菜月昴成り代わりオリ主   作:雨天

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第四話 死線を越えて

 

 

 

 向けられる殺意に本能が警鐘を鳴らす。

 感じる圧に総毛立つような感覚を覚えながら、俺はエルザと向かい合った。

 

「その物騒なモンとオマケに殺意を引っ込めて回れ右して帰ってくれるって選択肢はある?」

「残念だけど、関係者に知られた以上は殺すしかないわ」

「で、ですよねー…ロム爺、適当に剣借りるぞ」

 

 俺は一言断ってからカウンターに置いてあった剣を一つ手に取る。

 剣の感触を確かめて、見た目以上の性能は期待出来ないと理解して構える。

 フェルトとロム爺を庇うように前に立つ。

 するとロム爺が抗議の声を上げた。

 

「お前さんに守られる程弱くはないわい。此処は儂に任せろ」

「いや、それは…」

 

 思い起こすのは前回の記憶。ロム爺はエルザに殺されていた。

 不意を突かれたとかではなさそうな死に方だったし、単純に実力差が開いていた為の無惨な死に様だったのだと思われる。

 

 俺が警告する間もなく、ロム爺はエルザの方へと駆けて行った。

 振り回される棍棒を軽く避けてエルザがナイフを振るう。

 棍棒が真っ二つに切り裂かれ、武器としての意味を失う。

 ロム爺が動揺した隙にエルザがナイフで腹を裂こうとナイフを振り上げる。

 

「させねえよ…!」

 

 そこに割り込んでナイフを剣で受け止める。

 エルザは邪魔が入ったというのに嬉しそうに微笑んだ。

 その様子に不気味さを覚えながら、剣でナイフを弾く。

 エルザが距離を取り、品定めするような死線を俺に向ける。

 

「さっきの言葉は嘘じゃないみたいね。並の衛兵を相手取るよりは楽しめるかしら?」

「どうかな。この国の基準が分かんねえから何とも言えねえ。そして少しでもミスったらあの世行きだ」

 

 エルザは執拗に腹を裂こうと狙って来る。

 それをギリギリで回避しながら隙を見計らう。エルザが空振り、体勢を崩した隙を突いて剣を振り切る。

 エルザが身を翻して避ける。が、薄皮一枚切り裂けた。

 傷から血が滴り、エルザが恍惚とした顔でそれを眺める。

 

「え、何。ドMなの?」

「ドM?」

「傷付けられるのが好きな奴って意味」

「一方的に傷付くよりは、互いに傷付け合うのが好きよ」

「わぁ、異常性癖。とてもじゃないが共感出来ないね」

 

 俺は軽口を叩きながらエルザの動きを見切って対処する。

 剣とナイフが衝突して耳障りな音を奏でる。

 一合、打ち合う度に俺の技が洗練させれていく。徐々にエルザに付ける傷が増えていき、対して俺は無傷で立っている。

 

 不意に最初に付けた傷口が治り切ってるのを確認する。

 

「妙に再生が早い……ただの人間じゃないな」

「ええ、そうよ。目敏いわね」

 

 エルザは褒めながらも手は止めない。

 ロム爺やフェルトが割って入る余地のない剣戟の嵐が蔵の中に吹き荒れる。

 エルザのナイフ捌きは並ではない。相当な数の血肉を啜って鍛え上げられた代物だ。

 それに対して終始優勢で戦闘を進められているのは俺とエルザの膂力の差と俺の成長速度が優れてるからだと思われる。

 

 このまま差を広げていけば俺が勝利すると予想出来る。

 だが、エルザも隠している手札くらいはあるだろう。

 その手札を想定するからこそ油断はしない。前回のように無様に死ぬのは御免だ。

 

 俺の剣がエルザの足を捉える。

 太腿を大きく切り裂き機動力を奪う。後は畳み掛けるだけだ。

 勝利を確信する、その瞬間。

 盗品蔵の扉が開かれ、異分子が介入する。

 

 それは銀髪の長髪に紫紺の瞳を持つハーフエルフ、自称サテラであった。

 

 エルザが敵意を俺ではなくサテラに向ける。

 俺は予想出来た動きに合わせて防御に入る。

 

「チッ…」

 

 サテラを狙った一撃を防がれたことでエルザが苦い顔で舌打ちする。

 エルザは再び距離を取り、次の機会を窺う。

 

 俺はサテラに向き直り、そして警告した。

 

「此処は今君とその関係者を狙う殺人鬼が居座ってる。徽章は俺が取り返すから、君は外で待ってるか適当に貧民街プラプラして時間潰しててくれ。間違っても手助けとか考えないでくれ」

「外で待ってるなんて出来ないわ!危険人物なら皆で囲って倒さないと!」

「アイツには魔法使いでも精霊使いでも並の奴は歯が立たない。どうしてもってんなら、あそこにいるフェルト達を守っててくれ」

 

 俺が指差した方にいるフェルト達を見てサテラは頷いた。

 

「分かった。でも、危ないと思ったら割って入るから」

「了解。危なくならないように気を付ける」

 

 意外と素直に言ったことを飲み込んでくれたサテラに内心で感謝しながら、俺はエルザに向き直る。

 

「さて、仕切り直しといこうか」

「そうね。改めて、『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

「名乗り上げんのがこの世界の風習なのか?なら、此処は合わせて。『流離の人助け』菜月昴!」

 

 俺は剣を掲げてそう名乗る。

 微妙にダサい気がするがそこは見逃して貰って。

 互いに名乗った俺とエルザは同時に踏み込んだ。

 

 エルザのナイフを躱し、肩を大きく切り裂く。

 先程の太腿の傷は完治しているらしく、機動力を取り戻している。

 俺は蔵の中を駆け回って時折ナイフを振るうエルザの攻撃を掻い潜り、剣で傷跡を付けていく。

 しかし決定打にはならない。

 

 そして長い戦いの転換点はパキッという自分の手元から発せられた音だった。

 剣がエルザの猛攻に耐え切れなくなり、半ばから折れてしまったのだ。

 出来の良い長剣でも素人が振るえばそんなものだ。

 俺は折れた剣を捨てて無手に戻る。

 

 他にも転がってる刀剣はまだある。

 しかし、そこへ辿り着くまでの道程は遠い。

 

 エルザは至極残念そうな表情を浮かべた。

 

「終わりね」

「どうかな?」

 

 エルザが振るったナイフをエルザの腕を蹴り上げることで回避する。

 エルザが距離を置いて自分の腕を見る。

 

「貴方、本当に人間?」

 

 エルザの疑問も当然だ。

 エルザの腕が受けたのは軽い蹴り上げ。それだけでエルザの腕は無惨にもへし折れてしまったのだから。

 

「俺の本当の得物は素の肉体なんだわ。気を付けろよ?そこら辺の猛獣より力があるぜ」

「素敵。ええ、とても素敵だわ、貴方」

 

 エルザは右腕が折られたというのに嬉しそうに笑う。

 その様子には恐怖という感情が欠落しているのではと思わせる気迫があった。

 戦いに悦楽を見出す戦闘狂らしい振る舞いだ。

 物騒な様相さえなければ妖艶な美女の微笑みという絵画並みの光景なのだが、それを気にしている余裕は俺にはない。

 

 エルザのナイフを躱しながら蹴りや殴りをお見舞いする。

 その威力にエルザが素直に驚嘆の声を上げた。

 

「見た目に合わない身体能力……マナで強化してるのかしら?」

「マナによる強化?そういうのもあんのか。だが、俺の強靭な肉体は弛まぬ努力の結晶だ」

「素でそれだけの身体能力なのね。素晴らしいわ。ここまで苦戦した相手は初めて」

「そりゃ、どうも!」

 

 俺は渾身の蹴りをエルザの腹に突き入れる。

 エルザはくの字に体を曲げて奥まで吹っ飛んでいった。

 壁が崩れてエルザの姿が見えなくなる。それと同時にエルザの気配も弱まった。

 戦闘不能に追い込めた、と判断しても問題ないだろう。

 

「やったか!?」

「それはやれてないフラグだ。フェルト」

 

 俺はフェルトの不穏な発言にツッコミを入れながらフェルト達に向き直る。

 これで漸く徽章の話に入れる。

 

「交渉相手のエルザがいなくなり、徽章の価値がとんでもなく下落した訳だが、フェルトは手放す気はあるか?」

「銀髪の姉ちゃんがここまで執拗に追って来るってことは価値はあんだろ。残念だけど手放す気はねえ……って言いたいとこだけど、アタシの客のことで兄ちゃんには迷惑掛けちまった。素直に渡すから許してくれよ」

「よっしゃ!徽章ゲットだぜ!」

 

 俺はフェルトから徽章を受け取り、サテラへと渡す。

 サテラは困惑した様子を見せる。

 

「どったの?」

「いえ…どうして貴方は徽章を取り返してくれたの?私、お礼なんて出来ないんだけど…」

 

 サテラの言葉に俺は暫し沈黙する。

 そしてサテラが胸の辺りに着けてる花の飾りに目を付けた。

 

「情けは人の為ならず、だ」

「どういう意味なの?」

「人に親切にすることは巡り巡って自分の為になるっつー諺だ。だから礼なんていらない」

 

 俺はふと、とあることを思い出して「いや」と口に出した。

 

「前言撤回。礼は貰う」

「でも、私お礼なんて…」

「俺の要求は唯一つ!……君の名前を教えてくれ」

「私の、名前……?」

 

 結局俺はサテラという偽名以外を聞いていない。

 だから、徽章を取り戻したお礼は本当の名前を聞くってことにしておこう。

 

「私は、エミリア。ただのエミリアよ」

「じゃ、俺も改めまして。菜月昴。家名が菜月で、名前が昴だ」

「そう。よろしく、スバル」

「よろしく!」

 

 俺はエミリアが差し出した手を取り、握り返した。

 その瞬間。唐突に悪意が膨れ上がり、エミリア、その手前にいるフェルトに向いた。

 

 俺は咄嗟にフェルトを突き飛ばして前に出る。

 そしてエルザの決死の一撃を薄皮一枚で躱し、顔面に一発殴りを入れる。

 そして倒れ伏したエルザに馬乗りになる。エルザの両手を押さえ付けて抵抗出来ない状態に持ち込んだ。

 

「しぶといなぁ。でもこれで終わりだ」

「そうね。貴方との戦い、楽しかったわ」

 

 俺はエルザの頭を殴り潰そうと拳を振り上げ、途中でゆるゆると力を抜いた。

 

「あら、殺さないの?」

「……結構悩んだけど、見逃すわ。但し、これは貸しだ。いつか、お前の力が必要になった時に手を貸してくれ」

「甘いんじゃないんかしら?」

「必要な選択って奴だ。一人で解決出来る物事には限りがあんだよ。だから人手が必要になった時に備えておきたい」

 

 俺は立ち上がってエルザから離れる。

 エルザは体を引き摺りながら、蔵の入り口へと向かっていく。

 

 そして扉の前で振り返ると相変わらず妖艶な、死に掛けとは思えない美しさで口を開いた。

 

「本当に楽しかったわ。スバル。いつか、貴方の腹を切り裂いてみせるわ」

「はいはい。分かったからとっとと帰る」

 

 エルザは今度こそ盗品蔵を出て行った。

 気配も遠くへと消えていく。

 

 俺はそこで安堵の息を吐いた。

 

「はぁー…何とか薄皮一枚で乗り切れた」

「その、ありがとな。スバル」

 

 フェルトが遠慮がちに礼を述べるので俺はその頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「気にすんな。生きていれば縁もあるさ。互いに強く生きようぜ」

「そうだな。困ったら手助けぐらいはしてやるぜ」

 

 フェルトとそう言って笑い合う。

 笑った、瞬間のことであった。

 先程エルザの一撃を躱したと思っていた腹が裂け、大量に血が噴き出した。

 それはまるでスプラッタ映画さながらであった。

 三人の慌てる声が遠く聞こえる。

 

 疲労と怪我とで滅茶苦茶になった俺の意識は限界を迎え、地面に倒れ伏してプツリと意識が途切れるのであった。

 

 

 





・オリ主
エルザに正面から勝った怪物。
エミリアの治癒魔法で治されたので死んではいない。
可愛い子にモテたいという思いだけでここまで頑張った。

・エミリア
見知らぬ男が何故か自分を助けてくれて困惑。
いきなり血を噴き出して倒れたから慌てて治癒魔法を掛けた。

・フェルト
ラインハルトとはまだ出会ってないので王選候補ではない。
命を助けてくれたオリ主を好意的に見てる。
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