前世がYAMA育ちな菜月昴の異世界生活   作:雨天

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第七話 報酬

 

 

 

「あはぁ、目が覚めたんだねぇ。良かった良かったぁ」

 

 濃紺の髪を長く伸ばした長身の男は俺を見て嬉しげにそう溢した。

 背の高い人物だ。百八十センチの半ばまであるだろう。肉体は力仕事とは無縁そうな細身であり、しなやかというよりは純粋に痩せぎすといった印象が強い。

 瞳の色は左右が黄色と青のオッドアイであり、病人のように青白い肌と合わせて儚げな親和性を保っている。

 一般的感性を持ち合わせている俺からしたら美形と賞賛せざるを得ない顔立ちである。

 もっとも、息が掛かる程の至近距離でそれを見せられればどんな美形であっても食傷気味になってしまうが。

 

「顔近っ!!」

「ごめんごめぇん。ほぉら、最初に運ばれて来た君を見た時って、もう死んじゃったみたいに血塗れで血の気も失せてたからさぁ。こうして元気に歩いてくれてるのを見ると、感慨深ぁいものがあるよねぇ」

 

 ロズワールと名乗った男は親しげに俺の両肩を叩いてくる。

 そんでもって相変わらずの至近距離で俺を見下ろしてくる。

 恐らくは二十代半ばだと予想しておく。佇まいから素直に放蕩貴族だという印象を抱く。

 

「でもこういう奴に限って意外と切れ者だったりするのがお約束だよな」

「あはぁ、嬉しい評価だねぇ。もっとまじまじと見つめてくれても良いよ?切れ者な感じがするかい?どーぉ?」

 

 ロズワールは俺の前でポージングしてクルクルと回ってモデル立ちをした。その堂々とした立ち振る舞いに俺は数歩下がらざるを得なかった。

 キャラが濃いという一点に自信のあった俺が下がらされたという事実に驚愕する。

 

「ま、まさか……俺が下がらざるを得ないだと!?俺よりキャラ濃いとか尋常じゃねえ……日常生活に支障きたすぞ!?」

「私からしたらどっちもどっちよ。もう」

 

 エミリアたんが俺の背後から前へ出る。

 彼女はロズワールに向かい合うと目礼した。

 

「お帰りなさい。大事はなかった?」

「平気平気。あはぁ。嬉しいねぇ。君の方から私に声を掛けてくれるのんて、四日とんで三時間と十九分ぶりぐらいだよぉ。日記に書かなきゃ」

 

 ロズワールがそう口にすると左右からペンとノートが差し出された。

 恭しく頭を下げるのはメイド姉妹である。

 彼女達から渡された紙とペンを使ってロズワールは猛然と文章を書き始める。

 

「タンムズの月、十五日。エミリア様が自分から私に話し掛けてくれたよ。ロズワール、嬉ぴー。この調子で仲良くなっちゃうぞぉ、おー……と」

 

 ロズワールは満面の笑みで本を閉じ、メイドに渡して振り返る。

 俺は絶句してロズワールを見た。

 

「いや、何つーか……ドン引きだわ」

 

 横から覗いて分かったことだが、ロズワールが手にしたノートはびっしりと文字のようなもので埋め尽くされていた。

 そのノートも後半に差し掛かっているようだったし、もし同じような内容が大半を占めるのなら恐ろしい限りである。

 

「ドン引き!良ーぃ言葉だねぇ。初めて聞いたけど気に入ったよぉ!んふー、人と違う感性を理解されない気持ち良さ……あぁ、素晴らしい」

「エミリアたんはどうしてこいつの屋敷に住んでんだ?無理矢理住まわせられてるならSOSを出すんだぞ」

「うーん……この屋敷に住んでるのは間違いなく私の意思よ。とても不本意だけど」

「ってか、この変態と気が合うとか思われてた訳?コイツは唯一無二の変態だろ」

「流石に国でも公認の変態にはスバルも及ばない……かな?」

「え、ギリなの?俺、アイツと比べてギリなの?マジで?」

 

 俺の本気の戸惑いにエミリアたんは至極冷静に「ギリよ」と答えた。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 

「流石に凹むぜ……まあ、良いや。気を取り直してロズワールさん!この度は大変ご迷惑をお掛けしました。ベッド貸してくれてありがとうございます」

 

 俺は素直に頭を下げた。

 普段の軽薄さは引っ込めて普通に礼を口にする。

 

「気にしなくて良ーぃよ。君はエミリア様の恩人だからねぇ」

「何かして貰ったらお礼を言わないといけないと両親から教わってるんだ。だからこの分のお礼は受け取って欲しい」

「ふむ。なら、素直に受け取るとしようかなぁ。そぉれぇにぃしぃてぇもぉ……」

 

 ロズワールが一々気持ち悪い動きで戻って来て、しげしげと俺を上から下まで観察する。

 俺は居心地の悪さに身を捩った。

 

「どぉーもフツーの人っぽいねぇ。そればっかりはちょこぉっと残念」

「ん?俺が普通?それは性格的に?それとも種族的な話?」

「種族的な意味で、だよぉ。ほぉら、私ってば亜人趣味の変態貴族で通ってるからさぁ」

「実情は兎も角そういうことで通ってる、と。胡散臭いことこの上ないね」

「おや、君も私と同類だと思うんだけどねぇ?」

「胡散臭い男って意味ではな。別に俺は亜人が趣味って訳じゃねぇ。可愛ければ男でも良いってだけだ」

「私よりも上級の変態に出会ったのは初めてだぁよ」

「アンタより上はない」

 

 断じて同格でも、格上でもない。

 俺は普通に可愛い子が好きなだけで、普通よりも許容範囲が広いだけだ。

 

「普通って良いよな。まあ、二度と普通の暮らしは送れないんだけど」

「それってどういう意味?」

「本来歩むべき道から外れちまったのさ。此処に来た時点で、普通は諦めた」

 

 お母さんと父さんにはもう二度と会えないかもしれない。その可能性が高い。

 高校と大学を出て、サラリーマンとして働いて、普通の家庭を築く、なんてもう二度と叶わない夢だ。

 二度と元の世界には帰れないかもしれない。そう考えると後悔は山のように積み上がっていく。

 もっと両親と言葉を交わせば良かった。もっと高校生らしく青春すれば良かった。

 ついつい暗くなる思考を振り払い、現実へと意識を戻す。

 

 ロズワールが笑みを浮かべて手を叩いた。

 

「お礼の話もしたいし、一緒に朝食でもどうかなぁ?」

「それは是非とも受けたい。昨日の昼前から何も食ってねえ。ってか、俺のコンポタとカップラーメンは何処に?」

「お客様の荷物でしたら此方で預かっております」

「そうか。なら、後で回収させて貰うよ。アレ、かなり貴重な品だから」

「疑問は解消したかい?それなら、早速朝食に移ろう。ラム、レム、案内を頼むよ」

「「お任せ下さい、ロズワール様」」

 

 二人がステレオで応じて、俺の両脇を固める。

 そしてそれぞれが片方ずつ腕を担当し、俺を固く拘束した。

 

「歩くことぐらい出来るんですけど……てか痛い痛い。力強くない?ちょっと?」

「それではご案内致しますわ、お客様」

「それじゃご案内してあげるわ、お客様」

「聞いてる?聞いてないよね。当たり強くない?何で?」

 

 俺はそのままドナドナと食堂へと連行されるのであった。

 食堂に入ると既にベアトリスが席に座っていた。

 俺は席に座って漸く解放された腕を回して調子を確かめる。

 

「上から見てた感じ、あれなのよ。お前、相当に頭おかしいのね」

「会って早々何言いやがるんだこのロリは」

「何かしらその単語。聞いたことないのに、不快な感覚だけはするのよ」

「幼い少女って意味だ。安心しろ、俺はロリコンじゃねえから」

「……ベティーにここまで無礼な口を叩けるのも、返って可哀想なのよ」

 

 ベアトリスは憐れむような顔でそう言うと椅子に体重を預けて溜め息を吐く。そのまま卓上にあるグラスを持つと琥珀色の液体をすっと喉に通した。

 まさか中身は酒じゃあるまいか。

 俺がじっと見つめているとベアトリスは意味ありげに笑ってグラスを俺の方へ向けた。

 

「なぁに、ひょっとして飲みたいのかしら」

「え、でも間接キスになっちゃうし。ちょっとイベント進行早いかなって」

「腹いせに揶揄おうとしたら、この初心な感じは何なのかしら!こっちの方が恥ずかしいのよ!」

 

 俺は指を突き合わせてくねくねとする。

 それを見てベアトリスが憤慨した。

 打てば響くとはこのことか。気持ちの良い掛け合いである。

 

 ベアトリスは気を取り直して口を開く。

 

「それよりお前、ベティーに感謝の言葉はないのかしら」

「感謝って?」

「誰が死に掛けのお前のことを助けてやったと……」

 

 ベアトリスの呟きは小さくて耳に届かなかった。

 聞き返そうとした時に食堂の扉が開かれる。

 

「失礼致しますわ、お客様。食事の配膳を致します」

「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」

 

 台車を押し、食堂に入って来たのはラムとレムだ。

 レムがサラダやパンといったオーソドックスな朝食メニューの乗った台車を押し、ラムが皿やフォークなど食器の乗った台車を押している。

 二人はテーブルを挟んで左右に分かれるとテキパキとそれらの配膳を開始する。

 温かな香りに腹が鳴る。

 

 異世界だから食事も変わってる可能性はあったが、地球と変わらないようで安心した。

 デケェ虫とか出されても食えるけど、進んで食いたくはない。

 

「血が足りない俺には至福の時だ」

「喜んで貰えて何よりだぁよ。おやぁ、ベアトリスがいるなんて珍しい。久々に私と食卓を囲む気になってけれたのかなん?」

 

 礼服から道化のような服装に着替えたロズワールが嬉しそうに話す。

 ベアトリスはツンとした顔をした。

 

「頭が幸せなのはそこの奴だけで充分なのよ。ベティーはにーちゃと食事しに顔を出しただけかしら」

 

 ベアトリスの視線はロズワールの後ろに向けられていた。

 そこにはエミリアたんの姿があり、彼女の銀髪の内側にはパックがいた。

 ベアトリスはパックを「にーちゃ」と呼び、弾むように席を立ってパタパタ走る。その表情には花の咲いたような笑みが浮かび、これまでのツンツンとした態度からは信じられない愛嬌が満ちていた。

 パックが顔を出してベアトリスを言葉を交わす。

 

 エミリアたんが俺の方に来て苦笑する。

 

「ビックリしたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」

「まあな。それにしても、猫の前で猫を被るとは中々やりおる」

「ごめん。ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 そんな風にやり取りをしながらも各々が席に座り、食事の場が整う。

 ロズワールが手を組み、目を瞑る。

 

「では、食事にしよう。木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」

 

 ロズワールが何事か呟く。

 エミリアたんと双子がそれに倣い、ベアトリスは目を瞑っているだけだが、それが食前の祈りだと気付き慌てて真似る。

 

「それじゃ、スバルくん。いただいてみたまえ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」

「ん。普通以上に美味え。この料理はレム、が作ったんだよな?」

「ええ、その通りですわ、お客様。当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様は余り得意ではありませんから」

「ははーん。双子で得意スキルが違うと見た。じゃ、ラムは料理が苦手で掃除が得意な感じ?」

「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としていますわ」

「じゃ、レムりんは料理系統が得意で掃除・洗濯は苦手か」

「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意ですわ。姉様より」

「……ひ、人手は、多い方が良いよな!この屋敷広いし!」

 

 俺は苦し紛れにフォローを口にする。

 まさかラムが得意な家事すらレムに劣るとは。

 エミリアたんが徐に口を開く。

 

「実際、二人は凄いのよ。この大きい屋敷の維持を殆ど二人で回してるんだから」

「え、この屋敷って使用人二人しかいないの?」

「あはぁ、現状はそうだねぇ。ラムとレムしかいなくなっちゃったよ」

「過労死すんだろ。それとも、召使いが雇えないみたいな制限が掛かる状況なのか?」

 

 俺の言葉にロズワールが暫し沈黙する。

 手をテーブルの上で組み、その表情には笑みが張り付いている。

 

「本当に不思議だぁね、君は。ルグニカ王国のロズワール・L・メイザースの邸宅まで来ていて、事情を知らないってぇいうんだから。良く、王国の入国審査を通って来れたもんだね?」

「拉致みたいなもんだからな。気が付いたら王都の真ん中にいて、フラフラしてたらエミリアが徽章を盗まれた現場に居合わせて、モテる為に徽章を取り返して今に至る、だ。最初は現在地がルグニカってことも知らなかったし、ホント苦労したんだぜ」

「スバルって実はかなり危ない立場なの……?」

 

 エミリアたんが真剣に俺の立場を心配してくれている。

 俺はその心配を受け流して質問をする。

 

「それで、事情ってのは?」

「スバルは今この国、ルグニカ王国がどんな状況にあるのが知ってる?」

「欠片も知らねえ。何、そんなに危ねえ状況下なの?」

「そこまで言い切られると清々しいわね。えっと、今のルグニカは戒厳令が敷かれた状態なの。特に他国との出入国に関しては厳密な状態よ」

「戒厳令……穏やかじゃない響きだな」

「あはぁ、穏当とは言えないねぇ。なにせ、今のルグニカ王国は王が不在なもんだからねぇ」

 

 王が不在─その国家としての致命的な穴を知らされた事実に警戒が先立つ。

 

「心配、御無用。既に市井にまで知れ渡った厳然たる事実だよん」

「知られたからには消す、とか言われなくて安心したよ」

「こっちから話しておいてそれは浮かばれないわね。兎も角、そんな状態だから国を挙げてピリピリしてるのよ」

「戒厳令もその一環だねぇ。王不在のこの状況で、他国に火種を持ち込むことも、或いはその逆も望ましくない」

「でもよ、そういうのって普通は王子とかが跡を継ぐもんじゃねえの?まさか王族が根絶やしにされたって言わねえよな」

「その通りだぁよ。王が御隠れになったと同時期に城内で流行病が蔓延したんだぁよ」

 

 特定の血族に発症する伝染病と発表されたらしい。

 それにより王城で暮らしていた王とその子孫は根絶やしにされたのだと。

 

「じゃ、本気で王不在じゃねえか。そうなると国ってどうなんだ?王様の血筋いないし、民意優先で総理大臣を選出するのか?」

「後半が何を言ってるのかじぇんじぇん分かんないんだけど、現状の国の運営は賢人会によって行われているよ。何れも王国史に名を残す名家の方々の寄り合いだ。国の政治自体に関しての影響はそこまでじゃぁない。しかし、王不在の国などあってはならない」

「そりゃあそうね。なら、新たな王を選ばなきゃならん。それも国の誰もが納得のいく形で」

「賢くて助かるよ」

 

 俺はふむ、と一人考え込む。

 ルグニカは王選出のどたばたで混乱中。他国との関係も縮小中のプチ鎖国状態。

 

「そこに現れる異国人俺─超怪しいな」

「さぁらに付け加えちゃうと、エミリア様に接触してメイザース家とも関わり合いを持った訳だしねぇ。気が早ければそれだけで……」

 

 ロズワールは目を瞑って手刀で首を切るジェスチャーをする。

 そして冷や汗を流しながら確認を取る。

 

「何で、屋敷の主人がエミリアを様付けで呼ぶ…?」

「当然のことだよ?自分より、地位の高い方を敬称で呼ぶのはねぇ」

「えっと、エミリアってばつまり─?」

「今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の王候補の一人。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」

「おっふ。俺が助けた子は未来の王候補でした?ラノベかよ。最近にありがちなタイトル長い奴」

 

 俺は天井を仰いで素数を数え始めた。

 プッチ神父が素数を数えれば落ち着くと言っていた。

 ロズワールが俺が落ち着いたのを見計らって口を開いた。

 

「さぁて、んじゃまぁ大分脇道逸れちゃったけど、本題に入るとしようかねぇ。スバル君、良いかな?」

「悪い話……って訳じゃなさそうだな。何だ?」

「エミリア様」

 

 ロズワールがエミリアに呼び掛けると、エミリアが一つの徽章を取り出した。

 それは竜を象った徽章である。赤い宝玉は持ち主の手の中で光り輝いていて、その眩さは不思議と畏敬の念を思わせる程に澄み切っている。

 

「竜はルグニカの紋章を示しているんだ。親竜王国ルグニカなぁんて大仰に呼ばれていてねぇ。城壁や武具なんかも含めて、あちこちに使われるシンボルなんだよ。とりわけ、その徽章はとびきり大事だ。なぁにせ」

 

 ロズワールが言葉を切る。そして視線でエミリアに続きを話すように促した。

 

「王選参加者の資格。ルグニカ王国の玉座に座るのに相応しい人物かどうか、それを確かめる試金石なの」

「ま、まさか、王選参加資格の徽章をなくしてたのか!?」

「なくしたなんて人聞き悪い!手癖の悪い子に盗られたの!」

「変わんねえよ!?……なくしたから再発行お願いします、なんて出来るモンじゃねえよな」

「同じ物をノコノコ貰いに行くっていうのは難しいだろうねぇ。王とは即ち王国を背負う者。そんな大任を背負うって人が、小さな徽章一つ守り切れないとらなったら言語道断。どうして国を任せようなんて思えるもんだろうねぇ」

 

 俺はロズワールの言葉に成程と納得する。

 衛兵に探すのを手伝って貰う訳にもいかず、一人で探すしかないところに俺が現れて見事徽章を取り返した。

 

「改めて、俺って超GJ!危うく王選から脱落しそうになったエミリアを救う一手になった訳だ」

「そう。スバルは私にとって命を救って貰っただけじゃ済まないくらいの恩人。だから何でも言って」

「まあまあ、報酬の話は後で。取り敢えず聞きたいことはまだある。エミリアが王候補だとして、ロズワール。お前は何なんだ?」

 

 ロズワールは俺の問いに楽しげな笑みを浮かべた。

 

「隠すようなことでもない。素直に話してしまうと、私はエミリア様を女王候補として支援する立場。体の良いパトロンってぇことだよ」

「そのパトロン様が使用人も付けずに王都をふらつかせてたのか?」

「それに関してはラムが付いていたはぁずなんだけど」

「ラムが悪い訳じゃないの。その、私が好奇心に負けちゃってというか。ふらふらとラムからはぐれちゃって」

「エミリアに落ち度があるのは確かだとして、それはそれとして主人の命令を守れなかったのは事実だろ」

「確かにラムの監督不行き届きは私の責任でもあるかもねぇ。でぇも、それはそれとして君は何を言いたいのかなぁ?」

 

 俺は悪徳貴族のような悪い笑みを浮かべる。

 

「俺はパトロンの弱みに漬け込む悪党キャラ。つまるところ、絞れるところから絞ろうじゃないの、とそういう話だ」

 

 合点がいった、というように室内の全員の表情が変わる。

 エミリアが顔を強張らせ、双子が申し訳なさと敵意が同居した瞳で俺を睨み、ベアトリスは我関せず。パックは卵料理に頭から突っ込んで大惨事。

 そしてロズワールが納得、とでも言いたげな微笑のまま何度も頷く。

 

「なぁるほど。確かに私財としては素寒貧に等しいエミリア様より、パトロンである私の方が褒美を求めるには適した相手だろうね」

「だろ。そしてアンタは俺の要求を断れない。何せ、俺はエミリア陣営にとって救世主。」

「認めよう。事実だからね。で、その上で問い掛けよう」

 

 ロズワールが立ち上がり、その長身で俺を見下ろす。

 俺は負けじと見返して、要求を突き付けた。

 

「俺を雇ってくれ。仕事内容は問わない。傭兵でも雑用でも、その全てでも構わない」

「わ、私が言うことじゃないけど、ちょっとそれは……」

「分かってるぜ。エミリアたんからすれば同じネタ擦ってるからな。でも、俺の経験則だと受けたネタは二回ぐらい擦れるんだよ」

「そんな話してるんじゃなくてっ。いえ、欲がなさすぎるの!」

「おいおい。俺はその場その場でちゃんと欲しいものを望んでるぜ。そもそも、此処から出て行ったら行く宛なんかないんだ。大金手に入れて王都で暮らすのもアリかもしんねえけど、肝心の職がねえ。無職の俺が確定で就職出来るとか破格にも程があるんだ」

 

 立場も何もかも怪しい俺を雇ってくれそうなところは此処しかない。

 なら、縋らない手はない。

 

「欲がねえなんて、そんな主観でもの言っちゃいけねえよ。雇用主を得られるなんて幸せだぜ?」

「……別に雇われなくても、食客扱いとかで構わないじゃない」

「その手があったか……俺の残念な頭め。ま、男に二言はねえ。ロズワール、俺を雇ってくれ」

「良ーぃ言葉だねぇ。男に二言はない。良いよ、君を屋敷で雇おう。傭兵兼雑用として」

「よっしゃ!職場ゲットだぜ!」

 

 俺はガッポーズで喜んだ。

 ロズワールが笑みを浮かべながら口を開く。

 

「差し迫った問題なのは事実なぁんだろうけどね。エミリア様の言う通り、やぁっぱり欲のないお話だと私も思うよぉ?」

「ロズっちまで言うか。良いか、俺は超欲張りだ。好みの女の子と毎日顔を合わせられる上に一つ屋根の下で寝られる幸福。得難い幸せだろう」

「……成程。それは確かにそうだ。好みの女性の側に居られる職場、というのは中々得難いものだねぇ。うまい話だよ、まぁったく」

 

 ロズワールは羨ましい者を見るような瞳を俺に向ける。

 その意味を俺は理解出来ずに首を傾げたのだった。

 

 

 





・オリ主
望みは、と聞かれたら「ホワイトな職場」と答える社畜。
前世の過労死の経験からブラック企業だけは嫌厭している。
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