菜月昴成り代わりオリ主   作:雨天

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第三話 徽章を取り戻せ

 

 

 

 起きた現象を整理して死に戻りと結論を出した俺は路地裏で一人身を震わせる。

 死んでも死なない死に戻りが俺に与えられたチート。そんな恐ろしい現実が眼前に突き付けられている。

 

「死ぬのが怖い俺に何度も死ねる能力与えるとか神様良い性格してるよ、ほんと」

 

 でも人生をやり直せるチャンスを得られたと思うと、そう悪くもない気がする。

 文字通り死ぬ程辛いけど、その分ハッピーエンドに近くなるってことで。

 やっぱ神様ってば超性格悪いわ。

 

 盗品蔵での戦闘を思い起こす。

 無手で挑んだのは悪手だった。冷静に考えれば、あの場にあった適当な刀剣を手に取れば良かったのだ。

 冷静に分析、なんて考えておきながらまるで冷静じゃなかった。

 初めて死体と対面した驚愕と困惑が混じり合って混乱を生んでいたのだ。

 そして何よりサテラを巻き込んでしまった。

 

「サテラを頼むって、言われたのにな……」

 

 パックに頼まれたのに果たせなかった。

 せめて大声で逃げろと叫べば良かった。

 そうすれば、俺が時間を稼いでいる間に逃がせたかもしれない。

 

「後悔先に立たず。ミスは大きな手柄でカバーする。目標は変わらず徽章を取り戻すこと。何があったのかも知りてえし、先に盗品蔵に向かうか」

 

 フェルトの死体は見なかったからもしかしたら盗品蔵から逃げたのかもしれない。それか単に見逃しただけか。

 どちらにせよ、盗品蔵で戦闘が起きた。その原因と下手人をハッキリさせる。

 そして出来れば徽章も取り返す。

 

 俺が決意を固めると路地裏に三人の男が入って来る。

 数時間前に返り討ちにしたチンピラである。

 

「よぉ、兄ちゃん。少し俺等と遊んでいこうや」

「悪いけど、そんな暇ねえんだわ。さいなら」

 

 俺はチンピラ達が捉えられない速度で路地裏を走り抜け、さっさと貧民街へ向かう。

 道はしっかりと記憶していたので迷うことなく盗品蔵に辿り着く。

 

 そして扉の前に立って中の気配を探る。

 これは上位の魂を持つ俺だからこその感覚だ。優れた五感と超感覚で周囲の気配を探ることが出来る。

 中には大柄な人物が一人いるようだ。その体の大きさから片腕のない死体となっていた人物だと予想される。

 

 俺は扉をノックして声を掛けた。

 

「すいませーん!盗品のことで相談に来ましたー!」

 

 声を掛けると中の気配が動き、扉の前まで来る。

 そして扉越しに質問を投げ掛けてくる。

 

「誰の紹介だ?」

「名前も知らない誰かさんが教えてくれたんだよ。アンタがロム爺で合ってるよな?」

「………入れ」

 

 扉が開かれ、その先から大柄な筋肉質な老人が姿を現す。

 俺は素直に案内に従って中に入り、カウンターの前に座る。

 

「盗まれた物で相談があると言っとったが…」

「正確にはこれから此処に納品される徽章を取り返したいんだ。って言っても勿論タダでとは言わねえ」

「ほう。幾ら出す気だ?」

「金はねえんだが、金に換えられる代物ならある」

「物々交換と言う訳か」

 

 ロム爺は納得したような顔を杯を呷る。

 こんな時間から酒を飲むとは相当酒が好きらしい。

 

「しかし、これから納品されるとはまた妙な言い回しじゃの」

「実はフェルトって奴が徽章を盗んだらしくてな?追い掛けるのは得策じゃねえから、盗品を売り捌く為の店に先回りしたんだ」

「成程の。それで、その徽章に見合うだけの代物とは何だ?」

「慌てなさんな。フェルトが来てから全部話すよ。二度手間は御免だ」

「それもそうか。なら気長に待つとするかの。待ってる間暇だろう。お前も飲むか?」

 

 ロム爺はそう言って酒の入った杯を俺に押し付ける。

 俺はこの後のことも考えて遠慮しておく。

 

「後のことを考えると酔っ払う訳にはいかなくてな。気持ちだけ受け取っておくよ」

「そうか。まあ、フェルトが来るまでのんびりしておれ」

 

 ロム爺はそう言って酒を飲む。

 俺は入り口に向き直ってフェルトが来るのを待つのだった。

 

 

 

 

 俺がぼんやりと今後のことを考えながらフェルトを待っていると唐突にノックの音が響いた。

 ロム爺が扉まで行って符牒を口にする。

 扉の向こうの人物も合わせて符牒を口にする。

 

 ロム爺が扉を開けると見覚えのある金髪の少女が入って来る。

 

「待たせちまったなロム爺。意外としつこい相手でさ。撒くの手間取っちまった」

 

 フェルトは中に入るとカウンターの前の席に座る。

 ロム爺がコップに牛乳のような白い液体を入れてフェルトに渡す。

 フェルトはそれを一気に飲み干した。

 

「おいロム爺。このミルク水入れて薄めてねえだろうな。不味いぞ」

「ったくもう。人が好意で出してやってるモンを不味い不味いと…」

 

 ロム爺は怒りながらもフェルトの頭を撫でる。

 そこには想定していた以上の親しみがある。

 

「で、この兄ちゃんは何者だよ?ロム爺」

「お前さんの客だ」

「おう。実はお前が盗んで来た徽章が欲しくてな。俺の持つ超絶珍しい代物と交換しないかって交渉に来たんだ」

「珍しいモン?」

「そう。その名もケータイだ」

 

 俺は言ってポケットからケータイを取り出す。

 フェルト達はケータイを見て不思議そうな顔をした。

 

「ケータイ?どう使うんだ?」

「コイツはその場の時間を凍結させて保存することが出来るんだ。一回撮ってみるか」

 

 俺はケータイを覗き込む二人をパシャリと撮影する。

 それに二人が驚いた。

 

「うわっ!?何すんだ!」

「何じゃ今のは!殺す気か!?怪しげな真似しおって、余りジジイを舐めるでない!」

「まあまあ落ち着け。これを見ろ」

「これは儂等の顔じゃな」

「この中に二人の時間を閉じ込めたのさ。どう?」

 

 ロム爺がケータイの価値に思考を巡らせて唸った。

 

「初めて見るが、これが噂に聞くミーティアという奴かの」

「ミーティア?」

「魔法使いのようにゲートの開いていない者でも魔法が使えるように出来るという道具の総称じゃ」

「んなことより値段だ。このミーティアは売ったらどんなもんよ?」

「流石の儂もミーティアなんぞ扱うのは初めてじゃ。だが、この徽章より高値が付くのは間違いないじゃろう」

「おぉ!じゃあ交渉成立だな」

「いいや、まだだ」

 

 俺の喜色の籠った声にフェルトが待ったを掛ける。

 吹っ掛けるつもりだろうか。

 

「アタシの交渉相手は兄ちゃんだけじゃないってこと。そもそもアタシがこの徽章をぎって来たのは依頼されたから何だよ。これ一個で聖金貨十枚と引き換えるって話でな」

「盗みの依頼が先約かよ。聖金貨十枚って相場が今一分かんねえけど…」

「お前さんが持って来たミーティアなら最低でも聖金貨二十枚…いや、それだけの物ならもっと出す好事家もおるだろう」

「マジか!?そりゃ吹っ掛け甲斐があるってもんだぜ!」

 

 フェルトが嬉しそうに笑う。

 しかし俺は俺で不味いことになった。交渉に切るカードがケータイだけでは済まない可能性が見えたのだ。

 依頼人が聖金貨二十枚以上を出さなければ俺の勝ち。それ以上を出されたら俺の負けだ。

 まあ、何が何でも徽章は取り戻すから、最悪菓子とかカップラーメンとか財布に入った元の世界の硬貨とか上乗せするけどな。

 

「そんで、その依頼人とは何処で落ち合うんだよ。っていうか俺も交渉の場につかせて貰えるのか?」

「安心しろよ。兄ちゃんが一方的に不利になることはしねえよ。交渉場所も此処だ」

「お前、また儂に断りもせんと勝手なことを…」

 

 ロム爺が露骨に嫌そうな顔をする。

 対するフェルトは悪どい顔だ。

 

「だってよー、ロム爺がいりゃ、大抵の相手から暴力って選択肢消せっからさ。この見た目と喧嘩なんか、考えただけでする気なくなるし」

「確かにな。ロム爺の体格と渡り合うのはかなり危ない橋になりそうだ」

「その言い方だと、兄ちゃんも見た目に似合わず喧嘩強いのか」

「まあな。少なくとも武器持ったチンピラくらいなら軽く制圧出来る」

「似合わねー」

「悪かったな」

 

 俺がフェルトの物言いに不満を露わにしていると盗品蔵の扉がノックされた。

 ロム爺がフェルトに「符牒は?」と尋ねる。

 

「あっ、教えてねーや。多分アタシの客だし、見て来るわ」

 

 フェルトは跳ねるように椅子を降りて入口の方へ向かう。

 俺はロム爺に疑問を投げ掛ける。

 

「良いのか?」

「ま、知らん仲じゃないしの。付き合いも短くない……用心棒の真似くらいしてやるかとするか」

 

 心なしかウキウキと、頼られるのが嬉しいお爺ちゃんが奥から棍棒を取り出す。

 長さは竹刀程度。先端からはちらほらと棘が飛び出しており物騒極まりない。

 フェルトが戻って来て愛想の良い顔で口を開く。

 

「やっぱアタシの客だったよ。こっちだ、座るかい?」

 

 フェルトが手招きしたのは一人の女性だった。

 身長は俺と変わらないくらい。年齢は二十代前半に見える。

 黒い外套を羽織り、前は開けている為下に張り付く同色の装束が目に付く。

 顔立ちは目尻の垂れたおっとりとした雰囲気の美人さん。病的に白い肌が蔵の中でも目立つ。

 そして感じる尋常ならざる圧。只者ではない女性だ。

 

 彼女は席に座ると小首を傾げた。

 

「部外者が多い気がするのだけれど?」

「踏み倒されたら困るかんな。アタシ達弱者なりの知恵だよ」

「其方のご老体は分かるのだけれど、此方のお兄さんは?」

「このお兄さんはアンタのライバル。アタシのもう一人の交渉相手さ」

 

 フェルトは悪そうな顔でそう口にしたのだった。

 

 

 

 

「成程。事情は飲み込めたわ」

 

 エルザ、と名乗った女性は頷いて納得の様子を見せた。

 フェルトが早速本題に入る。

 

「そんな訳で値段の釣り上げ交渉だ。別にアタシはどっちが徽章を持ってくんでも構わねえし、高い方に高く売り付けるさ」

「良い性格だわ。嫌いじゃない。それで、其方のお兄さんは幾ら付けたの?」

「俺が出すのはこのミーティアだ。世界に一個しかないレア物。そこのロム爺の話じゃ聖金貨二十枚は下らないって話だぜ」

「ミーティア…」

 

 エルザはケータイに映る自分の顔を見て頷くと革袋を取り出してテーブルの上に置いた。

 

「実は私も依頼主からある程度余分なお金を渡されているの。貴女が渋るようなら、少しの上乗せも考える意味でね」

「依頼主ってことはエルザさんも依頼されて徽章を受け取るように頼まれただけってことか」

「そうなるわね。欲しがってるのは依頼主の方。もしかして貴方、ご同業?」

「俺は無職」

 

 沈黙が場に満ちる。

 フェルトが空気を切り替えるように口を開く。

 

「無職の兄ちゃんは飛び出るような値段を付けた。アンタの飼い主はどんだけの値段を付けられんだい?」

 

 エルザが革袋をひっくり返して中身を出す。

 現れたのは白銀の聖金貨。数は二十枚ジャストだ。

 

「私が雇い主から渡されたのはそれが全て。上はそれで払い切れると貴女を値踏みしていたようだけれど……少し厳しいかしら」

「儂の見立てじゃこの交渉はスバルに傾くな。お前さんと雇い主には悪いが、この金貨は袋に戻して帰ることじゃな」

「悪いな、エルザさん。雇い主から色々言われるだろ」

「支出を少なくしようとした方が悪いのよ」

「聖金貨二十枚で少ないはちょっち浮かばれんのう」

 

 確かに。今回の交渉は異世界のアイテムという切り札を使ったから勝てただけで、本来なら俺なんかに勝ち目はなかった。

 何せ天下不滅の無一文。働き口もない無職が金持ちに挑むとか無謀に過ぎる。

 

 エルザが立ち上がる。

 

「交渉は残念な結果だったけれど、私はこれで失礼するわね」

 

 去ろうとしたエルザが不意に俺の方を向いた。

 

「そう言えば、貴方はその徽章を手に入れてどうするの?」

「ん?観賞用」

 

 俺は平然と嘘を吐いた。

 ここで持ち主に返すとか言えば敵対宣言だからな。

 次は死にたくねえし、大人しく帰って貰う為に必要な嘘だ。

 

 エルザは薄く笑みを貼り付けて俺を見た。

 その視線に動揺することなく胸を張ってみせる。

 

「……そう。物好きね」

「まあな。俺は綺麗な物が好きなの。綺麗なお姉さんも好きだよ」

「あら、残念だけどお兄さんは私の好みじゃないわ」

「バッサリ切り捨てられた…逆にどんなのが好み?」

「強いて言うなら、強い人かしら」

「それならそこそこやれると思うぜ。少なくとも普通の人間よりは」

「意外ね。戦うのは得意じゃなさそうだけど」

「これでも結構鍛えてんだぜ。並の衛兵よりはやれるさ」

 

 エルザは値踏みするような視線を俺に向ける。

 俺は筋肉を見せびらかすようにポーズを取った。

 

「確かに。良く使い込まれた手をしてるわね」

「昔は喧嘩に明け暮れたもんだ」

「若えだろ、兄ちゃん…」

 

 フェルトのツッコミも意に介さず、俺は筋肉をアピールする。

 握力はゴリラ並み。走力はチーター越え。ついでに空間を蹴って月歩が出来るスーパーな肉体を持っているのである。

 

 エルザは妖艶に微笑むと俺に近寄り、俺の唇に人差し指を当てた。

 

「また会うことがあったら、その時に仲良くしましょうね」

 

 エルザはそう言って蔵を出て行った。

 俺は指の感触に頰を緩ませる。

 

「スケベな兄ちゃんだなぁ」

「ふふっ。俺は女性にモテる為ならあらゆる努力を惜しまないぜ。例え相手が自分を殺した奴でもな」

「?…殺されたらモテるも何もねえだろ」

「まあ、普通はな」

 

 俺は具体的なことは何も話さずにフェルトの疑問を受け流す。

 フェルトが興味をなくしたように話題を移した。

 

「てか、本当に徽章を鑑賞する為だけにミーティア売るのかよ」

「いや、徽章を持ち主に返すんだ」

「さっきの嘘だったのか…にしても、その徽章返す価値あんのかよ?」

「あるぜ。感謝っていう何物にも代え難いもんを得られる」

 

 俺がそう言うと同時に蔵の扉が開かれた。

 同時に膨れ上がる殺意が俺を叩いた。

 

「何だ。関係者なのね」

 

 声の聞こえた方に視線を向ける。

 瞳に怪しい色を宿したエルザがナイフを持って蔵の入り口に立っていた。

 

 

 





・オリ主
最後の最後で気配探知を怠った。
可愛ければ殺人鬼相手でもモテようとする。
本気を出すと軽く人を殺せる為、人を殴る際は意識して手加減している。
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