前世がYAMA育ちな菜月昴の異世界生活   作:雨天

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第十一話 リスタート

 

 

 

 死に戻りしてから屋敷で雇って貰うまではスムーズに事が進んだ。

 前回同様傭兵兼雑用として雇用して貰い、屋敷の仕事を熟す。

 二回経験を積んでいるので仕事の方は完璧。時間に余裕を持つことが出来るようになった。

 そして暇が出来れば禁書庫に足を踏み入れて掃除をしている。

 今も棚の上に溜まった埃を払っているところだ。

 

 俺は入り口の前に座るベア子に話し掛ける。

 

「なぁ、ベア子。呪いの対価とかってあるか?」

「お前今ベティーを何て呼んだかしら」

「ベアトリス、縮めてベア子だ。良いだろ?」

「何も良くないのよ!勝手に変な渾名を付けるんじゃないかしら!」

「まあまあ、親愛の証ってことで」

「お前とベティーの間に親愛なんてないのよ!」

「それはこれから築き上げるんだよ。それであるのか?」

「……どんな効果がある呪術を行うかで内容は変わるのよ。でも、絶対に外せないルールが存在するかしら」

 

 やはり、何かしらの条件が存在するらしい。

 俺は無言で続きを促した。

 

「呪術を行う対象との接触。これが必須条件なのよ」

 

 俺はその言葉を聞いて思考を回す。

 つまり、俺とレムは村で術者に触れている。

 レムの方はどこまで接触したか知らないが、俺の方は分かっている。

 村人が数人と子供達だ。子供達の中にいるというのは余り考えたくないが、この際それも視野に入れるしかない。

 そしてそう仮定するならば、術者を炙り出すのは容易だ。

 

 直接村に行って触れに行く。そして触らせる箇所を限定させてベア子に特定して貰う。

 

「今夜はキツイな。明日辺り村に行ってみるか」

「魔女の残り香…」

 

 ベア子が俺を見てそう呟く。

 俺からその匂いがしてるらしい。

 

「魔女って何だ?」

「お前、ものを知らないにも程があるのよ。─世界を飲み干すモノ。影の城の女王。嫉妬の魔女」

「あぁー…確か、誰もが恐れ、誰もが畏怖し、誰もが逆らえぬ、だったか」

「そう、それなのよ。寧ろ、知っているかという質問の方が疑問なのよ。知らない筈がないかしら。この世界では親の名前、家族の名前の次にその魔女の名前を知らされるぐらいなのよ」

 

 異世界人である俺は知らなくて当然の話である。

 だが、今回このタイミングで知れたのは良かった。

 

「嫉妬の魔女サテラ。かつて存在した大罪の名を冠する六人の魔女を全て喰らい、世界の半分を滅ぼした、最悪の災厄なのよ」

「サテラ…」

 

 思い出すのは初日のこと。エミリアは俺にサテラと名乗った。

 それにしてもまた、とんでもない人物の名前を騙ったものだ。

 

「曰く、彼女は夜を支配していた。曰く、彼女には人の言葉が通じない。曰く、彼女はこの世の全てを妬んでいた。曰く、彼女の顔を見て生き残れた者はいない。曰く、その身は永遠に朽ちず衰えず果てることがない。曰く、竜と英雄と賢者の力を持って封印させられしも、その身を滅ぼすこと叶わず。その身は銀髪のハーフエルフであった」

「……成程。だからエミリアは避けられてると。特徴が揃ってるだけで避けるとか意味分かんねえ。可愛ければ良くね?」

「お前程愚かさが極まった奴は初めてかしら」

「酷くねぇ!?」

「嫉妬の魔女と特徴が一致してる奴なんて避けて当然なのよ。可愛いというだけで全て無視して好意を寄せる愚かさには呆れるかしら」

 

 そう言われても、可愛ければ全て良しな俺からすれば理解の出来ない話である。

 まあ、普通の感覚じゃないというのは認めよう。

 

「さて、そろそろ寝ないとだな。色々とありがとうな。明日くらいにちょっと呪われて来るからその時は解除頼む」

「また意味不明なこと言い出したのよ。ベティーがお前を助ける理由がないかしら」

「俺を見殺しにするとエミリアが悲しむ。そうすると必然的にパックが悲しんで、見殺しにしたベア子の立場は怪しくなるな」

「殆ど脅しなのよ!最初から呪われないように立ち回れば良いだけの話かしら!」

「いやぁ、呪術師を特定する為にも必要なんだよ。だから頼む」

 

 俺は真摯にベアトリスに頼み込む。

 ベアトリスは一頻り悩んだ後、溜め息を吐いた。

 

「お前を助けるのは一回限りかしら。それなら良いのよ」

「むむ、それは困る。じゃあ、大事に取っておくよ」

 

 呪いの解除自体はパックにも出来るらしいし、そっちを頼れば良い。

 エミリアに呪いのことを知られることになるが、仕方ないか。流石に全て隠し通して戦うのは無理難題だ。

 エミリアを守る為に俺が前線に出れば良いだけの話だしな。

 

「じゃ、おやすみ。俺が生き残ったらお前の話も聞かせてくれ」

「……お前に話すことなんて、何もないのよ」

 

 ベア子は努めて無表情でそう口にしたのだった。

 

 

 

 

「先輩方、朝の仕事の前にちょっとしたお願いがあんだけど、聞いてくんね?」

「お願い?」

「面倒事?」

「実は村に行ってみたいんだ。近くにあんだろ?買い出しの予定とかってあったりしないか?」

 

 俺の言葉にレムが顎に手を当てて考える。

 

「確か香辛料が心許ないので、明日にでも村に行こうと思っていましたけど……」

「じゃ、その予定ズラして今日とかどうよ。なくなりそうなら早いことに越したことないし、スパイス切れてお隣さんにお味噌借りに行くとか簡単に出来る環境でもねぇだろ?」

 

 ご近所付き合いしようにも並び立つ屋敷がない。

 ちょっと離れた村に行くのも一苦労だ。

 

 俺の申し出にレムは悩む様子を見せる。

 

「良いんじゃないの、それくらい」

「姉様?」

「買い出しには行かなきゃならないのだし、急ぎの用事もない。バルスという荷物運びもいるし、この機会にこき使えば良いわ」

「……姉様が、そういうのなら」

 

 要望が通ったことに俺は小さくガッツポーズを作る。

 レムが澄ました顔で口を開く。

 

「ですが、村に行くのはどちらにせよ昼食の後です。陽日の二時以降……それまでに、せめて普段の仕事は終わらせておきましょう」

「大丈夫よ。言い出しっぺのバルスが身を粉にして働く。そうでしょう?」

「おう。粉骨砕身して頑張るさ」

 

 買い出しの約束が結ばれたら使用人としての仕事が始まる。

 レムは今日一日の予定に買い出しを加えて組み直している。俺は野菜の皮を剥く作業に集中する。

 

 そうして慌ただしい一日が始まった。

 

 

 

 

 近くの村に足を運ぶのも通算で三度目になる。

 二回はレムと一緒に買い出しに来ていたが、今回はラムも一緒だ。

 村の規模は領主のすぐ側にある村としては小さい。住んでいるのは三百人前後だ。

 

「それにしても、随分と早く仕事が終わりましたね」

「バルスが気味悪いくらい冴え渡ってたのよ。何があったのやら」

「近くの村へお買い物というイベントに昂った俺のやる気が火を吹いたのさ」

 

 そんな軽口を叩きながら村を歩く。

 ラムとレムが買い物を済ませている間に俺は村人と接触する。

 触られる箇所を意図的に絞り後で分かり易くする。

 そうしていると今日も子供達に絡まれる。

 

 仕方がないので落ち着かせる為に子供達にラジオ体操を仕込む。

 遠巻きに見てた大人達も途中で参加し始めた。

 

「そして最後にヴィクトリー!!」

 

 ラジオ体操を終えたら迎えに来たラムの元へと戻る。

 ラムが胡乱な目つきで俺を見る。

 

「それでこれは何の余興?」

「余興て。そんな大それた話じゃねえよ。じゃりんこ共を纏めてあやすついでに、見てた大人達が悪ノリして来ただけだから」

「それで、お望みの村は堪能したの?」

「あぁ、その点に関しちゃ抜かりなく」

 

 村人達が触れた場所は記憶した。後は誰かを特定するだけである。

 

「そんじゃ、さっさと撤収しようぜ」

 

 歩き出す直前、袖を引かれて振り向く。

 そこには青髪のお下げの少女がいた。

 

「ん?どうした?」

「えっとね……こっち」

 

 少女が指差すのはレムとの待ち合わせの反対方向だ。

 弱々しい牽引の手を振り払うのも気が引けて、俺は許可を貰う為にラムの方を見た。

 

「もう少しだけ、勝手にしたら?」

「恩に着ます、先輩」

 

 子供達に先導されながら家と家の間を抜けて、日の当たらない一角へと入り込む。

 そして子供達が見せたがっていたソレを発見する。

 

 青髪の少女に抱っこされているのは褐色の体毛をした子犬っぽい生き物だった。

 まだ幼く、体長も三十センチに届くまい。

 子犬は子供達に囲まれて幸せそうにしている。

 しかし俺が近付くと全身の毛を逆立てて威嚇する。

 

「いつもは大人しいのにー」「スバルにだけ怒ってるー」「何やったんだよスバルー」

 

 子供達がガヤガヤと騒ぐ。

 普段は大人しくしているらしい。

 

 俺は子犬の隙を見てモフる。

 

「これは中々。でもやっぱ野良は毛並みに難ありだな。そこは毎日のブラッシングと愛情が決め手になる」

 

 子犬を思う存分モフっていると、突如として豹変した子犬が俺の左手に噛み付く。

 慌てて引き抜くと手の甲を血が伝う。

 

 子犬は少女の腕を抜け出して茂みの方へと駆けていった。

 俺は素直に諦めてラムのところへ戻る。

 と、そこにはレムもいた。

 

「悪い、待たせた。これが荷物?」

 

 俺はレムの前に置かれた樽を見てそう口にする。

 レムは肯定するように頷いた。

 

「はい。スバル君の予定に合わせて休憩を入れるつもりです。七回、というのがレムの予想になります」

「いやぁ、この程度なら一回も休まなくて平気だぜ」

 

 俺は軽く樽を持ち上げる。

 見た目以上の重さではない。今の俺なら問題なく運べる。

 

「伊達に傭兵やってねえ。ほら、さっさと行こう。帰りが遅くなるとエミリアたんが腹を空かせる」

 

 俺はそう言ってラムとレムと共に帰路に就くのだった。

 

 

 





・オリ主
過労死した経験から休みを取るのは大事だと認識しているが、それはそれとして限界まで頑張る性格。
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