菜月昴成り代わりオリ主 作:雨天
人探しの手伝いの許可を得た所で俺は一度手を叩いた。
銀髪の少女が俺の突飛な行動に目を瞬かせた。
「さて、俺はこの辺の土地勘がなく右も左も分からねえんだが、君は土地勘ある方?」
「残念だけど、私も土地勘はないわ」
「ふーむ。となるとあの女の子が逃げてった方角を頼りに探すしかないか」
俺は少女が走り去って行った方角を睥睨する。
少女は建物の屋上を走り抜けて行ったので地上を歩く俺達が追い付くのはかなり苦労するだろう。
「追い付くのは超ハード。だから女の子の家を探し出して突撃するのが現実的かな」
「王都で追いかけっこは大変だものね」
そもそも此処王都だったんだ、という疑問は飲み込んで少女の言葉に頷く。
パッと見で相当な広さを持つ王都で常人とは思えない速度で動いていた少女を捕まえるのは無謀だ。
「王都を狩り場にしている盗賊なら本拠地がある筈。そこ聞き込みで探し当てる」
俺は目標を明確にして気合いを入れる。
早速聞き込みスタートだ。
◇
「見つからねえ……」
聞き込み開始から時間が経ち、ある程度調査を終えた俺達は項垂れていた。
盗賊少女の本拠地が見つかるどころか手掛かりすら得られなかった。
それに俺はこの世界の文字が読めないから二手に分かれるとかも出来ない。
そんな訳で二人して頭を悩ませることになったのだ。
「盗まれた現場に戻って聞き込みとか、安直なこと考えてみたり」
「それ、良いかも。何かしら目撃している人がいるかもしれない」
安直な提案だったが思ったよりも感触は良かった。
これで何かしら光明が見えれば良いのだが。
「そういや、名前聞いてなかったな。俺の名前は菜月昴。君達は?」
「僕はパック。よろしくスバル」
パックと名乗った猫のような精霊と握手する。
その様子に少女が珍しいものを見た、という顔をする。
「精霊とこんなに気軽に接する人なんてほんと珍しい。何処から来たの?」
「うーん。異世界もののテンプレで言えば東の小さい島から、かな」
「ルグニカは大陸図で見ても一番東の国だから、この国より東なんてないけど」
「Oh…此処が東の果てだったのか…」
「今自分のいる場所が分かってなくて、お金も持ってなくて、字も読めなくて頼る人もいない…ひょっとすると私より危ない立場なんじゃ…」
「いやぁ、改めて状況を整理すると絶望的だな。だけど大丈夫!サバイバルの知識はあるから、最悪野宿でも問題なし」
「いや、問題しかないでしょ」
「そんなことより君の名前を聞いてないな、なんて」
「露骨に話題逸らしたよこの子」
パックの鋭い指摘を無視して少女に視線を向ける。
少女は若干言い淀んでから名乗った。
「私は…サテラ。家名はないの。サテラとそう呼ぶと良いわ」
「そうか。良い名前だな!」
「えっ?」
サテラは名前を褒められたことに意外そうな顔をする。
まあ、十中八九偽名だろうし、オマケに忌み名だと思われるが感じたことは素直に口に出さないとな。
名前を褒めるのは大事だってお母さんから教わってるからな。
「さあ、互いに名前も名乗った訳だし、聞き込み再開と行きますか!」
俺は元気良くそう口にして微妙な空気を払拭した。
◇
「ねぇ、スバル。あの子、迷子になってる気がしない?」
サテラの指差す方を見ると確かに一人の少女が不安そうに辺りを見回す様子が見えた。
俺はサテラのやりたいことを理解して頷いた。
「OKサテラ。あの子は任せた!」
「スバルは手伝わないの?スバルなら助かると思ったんだけど」
パックの言葉に俺は「確かに」と頷いた。
しかし此方にも助けられない事情があるのだ。
「俺が話し掛けると誘拐犯だと思われる可能性が高い。だから先ずはサテラが話し掛けてくれってこと。じゃないと俺の社会的信用が地に落ちる」
「そうなの?そういうことなら仕方ないわね」
サテラは一応納得した様子で少女の元まで歩いて行った。
そして少女の前で屈みを視線を合わせて問い掛ける。
しかし少女は泣くばかりでまともな返答は得られない。
見兼ねた俺は一枚のギザ十を取り出した。
「此処に取り出しましたるは一枚のギザ十に御座います」
サテラと迷子の少女が眼前に取り出されたギザ十に視線を取られる。
俺はギザ十を握り込んだ。
「さーて、これをギュッと手で握り潰してやります。するとあら不思議」
開いた掌の上からはギザ十が消えていた。
少女が驚いて視線を俺に向ける。
俺は少女の頭を撫でて、髪の間からギザ十を取り出したように見せる。
「はい。消えたコインはこんな所におりました」
「わぁー!」
「手品を見てくれたお礼にプレゼントしてあげよう。貴重なコインだから大事にしてね」
「ありがとう!」
少女は泣き止んで笑顔を見せた。
それに対して俺も明るく笑って見せる。
そうして迷子の少女を連れて街中を歩く。
途中で少女が母親を見つけて合流する。
「見つかったみたいだな」
「うん。良かった」
サテラとそんな言葉を交わして、少女から離れて去っていく。
母親は遠くから此方に一礼して少女と共に街中に消えていった。
歩きながらサテラと話す。
「これで俺達も気持ち良く探し物が出来るな」
「スバルってすごーく損する性格してるわよね」
「君にだけは言われたくないな」
「悪い子じゃ、ないのよね」
「何で年下扱い?俺と君ってそこまで歳の差ないでしょ?」
「その予想、当てにならないと思う。私、ハーフエルフだから」
「通りで。可愛いと思った。エルフは美人ってお約束だもんな」
「えっ?」
サテラがまた褒められたことに驚きを露わにする。
俺はその様子に首を傾げた。
「どったの?」
「どうしたのっていうか…あのほら、私ハーフエルフ……」
「聞いたよ」
俺が何が問題か分からないといった顔をするとサテラはその場にしゃがみ込んだ。
パックがサテラの髪から飛び出して俺の頰に猫パンチを喰らわせる。
「てぃっ!」
「急に何すんの?」
「何となく耐え難いムズムズ感を形にしたくて」
「どんな理由だよ…ぷにぷにだったから許すけど」
「もう!スバルのおたんこなす!」
「おたんこなすってきょうび聞かねえな。そして何故に俺は罵倒されてるの?」
「ふんだ!知らない!それより探し物の続き始めなきゃ」
サテラは気持ちを切り替えて歩き始めた。
それに俺は取り敢えず追従するのだった。
◇
「さて、現場に戻って来た訳だが…」
俺達が戻って来たのは、最初に冷やかし扱いされた果物屋の前であった。
「何だぁ?客かと思ったらまたお前かよ、一文無し」
「今回はお得意様になるかもしれない人も連れて来たぜ」
「あの…スバル?変に期待してくれてるんだけど、私もお金持ってないわよ?」
「マジか!?」
「で、無一文が二人になっただけの状況で何が言いたかったんだ、兄ちゃん」
俺は頰を掻きながら目的を話す。
「実は人を探してるんだが、ちょっとお話聞かせてくれないかなぁー…的な?」
「文無しに付き合ってられねえって皮肉言ってんだよ!帰った帰った!」
「お兄ちゃん!」
俺が店主から追い返されていると、横から聞き覚えのある声が掛かった。
視線を横に遣るとそこには先程の迷子の少女とその母親がいた。
「先程はどうも」
「何でまたこんな所に?」
「主人のお店なんでちょっと立ち寄ったんですよ」
母親はそう言って店主を見た。
少女は店主にの腰に抱き付いた。
店主が少女の頭を撫でてから不思議そうに母親の方を見た。
「それよりお前、この文無し二人と知り合いか?」
「この子が迷子になったのを見つけてくれたんですよ」
「お姉ちゃん。はい!」
少女が店主から離れてサテラへと何かを渡す。
それは花の装飾品のようだった。
サテラはそれを受け取って礼を述べる。
「ありがとう」
そして胸の辺りに装飾品を着ける。
店主が申し訳なさそうな声を出した。
「すまなかったな。娘の恩人だ。礼がしたい。何でも聞いてくれ」
「情けは人の為ならず、ね」
サテラがそう言って笑みを向ける。
俺も笑みを返してから気持ちを切り替えて店主に尋ねる。
「金髪に小柄で、妙に素早い少女を見てないか?大事な徽章が盗られたんだ」
「見てはいねえが、そいつはひょっとするとフェルトの奴かもしれねえな。貧民街じゃ有名だ。住んでる場所までは知らねえがな」
「そんだけ聞けりゃ充分だ。ありがとな!安定して収入を得られるようになってからまた買いに来るわ」
「おう。そん時はご贔屓にな」
俺達は店主と別れて貧民街へ向かう。
日は暮れ始め、空が茜色に染まる。
貧民街は住んでいる人間の性格を表すように薄暗い。余り長居したいとは思えない風景が広がっている。
「聞けば教えてくれるかしら?」
「誰も自分達の仲間を売ったりしないから聞いても無駄だと思うけど」
サテラの言葉にパックが正論を放つ。
俺は出直すべきか悩む。
「進むにしても戻るにしても決断は早めにね。僕はそろそろ時間切れだ」
「ウルトラマンみたいに時間制限付きなのね」
「ウルトラマンが何かは分かんないけど、その通りだよ。僕はこんな可愛い姿だけど精霊だからね。表に出てるだけで結構マナを使っちゃうんだ。だから夜は依代の結晶石に戻ってお天道様が出てる間に備えてるんだよ。まあ、平均的には九時から五時が理想かな」
「公務員みてえ。精霊の雇用形態って割とシビアなんだな」
「パックがいなくても大丈夫。此処は進むしかない」
「だよね。でもごめん。僕もう限界だぁ…」
パックの体が半透明になり、存在感が薄くなる。
まるで死に行く魂のような消え方である。
「無理させてごめんね、パック。後は私達で頑張るからゆっくり休んで」
「くれぐれも無茶しないように。いざとなったらオドを使って僕を呼び出すんだよ。それじゃ、後は頼んだよスバル」
パックが無数の光の粒になり、サテラの持つ結晶石とやらに収まっていく。
俺達は改めて探索を開始した。
「さて、どうやってフェルトを見つけるかな」
「微精霊に聞いてみる」
「微精霊?」
「微精霊っていうのはまだ精霊になる前の存在のこと。時間が経って成長して力と自意識が芽生えるとパックみたいな立派な精霊になるの」
そう言ってサテラは何事かを呟く。すると無数の光がサテラを取り囲んだ。
それは幻想的で美しく、思わず目を奪われる光景だった。
サテラが微精霊から聞き込みを終えるとある方角に向かって歩き出す。
そっちの方にフェルトは向かって行ったらしい。
更に時間が過ぎて日が沈む。
辺りは暗闇に包まれ、貧民街は更に寂しい様相を見せる。
「どんどん寂しくなって来る」
「ほんとにこんな所に住んでるのか?」
「微精霊はこっちの方角にフェルトに似た人が入って行くのを見たって言ってたんだけど…」
歩いていると向こう側から人が歩いて来る。
俺はその男に気安く話し掛けた。
「なぁ、この先ってフェルトって奴の家で合ってる?」
「あぁ?フェルト?この先にあるのはロム爺の盗品蔵だけだ。ははーん。さては兄ちゃん達フェルトに何か盗まれたか。ま、上手く交渉して買い戻すんだな。強く生きろよ」
「おお。ありがとな」
男と別れて歩き始める。
サテラが不満げに口を開いた。
「盗まれた物を返して貰うのにどうしてお金払わなきゃいけないのかしら」
「まあ、盗賊が盗品をタダで手放す訳もなし。無理矢理取り返すか、素直に買い戻すかだな」
「納得出来ないわ!」
サテラはプリプリと怒る。
まあ、気持ちは分からんでもないが、此処は貧民街のルールに従う方が妙な揉め事も起こらずに済む。
盗品蔵に到着した俺は入り口前で足を止める。
「ま、此処は俺に任せてくれ。何とか交渉してみる」
「分かった。スバルに任せてみる」
「ヤケに素直に任せたな。出会って間もないだろ」
「でも、スバルは良い子じゃない。迷子の子を迷うことなく助けたし、何の見返りもないのに私を助けてくれる。だからスバルを信じてみる」
サテラの意思の強い瞳に俺は素直に信用を置かれたことを喜ぶ。
そして入り口の取っ手に手を掛ける。
「俺が先に入るから、君は外を見張っててくれ。帰りは遅くならないけど、先にご飯食べてて良いよ」
「馬鹿なこと言ってないの。気を付けてね」
「はーい。サテラも俺が声掛けるまで入ったら駄目だぜ」
「………」
俺の言葉にサテラが急に黙る。
俺は素直に疑問を口にした。
「どったの?」
「ううん。何でもないの。徽章を取り戻せたらちゃんと謝るから」
「?…分かった。じゃ、外は任せた」
俺は一言「お邪魔」と口にして中に入る。
中は灯りもなく真っ暗で視界が悪い。盗品を扱ってる割には見張りもいないのは不用心が過ぎないかと、下らないことを考える。
「酒場か何かか?」
俺の転生者由来の優れた目が闇の中でも問題ない程度に室内を捉える。
目の前には小さなカウンターがあった。その向こうに木箱が置かれており、そこに蔵主が座っていたのだと分かる。
カウンターの上には幾つかの小箱や壺、刀剣などが無造作に置かれている。
当然だが貴重品程奥に置かれているだろう。徽章がどれだけの価値を持つかは分からないが、奥へと行けば見つかるかもしれない。
「んっ?何だこれ」
不意に靴裏に何かが付着した音がして、靴を見る。
するとべっとりと液体が付着していた。
地面を見るとそれは奥から流れて来ているようである。
俺は錆びた鉄のような匂いを嗅ぎ取って眉を顰める。
鉄錆の匂いと謎の液体。先ず間違いなく血液だろう。
それに妙に静かな盗品蔵の様子を鑑みると死体が転がっている可能性が高い。
俺は悪寒を感じながらも奥へと進む。
そして遂に『それ』を見つける。
地面に転がった腕は奇妙なことに肘から先がない。掌は何かを掴もうとしていて、途中で切断されたのだと分かる。
更にその先へと進めば、首を大きく裂かれた片腕のない死体と対面する。
俺は吐き気を堪える為に壁に手をつく。
すると背後から声が聞こえた。
「ああ、見つけてしまったのね。それじゃ仕方ない。ええ、仕方ないのよ」
「くっ…!」
俺は咄嗟に横に飛ぶ。
先程まで身を置いていた所に刃が通る。一瞬でも遅れていたら切り裂かれていた。
その事実が肝を冷やす。俺は下手人を睨んだ。
相手は女のようである。暗くてハッキリした姿は見えないが、体型から推測出来る。
下手人は避けられたことに意外そうな顔をした。
「意外に勘が良いのね?でもそれだけじゃ駄目よ」
女は人間とは思えない速度で俺に迫るとククリ刀のようなナイフを振り翳す。
それをギリギリで避けながら反撃を試みる。
攻撃の間隙を突いて女の体に拳を突き入れる。女の体が宙に浮き、後方へ軽く吹っ飛ばされる。
「貴方、良い膂力をしてるわね。体格は普通なのに、見合わない力。加護かしら?」
「うへぇ。もっと効いたって顔してくれません?」
「ふふっ。効いたわよ。でもまだまだ足りないわ」
「嫌んなるね」
俺は悪態を吐きながらも冷静に戦況を分析する。
相手はナイフ持ちで此方は無手。速度では俺の方が若干早い。但し相手の技量はとんでもない。ミスれば腹を割かれて死ぬ。
だけど、相手は何故か腹を裂くことに拘ってる。だから攻撃は読み易い。
油断さえなければ勝てるかも。
そう冷静に分析する俺の耳に聞き慣れた声が聞こえて来る。
「スバル?大丈夫?」
「サテラ!逃げろ!」
「えっ?」
サテラは俺の言葉に動揺して立ち止まる。
そこに女のナイフが迫る。俺は咄嗟にサテラを突き飛ばして庇った。
「ぐぅっ…!」
腹を大きく裂かれ、内臓が零れ落ちる。
俺は何とか一発女の顔に拳を叩き込んで倒れ伏す。
「スバルっ!!」
「逃げ…ろ…」
俺の声がサテラに届くことはなく、サテラも女に腹を切り裂かれた。
サテラが俺の隣に倒れる。
俺は鈍くなる感覚の中で必死にサテラに手を伸ばす。
駄目だ。血が流れ過ぎて意識が朦朧としている。
流石にこれはどうにもならない。
三度目の生すら呆気なく終わるとは。我ながら無様としか言い様がない。
次があれば、上手く生きてみせる。
次、こそ─。
◇
「どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた面して」
「へっ?」
唐突に切り替わった視界に俺は間抜けな声を漏らす。
体は、無事だ。五体満足で動く。
っていうか、空だ。空が明るい。さっきまで夜だったのに、急に昼間になっている。
それに場所。何故か果物屋の前に戻っている。
俺は混乱しながらも、冷静にリンガを差し出す店主に質問した。
「なぁ、店主さんよ。俺が文無しだって知ってるだろ?」
「はぁ?知らねえよそんなの。文無しなら帰んな」
俺は訳も分からず追い返される。
取り敢えずその場を離れて路地裏に入る。段差に腰掛け、思考を整理する。
俺は死んだ筈だ。それなのに生きている。
そして何より、恐らくは時間が巻き戻っている。
予知夢、とは違う。これは─。
「死に戻り─?」
俺は震える頭でそう結論を出した。
・オリ主
死んだ感覚をくっきりと覚えている為混乱中。
無手でもそこそこ強い。