?」

「その答えは簡単だ。浴槽の底の下に、火の魔鉱石を敷き詰めてあるのさ。入浴の時間になると、マナに働きかけて湯を沸かす。キッチンでも同じ現象を利用しているはぁずだけど?」

「ヤカンとかもそういう原理なんだ。どうやってんだろうとは常々思ってたけど」

 

 料理担当はレムなので詳しい原理は分かってなかった。

 その後は諸々ロズワールに生命に備わるゲートやマナの属性などについて講義して貰った。

 ロズワールの診断によると、俺は六属性全てに適性がある超絶レアな個体らしい。

 魔法使いとしての才能も飛び抜けているようだ。磨けば世界一の魔法使いになれる才能があるとロズワールが太鼓判を押してくれた。

 俺の魂が影響していそうなお話である。

 

 そうして入浴を終え、さっぱりした俺は着替えようと服を手に取る。

 そこで何故か脱衣所にいるラムと目が合った。

 

「おわぁ!?いるなら声掛けろよ!ってかなんでいるの!?」

「ロズワール様の御着替えの手伝いの為、入浴の際はラムかレムが付き添うのが決まりよ」

「お貴族様ってのは一人で着替えも出来ねえのか」

「ラムの前でロズワール様への不敬な発言は控えなさい。二度目の注意からは実力行使するから」

「分かったよ。こわぁい姉様に怒られたくねえしな」

 

 俺がさっさとその場から退散しようとするとラムが引き留めた。

 

「バルス、この後は何か?」

「寝るだけだよ。明日も早いんだから当たり前だろ」

「そう……それじゃ、後で行くから部屋で待っていなさい」

「んん???……分かった。待ってるよ」

 

 俺は疑問を飲み込んで了承する。

 ラムは満足したのか視線を逸らした。俺は今度こそ脱衣所から退散して去っていった。

 

 

 

 

 俺はラムに言われた通りに部屋で待機していた。

 ラムがやって来たのは暫く後のことだった。

 

「お!漸く来たか。それでご用件は何?俺との熱い一夜を過ごしたいってお誘いか?」

「思ってた以上に頭がお花畑なのね。文字の読み書きを教えてあげるから、早く座りなさい」

 

 俺はラムの指示通りに机の前の椅子に座る。

 俺は疑問を口にする。

 

「でもまた、急になんで……?」

「バルス、貴方は読み書きが出来ないでしょう。それは今日の働きを見ていて分かったわ。だから、それを教える。読み書きが出来なければ買い物のメモも出来ないし、用件の書き置きも出来ない」

「そりゃ、有り難えけど…」

 

 素直に困惑する気持ちが強い。

 前回とは違った展開に戸惑いを覚える。

 

「先ずは簡単な童話集、子供向けから始めるわ。これからは毎晩、ラムかレムが付き合うから勉強すること」

「何で態々教えてくれるんだ?」

「決まってるわ。楽をする為よ。バルスのやれることが増えれば、それだけラムの仕事が減る。ラムの仕事が減れば、必然的にレムの仕事も減る。良いこと尽くめよ」

「俺という犠牲が生まれてる訳ですけど…」

「……?」

 

 本気で意味が分からないという顔をされた。

 犠牲を犠牲と思わない精神性。流石の一言だ。

 

「さて、ナツキ・スバル参上、と」

 

 俺はノートに筆を滑らせる。

 ラムが疑問を口にする。

 

「見たことない文字ね」

「俺の母国語だ。もう、二度と使うことはないかもな…」

 

 俺の物憂げな言葉にラムは再び頭に疑問符を浮かべた。だが、すぐに気を取り直したようで、表情を切り替えて口を開く。

 

「先ずは基本のイ文字から。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってから」

「三種類もあんのか。日本語みてえ」

「イ文字を把握してから童話に入るわ。勉強時間は……冥日一時までが限度でしょう。明日もあるし。ラムも眠いし」

「最後に本音がチラリズムするそういうとこ、嫌いじゃねえな、先輩」

「ラムもラムのそういうところが好きだわ」

 

 自分に自信があって良いことだ。

 ラムの優しさには助けられてばかりだ。仕事のやり方も丁寧に教えてくれるし、こうして読み書きが出来ないと知ると時間を取って教えてくれる。

 俺はイ文字をノートに書きながら呟く。

 

「正直、異分子の俺なんか放っといても良いのに、時間掛けてまで教えてくれて助かってるよ。これからも迷惑掛けることあるかもしれねえけど、宜しく頼む」

「ラムとレムが楽をする為だもの」

 

 本当に素直じゃない。そういうところが堪らなく愛おしい。

 だからこそ、外敵から守らなければならない。

 それが俺の仕事で役割だ。

 

 

 

 

 死に戻りしてから四日目。俺はいつも通り仕事を熟しながら違和感がないか探していた。

 今日は買い出しもあって、少し遠出をしている。

 前回はレムが買い物をしていたのだが、今回はすぐに読み書きを習得した俺が買い物役を与えられた。付き添いでレムも来ている。

 

 メモ通りに買い物を終えてレムの元へ向かう。

 空は茜色に染まり、夕食の準備が迫っていることを知らせてくれる。

 

「レムりん、お待たせー。随分とまた大変そうだな?」

 

 レムは俺が買い物している間は村で待機していた筈なのだが、服が埃や泥、鼻水やらで塗れて汚くなってしまっている。

 子供達に絡まれたようだ。

 

「スバル君はちゃんと買い物できましたか?」

「おう。バッチリよ。─ん、手怪我してんな。大丈夫か?」

「はい。子供達が戯れてた動物に噛まれてしまいまして。治癒魔法で治せるので心配いりません」

「魔法って便利ね」

 

 レムは手を庇いながら歩き始める。

 俺はその後を慌てて追った。

 

「そういえばスバル君。勉強の進み具合はどうですか?」

「そっちも問題ねえよ。ってか、問題ないからこそ買い物に駆り出された訳だし」

「そうですか。講師が良い証拠ですね」

「途中で寝るけどな。やる気がガリガリ削られるからどうにかして欲しい」

「姉様はスバル君のやる気を発奮させようと敢えてそう振る舞ってるんですよ」

「何その俺を上回るポジティブシンキング。姉を崇拝する気持ちが並大抵じゃねえぞ。マジ鬼がかってんな」

「鬼、がかる……?」

 

 最近のマイブームな言葉にレムが首を傾げる。

 

「神懸かるの鬼バージョンだよ。鬼がかる、何か良くね?」

「鬼、好きなんですか?」

「あぁ、好きだね。鬼って未来の展望を話すと一緒に笑ってくれるらしいぜ。来年の話をすると特に盛り上がるらしい。俺の母国じゃ有名な話だ」

 

 赤鬼と青鬼が笑い合う光景を思い浮かべる。

 そこでレムがその表情に確かな笑みを刻んでいるのを見た。

 

「やっぱ女の子は笑うと可愛いね」

「エミリア様に言いつけますよ」

「事実を口にしただけだ。言いつけられても問題ないね」

 

 俺は開き直って胸を張った。

 レムは呆れたような視線を俺に向ける。仕方がないだろう。可愛いと口説いちゃうんだから。

 ラムもレムもロズワールの毒牙に掛かってそうだが、諦めるという選択肢はない。

 

「まあ、俺に振り向いて貰うってのはかなり厳しいかもしれないけど」

「何か言いましたか?」

「何でもない。さっさと屋敷に戻って夕飯作ろうぜ」

 

 レムは怪訝そうな顔をしてから「そうですね」と言って歩き出したのだった。

 

 

 

 

 さて、遂に四日目の夜である。

 俺は襲撃者対策として寝る訳にはいかない。

 とはいえ、暇なので禁書庫に足を運ぶことにした。

 

「や!元気してたか、ベア子」

「毎日暇さえあれば来るのは何なのかしら。ベティーはお前の顔なんて見たくないのよ」

「俺はベア子の顔見たいぜ。美幼女だからな。絵画にしたら映えるんじゃねえか?」

「ベティーが可愛いのは当たり前のことかしら」

 

 ベア子は相変わらずツンツンしている。

 出ていけと言わないのは、既に色々と諦めた証拠だろうか。

 俺は有り難く部屋に居させて貰う。

 

 扉の前に胡座をかいて座り込み、思考を回す。

 前回と今回。違和感はやはり感じられなかった。

 それでも俺は前回確かに死んでいる。奇襲を受けた可能性が低い以上は屋敷に襲撃者が来るというのは考え難い。

 それでも一応の警戒として起きておく必要がある。そして何が起きたか確かめるのだ。

 

「そうだ、ベア子。呪いってどうやったら防げるか知ってるか?」

「そんな方法はないのよ。一度発動した呪術を解除する方法は存在しないかしら。発動したが最後、それが呪術なのよ」

「即死耐性無効化とかアリかよ……」

「但し、発動前の呪術はただの術式だからベティーなら解除は簡単なのよ」

「へぇー。じゃ、俺が呪われたら解除頼むな」

「お前を助ける義理なんてないかしら」

 

 ベア子は冷たく言い放つ。

 とか言ってるが、いざとなったら助けてくれそうなチョロさが垣間見えるベア子である。

 

 俺はベア子の周りをぐるぐる回って思考を巡らせる。

 

「呪術にも発動条件がある筈…遠隔発動は流石にないと信じたい。触れもせずに呪いを掛けられるなら何でもアリだからな。というか防ぐ手立てがない。屋敷の中に呪いを掛けた犯人がいるとは考え難いし、村へ行ったことで呪術の発動条件を満たしたと考えられる。その時に何があったかが重要だ。俺は前回、子供達に絡まれていた。子供達の中に犯人がいる…?」

「ベティーの周りでぶつぶつと喧しいかしら!」

「いやぁ、こう、ぐるぐるしてると頭が回るからさ」

「だとしても思考を垂れ流すのはやめるかしら!鬱陶しいのよ!」

「悪い悪い」

 

 俺はベア子から離れて扉の前に居座る。

 ベア子は追い出すことはせずに置いておいてくれた。

 

 子供達の中に犯人がいるとして、どうやって俺に呪いを掛けたのかが分からない。

 身体接触が条件か?だとしたら今回は俺は触れてないから殺されない筈。

 前回と違い、今回はレムが俺の代わりに子供達の相手をしていた。

 

「もし接触が条件なら……レムが危ない!」

 

 俺は禁書庫を飛び出してレムの部屋へ向かう。

 日は既に昇っている。急がなければ。

 

「レム!」

 

 俺はレムの部屋の扉を開いて中に入る。

 いつもならこの時間には起きている筈である。しかし、レムはベッドに横になったままピクリとも動かない。

 

「レム……?」

 

 俺は恐る恐るレムの顔に触れる。

 そこに魂はなく、抜け殻となった死体のみがあった。

 

 俺は胸が苦しくなるのを感じる。

 見知った相手が、仲良くなりたいと思っていた相手が死んでしまった。それも己の未熟さ故に。

 

 俺はその場に膝をつく。頭が真っ白になり、思考が纏まらない。

 罪悪感と後悔と悲哀が胸を埋め尽くしている。

 

「バルス…?」

 

 不意に聞こえた声に振り返る。

 開け放たれた扉の先、廊下にラムが立っていた。その顔には疑問が浮かんでいる。

 

「レムの部屋で何をしているの?……レムは、どうして眠ったままなの?」

 

 徐々にラムの顔が曇っていく。

 俺が言葉を紡ぐよりも先にラムがレムに駆け寄り、体を揺らす。

 

「レム?……レム?起きなさい。もうこんな時間よ。朝食を、作らなきゃ……」

 

 ラムの顔が悲痛に歪んでいく。

 声は震え、聞いたこともない弱々しい声でレムに語り掛ける。

 

「起きなきゃ……ねぇ、嘘よ……だって、昨日までは普通だったじゃない……嫌……嫌よ……嫌ぁぁああぁあああっ!」

 

 絶叫が木霊する。ラムは喉を引き裂かんばかりに泣き叫び、屋敷中に声を響かせる。

 

「何で…!!どうして、レムが!!どうして……!!」

 

 涙で頰を濡らすラムの顔を見てられず、俺は顔を逸らす。

 そこでエミリア達が駆け付ける。

 

「何があったの……?」

「レムが、呪術で殺された」

「なっ…!?」

 

 エミリアは絶句してレムの死体とそれに縋り付くラムを見る。

 ロズワールが厳しい視線を俺に向ける。

 

「どうして君はレムが呪術で殺されたと知ってるんだい?」

「それは……」

 

 一度殺されたから、なんて言える筈もない。

 俺が黙っていると頰が切り裂かれた。

 

「何か知ってるなら、話しなさい」

「俺はただ、呪術師が俺を狙ってるって知ってただけだ。いや、今の状況だと狙われてんのは屋敷の人間全員かもしれねえ」

「どうして君はそれを知り得たのかなぁ」

「それは、俺が死に─」

 

 死の戻りしている、と言おうとして口が止まる。

 否、世界が止まっている。

 黒い靄が辺りを包み、その中から黒い手が伸びて来る。

 黒い手は俺の体に侵入し、心臓を鷲掴みにする。

 激痛が全身を駆け抜け、悶えようとしても体は動かず、強制的に痛みと向き合わせられる。

 痛みだけが思考を埋め尽くし、それ以外を考えることを許されない。

 

「─はぁっ!はぁっ!…はっ!」

 

 現実に戻って来た頃には知らずの内に膝をつき、荒く呼吸を繰り返していた。

 

「スバル!?大丈夫!?」

「エミリア…俺は、俺は話せない…」

「……どうして?」

「許されないんだよ。俺の意思に関わらず、俺は根拠を話せない」

 

 俺の魂にしっかりと恐怖を刻み込まれた。

 死に戻りを話すことは出来ない。ならば、どうするか。

 

 もし、死ねば全て元に戻るなら。

 もし、死に戻りをすればレムの命を取り戻せるなら。

 俺に取れる選択肢は一つしかない。

 

 俺は部屋を飛び出して台所へ向かう。

 ラムの怨嗟の声を聞きながら、必死に屋敷を駆け抜ける。

 

「包丁……あった」

 

 俺は台所で包丁を手に取る。

 自分で死に戻るのは初めてのことである。

 訪れる痛みへの恐怖はある。

 だが、それ以上にレムを、ラムを、皆を助けたいという思いが強い。

 

 俺は自分の胸に包丁を突き立てた。

 

「ぐっ…!がぁっ…!」

 

 鋭い痛みが体を突き抜けていく。

 血が溢れ、手足の末端から感覚が失われていく。

 果てしない喪失感に襲われながら、意識は遠のいていくのだった。

 

 

 

 

 瞼を開けて、見知った天井を視界に入れる。

 緩い動きで起き上がり、目の前へと意識を向ける。

 そこには変わらない美しさの、見慣れた双子の姉妹がいた。

 

 今度はもう、レムを殺させない。

 誰一人欠けることなく五日目を迎えてやる。

 

 俺は一人、ベッドの上で決意を固めるのだった。

 

 

 





・オリ主
ラムの絶叫を聞いて、必ず助けると決意した。
可愛い子が酷い目に遭うのは許せないタイプ。

オリ主の魂について
魂は前世の世界で人工的に生み出されたものなので様々な特殊技能がある。
魂を表出させて体に纏ったり、他者の魂をオリ主の魂で包み込むことで傷を癒やしたり出来る。
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